月刊人事労務だより~2022年4月号~

目次

◆最新・行政の動き

厚労省は、小売業・介護施設などの労災防止対策として、令和4年度から「+Safe」(プラスセーフ)コンソーシアム事業をスタートさせます。

令和4年1月時点の死傷者数は第13次労災防止計画の基準を超えるペースで発生し、特に小売業・介護施設を中心に、転倒・腰痛などの行動災害(労働者の作業行動に起因する労災)が増えています。

このため、企業・関係行政機関・業界団体などを加盟団体とする「コンソーシアム」(共同事業体)を設置し、人材確保も含めた総合的な経営対策として事業者の行動変容を促します。

併せて、都道府県労働局内でも「+Safe協議会」(仮称)を組織し、取組み目標の設定、啓発資料の作成、好事例収集等を通じて、自主的な安全管理をバックアップします。

◆ニュース

◆監督指導動向

東京労働局は、都内544の建設現場を対象に集中実施した指導結果を公表しました。65.6%に当たる357現場で安衛法令違反が発見され、その2割相当の66現場が作業停止命令や立入禁止の行政処分を受けています。

違反事項をみると、元請事業者の安全管理面の不備(下請に使用させる設備の災害防止措置や法令順守のための指導の未実施など)が311件と最も多く、次いで墜落防止措置関係(作業床や開口部の手すり未設置など)が211現場で続きます。

災害発生要因に関する現場監理者の認識も併せて調査しましたが、トップとして挙げられたのは「作業の慣れ」(45.4%)で、「近道・省略行動がめだつ」(42.1%)、「ヒューマンエラーが多い」(38.4%)等の実態も明らかになりました。

◆送検

虚偽の台帳提出で逮捕 割増不払で証拠隠滅図る 十和田労基署

千葉・柏労基署は、脳内出血を理由とする労災認定の不支給処分を取り消しました。労災の請求をしたのは居酒屋で働いていた調理師で、労基署の決定を不服として裁判で争っていました。

発症前2~6カ月間の時間外労働はいわゆる過労死ライン(平均80時間以上)に達していませんでしたが、「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」が常態化していました。

労災の過労死認定基準は、令和3年9月に改正・適用されています(令3・9・14基発0914第1号)。新基準では、過労死ラインは従来数値を維持しつつ、「勤務時間の不規則性」など「その他の負荷要因」について、より詳細な考え方を示しました。

同労基署では、これを踏まえ、裁判結審前に自己の判断で不支給処分を撤回したもので、新基準の影響で不支給処分が取り消されたのは、全国初の事案です。

◆実務に役立つQ&A

就業場所間の通災か 家業を終業後手伝う


当社では兼業を許可制にしています。家業(自宅と別の店舗)を手伝いたいという申出がありました。終業後として、移動中の事故は通勤災害といえるのでしょうか。


就業の場所から他の就業の場所への移動も、通勤の範囲に含まれています(労災法7条2項2号)。

当該移動の間に起こった災害に関する保険給付は、「終点たる事業場」の保険関係で行う(労災則18条の5第2項、平18・3・31基発0331042号)としています。

終業後にアルバイト先へ向かうようなケースであれば、アルバイト先の保険関係で処理することになります。

家業が同居の親族のみを使用する場合、「労働者」には当たらない可能性があります(労基法116条)。労災保険でも、同様に解されます(労災法コンメンタール)。

◆調査

厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和3年10月末)」

長期的な労働人口の減少を踏まえ、外国人労働者の受入増加は国の政策課題です。

それを受け、事業主に雇用される外国人労働者の数は、2021年10月末時点で、172.7万人に達しています。

2008年の48.6万人と比べると、約3.6倍増となっています。2019年には、特定技能資格の創設も受け、前年比19.9万人のアップとなりました。

しかし、それ以後は上昇カーブが鈍化し、2021年は前年比0.2%増にとどまっています。新型コロナによる短期的な影響なのか、見極めにはしばらく時間がかかりそうです。

在留資格別外国人労働者数の推移

在留資格別外国人労働者数の推移

在留資格別の割合をみると、「身分に基づく資格(永住者、日本人の配偶者等)」が全体の33.6%を占め、以下、「専門的・技術的分野の在留資格(経営・管理、特定技能等)」22.8%、「技能実習」20.4%の順となりました。

前年と比較すると、「技能実習」が12.6%マイナス、「資格外活動」が9.7%マイナスで、この2つが外国人労働者の増加にブレーキをかける主要因となっています。

在留資格別外国人労働者の割合

在留資格別外国人労働者の割合

◆職場でありがちなトラブル事例

雇保の加入手続き遅れる 教育給付でも不利益と主張

会社を退職したAさんは、ハローワークに求職の申込みに行きました。ところが、基本手当の所定給付日数が思ったより少なく、期待した日数(180日)の半分(90日)しかありません。

窓口で説明を聞くと、会社が雇用保険の資格取得届を出した年月日が、Aさんの入社日よりかなり遅いことが判明しました。

失業給付の日数が少ないだけではありません。求職期間を利用して、雇用保険の教育訓練給付を受けようと計画していたのですが、こちらの受給要件も満たしません。

踏んだり蹴ったりの状態のAさんは、自分が被った損失を会社が補填するように求めて、あっせん申請を行いました。

従業員の言い分
「会社のミスなので何とかならないか」とハローワーク窓口で相談したのですが、「行政処分の時効である2年を経過していて、加入年月日の遡及はできない」という回答でした。
会社に対し、本来、受けられるはずだった基本手当との差額(90日分)と教育訓練給付未受講分の損失を合わせ、70万円の支払を要求しました。

社長の言い分
手続きが遅れたのは、何度も催促したのに、本人が必要書類の提出を怠っていたからです。その後、ハローワークの助言を受け、ようやく書類なしで資格取得を認めてもらった経緯があります。
Aさんが速やかに協力してくれれば、今回のトラブルは回避できたわけで、すべてこちらの落ち度という主張は、当方として承服しがたいところです。            

【 指導・助言の内容 】
事業主に対しては、「事情はどうであれ、雇保加入の手続きは事業主として果たすべき責任であり、何らかの補償を行う必要がある」と説得しました。
Aさんには、「教育訓練給付は、本人が講座を受講し、費用を支払って、初めて受給資格を得られる」という点を指摘し、未受講分の請求は撤回してもらいました。

【 結果 】
会社がAさんに対して和解金35万円を支払うことで合意が成立し、和解文書を作成しました。

◆身近な労働法の解説 ―定期健康診断―

労働安全衛生法において、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行うよう義務付けています。
今回は、定期健康診断について解説します。

1.定期健康診断の実施義務・受診義務

事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、安衛法66条に基づき安衛則44条に定める11項目について医師による健康診断を行わなければなりません。
腹囲、胸部エックス線検査等一部の検査項目については、それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略することができます。年齢等により機械的に省略するものではありません。
労働者は、原則、事業者が行う健康診断を受けなければなりません(安衛法66条5項)。

2.受診対象者

常時使用する労働者です(安衛則45条1項の特定業務従事者を除きます)。
なお、パート・アルバイトについては、1週間の労働時間数が、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であるとき等となっています。

3.健診の費用

健診費用の負担については、法で事業者に健診実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきとしています。
また、受診に要した時間の労働者の賃金は、労使協議で定めるべきものとしていますが、事業者が支払うことが望ましいとされています(昭47・9・18基発602号)。

4.定期健康診断の実施後に事業者が行うべきこと

  1. 健康診断の結果の記録
    定期健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、5年間、保存しなければなりません(安衛法66条の3、安衛則51条)。
  2. 健康診断の結果についての医師等からの意見聴取
    健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師(歯科医師による健康診断については歯科医師)の意見を聞かなければなりません(安衛法66条の4)。
    医師または歯科医師の意見聴取は、定期健康診断が行われた日から3カ月以内に行わなければなりません。聴取した医師または歯科医師の意見を健康診断個人票に記載します(安衛則51条の2)。
  3. 健康診断実施後の措置
    2.による医師または歯科医師の意見を勘案し必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません(安衛法66条の5)。
  4. 健康診断の結果の労働者への通知
    健康診断結果は、労働者に遅滞なく通知しなければなりません(安衛法66条の6、安衛則51条の4)。
  5. 健康診断の結果に基づく保健指導
    健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(安衛法66条の7)。
  6. 健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
    常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の結果について、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(安衛法第100条、安衛則52条) 。

◆助成金情報

障害者相談窓口担当者の配置助成金

◆今月の実務チェックポイント

育児・介護休業法改正の対応について

男女とも仕事と育児を両立できるように、令和3年6月に育児・介護休業法が改正されました。令和4年4月1日から段階的に施行されることとなります。今回は、令和4年4月1日から義務化される事項について解説します。なお、解説にある「産後パパ育休(出生時育児休業)」については、令和4年10月1日から施行されますので、ご注意ください。

○育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が必要

次の1.~4.のいずれかを実施しなければなりません。なお、複数実施することが望ましいとされています。

  1. 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施※全労働者に実施することが望ましいが、難しい場合は、少なくとも管理職には実施する必要があります。
  2. 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口や相談対応者の設置)※実質的な対応が可能な窓口を設置して、その周知等を行い、労働者が利用しやすい体制を整備する必要があります。
  3. 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供※自社の育児休業等の事例を掲載した書類の配布やイントラネットへの掲載などを行い、労働者が閲覧できるようにする必要があります。
  4. 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知※育児休業の制度および取得の促進に関する事業主の方針を記載したポスターなどを事業所内やイントラネットへ掲載することが必要です。

○個別の周知・意向確認が必要

本人または配偶者の妊娠・出産の申し出をした労働者に対して、個別の周知と意向確認の措置が義務付けられ、次の全ての説明を行わなければなりません。

  1. 育児休業・産後パパ育休に関する制度
  2. 育児休業・産後パパ育休の申出先(例:「人事課」、「総務課」など)
  3. 育児休業給付に関すること
  4. 労働者が育児休業・産後パパ育休期間において負担すべき社会保険料の取扱い

この個別の周知・意向確認については、妊娠・出産の申出が出産予定日の1カ月半以上前にあった場合は、出産予定日の1カ月前までに面談(オンライン面談も可)または書面交付で実施することが必要です。ただし、労働者が希望した場合に限り、FAXまたは電子メールでも可とされています。

○有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件緩和

下記の規定は見直しが必要です。
有期雇用労働者にあっては、次のいずれにも該当するものに限り休業をすることができる。

【育児休業】
  1. 引き続き雇用された期間が1年以上
  2. 1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない
【介護休業】
  1. 引き続き雇用された期間が1年以上
  2. 介護休業開始予定日から93日経過日から6か月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない

令和4年4月1日からは、育児休業・介護休業ともに①の要件が削除されることとなり無期雇用労働者と同様の取扱いとなります。育児休業給付・介護休業給付についても同様に緩和されます。ただし、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は労使協定の締結により除外可能です。

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 3月分の社会保険料の納付
  • 3月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、1~3月分)
  • 給与支払報告に係る給与所得者異動届出書の提出

慣例・行事

  • 新入社員入社式、入社手続き、歓迎会
  • 新入社員の社内研修および配属の実施
  • ゴールデンウイーク休暇中の社内体制確立・対外広報

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