月刊人事労務だより~2022年12月号~

最新・行政の動き

厚生労働省は、コロナ禍で助成内容を拡充している雇用調整助成金について、今年12月から原則として通常の制度に戻す方針を明らかにしました。助成の日額上限は中小企業・大企業ともに雇用保険の基本手当と同額の8355円を維持しつつ、休業手当相当額に対する助成率を中小企業3分の2、大企業2分の1に引き下げます(11月までの助成率は中小企業が原則10分の9、大企業が同4分の3でした)。

とくに業況が厳しい事業主に対しては、来年1月末まで助成額などを上乗せする経過措置を設定します。売上高などの生産指標が最近3カ月の月平均で前年、前々年、または3年前同期比で30%以上減少しているケースが対象。助成上限額は9000円で、助成率は中小企業が10分の9、大企業が3分の2。解雇を行った事業主は順に3分の2、2分の1とします。

新型コロナの影響で小学校などが臨時休業した場合に、子どもの保護者に有給の休暇を取得させた企業に支給する小学校休業等対応助成金については、支給対象となる休暇取得期間を来年3月まで延長する方針。日額上限額は8355円を維持します。一方、緊急事態宣言の対象区域などの事業主へ日額1万2000円まで支給する特例措置は、11月末で廃止となります。

ニュース

労災認定 事業主の不服表明可能に

厚生労働省は、自社の労働災害の発生状況に応じて労災保険率が増減する労災保険のメリット制について、事業主が労働保険料の引上げ決定後に「労災認定は違法」として保険料決定に関する不服を申し立てられるよう、行政解釈の変更を行う考えです。近年、保険料決定処分の取消し訴訟において、保険給付支給の違法性の主張が認められるケースが現れていました。

都道府県労働局長が行った保険料引上げの決定を不服として、事業主が厚労大臣に審査請求し、厚労省での審査において労災給付が支給要件に該当しないことが認められた場合、労働保険料の引上げは行わないものとします。一方、労働者に対する支給決定自体は取り消さない方向です。支給決定を取り消せば、いったん支払った給付の回収や支給打ち切りを行う必要が生じることから、支給決定を維持し、給付を生活の糧にしている被災労働者や遺族に甚大な影響が及ぶのを防ぎます。

産業医勧告 不利益取扱禁止は努力義務

産業医事務所が、労働安全衛生法に基づく勧告権行使を理由に顧客企業から契約を解除されたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は同事務所の請求を棄却しました。

同事務所の産業医は平成31年4月15日、勧告書を顧客企業の代表取締役に手交しました。内容は、同社の総括安全衛生管理者兼人事総務部長が不適切な健康管理運営をしているため、処遇を考えて欲しいというものでした。同社は勧告書の内容を踏まえ、弁護士を選任し、産業医を含めた関係者の聞き取り調査を進めた結果、指摘事項の多くは存在が認められませんでした。認められたものについても緊急の対応は必要なく、法令違反もないとの結論を得て、同年6月19日に産業医との契約を解除しました。

二審の同高裁は一審同様、契約解除を有効と判断しました。同社は勧告書を受け取った際、事実確認のうえ、必要に応じて改善措置を講じると約束しており、勧告権行使は契約解除の理由ではないと評価しています。産業医が同社の言い分に耳を貸さず、労基署の行政指導を示唆するなど、対決姿勢を深めていき、信頼関係破壊に至ったとしました。

勧告権行使を理由とする不利益取扱いを禁止した安衛則第14条4項の規定は「努力義務」と判示。委嘱契約は準委任に当たり、原則双方がいつでも契約解除できるが、安衛法第13条5項が労働者の健康確保のために産業医に職務権限を与えていることを考慮し、契約解除が法の趣旨を実質的に失わせている場合は権利濫用に該当するとしています。

ハラスメントで新事業研修用に動画提供

東京都は、企業のハラスメント防止対策を推進するため、新たな支援事業を立ち上げました。社内研修などに活用してもらうため、特設サイトでハラスメントに関する解説動画を公開します。リモートワーク特有のリモートハラスメントやカスタマーハラスメントを含む8種類のハラスメントについて注意を喚起するため、計12本を制作する予定。管理職や従業員向けの内容とし、それぞれのハラスメントの概要や対応方法などを解説します。

すでに開設した特設サイトでは、ハラスメントに該当する行為か否かを確認できるチェックシートも提供しています。8種類のハラスメントごとにシートを用意しており、たとえばリモハラのチェックシートでは、「リモートワーク中に常時接続することを強要して監視する」などをチェック項目としています。今後は、先進的な取組みを行う企業の事例も特設サイト内で紹介していく予定です。

企業登録制度を創設

福岡県は県内企業のSDGsへの貢献を「見える化」するため、登録制度を新設しました。「事業継続計画の策定」、「長時間労働の抑制」など必須17項目と、選択項目のうち5項目以上を選び、1年以内に取り組む内容を記載して同県のホームページで公表することが登録の要件となっています。選択できる項目に上限はなく、「各企業で力を入れている取組みを公表することで、PRにつなげてほしい」としました。

登録企業は商工会や金融機関などの会員・顧客向けの支援メニューを利用できます。経営相談やSDGs関連の各種セミナーなど無料で受けられるものもあり、同県から低金利の融資を受けることもできます。登録申請期間は第1期が10月31日~12月28日、第2期は来年1月4日~2月28日で、来年度以降も募集を行う予定。登録企業の交流会なども検討しています。

送検

東京・中央労働基準監督署は、機械式駐車装置の調整を行わせるに当たり、労働者に危険が及ぶおそれがあったにもかかわらず機械の運転を停止しなかったとして、装置の製造・管理を行う業者と同社サービスセンター所長代理を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いで東京地検に書類送検しました。昨年9月、地下駐車場の装置内部で労働者が構成部材に挟まれて死亡する労働災害が発生しています。

装置内部では自動車を乗せたパレットとおもりがチェーンでつるべ状に吊られていました。別の労働者がパレットを上昇させたことでおもりが降下し、下にいた労働者が床面との間に挟まれました。同労基署によると、被災者らは複数人で現場を回り、装置の定期メンテナンスを行っていました。ビルごとに構造が違うこともあり、労働者間の連絡調整が上手くいっていなかったとみています。同種の駐車装置での事故を防ぐため、業界団体と連携を図っていくとしました。

監督指導動向

愛知労働局は、今年1~3月に実施した最低賃金の履行確保に向けた監督指導の結果を公表しました。当時の地域別最賃955円または特定最賃未満だった労働者331人のうち、正規雇用者は11.8%の39人に上り、前年から9.1ポイント増加しています。

最賃に近い賃金額の労働者が多いと思われる業種を中心に622事業場へ監督を実施したところ、71事業場(11.4%)で最賃法違反がありました。最賃額以上を支払っていなかった理由は「適用される最賃額を知らなかった」が最多で、26事業場(36.6%)。次いで「最賃の改正を知っていたが賃金の改定をしていなかった」が13事業場(18.3%)と続きます。そのほか、「労働者から最賃未満でも働かせてほしいと申出があり、合意があれば最賃未満でも良いと思っていた」、「賃金を時間額に換算して比較していなかった」などがみられました。

同労働局では「最賃の上昇により、今までは非正規雇用者のみを確認していた事業場で、正規雇用者の賃金がいつの間にか最賃を下回っていることもあるので、注意してほしい」と話しています。

調査

日本商工会議所が中小企業を中心に会員2880社から回答を得た新卒採用などに関する調査によると、一定の条件を満たせばインターンで得た学生の働きぶりや連絡先などの情報を採用活動に活用できるようになったことを受け、「条件を満たすインターンの実施を検討している」企業は35.1%に留まることが判明しました。「実施に課題がある」が24.1%、「課題はない」が11.0%となっています。

調査では、昨年度のインターンシップの実施状況も聞いていますが、実施した企業のうち、44.1%が「2~4日」、27.1%が「1日」と回答しました。「5日以上」は28.7%に留まっています。日商は、「会員企業では、人材不足により長期間インターンに人員を割くことが難しいようだ」と話しています。

<2021年度インターンシップの実施状況>

実務に役立つQ&A

<Q>当社では、男性従業員にとにかく育休を取得してもらおうと考えています。法は2回ですが、3回、4回…と回数を増やしていったときに、出生時育児休業給付金は一体どうなってしまうのでしょうか。

<A>子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日までに2回の出生時育児休業をした場合、出生時育休の申出は原則できません(育介法9条の2第2項1号)。日数が28日に達している場合も同じく原則不可です(同項2号)。育休の分割取得により、休業回数、期間等の管理が煩雑化します。

条文上原則として3回目の出生時育休は取得できず、出生時育児休業給付金も支給対象外です。男性がさらに休もうとすれば、通常の育休を取得する方法はあり得ます。厚生労働省は、3回目や28日を超えて取得した出生時育休について、被保険者と事業主との間で育休に振り替える旨を合意すれば、育児休業給付金として支給申請することができるとしています。雇用保険業務取扱要領では、ここでいう育休は、被保険者からの申出に基づき事業主が取得を認めた最長2歳までの育休をいうとしています。

身近な労働法の解説 -解雇制限-

やむを得ず労働者を解雇しなければならない場合において、労基法には解雇の制限が定められています。今回は、労基法19条の「解雇制限」について解説します。

1.解雇制限(労基法19条1項)

次の期間は、解雇してはなりません。

① 業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間 + その後30日間

② 産前産後の女性が労基法65条の産前産後休業をする期間 + その後30日間

この規定は、①②のような期間中は再就職が難しく、労働者の生活に脅威をきたすことになるために定められています。

2.解雇制限の例外(労基法19条1項ただし書き)

解雇制限は、次の場合は適用されません。

① 業務上の負傷・疾病について、労基法75条の規定によって療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても治癒せず、使用者が同法81条の打切補償(平均賃金の1200日分)を支払う場合

② 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

上記①については、労基法75条の療養補償を受ける労働者のほか、労災保険の療養補償給付を受ける労働者についても同様に取り扱われます(平27・6・9基発0609第4号)。

上記②の「天災事変その他やむを得ない事由」とは、天災事変のほか、天災事変に準ずる程度の不可抗力によるもので、かつ、突発的な事由を意味し、経営者として必要な措置をとっても通常いかんともし難いような状況にある場合を意味すると解されています。また、「事業の継続が不可能になる」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合を意味すると解されています。

 3.その他

上記2②の場合は、その事由について労働基準監督署長の認定を受けなければなりません(労基法19条2項)。認定は、「解雇制限除外認定申請書(様式第2号)」を解雇する前に所轄の労働基準監督 署に提出することにより行います。

有期労働契約において、労働契約の更新がなく期間満了となる場合は、上記1①②の期間中であっても満了とともに労働契約は終了するため、原則として、解雇制限は適用されません。定年退職の場合も同様です(昭63・3・14基発150号)。

労基法19条のほか、労働関係諸法令により、解雇等の不利益な取扱が禁止されています。例えば、「国籍・信条・社会的身分(労基法3条)、性別・婚姻・妊娠・出産等(均等法5条、9条)」などの差別禁止事由、「育児介護休業の申出(育介法10条)」などの法律上の権利行使、「労基法違反の申告(労基法104条)、公益通報をしたこと(公益通報者保護法5条)」などの違反申告が挙げられます。また、労働協約や就業規則において、解雇の制限を加える規定がある場合はそれに従います。

今月の実務チェックポイント

健康保険の任意継続について

今回は、健康保険の被保険者である社員が退職した場合の健康保険の任意継続について説明します。

○健康保険の被保険者である社員が退職した場合の選択肢

健康保険の被保険者である社員が退職した場合、退職後の健康保険制度への加入については次の3つの選択肢があります。

  選択肢 相談場所
健康保険の任意継続 退職時に所持していた保険証の発行元によって、住所地を管轄する協会けんぽの支部またはそれぞれの健康保険組合
国民健康保険への加入 住民登録地の市区町村の国民健康保険担当窓口
ご家族等(被保険者)の健康保険の被扶養者となること ご家族等(被保険者)の勤務先を通しての手続きとなるためご家族等(被保険者)の勤務先

※1 倒産・解雇・雇止めなどにより離職された方については、国民健康保険料(税)が軽減される場合があります。

※2 ご家族等(被保険者)の健康保険の被扶養者となった場合は、保険料の支払いは必要ありませんが、傷病手当金は受給できません。

※3 国民健康保険には、被扶養者の制度はありません。

○健康保険の任意継続について

健康保険の任意継続とは、被保険者であった者が申し出ることによって、退職時に加入していた健康保険について、資格喪失後も継続して被保険者となることができる制度です。任意継続被保険者となるには、次の条件をすべて満たさなければなりません。

① 資格喪失日の前日まで継続して2カ月以上被保険者であったこと

② 資格喪失日から20日以内に申し出ること

③ 船員保険や後期高齢者医療制度の被保険者でないこと

④ 初めて納付すべき保険料をその納付期日までに納付したこと

【添付書類について】

退職証明書写し、雇用保険被保険者証離職票写し、健康保険被保険者資格喪失届写し等の退職日が確認できる書類を添付すると、保険証の早期発行(1週間程度)が可能となります。添付がない場合は、日本年金機構から資格喪失記録の提供を受けた後の発行(2~3週間程度)となります。

任意継続被保険者になった場合は、原則として、在職中と同様の保険給付が受けられますが、退職日まで継続して1年以上被保険者であった方が、退職日時点で傷病手当金や出産手当金を受けているか、受ける条件を満たしている場合を除き、傷病手当金や出産手当金を受けることはできません。

任意継続被保険者の保険料は、退職等された時の標準報酬月額あるいは前年または前々年の9月30日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額(協会けんぽの場合は現在30万円)のいずれか少ない額となります。退職前は、被保険者と事業主の折半で保険料を負担しましたが、任意継続被保険者については、負担してくれる事業主がいませんので全額自己負担となります。月々の保険料を納付書で納付する場合の納付期限は毎月10日(10日が土日・祝日の場合は翌営業日)とされており、期限までに納付されなかった場合は任意継続被保険者の資格を喪失することになります。

○保険料の安さで選ぶ場合

健康保険の任意継続も国民健康保険も健康保険の被扶養者も受けられる給付はほとんど同じです。となると保険料が安く済むことで選びたいというご希望を持たれる方も多くいると思います。このようなご希望がある場合は、協会けんぽあるいは健康保険組合および市区町村の国民健康保険の担当窓口でそれぞれの保険料を試算してもらいましょう。明確な保険料の金額が確認できるため、保険料の比較が容易となります。

助成金情報

特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金は7つのコースに分かれますが、今回は「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」をご紹介します。

自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)等の発達障害者については、社会性やコミュニケーション能力に困難を抱えている場合が多く、これらは仕事をする上で重要な能力であることから就職および職場定着に至らない者が少なくありません。また、難治性疾患患者は、疾患が慢性化しており十分に働くことができる場合もあるにもかかわらず、就労に当たっては様々な制限・困難に直面しています。一方、事業主は、発達障害者および難病患者の雇用経験が少なく、職務遂行上障害となる症状や雇用に当たって配慮すべき事項が明確になっていないことから、十分な雇用促進が図られていない状況があります。

こうした状況から、発達障害者または難病患者等をハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成するもので、発達障害者や難病患者の雇用を促進し職業生活上の課題を把握することを目的としています。

 【対象労働者】

・障害者手帳を所持していない方であって、発達障害(※1・2)または難病のある方

※1「発達障害」とは、発達障害者支援法で規定されている、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令(発達障害者支援法施行令)で定めるものをいいます。

※2「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害および社会的障壁により日常生活または社会生活に制限を受けるものをいいます。

・雇入れ日時点で満年齢が65歳未満である方

助成額】

対象労働者 企業規模 支給額 助成対象期間

※3

支給対象期ごとの支給額※4
短時間労働者※5以外の者 中小企業 120万円 2年間 第1期 30万円

第2期 30万円

第3期 30万円

第4期 30万円

中小企業以外 50万円 1年間 第1期 25万円

第2期 25万円

短時間労働者 中小企業 80万円 2年間 第1期 20万円

第2期 20万円

第3期 20万円

第4期 20万円

中小企業以外 30万円 1年間 第1期 15万円

第2期 15万円

※3・4 助成対象期間を6カ月ごとに区分した期間を支給対象期(第1期・第2期・第3期・第4期)といい、支給総額を支給対象期に分けて支給します。

※5 短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満の労働者をいいます。

【対象となる事業主】

1.雇用保険の適用事業主であること

2.対象労働者の出勤状況や賃金の支払状況などを明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿など)を整備・保管していること

注:支給対象期の途中で対象労働者が離職した場合は、当該支給対象期について原則不支給となります。

 【助成金支給の主な流れ】

①ハローワークに求人の申込み

②対象労働者の雇入れ

③助成金の第1期支給申請

④支給審査・支給決定

⑤助成金の受給

*制度の詳細は厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのHP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

 

労務・経理 慣例・ 行事
●11月分の社会保険料の納付

●11月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付

●固定資産税(都市計画税)(第3期分)の納付

●年末調整

●年賀状の準備・発送

●年末年始の社内体制確立・対外広報

●大掃除

 

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