月間人事労務だより~2024年2月号~

最新・行政の動き

育児休業給付 国庫負担「8分の1」に引上げ 財政基盤強化狙う 厚労省案

厚生労働省は、雇用保険の育児休業給付に関する財政基盤を強化するため、現在暫定的に「80分の1」に引き下げている国庫負担割合を、令和6年度から、同法で原則として定める「8分の1」に戻す方針です。

保険料率については、当面の間現行の0.4%を据え置きつつ、7年度から保険財政の状況に応じて弾力的に調整できる仕組みを導入します。規定上の料率を0.5%に引き上げたうえで、実際の保険料率は弾力的に0.4%に引き下げられるようにします。

育児休業給付については、育児休業取得者の増加を受けて支給額が増加傾向にあり、男性育休の取得推進によって今後さらに伸びることが見込まれています。

近年の収支状況をみると、労使から徴収している保険料(労使折半0.4%)と国庫負担(給付費用の80分の1)を合わせた収入額が、令和2年度以降7700億~8000億円弱で推移しているのに対し、令和2年度に6648億円だった支給額は、3年度6656億円、4年度7117億円、5年度7780億円と急増しています。

4年4月以降の雇用保険料率を定めた改正雇用保険法の附則で、「6年度までをめどに、育児休業給付の財源のあり方について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講じる」とされていることを踏まえ、厚労省は、財政基盤の強化策の方向性を労働政策審議会雇用保険部会に提示。昨年12月26日の部会で示した報告書案にも盛り込みました。

ニュース

雇保適用「週10時間以上」へ拡大 基本手当の給付制限短縮

厚生労働省の労働政策審議会雇用保険部会は1月5日、雇用保険制度の見直しに向けた部会報告書をまとめました。

雇用のセーフティネットを広げる観点から、現在、週の所定労働時間が20時間以上の労働者に限定している雇用保険制度の対象者について、10時間以上にまで拡大するべきとしました。新たに対象に加わる労働者も、現行の被保険者と同様に、基本手当のほか、育児休業給付や教育訓練給付などの対象とします。令和10年度中の実施をめざします。

基本手当については、正当な理由がない自己都合離職者に設定している給付制限期間を、現行の原則2カ月から1カ月に見直します。その際、給付目的の早期離職を防止するため、5年間で3回以上の正当な理由のない自己都合離職を繰り返す場合は、給付制限期間を3カ月とします。離職期間中や、離職日前1年以内に、自主的に教育訓練を行った場合には、給付制限を解除します。期間短縮と制限解除は、令和7年度からの導入を見込んでいます。

建設業 書類簡素化へ手引 働き方改革後押し 近畿整備局

国土交通省近畿地方整備局は、今年4月から時間外労働の上限規制が適用される建設業の働き方改革を推進するため、「土木工事書類作成スリム化ガイド」を作成しました。同整備局によると、受注者が本来は不要な資料を作成しており、長時間労働につながっている現状があるといいます。発注者が作成できる資料の作成を受注者に求めているケースもあり、対策が必要としました。

ガイドは、受発注者双方を対象としたもの。同整備局発注工事で、作成や提出の不要な書類を判断のポイントとともに整理しました。たとえば、工事内容の変更が軽微な場合に、変更施工計画書の提出が不要であることを示すとともに、軽微な変更に該当するケースを例示しました。

発注者から受注者に対する、説明資料の過度な請求の例も紹介しました。工事に共通して適用される共通仕様書など、発注者がホームページで入手可能な書類は、要求するべきではないとしました。

ガイドでは、受注者に過度な負担を強いることがないよう、受発注者間で書類作成の役割分担を明確化することを促しています。具体的には、工事着手前に「提出・提示する書類の種類」と「紙と電子の別」について、事前協議を行うことを求めました。事前協議で定めた役割は、工期中に開く定例会議などで、都度確認することを推奨しています。

6年度保険料率 10%維持を決定 協会けんぽ

全国健康保険協会(協会けんぽ)は、来年度の全国平均保険料率について、10%の維持を決めました。決算では黒字が続いているものの、医療費の伸びが賃金の伸びを上回る赤字構造が解消されておらず、中長期的な財政運営の観点から、10%を維持する必要があると判断しています。

平均保険料率については、協会けんぽが平成30年度に「中長期的な観点で考える」とする方針を表明しました。以降方針に変更はなく、単年度収支で黒字が見込まれる場合であっても、料率を引き下げず、準備金残高を積み上げてきました。

維持を決定した運営委員会では、事業主代表から少子化対策支援金の動向を懸念する声が出ました。労使は追加の拠出を求められるため、これまでと同様「中長期的な視点だけで10%を維持するという一点だけではもたない」と強調しています。

最大500万円を補助 業務の「見える化」促進へ 富山県

富山県は、県内中小企業の業務効率化を後押しするため、今年2月から補助金事業を開始します。業務プロセスを「見える化」した場合、最大100万円を補助します。見える化と、生産性向上のための設備投資を一体的に行う場合は、設備投資に要した費用と併せて最大500万円を補助します。

補助対象は、機器の稼働状況や業務に要する時間など、業務プロセスを可視化する際にかかった経費。コンサルタントによる診断費用などを想定しています。補助率は4分の3で、上限は100万円としました。業務内容・人員配置の見直しや、デジタル化が可能な業務の整理を後押しします。

業務の可視化を行った上で、設備投資などの対策に取り組む場合、補助額を500万円まで引き上げます。工場への機器の導入や、業務の一元管理システムの導入経費などを対象とする予定です。対策にかかる経費の補助率は、中小企業2分の1、小規模企業3分の2。企業が取組み期間中に、給与支給額を3%以上引き上げた場合は補助率を引き上げ、中小企業は3分の2、小規模企業は4分の3とします。

送検

違法残業で病院送検 過労自殺の労災認定も 西宮労基署

兵庫・西宮労働基準監督署は、医師1人を36協定で定めた限度時間を超えて働かせたとして、公益財団法人と同法人の代表理事および労務管理担当者の計1法人2人を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで神戸地検に書類送検しました。同医師は同法人の運営する医療センターに勤務していましたが、令和4年5月に自殺しています。遺族の告訴を端緒に違反が発覚しました。

同法人は同年4月に、月113時間56分の時間外労働を行わせた疑い。36協定では限度時間を月95時間としていました。同医師の自殺に関して、以前に同労基署長は、最大月207時間50分の時間外労働を確認し、労災認定しています。

立件対象とした時間数と差異が生じている理由について同労基署は、起算日の違いのほか、「労災認定の際は、負荷となった時間数が問題となるため、刑事事件においてはグレーゾーンと判断され、カウントされない部分まで労働時間と認めることがある」と指摘しました。「司法処分に当たっては、確実に指揮命令下にあったといえる時間のみをカウントした」と説明し、「自己研鑽の時間を労働時間に含めるか否かで判断が分かれたわけではない」としました。

監督指導動向

安衛担当者向け出前講座 3次産業に活用促す 埼玉労働局

埼玉労働局は安全衛生活動に意欲がある企業や事業者団体に、職員を無料で派遣し、活動の進め方などを解説する「SAFE出前講座」の提供を開始しました。安衛担当者や事業者など10人以上の受講者を集めるケースが対象となります。製造業や建設業の大手企業が下請事業者を集めた大会などに出向くことはこれまでもありましたが、第3次産業にも広く活用してもらえるよう、申込み方法や対応できるテーマを明確化しました。

同労働局は一昨年、小売業や介護施設に自主的な安全衛生活動を定着させることを目的としたSAFE協議会を設立しています。化学物質の取扱い方法など、専門知識が必要な講座に関しては、同協議会の支援協力事業者に同行を求めます。

併せて、「SAFE個別相談」の受付も開始。事業者の相談に窓口とオンラインで対応し、内容に応じて適切な支援機関や支援策を紹介します。

調査

「両立可能」過去最高に がん対策に関する世論調査

内閣府は、がん対策に関する世論調査をまとめました。仕事と治療等の両立について、がんの治療や検査のために、2週間に1回程度の頻度で通院の必要がある場合、働き続けられる環境にあるかを尋ねたところ、「そう思う」もしくは「どちらかといえばそう思う」と回答した割合の合計は45.4%でした。平成25年1月調査(26.1%)以降、増加傾向にあり、今回最も高い値となりました。

問 がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、現在の日本の社会は、働き続けられる環境だと思うか

がん調査

「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」と回答した者に、理由を尋ねたところ、「代わりに仕事をする人がいない、または、いても頼みにくい」が22.3%でした。「職場が休むことを許してくれるか分からない」は15.7%、「休むと職場での評価が下がる」は4.4%となっています。

実務に役立つQ&A

カウントダウン可能か 更新の上限回数を明示

Q.パート・アルバイトの契約更新回数に上限を設けることを検討しています。1年契約で最長5年としたいとき、条件明示の際に残りの更新回数を4回、3回、2回とカウントダウンしていく方法は問題ないでしょうか。

A.令和6年4月の労働条件明示のルール変更で、有期労働契約の通算契約期間や更新回数の上限の明示(改正労基則5条1号の2)のほか、更新上限を新設・短縮する場合の説明が必要になります。通算契約期間とは、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間を指します(労働契約法18条1項)。

厚生労働省は、「更新回数は3回まで」「通算4年を上限」などとする例を示しています。Q&Aでは残りの契約更新回数を書く方法も、労使双方の認識が一致するような明示なら差し支えないとしています。ただし、なお書きで、当初から数えた更新回数または通算契約期間の上限を明示し、そのうえで、現在が何回目かの更新であるかを併せて示すことが考えられるとしています。単に回数だけの明示だと、もともと1年契約だったのが更新で半年になった場合など労使で認識に相違が生じることがあるため、上限期間も明示しておくべきでしょう。

身近な労働法の解説 ―求人の際に明示する労働条件等―

職安法では、労働者を募集したり、職業紹介事業者への求人の申込をしたりする際には、求職者や職業紹介事業者等に対して最低限明示しなければならない労働条件等があります。

 

1.労働条件等の明示が必要なタイミング

(1)ハローワーク等への求人申込み、自社HPでの募集、求人広告の掲載等を行う際

ただし求人票のスペースが足りない等、やむを得ない場合には「詳細は面談時にお伝えします」などと付した上で、労働条件の一部を別途のタイミングで明示することも可能です。この場合、原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。

(2)当初明示した労働条件に変更があった場合

面接の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、その変更内容を明示する必要があります。この明示は速やかに行います。

(3)労働契約締結時(労基法に基づく明示)

 

2.最低限明示しなければならない労働条件等(職安法5条の3、職安則4条の2)

業務内容、契約期間、試用期間、就業場所、就業時間、休憩時間、休日、時間外労働、賃金、加入保険、受動喫煙防止措置、募集者の氏名または名称、派遣労働者として雇用する場合はその旨。

上記に関して、具体的には以下のような内容の表示が必要です。

  • 「就業時間」の項目において、裁量労働制を採用している場合は、「○○型裁量労働制により○時間働いたものとみなされます」などの表示が必要です。
  • 「賃金」の項目において、いわゆる固定残業代を採用する場合は、①基本給、②○○手当(○時間分の時間外手当として○○円を支給)、③○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給、のような記載が必要です。
  • 試用期間中の労働条件が異なる場合は、試用期間中の労働条件についても明示が必要です。

 

3.令和6年(2024年)4月の改正点

求職者に対して明示しなければならない労働条件に、以下の事項が追加されました。

(1)従事すべき業務の変更の範囲

「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲のことをいいます。

例:(雇入れ直後)一般事務 (変更の範囲)○○事務

(2)就業場所の変更の範囲

「変更の範囲」とは、上記(1)と同じです。

例:(雇入れ直後)東京本社 (変更の範囲)○○支社

(3)有期労働契約を更新する場合の基準

例:

契約の更新 有(○○により判断する)

更新上限 有(通算契約期間の上限 ○年/更新回数の上限 ○回)

今月の実務チェックポイント

社会保険一括適用の申請手続き

今回は社会保険の一括適用について解説します。

本社や支社などがそれぞれ適用事業所として分かれていて、かつ本社などで人事・給与などが集中的に管理されているなどの場合に、複数事業所分を一つの事業所として申請できる仕組みです (船舶は除く) 。

本社、支店間で従業員の人事異動が行われる際に、それぞれの事業所が適用事業所として存在する場合には、それぞれの事業所において、被保険者の資格喪失・資格取得の手続きが発生します。

一括適用の申請をし、厚生労働大臣の承認を受けると、人事異動の際に発生する手続きが不要になり業務効率化につながります。

一括適用の承認を受けるためには、厚生年金保険および協会けんぽ管掌の健康保険について、次のすべての基準を満たす必要があります。

 

【一括適用の承認基準】

(1)一つの適用事業所にしようとする複数の事業所に使用されるすべての者の人事、労務および給与に関する事務が電子計算組織により集中的に管理されており、適用事業所の事業主が行うべき事務が所定の期間内に適正に行われること。

(2)一括適用の承認により指定を受けようとする事業所(例えば本社)において、上記(1)の管理が行われており、かつ、当該事業所が一括適用の承認申請を行う事業主の主たる事業所であること。

(3)承認申請にかかる適用事業所について健康保険の保険者が同一であること。

(4)協会けんぽ管掌の健康保険の適用となる場合は、健康保険の一括適用の承認申請も合わせて行うこと。

(5)一括適用の承認によって厚生年金保険事業及び健康保険事業の運営が著しく阻害されないこと。

 

〇承認申請に必要な書類

一括適用の承認申請には、申請書のほか、一つの適用事業所とみなされる事業所について次の内容を説明した文書の提出が必要です。

(1)人事、労務および給与に関する事務の範囲およびその方法

(2)各種届書の作成過程および被保険者への作成過程または届出の処理過程

(3)被保険者の資格取得・喪失の確認、標準報酬の決定等の内容を被保険者へ通知する方法および健康保険被保険者証(協会けんぽ管掌の健康保険の場合)を被保険者へ交付する方法

一括適用の承認申請は、一括適用事業所とみなされる一つの適用事業所(例えば、本社)の所在地を管轄する年金事務所へ行います。

添付書類は原則として不要です。

 

〇承認日

一括適用の承認日: 月の末日(算定基礎届の事務処理期間である5月から8月を除く)

承認日より一つの適用事業所とみなされ、承認日が属する月の厚生年金保険等の保険料から、みなされた一つの適用事業所にて支払いが発生します。

承認については、申請から約3カ月を要します。

 

※詳しくは日本年金機構HPをご覧下さい。

助成金情報

 

特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

バブル経済崩壊後の雇用環境が厳しい時期、平成5年(1993年)~平成16年(2004年)ころに就職活動を行っていた方々を就職氷河期世代といいます。

いわゆる就職氷河期に就職の機会を逃したこと等により十分なキャリア形成ができていなかったために、正規雇用労働者としての就業が困難な人の、安定雇用を支援するための助成金です。これらの人を、ハローワークや民間の職業紹介事業者など(以下「ハローワークなど」)の紹介により正規雇用労働者として雇い入れた事業主に対して支給します。

 

【対象となる労働者】

雇入れの日において1から5のいずれにも当てはまる方を、「ハローワークなど」の紹介で正規雇用労働者として新たに雇用する事業主に助成金を支給します。

1 1968年(昭和43年)4月2日から1988年(昭和63年)4月1日の間に生まれた方

2 雇入れ日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間が、通算して1年以下である方

3 雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者等として雇用されたことがない方

4 ハローワークなどの紹介の時点で「失業している方」または「非正規雇用労働者など安定した職業についていない方」でかつ、ハローワークなどにおいて、個別支援等の就労の支援を受けている方

5 正規雇用労働者として雇用されることを希望している方

 

【対象となる事業主の要件】

1 雇用保険の適用事業主である

2 対象労働者を、ハローワークなどの紹介によって、正規雇用労働者として、かつ雇用保険の一般被保険者(週所定労働時間20時間以上30時間未満の短時間労働者を除く)として雇用することが確実と認められる。

3 対象労働者の雇入れ日の前後6月間(以下「基準期間」という)に、事業主の都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと

4 対象労働者の雇入れ日よりも前に特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)の支給決定がなされた者を、支給申請日の前日から過去3年以内に、その助成対象期間中に事業主の都合により解雇等をしていないこと

5 基準期間に、倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由で離職した被保険者数が、対象労働者の雇入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと(特定受給資格者となる離職者が3人以下の場合を除く)

6 対象労働者の出勤状況や賃金の支払い状況などを明らかにする書類を整備・保管していること(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿など)

【助成額】

支給対象期間 支給額第1期 支給額第2期 支給総額
大企業 1年 25万円 25万円 50万円
中小企業 1年 30万円 30万円 60万円

 

【支給申請】

雇入れに係る日(原則は雇入れ日直後の賃金締切日の翌日)から起算した1年間を6カ月ごとに区分し、各期が経過するごとに申請します。

支給申請の流れ

※制度の詳細は厚生労働省HP「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」のご案内等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

スケジュール202402

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