最新・行政の動き
「106万円の壁」撤廃 最賃引上げが背景に
社保審年金部会報告書
厚生労働省は、厚生労働省の社会保障審議会年金部会は、年金制度改革の方向性に関する報告書をまとめました。短時間労働者に関する厚生年金の加入要件から「年収106万円の壁」となっている賃金要件の撤廃を盛り込んでいます。
地域別最低賃金の引上げによって、労働時間要件である週20時間以上働いた場合に月額賃金8.8万円以上の賃金要件を上回る地域が増加している点や、就業調整を行うかどうかを判断する基準として労働者から強く意識されている点を踏まえました。
賃金要件の撤廃時期については、保険料負担が相対的に過大にならないよう地域における最賃の引上げ動向を踏まえて決定すべきとしました。さらに、障害者など最賃の減額特例対象者のうち、月額賃金8.8万円以下の短時間労働者については、本人が希望する場合に任意で加入できる仕組みとします。賃金要件の撤廃後は、50人以下の中小企業への適用拡大を進めます。その際は、十分な周知・準備期間を確保するとしました。
年金部会では、労働者の負担感を軽減できるよう、標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者が厚生年金に加入する場合に、労使の保険料負担割合を変更できる特例措置の創設についても検討しましたが、慎重・反対意見がみられたため報告書には盛り込みませんでした。今後、政府において同特例の妥当性などの検討を深める必要があるとしました。
ニュース
0.1%引下げを了承 7年度雇用保険料率で 労政審部会
厚生労働省は、労使が負担する令和7年度の雇用保険料率を引き下げる方針です。6年度の保険料率である1.55%から、0.1%引き下げて1.45%とする案を労働政策審議会雇用保険部会に示し、了承されました。そのうち、使用者の料率は0.9%、労働者の料率は0.55%となります。
現行の雇用保険料率の内訳は、失業等給付充当分0.8%(労使折半)、育児休業給付充当分0.4%(同)、雇用保険二事業充当分0.35%(使用者のみ)となっています。
雇用保険部会では昨年11月以降、財政状況を踏まえて弾力的に保険料率を設定できる失業等給付充当分および育休給付充当分の7年度保険料率について検討してきました。
同年12月23日の部会で厚労省は、失業等給付充当分について、5年度決算を踏まえた直近の財政状況が引下げの基準を満たしたとして、0.1%引き下げ、0.7%とする案を提示。育休給付充当分についても、0.4%を据え置くとしました。
パートタイム・有期雇用 同一賃金推進へ自主点検
東京働き方改革推進支援センター
東京働き方改革推進支援センターは、都内中小企業に対し、パートタイム・有期雇用労働者の同一労働同一賃金推進に向けた働き掛けを強めます。センターの取組み周知のために連携している東京建設業協会や東京都トラック協会など、業界団体の会員企業を対象とし、まずは電話などでパートの有無などの状況を聞き取り、その後自主点検表を配布して具体的な実情を確認します。
点検表では、「パートタイム・有期雇用労働者と正社員との間に待遇差を設けるときは、職務の内容、異動や転勤等の条件の違いについて考慮している」、「正社員と職務の内容、異動や転勤等の条件が同じ場合、待遇差はない」など6問を尋ねます。自主点検の結果を踏まえ、専門家による相談や、訪問コンサルティングにつなげます。たとえば同一の職務内容であるにもかかわらず、パートタイム労働者には現場でのOJTしか行っていなかった場合、正社員と同様の教育訓練を実施するなどと助言します。
同センター長は「労働者を公平に処遇していればイメージアップにつながり、定着率向上や採用のアピールポイントになる」と話しています。
社内副業で成長促す 就業時間の20%目安に 三菱電機
三菱電機㈱は今年9月末までに、社員が自発的に担当業務以外の業務を経験し、幅広い知識やスキルを身に着けられるようにするため、社内副業制度を導入します。既存の兼務制度の仕組みを利用し、副業先での働きぶりは人事評価のなかで加点していきます。
社内副業に従事する時間は、所定就業時間の20%程度を目安としました。副業案件は各部門が社内イントラネットに掲示し、社員が自らの意思で応募できるようにします。募集元部門による面接を経て、マッチングが成立すれば副業開始とします。昨年10月にトライアル運用を開始した時点では、約200件の募集があり、11月末までに約20件が成立しています。
昨年12月から、他社と雇用契約を締結しないことを条件に、就業時間外の社外副業も解禁しました。原則として事前の届出を必須とし、業務に支障がないことや、競業しないことを条件としています。
「67歳定年」選択可に 技術者確保へ2年延長 大和ハウス
大和ハウス工業㈱は、豊富な経験を持つ1級建築士や1級施工管理技士を確保するため、定年年齢を65歳とするか67歳とするか選択できる制度を導入しました。すでに2022年から60歳での役職定年や収入抑制措置を廃止しているため、最長で67歳まで、報酬を維持して働くことが可能となります。
同社は23年に、65歳定年後も原則70歳まで嘱託社員として週4~5日勤務できる再雇用制度を導入しました。とくに建築士などの技術者に関しては、年齢制限を撤廃し、生涯を通じての活躍を促しています。一方、再雇用を機に報酬が半減、またはそれ以下になることから、モチベーション低下や他社への人材流出などの課題がありました。
新制度の対象は、技術系職種の大半が所属する「全国社員(転勤あり)」のコースに限定しています。現在すでに再雇用となっている社員も、来年度以降67歳を迎える者については「67歳定年」を選択して正社員に戻ることを一部認めます。よりモチベーションの高い社員に活躍してほしいとの考えから、現在週5日で勤務している者に限定しました。
監督指導動向
時系列に基本解説 小企業向け労基法手引で 花巻労基署
岩手・花巻労働基準監督署は、昨年4~9月に実施した監督指導で、労務管理の基本知識が不十分な小規模事業場がめだったことから、改善に向けて「労務管理の基本の“き”ハンドブック」を作成しました。「採用したとき」「労働時間・休日」など10項目別に整理し、人事担当者が実務の時系列に沿って確認できるようにしました。たとえば採用時の項目では、①労働条件通知書の明示、②労働者名簿の作成などについて解説しています。
とくに小規模事業場では、労基署への届出について、紙媒体での届出を希望する事業場も多いため、ハンドブックにはコピーして使える様式集も盛り込みました。
監督指導では、自社の従業員が10人以上かどうかを正確に判断できていない事業場も多かったことから、「労働者が10人以上になったとき」の項目を設けました。基本的にはアルバイトも含まれるなど、従業員数の考え方を示しています。10人以上になったときに必要となる就業規則の作成・届出や、安全衛生推進者の選任なども説明しました。
ハンドブックは、監督指導や集団指導の際に配布します。同労基署の担当者は「1冊あれば実務に役立つため、活用を促したい」と話しています。
労災警戒発令し指導強化 緊急要請後も5人死亡で 静岡労働局
静岡労働局は、管内において昨年12月10~20日の11日間で5件の死亡労働災害が発生したことから、事業場へ対策の徹底を呼び掛ける「労災死亡事故多発警戒」を発令しました。リスクアセスメントの実施などを促すとともに、労働基準監督署による指導を強化します。
管内では同警戒発令前の11月上旬~12月上旬の1カ月間に労災で5人が死亡したため、12月11日には事業者団体など計71団体を通じ、管内企業へ安全衛生管理の徹底を求める緊急要請を発出していました。要請時に配布した点検表には、安全教育が行われているかなど、全10項目を設けています。
死亡災害事例をみると、製造業における機械へのはさまれや接客娯楽業における脚立からの転落など、業種や事故の型が多岐にわたります。同労働局は「危険予知などの基本的な対策が足りていない」とみています。「緊急要請を行ったが、その後、さらに死亡災害が急増した。今後事業場へ監督に入る際には安全対策の実施状況を確認し、対応を求める」と話しました。
調査
中堅・中小企業 女性管理職割合に地域差 日本商工会議所調査
日本商工会議所は「地域経済を牽引する中堅・中小企業における投資動向調査結果」を明らかにしました。回答企業674社のうち製造業が6割を占めています。
女性活躍の状況について、全従業員に対する女性の割合が30%以上の企業は、34.3%でした。東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)では36.1%、東京圏以外では34.1%となり、地域間での大きな差は生じていません。
全管理職に対する女性の割合が10%以上の企業は、18.3%でした。東京圏では27.9%と約3割に上りますが、東京圏以外では17.4%に留まっています。日商は、「女性が多様な仕事・キャリアを求めて東京圏に流出している」と分析しています。
地域別女性管理職割合
女性活躍・定着について、「必要性を感じており、取り組んでいる」と回答した企業の割合は47.8%でした。「必要性を感じているが、十分に取り組めていない」も44.8%と、4割強に上っています。
実務に役立つQ&A
待期期間どう計算 副業先へ移動中にケガ
本業で働いている会社から当社へ出勤してくる途中にケガをした従業員がいます。このような場合でも、労災保険給付の対象になると思いますが、待期期間はどのように考えれば良いのでしょうか。
副業先の労務の提供に不可欠な移動中に発生した通勤災害という扱いになります(副業・兼業ガイドライン)。事業場の間を移動する際に起こった災害は、「終点の事業場」の保険関係で処理します(平18・3・31基発0331042号)。
休業の初日から3日目までは休業給付の支給はありません(労災法22条の2第2項で法14条を準用)。4日目以降は、副業と本業の給付基礎日額に相当する額を合算して、休業給付などの保険給付額を算定します(法8条3項)。
通勤による傷病が、所定労働時間終了前(出勤時、早退時等)に発生した場合は、その日は休業したことになりますが、所定労働時間終了後(退勤時)に発生した場合には、その日は休業したことにはならないと解されています(労災保険給付事務取扱手引)。副業先からみれば、所定労働時間の終了前です。
身近な労働法の解説 ―損害賠償額を予定する契約の禁止―
労基法16条では、違約金制度や損害賠償額予定の制度を禁止しています。今回は、損害賠償額を予定する契約の禁止について解説します。
1.損害賠償額を予定する契約の禁止とは
民法420条の賠償額の予定は、あらかじめ当事者間で一定の賠償額を定め、損害の発生とその額を立証することなく定めた賠償額を請求できるもので、債権者の損害額の立証負担軽減や債務者の高額負担リスクの防止のために設けられています。この契約の下では、債権者は債務不履行の事実を証明すれば損害の発生とその額を証明しなくても予定額を請求することができ、債務者は実際の損害額を証明しても減額できないと考えられています。
労働契約の締結に当たり、賠償額を予定する契約をすると、債務不履行による実損害額にかかわらず、予定された損害賠償額を支払う義務を労働者が負うことになります。こうした労働契約は、労働者に異常に高い賠償予定額が定められ、労働者の足止め策に利用される等の弊害があることから、労基法16条では、民法を修正して禁止しています。
賠償の金額をあらかじめ約定せず、現実に生じた損害について賠償請求することは、本条の禁止に当たりません。
2.損害賠償額を予定する契約
判例では、研修費用や留学費用を会社が負担または立替をして、一定期間勤務した場合には、その費用償還を免除する旨の合意がされたものが本条に抵触するか争われた事案があります。
研修費用に関しては、①会社所属の技能教習所を修業した者に対し修業期間の2倍に相当する期間の勤務義務を課し、この義務の違反者に一定額の弁償義務を課す契約(昭23・7・15基収2408号)、②美容師見習いでわがままに退職した場合には技術訓練の必要経費として入社時に遡り1カ月につき4万円の講習手数料を支払う誓約書などがあり、こうした契約は労働者の自由意思を拘束して退職の自由を奪うことになることから、本条に違反すると認めた判例があります。
留学費用に関しては、企業の留学規程に基づき留学すれば留学費用を企業が負担し、留学終了後5年以内に自己都合退職等した場合には留学費用を全額返還させるという制度について、業務命令として留学派遣を命じていることから留学規程が本条に違反するとした判例があります。
研修等が使用者の命令によるものであるか、援助金等が事業の必要経費ではなく立替金であるか、労働契約とは別の消費貸借であるか、返済方法を定めているか等の点から、契約が労働関係の継続を不当に強要するものかどうか、事案ごとに総合的に判断されます。
本条が禁止する損害賠償額の予定は、労働契約の不履行に伴う損害賠償に限定されないと考えられています。
3.本条違反
前回の違約金制度の禁止と同じく、本条違反に対しては、使用者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条1項)。
助成金情報
トライアル雇用助成金「障害者トライアルコース」
「障害者トライアル雇用」は、障害者を原則3カ月間試行雇用することで、適性や能力を見極め、継続雇用のきっかけとすることを目的とした制度です。労働者の適性を確認した上で継続雇用へ移行することができ、障害者雇用への不安を解消することができます。
【助成金の支給額】
・対象者1人当たり、月額最大4万円(最長3カ月間)
障害者トライアル雇用求人を事前にハローワーク等に提出し、これらの紹介によって、対象者を原則3カ月の有期雇用で雇い入れ、一定の要件を満たした場合、助成金を受けることができます。
4万円×3カ月=12万円(最大)
・精神障害者を雇用する場合、月額最大8万円
(最大8万円×3カ月、その後4万円×3カ月・合計最大36万円)
精神障害者を雇用する場合は、月額最大8万円の助成金を受けることができます。また、精神障害者は原則6~12カ月トライアル雇用期間を設けることができます。ただし、助成金の支給対象期間は6カ月間に限ります。
【対象者】
「障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号」に定める障害者(注)に該当する方が対象で、障害の原因や障害の種類は問いません。
(注)身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。
次のいずれかの要件を満たし、障害者トライアル雇用を希望した方が対象となります。
- 紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が6カ月を超えている
※重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者の方は上記①~③の要件を満たさなくても対象となります。
「障害者トライアル雇用」の流れ
1 実施計画書:障害者トライアル雇用開始日から2週間以内に、対象者を紹介したハローワークに実施計画書を提出する。実施計画書を提出する際は、雇用契約書など労働条件が確認できる書類を添付する。
2 支給申請書:助成金を受給するためには、障害者トライアル雇用終了日の翌日から2カ月以内に、事業所を管轄するハローワークまたは労働局に支給申請書を提出する必要があります。
「障害者トライアル雇用」の仕組み(ハローワークからの紹介の場合)
1企業からの求人申し込み(障害者トライアル雇用求人)
2ハローワークへの求職登録・職業相談
3ハローワークによる職業紹介
4企業による選考面接
5障害者トライアル雇用開始
6実施計画書の作成(求職者と企業側で継続雇用移行要件の確認を行う)
7企業からハローワークに対し実施計画書を提出
8障害者トライアル雇用終了(継続雇用移行判断)
9継続雇用移行または雇用期間満了
※ 制度の詳細は厚生労働省HP・事業主のための雇用緩解助成金の「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」をご参照ください。
今月の実務チェックポイント
―2025年1月から離職票のマイナポータルでの受取―
2025年1月20日から、希望される方はマイナポータルを通じて、離職票等の受取りが可能になっています。
これまで離職票がお手元に届くには、事業主を経由していましたが、資格喪失手続きが完了するとハローワークから、ご本人のマイナポータルに直接送付されます。
【マイナポータルで受け取るための手順】
STEP1は離職の2週間程度前までにSTEP2は離職する前までに手続きが必要です。
<STEP1>
マイナンバーがハローワークに登録されているかを確認
<STEP2>
マイナポータルから「雇用保険WEBサービス」と連携する
<STEP3>
離職後、事業所による電子申請の後、ハローワークからマイナポータルに「離職票」等が送信されます。
マイナポータルアプリを起動し、「お知らせ」画面から確認できます。
離職票等の書類はPDFファイルで送信されます。
<注意>
・STEP1で事業所名と被保険者番号が表示されない方は、マイナンバーがハローワークに登録されていませんので、事業所を通じて「個人番号登録・変更届」をハローワークに提出しマイナンバーを登録することが必要です。
・事業所が電子申請ではなく紙様式でハローワークに届け出た場合は、マイナポータル経由ではなく、従来どおり事業所から送付されます。
・離職票交付までの間に雇用保険WEBサービスとの連携を解除したり、お知らせ容量が上限値を超えていたりする場合は、マイナポータルに送付できません。
今月の業務スケジュール
労務・経理 | 慣例・ 行事 |
1月分の社会保険料の納付
1月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付 前年分所得税の確定申告 (2月17日から3月17日まで) 固定資産税(都市計画税)(第4期分)の納付 贈与税の申告・納付(2月3日から3月17日まで) |
社内規定の見直し
新年度の経費削減策の検討 新入社員受入計画作成・入社前研修 |