月間人事労務だより~2023年12月号~

最新・行政の動き

厚生労働省はこのほど、仕事と介護の両立支援制度の見直しに向けた論点を整理し、労働政策審議会の分科会に示しました。

介護離職を防止する観点からは、労働者への周知に関する新たな仕組みの導入を挙げています。具体的には、①介護の必要性に直面した労働者を対象に、両立支援制度に関する情報を個別に周知し、労働者の意向を確認すること、②介護に直面するよりも早期に支援制度の情報を一律に提供すること、③研修の開催や相談窓口設置などの雇用環境の整備――の3点を検討課題としました。

使用者委員からは、②の情報提供の時期として、介護保険被保険者となる40歳到達時のほか、育児期の労働者に実施する定期的な面談の活用なども検討すべきとの発言がありました。また、③の研修開催などについて別の使用者委員は、「中小企業での対応は難しい」と訴えました。

介護期の働き方としてテレワークの導入を事業主の努力義務にすべきかどうかも論点に盛り込みました。分科会では「テレワークは両立支援の手段として望ましい一方、実施が困難な業種・業態がある中では、努力義務化には慎重であるべき」、「選択的措置義務の選択肢の一つに追加すべき」などの声が挙がっています。

ニュース

配偶者手当見直しへ

厚生労働省は、企業に対して配偶者手当の見直しを促すリーフレットを作成しました。9月に決定した年収の壁・支援強化パッケージの取組みの一環。配偶者の勤務先から配偶者手当をもらうために就業を調整している短時間労働者がいることから、廃止など見直しの手順を4ステップのフローチャートで示しました。

取組みの第一歩として、賃金制度・人事制度の見直しの検討に着手した後、従業員アンケートなどを通じて、ニーズを踏まえて自社に合った案に絞り込みます。

絞り込んだ案を基に、労使での話合いや、必要な経過措置の検討などを経て、見直し案を決定します。その後は、見直しの影響を受ける従業員に対して新制度に関する丁寧な説明を行っていくとしました。

見直しの具体例として、①配偶者手当の廃止・縮小+基本給の増額、②手当廃止・縮小+子ども手当の増額、③手当廃止・縮小+資格手当の創設などを示しています。

死後の加入認めず

群馬県労働委員会は、鉄道車両メンテナンス業者が業務中に死亡した従業員の勤務状況に関する団体交渉に応じなかったとして、労働組合が救済を申し立てた紛争で、同社の対応は不当労働行為に該当しないと判断し、申立てを棄却しました。従業員が生前に同労組に加入した事実はなく、労組は「事後加入」と扱っていました。

従業員は昨年、業務中に心不全で死亡しました。労組は同社に対し、従業員の勤務状況などを交渉事項とする団交を申し入れました。同社は、従業員が生前に組合員だったことの確認を求めましたが、労組は応じず、団交は行われませんでした。労組は、団交拒否が不当労働行為に当たるとし、同労委に救済を申し立てました。

同労委の審査過程で、従業員が生前に同労組に加入したことはなく、相続人の意向で死後に「事後加入」となっていたことが判明しました。同労委は、死後、労働組合に加入することができないことは明らかであると指摘。他の従業員の中に同労組の組合員が存在しないことからも、同労組が「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しないとしました。

託児所整備に補助金

愛媛県は、物流の2024年問題への対応として、輸送能力の向上に取り組むトラック事業者を支援する補助金事業を開始しました。託児スペースの設置や配車計画システムの導入など、人材確保・物流効率化に関する取組みに対し、補助率2分の1で、最大200万円を補助します。

人材確保の面では、多様な人材の活躍を促進するために、事業場内の施設整備にかかった経費を補助します。託児スペースのほか、シャワー室や女性用の休憩室などを対象としています。若年層や女性運転者が働きやすい職場づくりを促す狙いです。

物流効率化の取組みに対しては、配車システムなどの輸送面だけでなく、荷役作業の効率を高めるための事業も補助対象としました。たとえば、アシストスーツやフォークリフトなど、作業時間や身体の負担を減らす機器の導入を想定しています。

同補助金は、国の補助金との併用を可能としています。併用する場合は、総事業費から国の補助金支給額を引いた自己負担分の額を、県の補助対象経費とします。

ラーケーション視野に特休付与

㈱名古屋銀行(愛知県名古屋市、藤原一朗取締役頭取)は、愛知県が今年9月から開始した「ラーケーションの日」での活用を念頭に、パートタイマーを含む全従業員2585人に対して有給の特別休暇を付与します。来年3月末までに1日取得できるようにしたもので、年次有給休暇とは別に各人へ取得を促します。

ラーケーションの日は、子どもが保護者とともに史跡巡りや農業体験などの自主学習活動をする場合、登校しなくても年3日まで欠席扱いにはしない制度。特別休暇の付与により、利用しやすくなるとみています。同行の年休取得率は、全産業平均を約10ポイント上回る68.8%(2022年度)となっています。

送検

奈良・大淀労働基準監督署は、ベトナム人技能実習生および特定技能労働者38人と、日本人7人の計45人の労働者に対して、時間外労働の上限規制を超えて働かせたとして、奈良県五條市内の冷凍食品製造業者と同社代表取締役および生産・開発本部長の計1社2人を労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)違反の疑いで奈良地検に書類送検しました。

同社は今年3~7月、労働者45人に対し、2~4カ月の平均が80時間を超える違法残業(時間外・休日労働)を行わせた疑い。

このうち38人については、単月で100時間以上の残業が発生していました。3月は24人、4月は27人、5月は23人、6月は23人、7月は28人が超過しています。5カ月連続で、月100時間以上残業していた者もいました。残業時間は最も長い者で月154時間でした。

同労基署の定期監督により違反が発覚しています。是正勧告を行いましたが、改善状況がみられなかったため、送検に踏み切りました。

同社は冷凍炒飯やおにぎりの製造・販売事業を営んでいます。違法残業をさせられていた45人は、工場内の冷凍食品製造部門の作業員でした。

監督指導動向

東京労働局は、令和4年度に長時間労働が疑われる事業場に実施した監督指導結果を取りまとめました。違法な時間外労働を確認したのは1827事業場で、なかでも運輸交通業の違反率が最も高く、53.0%でした。全業種平均の39.1%を13.9ポイント上回っています。同労働局では、来年度の時間外労働の上限規制適用に向け、運輸交通業への説明会を進めています。

監督指導を実施したのは4673事業場で、時間外・休日労働が月80時間を超えているとの情報が寄せられた事業場と、過労死等の労災請求があった事業場を対象としています。違法な時間外労働が認められた1827事業場のうち、月80時間超えは648事業場でした。100時間超えは435事業場、150時間超えは128事業場、200時間超えは42事業場となっています。

運輸交通業の違反率は、昨年から6.3ポイント増と最も伸びました。同労働局は対策として、全18労働基準監督署で同業種向けの説明会を展開しています。荷主などの取引先企業を訪問し、荷待ち時間削減などの協力も求めています。

調査

日本スーパーマーケット協会は、会員企業12社で働くパート10万人弱に実施した「年収の壁」調査を公開しました。回答者約3.3万人のうち、所属企業で働いている時間が週20時間未満の者は、53.6%を占めています。

「年収額を抑えるために就業時間・日数を調整している」と答えた割合は、全体の50.0%でした。さらに、年収額をいくらに抑えようとしているかを尋ねたところ、「103万円以下」が52.7%を占め、「100万円以下」と合わせて8割超に上っています。

一方、年収額を抑えたい最大の理由を尋ねたところ、最も多かったのは「社会保険(健康保険・厚生年金)の扶養から外れたくない」41.6%でした。103万円にかかる「所得税を払いたくない」は9.1%で、税金に関する選択肢(住民税、所得税、配偶者控除、配偶者特別控除)のいずれかを選んだ者の合計は40.5%となっています。

新たな仕組みにより一定の年収額まで手取りが減らなくなった場合、「現在よりも年収が多くなるように働きたいか」との設問には、7割強が肯定的に回答しました(うち「とてもそう思う」33.6%)。

実務に役立つQ&A

<Q>業務上ケガをして休職している従業員がまもなく定年年齢に達します。退職後も保険給付を継続して受給できるはずですが、定年を機に退職するときでも、引き続き保険給付の対象なのでしょうか。

<A>労災保険給付の受給権は、労働者の退職で変更されることはないと規定しています(労災法12条の5)。

病院等に行ったときの療養補償給付が退職後に支給されないとなると、業務上の事由により負傷し療養しているのにもかかわらず、その治療を受けられないという不合理なことになります(東京労働局)。

休業補償給付は、定年で退職してしまうと休業状態といえず、補償を受けられないのではないかという疑問が生じるかもしれません。しかし、業務上のケガに対する補償は雇用関係の存続とは別に考えられています。

労災法12条の5の退職について、労災法コンメンタールでは、使用者による解雇や労働者の意思による任意退職、労働契約の期間満了による自動退職に加え、「定年退職等理由のいかんを問わず労働関係の終了することをいう」としています。

身近な労働法の解説 -労働条件の明示①-

労基法では、労働契約の締結に際して、労働者に対して労働条件の明示を義務づけています。今回は、明示の時期・方法について解説します。

1.労基法の定め

労基法15条1項前段では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」としています。また、同項後段では、明示の方法について定めています。

2.明示する時期

労働契約の締結の際に明示する必要があります。「労働契約の締結」には、有期労働契約の期間満了後の契約更新や定年後の再雇用も含まれます。採用内定により労働契約を締結していると認められる場合は、採用内定に際して明示しなければなりません。

なお、職安法5条の3では、ハローワーク等への求人の申込みや自社HPでの募集、求人広告の掲載を行う際に、求人票や募集要項において労働条件を明示しなければならないとしています。

3.明示の方法

書面で明示しなければならない労働条件は、労働者に書面を交付することにより明示します。ただし、労働者が希望した場合は、FAX、Eメール、SNSメッセージ機能等により明示することができますが、出力して書面を作成できるものに限られます(労基則5条4項)。

書面の交付により明示すべき事項については、「書面の様式は自由」で、「当該労働者に適用する部分を明確にして就業規則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えない」とされています(平11・1・29基発45号)。

労基法15条1項で定める明示事項で、書面の交付が義務付けられていない労働条件についても、書面や口頭等で明示する必要があります。

その他の法令により、書面の交付・文書の交付等で明示が義務づけられている事項もありますので、留意します(職安法5条の3第4項、パート・有期雇用労働法6条1項等)。

4.明示された条件が事実と相違する場合

労基法15条2項では、労働者保護を目的として、「明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」としています。

この解除権は、同条1項の明示すべき労働条件について事実と相違する場合に限られ、また、当該労働者自身に関する労働条件に限られると解釈されています。

5.罰則

労基法15条1項の明示をしない場合には、罰則があります(労基法120条)。明示すべき労働条件については、次回に解説します。

今月の実務チェックポイント

今回は年末調整準備の注意点をご紹介します。

〇昨年と変更になった扶養控除の対象となる「非居住者である扶養親族」の範囲

令和4年12月までは非居住者である扶養親族は16歳以上でしたが、令和5年1月以降(今年の年末調整分)は以下の範囲に見直されました。

イ 年齢16歳以上30歳未満の人

ロ 年齢70歳以上の人

ハ 年齢30歳以上70歳未満の人のうち、次のいずれかに該当する人

  • 留学により国内に住所および居所を有しなくなった人
  • 障害者
  • 扶養控除の適用を受けようとする所得者からその年において生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている人

扶養控除の適用を受けようとする非居住者である扶養親族が上記に該当する場合は、以下の表のとおり、その扶養親族に係る確認書類を提出または提示してもらい確認をします。

【扶養控除に係る確認書類】

非居住者である扶養親族の年齢等の区分 扶養控除等申告書の提出時に必要な書類 年末調整時に必要な書類
16歳以上30歳未満または70歳以上 親族関係書類 送金関係書類
30歳以上

70歳未満

①留学により国内に住所および居所を有しなくなった人 親族関係書類および留学ビザ等書類 送金関係書類
➁障害者 親族関係書類 送金関係書類
③所得者からその年において生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている人 親族関係書類 38万円送金書類
上記①~③以外の者 扶養控除の対象外

〇社会保険料その他、所得から控除するための確認書類について

社会保険料は、所得者本人または本人と生計を一にする親族の負担すべき社会保険料で所得者本人が支払ったものです。

年度の途中で入社した場合、国民健康保険料、国民年金保険料など、個人で支払った保険料があるときは控除の対象になります。

・国民年金保険料は前納制度を利用し納付している場合、前納した年に全額の控除を受ける場合と各年分の保険料に相当する額を各年に分けて(複数年に分けて)控除を受ける場合で控除を受ける額が変わります。

各年に分ける場合、社会保険料(国民年金保険料)控除証明書は最大3年分3枚に分かれていますので、申告する年の分だけを預かり、残りの分は翌年以降に使用するため本人にお返しします。

一回で保険料控除を受ける場合 各年に分けて控除を受ける場合

(所得者本人が申告する年の分を切り取り提出)

令和5年中の納付済み保険料額の合計額 各年に申告する場合の証明額

(申告年分に記載の証明額)

・生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料など控除額の計算において計算式が異なります。

その他、小規模企業共済等掛金など、証明書の内容を確認しましょう。

詳しくは国税庁ホームページをご確認下さい。

助成金情報

労働移動支援助成金(早期雇入れコース)

ハローワーク所長の認定を受けた再就職援助計画等の対象となった労働者を早期に期間の定めのない労働者として雇い入れた事業主に対して助成するものであり、労働者の早期再就職の促進を目的としています。さらにより高い賃金(雇入れ前賃金比5%以上)で雇い入れた事業主には加算して助成します。

【区分】

早期雇入れ支援 再就職援助計画の対象となった労働者および求職活動支援書の交付を受けた労働者を期間の定めのない労働契約を締結する労働者として早期に雇い入れた事業主に対して助成します。
  人材育成支援 早期雇入れ支援の対象となる労働者に対してOff-JTのみ、またはOff-JTおよびOJTを行った事業主に対して追加助成します。

 【支給対象となる労働者】

1.支給申請を行う事業主(申請事業主)に雇い入れられる直前の離職の際に「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者であったこと

「再就職援助計画」

事業規模の縮小など経済的事情で月30人以上の労働者が離職を余儀なくされる場合、事業主は、労働者に対する「再就職援助計画」を作成し、ハローワークの認定を受ける必要があります。

「再就職援助計画対象労働者」

再就職援助計画の対象となった方のことを指し、証明書を持っています。

2.「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者として雇用されていた事業主の事業所への復帰の見込みがないこと

※支給対象者が1・2に加えて次の3・4のいずれにも該当していることで人材育成支援の支給を受けることができる

3.申請事業主が作成した訓練の計画に基づいて訓練を受講していること

4.助成対象となる訓練の計画時間数の8割以上を受講したこと

【支給対象となる措置】

支給対象者について、以下の1~3のいずれにも該当するかたちで雇用していることが必要

1.離職日の翌日から起算して3カ月以内に、一般被保険者または高年齢被保険者かつ期間の定めのない労働契約を締結する労働者として雇い入れること

2.雇入れ日から起算して6カ月を経過した日(支給基準日)を超えて引き続き雇用していること

3.2の支給基準日経過後、支給決定日までに支給対象者を事業主都合で解雇等(退職勧奨を含む)していないこと

※人材育成支援の支給を受けるためには、1~3に加えて、以下の4~8のすべてに該当することが必要

4.職業訓練計画を作成し、支給対象者を雇い入れた事業所を管轄する労働局に提出して、訓練開始前に計画認定を受けていること

5.職業能力開発推進者を選任していること

6.認定を受けた職業訓練計画に基づき、支給対象者の雇入れ日から6カ月以内に訓練を開始すること

7.訓練実施期間中、支給対象者に対して賃金を支払うこと

8.支給対象者を訓練終了日を超えて継続して雇用していること

【支給対象となる事業主】

1.雇用保険適用事業所の事業主であること

2.支給のための審査に協力すること

3.申請期間内に申請を行うこと

4.支給対象者の雇入れ日から起算してその日以前1年間において、直前に支給対象者を雇用していた事業主と資本的・経済的・組織的関連性から見て密接な関係にないこと

5.支給対象者に対する賃金を支払期日までに支払っていること

6.再就職支援の委託を受けた職業紹介事業者(または雇入れ日から起算して1年前の日から当該再就職の日までの間において当該職業紹介事業者)と資本的・経済的・組織的関連性から見て密接な関係にある事業主でないこと

7.事業所において、出勤簿等の書類を整備、保管している事業主であること

※助成額・詳細な要件および申請方法等は 厚生労働省HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

 

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