月刊人事労務だより~2020年12月号~

目次

○ 最新・行政の動き

厚生労働省は、令和3年度、60歳台高齢者の雇用・就業確保に向けた支援策を拡充します。雇保法の改正により、高年齢継続雇用継続給付の縮小が決まり、高年法の改正により、70歳までの就業確保に関する規定が整備されたのを受けたものです。

60歳台前半高齢者の賃金を60歳到達時の75%以上に改定する等の条件を満たした企業を対象に、高年齢労働者処遇改善促進助成金(仮称)を支給します。

給付率は、高年齢雇用継続給付の縮小(令和7年度)を踏まえ、段階的に縮小しますが、令和3・4年度は高年齢雇用継続給付の減少額の5分の4(大企業3分の2)です。

65歳超雇用推進助成金に関しては、助成対象となる継続雇用制度の支給要件を緩和し、グループ企業を超えた就業確保等をサポートする方針です。

 

○ ニュース

賞与・退職金格差を容認 非正規の待遇差で最高裁判決

正規・非正規の待遇格差の問題で、最高裁は5つの判決を下しました。旧労契法20条(現在は、パート・有期雇用労働法8条に統合)に関し、今後の判断枠組みを示すリーディングケースとなるものです。

10月13日判決:大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件

大学のアルバイト職員に関しては、賞与支給の有無が焦点となりました。

第2審(高裁)では、賞与は算定対象期間の在籍・就労への対価と指摘し、新卒正職員の6割相当の支払いを命じていました。

しかし、最高裁は、高裁判決をくつがえし、賞与不支給も「不合理とまではいえない」と判示しました。その理由として、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」目的があると述べています(いわゆる「有為人材確保論」)。

地下鉄売店の販売職員については、退職金支給が重要な論点となりました。

第2審(高裁)では、正社員基準の25%相当の支払いを命じていました。

最高裁は、上記判決と同様の「有為人材確保論」に立脚し、支給の有無の差異(非正規はゼロ)は不合理とはいえないという判断を示しました。

10月15日:日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件

定型業務に従事する時給・契約社員に関しては、3つの裁判で、5種類の制度について格差の合理性が争われました。

最高裁は、年末年始勤務手当、年始期間中の祝日休、扶養手当、夏期冬期休暇、有給の病気休暇の5つの仕組みについて、職務内容や配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)の違いを考慮しても、旧労契法20条に違反すると判断しました。

大多数の企業で採用されている扶養手当に関しては、「相応に継続的な勤務が見込まれ、扶養親族のいる契約社員に支払わないのは不合理」と指摘しています。

中小企業7割が反対 男性育休の「義務化」

日本商工会議所の「多様な人材の活用に関する調査」によると、中小企業の7割が男性育休の「義務化」に反対しています。

イクメンということばが流行しましたが、男性の育休取得率は今も8%というレベルにとどまっています。休業の取得促進のため、厚労省では、休業の取得要件緩和や分割取得の導入等の検討をスタートさせています。

日商の調査では、中小企業2939社から回答を得ましたが、全体の70.9%が「反対」「どちらかというと反対」と回答しました。

「運輸業」(81.5%)、「建設業」(74.6%)、介護・看護業(74.5%)など、人手不足が深刻な業界で、とくに「反対」とする割合が高くなっています。

会社が経費負担を テレワーク時の通信費等

連合は、「テレワーク導入に向けた労働組合の取り組み方針」を策定しました。新型コロナウイルス禍への緊急対策として、テレワーク導入が急速に進められましたが、十分な環境対策が行われていないのが実態です。

6月に実施した調査結果等を踏まえ、労組サイドとして、使用者に対し提案・要求すべき事項を示したものです。モデルとなるテレワーク就業規則(在宅勤務規定)も作成しました。

導入時のパソコン・ソフト・照明・事務機器等の費用について、使用者が上限付きで補償するほか、勤務時のランニングコストとしての通信費・水道費などについても月払いの手当を付加するのが望ましいとしています。

生活時間の確保のため、「つながらない権利」に対する配慮も重要と指摘し、時間外・休日・深夜のメール送付、即時に対応できなかった際の不利益取扱い等の禁止も求めました。

届出の押印・署名を廃止 行政手続き簡素化へ

政府の規制改革実施計画(令和2年7月閣議決定)で行政手続きに関する押印見直しが明記されたこと等を受け、厚労省は、労基法関連の省令様式から、押印欄を削除します。

対象となるのは労基則、年少則、最賃則、事業附属寄宿舎規程などで、省令改正により、使用者・労働者双方の押印・署名を求めない規定に改めます。これを受け、電子申請時の電子署名の添付も不要となります(令和3年4月1日施行予定)。

協定の当事者である過半数労組(ないときは過半数代表)の適格性については、新たにチェックボックスを設けて確認します。

このほか、労働委員会規則に基づく不当労働行為審査の申立て、あっせん・調停申請などの手続きに関しても、押印不要とする方針です(令和3年12月施行予定)。

 

○ 監督指導動向

「介護労働」の現場を査察 残業・割増等の違反めだつ 北海道労働局

北海道労働局は、介護労働者を使用する事業場を対象とする監督指導結果(令和元年)を公表しました。

介護労働者の人材確保のためには「魅力的な職場づくり」が求められますが、実際の労働環境をみると改善すべき点が少なくないようです。

監督指導が実施された203事業場のうち、68.0%(138事業場)で労基関連違反が指摘されました。主な違反項目は、「労働時間」97件、「割増賃金」74件、「安全衛生管理体制」49件などです。

労働時間関係では「36協定を超える時間外労働」、割増賃金関係では「割増賃金の算定単価の誤り」等の事案が報告されています。

 

○ 送検

2人生埋めで1人死亡 土砂崩壊対策を怠る 鳴門労基署

徳島・鳴門労基署は、土砂崩壊による危険防止措置を講じていなかった疑いで、畜産業の事業主を徳島地検に書類送検しました。

同社およびグループ企業の従業員が、地面を掘削し、配水管を埋設する工事を行っていたところ、掘削面の側溝が崩壊しました。

溝内で作業していた2人が生埋めとなり、1人が死亡し、もう一人も重症のケガを負いました。

事業者は、明り掘削を行う場合、地山の崩壊・土石の落下による危険を防止するため、土止め支保工を設け、防護網を張り、立入を禁止する等の措置を講じる義務を負いますが(安衛則361条)、必要な対策が取られていませんでした。

 

○ 実務に役立つQ&A

55歳で前払いダメか 若年支給停止の遺族年金

労災保険の遺族補償年金は、夫が55歳以上でも60歳までは支給停止となります。この場合、前払一時金も請求できないのでしょうか。

遺族補償年金前払一時金とは、遺族補償年金の一部を先に一時金として支給するものです(労災保険法60条)。給付日数は、200日から1000日までの間で、200日きざみで請求者が決めることができます。

前払一時金を請求できるのは、遺族補償年金を受ける権利を有する遺族です。夫や父母、祖父母は原則60歳以上の者が対象となります。

当分の間は、55歳以上の者も含む扱いとなっていますが、60歳に達するまで年金は支給停止です(昭40法附則43条1項、3項)。

なお、3項ではただし書きで、法60条の前払一時金の適用を妨げるものではないとしており、55歳以上であれば請求が可能です。

遺族が55歳未満の夫のみの場合、年金の受給権は発生せず、給付基礎日額の1000日分の遺族補償一時金を受け取ることになります。

 

○ 調査

総務省「テレワークセキュリティに関する実態調査」

令和2年は、テレワーク推進という意味で、長く記憶に残る1年となるでしょう。原因は、いわずと知れた新型コロナウイルス禍です。災い転じで福となすとは、このことです。

総務省の調査によると、令和2年7・8月の調査時点で、テレワークの導入企業は28.9%。そのうち、22.3%(導入企業の77%)が「コロナ対策のために導入した」と回答し、導入時期は令和2年3・4月が6割を占めています。

テレワークの導入状況(n=5,433)とテレワークの導入時期(n=1,569:テレワーク導入企業)

テレワークの導入状況(n=5,433)とテレワークの導入時期(n=1,569:テレワーク導入企業)

テレワークは「働き方改革」という観点からはメリット大ですが、心配なのが情報セキュリティの問題です。

対策として「情報セキュリティポリシー(どのような情報資産を、どのような脅威から、どのように保護するか)」を定めている企業割合は3分の1にとどまります。教育・啓発活動への取組も、十分とはいえない状況です。

情報セキュリティの管理体制等に関する対策の実施状況 (n=1,569:テレワーク導入企業)(複数回答可)

情報セキュリティの管理体制等に関する対策の実施状況
(n=1,569:テレワーク導入企業)(複数回答可)

 

○ 職場でありがちなトラブル事例

慰留後に退職金規定変更! 新ルールで金額が半減

食品メーカーで、事務員として35年間勤務したAさんは、年齢による衰えを理由として、定年前の退職を願い出ました。

ところが、会社から「後任がみつからないので、もう1年間、頑張ってほしい」と慰留を受け、退職を先延ばしにしました。

その後、半年ほどたったころ、会社は退職金規定を見直し、「自己都合の場合、1~5割の範囲で減額できる」という規定を挿入しました。

Aさんが、約束の退職時期を迎え、手続きを採ったところ、退職金額が予想の半分程度しかありません。このため、会社の対応に不信感を抱き、あっせんの申請を行いました。

従業員の言い分
新規定では「勤務状況により最大5割まで減額できる」とされていますが、退職申出時に「あなたに抜けられると困る」と慰留を受けたわけで、評価が低いとは考えられません。
会社の経営が苦しいからといって、「慰留する一方で、規定を不利益変更する」というようなやり方はいかがなものかなと思います。満額はムリでも、200万円(既に支払われた130万円に70万円の上乗せ)程度の支払いを要求します。

事業主の言い分
退職金の金額は、改定後の規定に基づき、適正に算定した結果です。Aさんは在籍期間が長く、賃金面で他の従業員より、ずいぶんと優遇している状態でした。
減額を実施しないと、定年まで勤務して退職する従業員より、退職金が高くなってしまいます。会社業績も悪化していて、要求通りの金額はとても支払えません。

【 あっせんの内容 】 話し合いを進める中で、「会社が1年間の慰留を行った」「その後に、退職金規定に減額規定を設けた」という事実について、労使の主張に相違がない点が確認されました。そこで、会社側の経営事情も考慮しつつ、双方で折り合える金額について解決額を提示し、和解を打診しました。

【 結果 】 会社が追加で50万円を支払うことで合意し、その旨の合意文書が作成されました。

 

○ 身近な労働法の解説―管理監督者―

会社の多くには、いわゆる「管理職」という資格・職位が配置されています。

労基法41条では「監督若しくは管理の地位にある者」(以下、管理監督者)について、労基法の一部を適用除外としています。今回は、労基法の「管理監督者」について解説します。

  1. 会社の管理職
  2. 労基法の管理監督者
  3. 適用除外となる労基法の規定
  4. 労基法の管理監督者の判断

1.会社の管理職

支店長、部長、課長、店長、マネージャーなどさまざまな名称があり、管理職の範囲を課長以上とする会社もあれば、副課長、副店長、課長代理なども管理職としている会社もあります。

2.労基法の管理監督者

「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。」とされています(昭63・3・14基発第150号等)。

したがって、会社が管理職としていても、労基法の管理監督者と判断されない場合があります。

(参考)女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画における「管理職」とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」とされています。

3.適用除外となる労基法の規定

労基法の管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する規定の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要から、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用除外とされています。

具体的には、法定労働時間(32条)、労働時間の特例(40条)、休憩時間(34条)、休日(35条)、時間外・休日労働の割増賃金に関する部分(33条、36条、37条)、妊産婦の労働時間(66条)等です。

なお、年少者及び妊産婦の深夜業禁止(61条、66条3項)、割増賃金の深夜業に対する部分(37条)、年次有給休暇(39条)は、管理監督者でも適用除外とされていません。

4.労基法の管理監督者の判断

    1. 労基法の労働条件は、最低基準を定めたもので、法定外労働について法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではありません。
    2. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って認められる趣旨です。
    3. 管理監督者の範囲を決めるに当たっては、資格(経験、能力等に基づく格付)・職位(職務の内容と権限等に応じた地位)の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目し、実態に基づき判断されます。
    4. 賃金等の待遇面について、基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があります(一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではありません)。

 

○ 今月の実務チェックポイント

障害(補償)給付について

今回は、労働者の業務または通勤が原因となった負傷や疾病が治ったとき、身体または精神に一定の障害が残った場合に支給される給付について説明します。

障害(補償)給付とは

労働者の業務上または通勤が原因となった負傷や疾病が治ったとき、身体または精神に一定の障害が残った場合に、その障害の程度によって障害(補償)給付が支給されます。業務上の災害が原因である場合を障害補償給付、通勤が原因である場合を障害給付といいます。労災保険においては、障害の程度に応じて第1級から第14級までの障害等級を定めており、該当する障害等級によって次のとおり障害(補償)給付が支給されます。

該当する障害等級 支給される給付
第1級から第7級 障害(補償)年金、障害特別支給金、障害特別年金
第8級から第14級 障害(補償)一時金、障害特別支給金、障害特別一時金

※1 障害特別支給金とは、障害等級ごとに定められた定額の一時金です。

※2 障害特別支給金を除いて、第1級から第7級は「年金」、第8級から第14級は「一時金」として給付されます。

※3 第1級または第2級の胸腹部臓器、神経系統および精神の障害等を有しており、現に介護を受けている方は、介護(補償)給付を併せて受けることができます。

負傷や疾病が「治ったとき」とは

負傷や疾病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態をいい、この状態を労災保険では「治癒」(症状固定)といいます。障害(補償)給付は、労災保険上の「治癒」の状態になることが絶対条件です。

支給される額について

支給額については、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署などのホームページ等でご確認ください。

障害(補償)給付その他の注意点

  1. 障害(補償)給付の請求手続については、業務災害の場合は「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)、通勤災害の場合は「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)に医師または歯科医師の診断書を添付して所轄の労働基準監督署に提出します。診断書料を請求する場合は、「療養の費用の請求書」を併せて提出します。
  2. 障害(補償)年金は、支給要件に該当することとなった月の翌月から支給され、偶数の月に、その前の2カ月分が支払われることになります。
  3. 同一の支給事由により障害基礎年金あるいは障害厚生年金またはその両方を受けることができる場合は、政令で定める調整率を用いて障害(補償)年金が減額されます。

 

○ 今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 11月分の社会保険料の納付
  • 11月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 固定資産税(都市計画税)(第3期分)の納付
  • 年末調整

慣例・行事

  • 年賀状の準備・発送
  • 年末年始の社内体制確立・対外広報
  • 大掃除

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