月刊人事労務だより~2023年3月号~

最新・行政の動き

厚生労働省は、育児・介護休業法の見直しに向け、「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」を設置し、第1回会合を開きました。平成28年および29年の同法改正の施行後5年が経過したため、改正法の附則に基づき施行状況を確認し、今後の両立支援制度のあり方を検討します。

1月26日に開催した初回会合では、研究会における検討事項として①介護との両立を実現するための制度、②育児との両立を実現するための制度、③次世代育成支援対策の3点を提示。介護関連については、介護休業のほか、短時間勤務など選択的措置義務、テレワークの活用、介護休暇のあり方といった介護期の働き方が論点になります。介護に関する支援制度の周知も課題としました。

育児関連では、育児休業に加え、子の看護休暇や、子育て期の長時間労働の是正、柔軟な働き方について検討を進めます。たとえば、所定外労働の免除のあり方や、短時間勤務・テレワークを組み合わせた働き方の実現などが課題に挙がっています。

今後、企業からのヒアリングなどを通じて現状を把握したうえで、5月頃をめどに検討結果を取りまとめる考え。その後、法令改正も視野に、労働政策審議会で議論が行われる見込みです。

ニュース

高速道路深夜割を見直し

国土交通省は、令和6年度を目途に高速道路の深夜割引制度を見直し、割引が適用される時間帯を現行の深夜0~4時から22時~翌日5時に拡大します。労基法上の「深夜時間」に合わせることで、労務管理や運行計画のしやすさにつながることも見込んでいます。

割引の対象は、適用時間帯に走行した距離のみ3割引とする形式に変更します。現在は適用時間内に高速道路を走っている時間帯があれば、どの時間に入場、または退場してもすべて割引の対象としていました。0時以降に高速道路を降りることを目的に、サービスエリアや料金所の前で待機することで労働時間が伸びるなど、運転者の労働環境にも影響が及んでいます。

深夜割引については、全日本トラック協会が要望を行っており、令和5年度の施策に関する要望書では、荷主から高速道路料金を満額負担してもらえるケースが少ない点を訴え、適用時間帯の拡大を求めていました。

営業費用控除

生命保険会社で営業職員として働く労働者が、賃金から営業販促物代などが控除されるのを不服とした裁判で、京都地方裁判所は請求を一部認め、同社に35万円の支払いを命じました。

同社は、労働者を含む全従業員が加入する労働組合との賃金控除に関する協定に基づき、営業で使う携帯端末や資料などの代金を控除していました。

労働者は平成30年12月25日、コンプライアンス推進室長に「個人負担とされる運営費について」と題する通知書を提出し、営業活動費の控除にかかる質問をしました。同社は31年1月4日、何のために必要な質問であるかが不明などと回答しています。

同社には令和2年2月まで、就業規則に控除に関する規定がありませんでした。令和元年12月に京都下労働基準監督署から、是正勧告を受け、同労組の了承を得たうえで、営業活動費用の取扱いに関する規定を新設しました。

同地裁は労働者が明示的に異議を申し立てる前については、自己負担になることを理解のうえ利用していたとして、控除に関する個別合意の成立を認定。異議申立て後は個別合意がなかったとして、労働基準法が定める賃金全額払い原則違反に当たるとしました。

トラブル増受け窓口

厚生労働省は、人手不足が顕著な医療・介護・保育分野で、職業紹介時の手数料の取扱いなどを巡って求人施設と人材紹介事業者間でトラブルが発生しているとして、全国の都道府県労働局に求人施設向けの特別相談窓口を開設しました。窓口に集まった情報から手数料の明示義務違反などの実態を確認し、紹介事業の適正化に向けて対処します。

職安法令・指針では、職業紹介事業者に対し、求人者への手数料の明示を義務付けています。さらに、紹介による就職日から2年以内に転職を勧奨することや、「お祝い金」などの名目で求職者に金銭を提供することを禁止しています。設置した窓口で、法令違反に関する情報を収集していきます。

医療・介護・保育分野の職業紹介業については、一定の基準を満たした適正な事業者を認定する制度を運用しています。特設サイト上で認定事業者を公表しているため、厚労省では、紹介事業者を選ぶ際の参考にするよう呼び掛けています。

副業者をマッチング

宮城県は3月から、本業を持ちながら他社から仕事を請け負う副業・兼業人材と県内企業を対象としたマッチングサイトを開設します。企業に対し、求人情報の作成から募集、業務契約の締結までをサポートします。

副業・兼業人材の活用に関心があるが、求人の出し方が分からない企業については、企業の課題をヒアリングし、求人情報の作成をフォローします。求人情報は県が独自に開設するマッチングサイトに掲載し、人材を募集。面談方法の相談や、企業に所定の契約書がない場合は契約書のフォーマットを用意するなど、求人から契約に至るまで一貫して支援します。

副業・兼業人材は、ウェブ広告などを活用して全国から募集し、フルリモートでの就業も可能とします。

同県の担当者は、「副業・兼業人材は期間を限定して契約できるため、経営環境に合わせた柔軟な活用ができる。」と話しています。

送検

長野・小諸労働基準監督署は、定期監督を行った監督官に対して虚偽の陳述を行ったなどとして、食品等卸売業者と同社の代表取締役を、労働基準法第101条(労働基準監督官の権限)違反などの疑いで長野地検佐久支部に書類送検しました。

送検容疑は、労働者を休業させていなかったにもかかわらず、休業させたと虚偽の陳述をし、虚偽の労働時間の記録を提出した疑い。賃金台帳を調製する際に、労働時間を記載していなかったとして、同法第108条(賃金台帳)違反の疑いでも立件しています。

同労基署が書類送検した1月18日には、長野労働局が、同社による雇用調整助成金の不正受給を公表しました。令和2年4月16日~4年4月15日について、出勤していた従業員を休業させていたように偽った申請書類を作成し、不正に約3400万円を受給しています。支給決定の取消しは昨年11月10日。

同労働局は、雇調金を不正受給した会社を昨年以降3件公表しました。すべての会社が、休業したと偽っていました。

監督指導動向

東京労働局が年末・年始Safe推進強調期間中に実施した建設現場に対する指導結果によると、労働安全衛生法の違反率は60.8%でした。指導に入った574現場のうち、墜落・転落防止に関する違反が認められた割合は35.2%(202現場)に上っています。同労働局は、墜落制止用器具の未装着など墜落・転落防止に関する違反が低下しないことから、今後の現場指導では作業員への安全衛生教育について重点的に指導していくとしました。

同期間中の指導では、現場の担当者から安全衛生教育で課題となっている点を聴取しています。最も回答が多かったのは「マンネリ化」で、31.9%でした。次いで「現場内の安全ルールの周知」26.9%、「外国人労働者への対応」26.4%、「近道行動や不安全行動禁止」24.6%となっています。

昨年、都内で発生した建設業における死亡災害25件のうち、14件は墜落・転落によるものでした。墜落制止用器具を装着していなかった事案もあり、同労働局では安全衛生教育の不足が災害につながっていると懸念。現場指導で教育の実施状況の確認に努めるほか、教育に関する好事例を収集し、講習会で周知することを検討しています。

調査

厚生労働省は高年齢者の雇用確保措置などについて、労働者21人以上の企業、23万5875社からの報告に基づき、令和4年6月時点での実施状況をまとめました。

令和3年4月から努力義務とされた70歳までの就業確保措置は、全体の27.9%に当たる6万5782社が実施済みとしました。前年比2.3ポイント増加しています。労働者301人以上の大企業では20.4%(同2.6ポイント増)、中小企業では28.5%(同2.3ポイント増)でした。

措置の内容ごとの実施率は高い順に、「継続雇用制度の導入」が21.8%(同2.1ポイント増)、「定年制の廃止」が3.9%(同0.1ポイント減)、「定年の引上げ」が2.1%(同0.2ポイント増)、「創業支援措置の導入」が0.1%(変動なし)。

70歳以上まで働くことができる企業は、同2.5ポイント増加し、39.1%となりました。

実務に役立つQ&A

<Q>子が2人いる従業員がおり、下の子がよく熱を出すようで、たびたび子の看護休暇を取得しています。子が1人なら5日、2人なら10日まで取得できるとされるところ、今年度は下の子だけで取得日数がすでに5日に至っています。法的には、同じ子について6日目以降も取ることは可能なのでしょうか。

<A>子の看護休暇は、小学校就学前の子を養育する労働者が、事業主に申し出ることにより取得できます(育介法16条の2)。日数は、1年度において5日が基本ですが、小学校就学前の子を2人以上養育しているときは10日となります。1日または時間単位で取得可能です。1年度は、事業主がとくに定めをしていなければ、毎年4月1日~翌年3月31日になります。

ご質問のように対象となる子が2人いて10日取得できるときは、どちらか1人の子の看護のために10日間使用することが可能です(平22・2・26「厚労省Q&A」)。取得可能日数に関しては、労働者1人につき5日(子2人以上で10日)であり、子1人につき5日というわけではないとされています(「育児・介護休業法のあらまし」)。

身近な労働法の解説

令和5(2023)年4月1日の労基則改正により、資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)ができることになります。

1.改正の内容

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られる状況を踏まえ、これまでの「現金払い」「預貯金口座への振込」「証券総合口座への払込み」のほか、賃金の支払方法に係る新たな選択肢を追加するものです。なお、賃金のデジタル払いは、労働者および使用者が希望する場合に限られます。

改正により、○○ペイ、○○払いなどと呼ばれる決済サービスを提供している事業者(資金移動業者)の口座への払込みにより賃金を支払うことも可能になります。

2.労基法24条「通貨払いの原則」

労基法24条の「通貨払いの原則」に関する従前の以下の取扱いに変更はありません。

・通貨(日本で強制通用力を持つ貨幣および日本銀行が発行する銀行券)で支払います。

・「現金払い」が原則です。「預貯金口座への振込」や「証券総合口座への払込み」は、労働者の個々の同意を得た場合に認められます(労基則7条の2第1項)。また、労働者過半数代表者との労使協定が必要です(令4・11・28基発1128第4号)。

賃金のデジタル払いにおいても、現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払は認められません。また、労使協定締結のうえ、書面等による労働者の個々の同意が必要です。

3.賃金のデジタル払いの実施に当たって

賃金の確実な支払いを担保するために、厚労大臣の指定を受けた資金移動業者の口座に限定しています。指定を受けた資金移動業者に関する情報は、厚労省が「指定資金移動業者一覧」を公表する予定です。令和5年4月1日以降に資金移動業者が厚労大臣に指定申請を行い、審査を経て、基準を満たしている事業者が指定されます。この審査には数カ月かかることが見込まれています。

賃金のデジタル払いの実施に当たっては、使用者には次の内容を求めています。

・労働者に対して、資金移動業者の口座のほか、代替口座として預貯金口座または証券総合口座を指定してもらいます。代替口座は、上限金額を超える場合の受取りや破綻時に利用されます。

・労働者に対して、指定資金移動業者口座に関する必要な事項を説明します(使用者が委託した指定資金移動業者が代わりに行うこともできます)。労働者の個々の同意は、この説明を行った上で得なければなりません。なお、同意書の様式例(基発1128第4号別紙)裏面には、説明文「資金移動業者口座への賃金支払に関する留意事項」が用意されています。

・賃金のデジタル払いを労働者に強制してはなりません(現金か指定資金移動業者の口座かの2択とすることも認められません)。

使用者からの送金スキームなどは、今後整備が進むものと思われます。

今月の実務チェックポイント

今回は、私傷病によって入院や手術が必要となり、医療費が高額になりそうなときに利用できる「限度額適用認定証」について説明します。

○「限度額適用認定証」とは

私傷病によって医療費が高額となりそうな場合に、事前に入手した「限度額適用認定証」と健康保険証(70歳以上75歳未満の方は高齢受給者証も必要)を併せて医療機関の窓口に提示することで、窓口で支払うひと月の医療費を一定の金額までに抑えることができます。この一定の金額を「自己負担限度額」といい、高額な医療費の負担を「自己負担限度額」までに抑える効果が得られる大変便利なものが「限度額適用認定証」です。似ている制度として高額療養費制度がありますが、こちらは一時的に高額な医療費を窓口で支払い、あとから「自己負担限度額」を超えた額が払い戻される制度ですので、被保険者にとって一時的とはいえ大きな負担となることは否めません。そのため、「限度額適用認定証」を利用したほうが有利であるということがいえます。

○自己負担限度額とは

自己負担限度額とは、1カ月の医療費が高額となる場合に自己で負担する医療費の上限(限度額)であり、70歳未満か70歳以上75歳未満かという年齢区分と標準報酬月額による所得区分によって段階的に定められています(詳しくは、全国健康保険協会(協会けんぽ)等のホームページでご確認下さい)。

○申請手続について

全国健康保険協会(協会けんぽ)を例にとると、健康保険証に記載されている協会けんぽの支部に、「健康保険限度額適用認定申請書」(被保険者の住民税が非課税等のため所得区分が低所得に該当する場合は「限度額適用・標準負担額減額認定申請書」)を作成して送付します。申請書については、協会けんぽのホームページからダウンロードして印刷することが可能です。「限度額適用認定証」は、申請書の送付からおおよそ1週間程度で申請書に記載した住所に郵送されることとなります。入院等が見込まれる場合には、早めに申請を行いましょう。協会けんぽの支部の窓口で申請した場合も後日郵送でのお届けとなりますのでご注意下さい。健康保険組合の被保険者の方は、健康保険証に記載されている健康保険組合のホームページ等で詳細をご確認下さい。

○注意点

同月内に入院や外来など複数受診がある場合は、高額療養費の申請が必要となることがありますし、差額ベッド代などの保険外負担分や、入院時の食事負担額等は対象外となりますのでご注意下さい。

助成金情報

障害者作業施設設置等助成金

雇い入れるまたは継続して雇用する障害者の障害特性による就労上の課題を克服する作業施設等の設置・整備を行う事業主に対してその費用の一部を助成するものであり、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的としています。

【助成金の種類】

・第1種作業施設設置等助成金

作業施設等の設置・整備を建築等や購入により行う場合の助成金

・第2種作業施設設置等助成金

作業施設等の設置・整備を賃借により行う場合の助成金

【対象障害者】 

1.身体障害者 2.知的障害者 3.精神障害者

【対象となる事業主】 

 障害者を労働者として雇い入れるか継続して雇用する事業所の事業主であって、その障害者が障害を克服し作業を容易に行うことができるように配慮された施設、または改造等がなされた設備の設置・整備を行う事業所の事業主です。

ただし、施設等の設置・整備を行わなければ、支給対象障害者の雇入れ、または雇用の継続が困難と認められる事業所の事業主に限られます。

【支給対象となる作業施設等】

支給対象となる作業施設等は「作業施設」「附帯施設」「作業設備」の3種類に区分され、例えば、車いす用トイレや手すりの設置、視覚障害者用拡大読書機器等を指します。

・作業施設

障害特性による課題を克服し作業を容易にするために配慮された施設(障害者が作業を行う場所)

・附帯施設

障害特性による課題を克服し就労することを容易にするために配慮された施設(例えば、玄関、廊下、階段、トイレ等)

・作業設備

障害特性による課題を克服し作業を容易にすることを目的として製造された設備(視覚障害者用拡大読書器等)

【支給額等】 

支給額=支給対象費用×助成率2/3

対象労働者の雇用形態や人数等に応じて定めている限度額があります。 

【認定事例】

精神障害

・仕切りパネルの設置の措置

精神障害があり、対面に座る人の視線や動きが気になり作業に集中できない対象障害者のために、対象障害者のデスク周りに仕切りパネルを設置すること

身体障害(内部)

・オストメイト対応トイレへの改修

直腸機能障害によりストーマ(人工肛門)を装着する対象障害者のために、既存トイレにストーマ装具の洗浄を行うオストメイト用流しを設置すること

身体障害(視覚)

・点字ブロックの敷設

視覚障害のある対象労働者のために、事業所敷地内の動線上に点字ブロックを敷設すること

*制度の詳細は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

PAGE TOP