月刊人事労務だより~2021年3月号~

目次

 

○ 最新・行政の動き

厚生労働省は、2022年度、労働基準監督指導体制や新型コロナウイルス対策の強化に向け、全体で1000人規模の新規増員を図ります。

都道府県労働局およびハローワークでは、再就職・人材確保支援などのために302人増、労働基準監督官による監督指導体制の強化のために120人増を予定しています。

新型コロナウイルス関連では、本省関係部局(66人増)、検疫所(177人増)、国立感染研究所(361人増)等の増員を行い、危機管理体制の整備を進めます。

これにより、2022年度末の定員数は合計3万2404人で、合理化による減員を差し引くと、純増は582人となります。なお、雇用調整助成金などの支給対応のため、2年度にわたり、別途1010人の臨時増員も行っています。

 

○ ニュース

賃上げ率は2%を割り込むと予想 コロナショックが影響

日本の実質GDPは2020年度通期でマイナス成長となる見込みで、景況感は若干改善しているものの、景気回復には時間を要する状況です。労働側は昨年同様の賃上げ目標を掲げていますが、賃金コンサルタントの予想では賃上げ率は2%を割り込みそうです。

プライムコンサルタントの菊谷寛之代表は、「景気低迷で消費者物価は8月以降マイナス基調で推移し、有効求人倍率も1.04倍まで低下した。昨年退陣した安倍政権はデフレ脱却を呼びかけた結果、2014年から7年間、2%台の賃上げ率が続いてきたが、新政権の動きは鈍い。2022年のベアは400円前後で、定昇分もやや圧縮される可能性を考えると、賃上げ率は1.8%前後」と観測します。

賃金システム研究所の赤津雅彦代表は、「直近の昨年末賞与は、飲食・生活関連サービス業界で支給停止等も行われた。最低賃金の上昇が一服したことも、賃上げにはマイナスに働く。日本全体で、本気になって知恵を出し合い、『労働価値創造型』賃金等への移行を断行しない限り、賃上げ率が1.7%に届かない可能性もある」と厳しい見方を示しました。

在宅手当の課税取扱い示す 通信費・電気料金でFAQ

働き方改革と新型コロナウイルスが相乗効果となり、テレワークの導入企業が増加しています。国税庁は、そうした状況を踏まえ、「在宅勤務に係る費用負担などに関するFAQ(源泉所得税関係)」を明らかにしました。

基本的な考え方として、在宅勤務の通常経費について、精算方式により実費相当額を支給する場合、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

一方、毎月5000円を「渡切り」で支給するなど、不使用分を会社に返還する必要がないときは、課税所得として取り扱われます。

通信費・電気料金の精算方式に関してですが、通信費は通話明細書により在宅勤務に要した部分を計算します。業務のために頻繁に通信を行う場合、一定の算式によることも可能です。

電気料金については、使用した部屋の床面積や在宅勤務日数に基づく計算方法を例示しています。

新卒の5割を職種別採用 年収1000万円も可能に

KDDI㈱は、来年度(2022年度)の新卒採用枠の半数について、初期配属先を確約する「WILLコース」に配分すると公表しました。

「WILLコース」は、即戦力人材の確保を目指して、2020年度から設けた選択肢です。あらかじめ職種を絞って募集を行いますが、職種限定採用と異なり、入社後は必要に応じて、配置転換も実施する仕組みです。

同社では、昨年、職務を明確化して成果で処遇する新人事制度の枠組みを設けました。新卒人材については、今年4月の入社者から適用します。

従来の一律の初任給制度を廃止し、有給の長期インターンシップでの仕事ぶりなども踏まえ、個別に初任給額を決定します。4大卒で月27万円以上、能力次第で年収1000万円以上も可能としています。

「賞与期待権」の侵害認めず 通知書との差額めぐる訴訟で

採用通知書に記載された「想定年収」と実支払額の差額を求める裁判で、東京地方裁判所は、労働者サイドの請求を全面的に棄却しました。

労働者が技術開発センターのアシスタントマネジャーとして採用された際、通知書によれば、月額賃金・固定残業代・賞与の合計で、年収1036万円余を受けるはずでした。

しかし、会社と労組の交渉の結果、支払われた賞与額が予想より少なかったため、実際の年収額が採用時の予想を141万円下回る結果となりました。労働者は「業績と出勤率以外の減額事由は定められていない」として、差額支払いを求める裁判を起こしたものです。

これに対し、裁判所は「採用通知書や賃金規定には労組との交渉を経て金額を決定すると明記」されていて、採用通知書記載の年収は「想定の域を出るものではない」と指摘しました。そのうえで、「具体的な賞与額に対する期待を認めることは困難」と判示しました。

新型コロナで事業継続計画モデル 選択式で作成容易に

愛知県は、新型コロナウイルスに対応したBCP(事業継続計画)作成を支援するため、「あいちBCPモデル」を公表しました。

BCPとは、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続を可能とするために、平常時・緊急時における対応策、手段などを取り決めておく計画のことです。

公開されたモデルは、チェック方式や選択式を用いることで、中小・零細企業でも容易に作成できる形式とし、無料ダウンロード可能としています。

具体的な感染対策の例としては、オフィスや製造現場、販売店舗など職場別のチェックリストを示し、参考資料として備蓄品リストも掲載しています。

 

○ 監督指導動向

政府は行政手続きに際し、押印を廃止する手続きを進めていますが、厚労省でも、労基、労働保険(労災・雇保・徴収)、社会保険(健保・厚年)、派遣法等の手続きに関し、規定の整備を行いました。

労基関連では、使用者のほか、過半数労組(過半数代表者)の押印を要する様式が多々あります。このため、厚労省では、新たな様式の留意事項を示した通達を発しました(令2・12・22基発1222第4号)。

従来、過半数代表者の押印欄があった届出様式には、協定当事者の適格性に関するチェックボックスを設けました。チェックの有無も形式上の要件となります。

就業規則を作成・変更する際の意見書も、氏名の記載で足ります。電子申請の際も、電子署名・電子証明書の添付不要で、入力フォーマットに氏名を記載する形となります。

 

○ 送検

「かとく」が飲食業摘発 5店舗で違法、最長110時間 大阪労働局

大阪労働局の過重労働撲滅特別対策班(かとく)は、5店舗で違法な長時間労働を行わせたとして、飲食店経営会社と店舗責任者を大阪地検に書類送検しました。

「かとく」は平成27年に東京・大阪に設置され、大阪・かとくによる送検は今回で5件目となります。大阪労働局は、「1店舗だけでなく、複数店舗にまたがり対策を行っていた実態を重くみて、『かとく』による捜査を行った」と話しています。

同社では、アルバイトを含む12人の労働者に対し、36協定の限度を超える違法な時間外労働に従事させ、最長の人で月110時間に達していました。

時間外労働に対する割増賃金は適切に計算し、支払われていましたが、36協定の特別条項でも上限は月75時間と定められていました。

 

○ 実務に役立つQ&A

60歳から国民年金? 再雇用で資格を喪失


再雇用者で、勤務時間が大幅に短縮する者は、厚生年金の資格を喪失させます。被保険者期間が10年未満なら、60歳以上も国民年金に加入できるのでしょうか。また、負担軽減策はありますか。


老齢基礎年金は、原則として、10年の資格期間(保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間)を満たした人に、65歳以後支給されます。

国民年金は、原則20歳以上60歳未満の者が加入しますが、60歳以上65歳未満の者も、任意加入することができます(国民年金法附則5条)。すでに受給資格要件を満たしていても、被保険者期間が480月未満なら、年金を増やすために加入できます(前条6項)。

令和3年度の国民年金保険料は、月額1万6610円で前年比70円増となりました。年間では約20万円になります。

被保険者は、将来の保険料を前納することができます(国年法93条)。期間は半年、1年、2年の3パターンから選択可能で、現金払いか口座振替などで割引率が異なります。最も得なのは、「2年間の口座振替」で、1万5850円の割引です。

 

○ 調査

厚労省「令和2年・障害者雇用状況集計結果」

令和3年3月から、障害者の法定雇用率が2.3%に引き上げられます。引上げ直前の令和2年(6月1日現在、法定雇用率2.2%)の時点では、障害者の実雇用率2.15%で、達成企業割合48.6%でした。

平成元年までさかのぼると、障害者の実雇用率1.32%、達成企業割合51.6%という状況でした。ちなみに、その当時の法定雇用率は1.6%でした。

この30年余で実雇用率は0.83ポイント上昇しました。しかし、並行して法定雇用率の引上げが実施されるので、「逃げ水」のような状況に変わりはありません。

民間企業における雇用状況の推移

民間企業における雇用状況の推移

企業規模別の実雇用率をみると、大企業(1,000人以上)が2.36%だったのに対して、小企業(45.5~100人未満)は1.74%でした。この分野では、さすがに経営体力のある大企業の方が十分な施策を行っているようです。

なお、45.5人とは法定雇用率2.2%で「1人以上の障害者雇用義務を負う」企業規模です。2.3%に引き上げられると、最低ラインは43.5人に下がります。

企業規模別の雇用状況

企業規模別の雇用状況

 

○ 職場でありがちなトラブル事例

製造ミス一回で懲戒解雇 それ以前から「いじめ」続く

メーカーの製造ラインで期間契約社員として働いていたAさんは、室長のいじめ・嫌がらせを受け、うつ病状態で仕事を続けていました。

体調がすぐれない中、作業中の不注意で製品を破損させてしまいましたが、会社は最初に始末書の提出を求め、その後、懲戒解雇を申し渡しました。

処分の厳しさに驚いたAさんは、都道府県労働局長のあっせん申請を行いました。すると、会社は一転して「懲戒解雇を普通解雇に改める」と言い出しました。

あっせんの場では、Aさんが会社への不信から復職の意思がない旨表明したため、補償金の額が焦点となりました。

 

従業員の言い分
商品を破損したことは申し訳ないですが、他の同僚がミスした際は口頭注意で済んでいます。室長のいじめは入社後3年目くらいから始まっていて、今度の事件は「私を会社から追い出す」口実に過ぎません。
現在もうつ病で通院を続け、薬を手放せない状況です。就職活動もままならないため、生活保障も含めて130万円の補償金支払いを求めます。

事業主の言い分
Aさんは入社当初から勤務態度に問題があり、会社として厳しい指導を行いましたが、うつ病を発症するほどの行き過ぎがあったとは思えません。
懲戒処分としたことにより失業給付の給付制限期間が長くなった点は、会社の落ち度として認めます。しかし、既に解雇予告手当(20万円)は支払っており、これ以上の金銭的要求は呑めないところです。

【 あっせんの内容 】 会社側に対し、本人更生のために十分な努力も尽くさないまま、いきなり懲戒解雇処分に付すのは、他の労働者とのバランスも欠き、不当である点を指摘しました。
そのうえで、Aさんがうつ病で就職活動が十分にできない状況を考慮し、解雇予告手当に加え、解決金の積み増しを考慮するよう求めました。

【 結果 】 会社が解決金70万円を支払い、Aさんが職務上知り得た秘密を口外しないという条件で、合意文書の作成が行われました。

 

○ 身近な労働法の解説―労使協定―

今回は、労基法に定める労使協定(以下単に「労使協定」)について解説します。

  1. 労使協定とは
  2. 労使協定の効力
  3. 労基法に定めのある主な労使協定
  4. 免罰効果の例(36協定の場合)

1.労使協定とは

労働者集団の代表と使用者が結ぶ労働条件や労働者の待遇についての特別な合意です。
労使協定の締結当事者は、当該事業場の使用者と次の①と②のいずれかです。
① 労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合
② 上記①の労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者
労使協定は 当該事業場の全労働者に適用されることが予定されています。(労使協定の中で適用範囲を限定するものもあります。)
労使協定のほかにも、労働条件の合意書面という点では、集団的労使関係においては労働組合と締結する「労働協約」(協定書・確認書・覚書等)、個別的労使関係においては「労働契約」があります。前者は組合員に対して適用され、後者は労働者個人に対して適用されます。

2.労使協定の効力

「その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものであり、労働者の民事上の義務は、当該協定から直接生じるものではなく、労働協約、就業規則等の根拠が必要なものであること。」とされています(昭63・1・1基発1号)。
労使は、労基法上の最低労働条件よりも有利な合意を行うことしかできませんが、労使協定を締結することで労基法の例外規定が適用され、労基法に違反しないという効力(免罰効果)が生じます。
労使協定は、それだけでは労働契約上の権利義務は生じませんので、労働協約、就業規則等が必要です。また、締結により効力が生じるものと、締結+届出により効力が生じるものがあります。

3.労基法に定めのある主な労使協定 ※【 】内は効力発生要件

・24(賃金控除)協定【締結】
・一斉休憩の原則の適用除外【締結】
・36(時間外・休日労働)協定【締結+届出】
など、労基法には賃金や労働時間・休憩・休日・休暇に関する労使協定が多く規定されています。また、一部の労使協定(変形労働時間制、年休の計画的付与等)においては、労使協定に代えて、労働時間等設定改善委員会の委員の5分の4以上の多数による議決とすることもできます(企画業務型裁量労働制、高度プロフェッショナル制の労使委員会による特例もあります)。
その他、労基法以外にも、育児介護休業法等で定める労使協定があります。

4.免罰効果の例(36協定の場合)

労基法では、1日8時間、週40時間を超えて労働させることができず(32条)、また、週1回または4週4回の休日を与えなければならない(35条)とされています。

この原則を修正する例外規定として、労使協定を締結し所轄労働基準監督署長へ届け出ることにより、労働時間を延長し、または休日に労働させることができるようになります(36条)。

労働時間・休日の規定違反は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(119条)ですが、有効な労使協定の下で時間外・休日労働を行わせた場合、使用者は責任追及を受けません。

※なお、法定労働時間を超える労働や法定休日労働については、就業規則の規定や労働契約での合意がある場合に労働の義務が発生しますので、36協定があれば当然に時間外・休日労働をさせることができるという訳ではありません。

※令和3年4月1日より、36協定届の様式が変更され、事業主等の押印および署名が不要になります。

 

○ 助成金情報

中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)

 

○ 今月の実務チェックポイント

介護(補償)給付について

今回は、業務災害または通勤災害が原因となって労働者が一定の障害の状態に該当し、現に介護を受けている場合に労災保険から支給される介護(補償)給付について説明します。

介護(補償)給付とは

業務災害または通勤災害が原因で労働者が一定の障害の状態(常時介護を要する状態または随時介護を要する状態)に該当し、現に介護を受けている場合に支給され、業務上の災害が原因で支給される場合を「介護補償給付」といい、通勤災害が原因で支給される場合を「介護給付」といいます。介護(補償)給付を受けるには、次の要件を全て満たす必要があります。

1 一定の障害の状態(常時介護を要する状態あるいは随時介護を要する状態)に該当すること
【常時介護を要する状態とは(一部略)】
①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、障害等級第1級3・4号、傷病等級第1級1・2号に該当する場合
②両上肢および両下肢が亡失または用廃の状態にあるなど①と同程度の介護を要する状態である場合
【随時介護を要する状態とは(一部略)】
①精神神経・胸腹部臓器に障害を残し、障害等級第2級2号の2・2号の3、傷病等級第2級1・2号に該当する場合
②障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではない場合
2 民間の有料の介護サービスや親族または友人・知人により、現に介護を受けていること
3 病院または診療所に入院していないこと
※これらの施設に入所している間は、施設において十分な介護サービスが提供されるため支給対象とはなりません。
4 介護老人保健施設、障害者支援施設(生活介護を受けている場合に限る)、特別養護老人ホームなどに入所していないこと
※入所している場合は、3と同様の理由で支給対象とはなりません。

給付の内容について

介護(補償)給付の支給額については、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署などのホームページ等でご確認ください。

介護(補償)給付の請求手続

介護(補償)給付を請求する場合は「介護補償給付・介護給付支給請求書」(様式第16号の2の2)を作成し、医師または歯科医師の診断書などを添付して、事業場管轄の労働基準監督署に提出します。介護(補償)給付は、介護を受けた月の翌月の1日から起算して2年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので、それまでに請求を行います。

介護(補償)給付その他の注意点

① 傷病(補償)年金の受給者および障害等級第1級3・4号または第2級2号の2・2号の3に該当する場合は、診断書の添付は不要です。
② 継続して2回目以降の介護(補償)給付を請求するときにも、診断書の添付は不要です。
③ 請求は1カ月単位が一般的ですが、3カ月分をまとめて請求することも可能です。

 

○ 今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 2月分の社会保険料の納付
  • 2月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 前年分所得税の確定申告(2月16日から4月15日まで)
  • 贈与税の申告・納付(2月1日から3月15日まで)
  • 36協定の更新・届出

慣例・行事

  • 春の全国火災予防運動
  • 入社式の準備

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