月刊人事労務だより~2023年5月号~

最新・行政の動き

厚生労働省は、雇用調整助成金のコロナ特例を不正受給した企業などの公表基準を明らかにしました。

基準では、不正受給に伴う支給取消額と、不正を理由に不支給となった支給申請額の合計額が100万円未満の企業は、公表対象外としました。ただし、不正の態様・手段、組織性などから、管轄労働局長がとくに重大・悪質と判断した際は公表します。

合計100万円以上の企業は原則として公表しますが、労働局の調査前に自主申告を行い、返還命令後1カ月以内に全額納付すれば、とくに重大・悪質なケースを除き、公表しないとしました。

雇調金と緊急雇用安定助成金の不正受給は、昨年12月末までの累計で1221件、約188億円に上り、うち約129億円が返還されました。休業実態がないにもかかわらず休業したように装うケースや、休業手当を支払った事実がないのに支払ったとするケースなどがありました。

このため、厚労省は新たな公表基準を公開し、自主的な申告・返還の申出をしやすい環境を整えることとしました。不正受給や不適切な受給の是正に向けて、雇調金を受給した企業へ自主点検を呼び掛けていく考えです。

ニュース

メリット制の対象へ

厚生労働省は、新型コロナに関する企業向けのQ&Aを改定しました。感染症法上の位置付けが「5類」に移行した後の取扱いについて示しています。

メリット制は、個々の事業ごとに、労働保険給付の多寡により、給付があった翌々年度以降の保険料を増減させる仕組みです。新型コロナに関連する給付は、すべての業種においてメリット制の対象外とし、保険料に影響を与えない特例を設けていました。Q&Aでは、移行前に労働者が発病した場合は、メリット制による保険料への影響はないと指摘。一方、移行後の発病は影響があり得るとしました。

医療従事者や介護従事者以外の労働者が感染した場合の労災保険の取扱いについては、5類への移行後も変更しない方針を示しました。感染経路が判明し、感染が業務によるものであれば給付対象とし、感染経路が判明しない場合は個別事案ごとに調査し、給付の対象となるか否かを判断します。

適法な残業代といえず

残業の多寡によって賃金総額が変わらない仕組みの適法性が争われた裁判で、最高裁判所第二小法廷は、一部を適法な残業代と認めた二審判決を破棄し、審理を福岡高等裁判所に差し戻しました。適法な残業代支払いというためには、割増賃金全体が残業の対価になっているかを検証すべきであり、その点に関する審理が不十分と判断しました。

裁判は、トラック運転者が平成27年12月から2年分の残業代支払いを求めたもの。会社は27年5月に賃金総額をあらかじめ決め、賃金総額から基本給を引いた額を「割増賃金」として支給する賃金制度を採用。割増賃金はさらに「時間外手当」と「調整手当」に分かれ、時間外手当は基本給を通常の労働時間の賃金として、労働基準法所定の方法により算出した額、調整手当は割増賃金から時間外手当を引いた額としていました。残業が増えると時間外手当が増えるものの、調整手当がその分減るため、結果的に残業の多寡で賃金総額が変わらない仕組みとなっていました。

二審は時間外手当を適法な残業代支払いと認める一方、調整手当は適法と認めていませんでした。最高裁は時間外手当を適法な残業代と認めた二審判決を破棄し、審理を福岡高裁に差し戻しています。

最大130万円へ拡充

東京都は、従業員のエンゲージメント向上や賃金引上げに取り組む中小企業を対象とする「魅力ある職場づくり推進奨励金」を今年度から拡充しました。

同奨励金は、受給を希望する企業に対して都が社会保険労務士を2回派遣し、助言を受けたうえで魅力ある職場につながる取組みを導入してもらうもの。新たに追加したのは「結婚などのライフステージを支援する取組み」で、全5項目を支給対象としました。短時間勤務や勤務地限定などの「多様な正社員制度」をはじめ、子の入学式・卒業式や地域の祭りの際に休める「家庭応援特別休暇制度」や、慣らし保育・小1の壁を乗り越える勤務制度、積立有給休暇制度を挙げています。

産休・育休の取得者をフォローする従業員への支援策も対象としました。業務の穴を埋める従業員への手当を創設してもらうことを見込んでいます。全5項目のうち、1つ取り組むごとに10万円支給し、30万円を上限とします。エンゲージメント施策や賃上げと併せて取り組む場合、最大130万円の奨励金が受給できます。

年休取得率6割超へ

愛知県は今年度、年次有給休暇の取得や多様な特別休暇の導入を推進する中小企業を認定する制度を創設します。同県の大村秀章知事が全国知事会で提案した「休み方改革」の一環として、6月から申請受付を開始します。同改革は、「平均年休取得率6割以上を達成し、労働生産性を上げること」、「休みを土日祝に集中させないことで、サービス業の繁閑差をならし、正社員化を推進すること」などを目的としています。

認定制度では、平均年休取得率60%、75%、90%(リフレッシュ休暇など、特別休暇を2つ以上導入している場合は80%)以上を達成した企業をそれぞれブロンズ、シルバー、ゴールドの3段階で認定します。ブロンズは年休取得状況の公表が要件となっており、シルバーは加えて時間単位年休制度の導入も必須。ゴールドはさらに経営者自身の休暇取得や男性従業員の育児休業取得も条件とします。認定企業に対しては入札時の加点や知事表彰など、段階に応じた優遇措置を用意しています。

送検

大阪・泉大津労働基準監督署は、石綿の粉じんによる健康障害防止措置を講じなかったとして、タクシー業者と同社の運営責任者を労働安全衛生法第22条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いで大阪地検に書類送検しました。同労基署が交付した使用停止等命令書に従わず、約2年間、労働者が粉じんにばく露するおそれがある状態で放置していた疑いが持たれています。

石綿は、同社営業所の車庫の鉄骨梁および天井部に吹き付けられていました。令和2年に、労働者から同労基署に「車庫の天井からぽろぽろと何か落ちてきているが、石綿ではないか」という旨の相談がありました。同社に石綿含有の調査を命じた結果、石綿が含まれていたことが判明しました。同労基署は行政処分として使用停止等命令書を交付し、車庫からの石綿を除去もしくは囲い込みなどの措置を講じるよう命じました。措置には2週間の期限を設けましたが、同社は「新型コロナの影響で業者が選定できない」などの理由で延期を重ね、約2年間放置しました。

監督指導動向

東京労働局は、今年度からの5カ年計画として、「第14次東京労働局労働災害防止計画」を策定し、「2027年までに死傷災害を5%減少させる」との数値目標を掲げました。

新型コロナウイルスの水際対策の緩和で増加が見込まれる外国人労働者対策として、在留支援センターに同労働局の職員を配置し、事業者や外国人から相談を受け付けます。また、都内では都市開発やインフラ改修により工事が増加し続けていることから、13次防の期間中に最も死亡者数の多かった建設業に重点を置き、現場を監督する際に安全衛生教育の実施状況を確認するなど労災防止に力を入れるとしています。

労災件数が多い建設業や運送業、製造業などを対象とし、業種別リーフレットの作成も予定しています。令和6年度から始まる建設業、運送業の時間外労働の上限規制適用のリーフレットを作成し、労働時間管理について注意喚起するとともに、労災防止に関する対応策を盛り込みます。コロナ禍でオンライン形式が多くなっていた集団指導を対面形式に戻し、強化していくとしました。

調査

日本商工会議所が全国の中小企業6000社に実施した「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」によると、昨年10月の地域別最低賃金引上げの直接的影響を受けた(最賃を下回ったため賃金を引き上げた)と回答した企業は38.8%でした。現在の最賃額が負担になっているとした企業は、半数以上を占めています。

最賃引上げに伴う人件費の増加への対応を聞くと、「製品・サービス価格の値上げ」が最多で、28.3%でした。一方、「具体的な対応が取れず、収益を圧迫している」も15.8%と少なくありません。「引き下げるべき」または「引き上げずに維持すべき」と回答した企業は33.7%でした。

今年度の改定については、「引き下げるべき」または「引き上げずに維持すべき」と回答した企業は33.7%でした。「引き上げるべき」と回答した企業は42.4%で、引上げ幅を尋ねたところ最も多かったのは「2~3%(19~29円程度)以内」でした。日商は、「賃上げが苦しい状況ではあるものの、コロナ禍の緩和で厳しい人手不足が戻り、上げざるを得ないと考えている企業もあるようだ」と話しています。

実務に役立つQ&A

<Q>労務管理を行う部署に異動したばかりですが、入社前の時期の年金について相談を受けました。国民年金保険料を支払っていなかった時期について、いつまでなら納付可能かというものです。隣で話を聞いていた同僚は「8年ぐらい前に納付したときは10年と聞いた」といいます。リミットは同じという理解で良いのでしょうか。

<A>国民年金の第1号被保険者は、所得が低い場合などに保険料の免除・猶予を受けられ、その1つに学生納付特例があります。

同期間は、老齢基礎年金の支給要件における受給資格期間(10年)には算入されますが、年金額には反映されません。額を増やすには、保険料をさかのぼって納付する追納を行う必要があります(国年法94条)。追納は、承認を受けた月の前10年以内について可能です。ただし、免除・猶予を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に行う場合は、経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

追納は、免除・猶予を受けた期間に関するものです。受けていない期間に保険料を払わないと未納という扱いで、納付期限から2年経つと時効で納付できなくなります。前は後納という制度があり、2年より前の未納分を納付できた時期もありましたが、平成30年9月末で終了しています。

身近な労働法の解説

5月17日は「多様な性にYESの日」(国際的には「LGBT嫌悪に反対する国際デー」)です。また、6月は「プライド月間」(LGBTQ+の権利を啓発する活動が世界中で開催される月)です。

今回は、労働施策総合推進法に基づく指針における性的指向・性自認に関するハラスメント防止について解説します。

1.LGBTとSOGI

(1)LGBT・LGBTQとは

性的指向としてのレズビアン(女性同性愛者)・ゲイ(男性同性愛者)・バイセクシュアル(両性愛者)と、性自認としてのトランスジェンダー(心と出生時の性別が一致しない人)の頭文字を取った言葉です。クエスチョニング(性のあり方を決めない人・決めたくない人)もいます。

(2)性的指向・性自認(SOGI)とは

恋愛感情または性的感情の対象となる性別についての指向のことを「性的指向(Sexual Orientation)」、自己の性別についての認識のことを「性自認(Gender Identity)」といいます。この頭文字であるSOGI(ソジ・ソギ)は、すべての人が持つものです。LGBTは当事者のみが対象で、SOGIはすべての人が持っている属性です。

男性に惹かれる人・女性に惹かれる人・どちらにも惹かれる人・どちらにも惹かれない人と、恋愛対象はすべての人それぞれです。また、「自分は男性(女性)」と思う人もいれば、「どちらでもない」「どちらでもある」と思う人もいます。身体的な性とSOGIの組み合わせは実に多様で、また、それぞれの性(身体・指向・自認)にはグラデーションがあり、時に揺れ動くものでもあります。

2.労推法(パワハラ防止)におけるSOGI

均等法(セクハラ防止)のほか、職場におけるパワハラ6類型の中で、該当するまたはしないと考えられる例のうち、SOGIに関連して次のようなものが挙げられています。

  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
該当すると

考えられる例

人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
該当すると

考えられる例

労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。
該当しないと

考えられる例

労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(上記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す。

※SOGIに関する言動やSOGIに関する望まぬ暴露(アウティング)は、職場におけるパワハラの定義を満たす場合には、これに該当します。

SOGIに関する侮辱的な言動は、特定の相手だけではなく、周囲の誰かを傷つけます。自らのSOGIについて他者に伝える「カミングアウト」をしていない人がいることに留意しましょう。

自身を含めたすべての人の人権として捉え、尊重することが大切です

助成金情報

重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金

重度身体障害者、知的障害者または精神障害者を多数継続して雇用し、かつ、安定した雇用を継続することができると認められる事業主で、これらの障害者のために必要な事業施設等の設置または整備を行う場合にその費用の一部を助成するものであり、障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的としています。

【対象となる労働者】

① 重度身体障害者 ② 重度知的障害者 ③ 知的障害者(重度でない知的障害者である短時間労働者を除く) ④ 精神障害者

【事業施設等の設置・整備】

 次の①から②のすべてを満たす事業施設等の設置・整備を行うこと

① 対象障害者の安定した雇用を継続することができると認められる、(1)作業施設、(2)管理施設、(3)福祉施設、(4)作業施設・管理施設・福祉施設の目的を達成するための設備・備品であること

② 設置・整備した事業施設等を対象障害者の雇用継続のために活用すること

【対象となる事業主】 

本助成金を受給する事業所の事業主は、次の要件のすべてを満たしていることが必要です。

  • 対象障害者を認定申請の日の時点で1年を超えて10人以上継続して雇用していること
  • 現に雇用している労働者数に占める対象障害者の割合が20%以上であること
  • 不正受給による障害者雇用納付金関係助成金の不支給措置が執られていないこと
  • 不正受給を行ったことにより返還金が生じている場合、当該返還の履行が終了していること
  • 重度障害者等の雇用の促進を図るにあたって、他の模範となるモデル性(※)があると認められること
  • 経営基盤および雇用条件が著しく良好であること
  • モデル性の審査

最低基準である対象労働者の人数要件や申請の対象となる施設および設備が適正かどうかの審査に加え、経営基盤および雇用条件が著しく良好であり、重度障害者の雇用の促進を図るにあたって規範を示すと認められるかについて厳正に確認を行います。

【社会保険の加入義務に係る確認】

認定申請において、支給対象障害者の雇用契約書または労働条件通知書等、出勤簿またはタイムカード等、賃金台帳、就業規則等の書類(写し)を提出し、申請事業主の社会保険等加入および支給対象障害者の社会保険等の加入の有無について確認を行い、受給資格の認定または不認定を行います。

【支給額】

支給対象費用に2/3(特例の場合は3/4)を乗じた額

ただし、5000万円(特例の場合は1億円)を上限とします。

助成率の特例(3/4)の適用を受けることができるのは、民営企業と地方公共団体等との共同出資により設立された第3セクター方式による重度障害者雇用企業の事業所の事業主または特別重度障害者等のうち支給対象障害者の要件を満たす者を3人以上雇い入れる事業所の事業主です。

*詳細は高齢・障害・求職者雇用支援機構HP等をご参照ください。

今月の実務チェックポイント

今回は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入している事業所に毎年発生する「被保険者報酬月額算定基礎届」(以下「算定基礎届」といいます)の提出について説明します。

○算定基礎届は何のために提出するのか

算定基礎届は、原則として、毎年9月分から翌年8月分までの給与から控除する社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)について、賃金の改定(昇給・降給)などに合わせて、賃金に応じた適正な社会保険料とするために提出します。この届出内容に基づき、標準報酬月額が決定されることとなり、これを定時決定と呼びます。

○算定基礎届による保険料の決定

算定基礎届による保険料の決定の仕組みとしては、原則として、4月・5月・6月に実際に支給した報酬月額(割増賃金含む)の平均額を算出し、その平均額を切りの良い数字に丸め、まずは標準報酬月額を決定します。標準報酬月額とは、社会保険料の計算あるいは社会保険の給付を受けるときの給付額の計算の基礎とするための金額です。

(例)報酬月額の平均額が290,000円以上310,000円未満の場合は、標準報酬月額300,000円となります。

このように決定した従業員各人の標準報酬月額に、保険料率を乗じて得た金額が従業員各人の社会保険料となり、随時改定に該当する場合などを除いて当年の9月分から翌年8月分までの社会保険料等の計算に用いることとなります。

○算定基礎届の注意点

① 対象となる4月・5月・6月の報酬は、4月・5月・6月勤務分の報酬ではなく、それぞれの月に実際に支払った報酬で見ます。したがって、翌月払いの会社では、4月・5月・6月の報酬とは、3月・4月・5月勤務分の報酬ということになります。

② 対象となる4月・5月・6月の報酬は、いずれも報酬支払基礎日数(報酬を計算する基礎となる日数)が17日以上あることが原則です。したがって、17日未満の月があれば、報酬の平均額を算定する基礎からは除外します。すなわち、以下の図のようになります。

※ この例の場合は、5月を除外し、4月と6月の平均額から標準報酬月額を算出します。

③ 4月に途中入社したときなど、入社月の給与が日割り計算され、1カ月分の報酬が支給されなかった場合は、報酬支払基礎日数が17日以上あってもその月は算定対象月から除きます。

④ パートタイム労働者(※)については、4月・5月・6月の3カ月とも報酬支払基礎日数が17日以上あれば、3カ月の平均額をもとに標準報酬月額を決定し、報酬支払基礎日数が17日以上ある月が1カ月以上3カ月未満の場合は、17日以上の月の報酬の平均額をもとに標準報酬月額を決定します。また、報酬支払基礎日数が3カ月とも17日以上ない場合は、報酬支払基礎日数が15日以上の月で平均額を算出し、標準報酬月額を決定しますが、3カ月とも報酬支払基礎日数が15日以上ない場合は、従前の標準報酬月額で決定されることになります。

※ 適用拡大の対象となる短時間労働者である被保険者を除く

⑤ 算定基礎届は、原則として7月1日現在、被保険者である人全員が対象となります。したがって、当年の6月30日以前に退職した人は対象になりません。また、当年の6月1日以降に資格取得をした被保険者、あるいは当年の7月・8月・9月に被保険者報酬月額変更届(随時改定)を提出する予定の被保険者などについても、算定基礎届(定時決定)の対象とはされません。

⑥ 賞与を年4回以上支給する場合は、原則として賞与ではなく通常の報酬とします。7月1日を基準として、前1年間に4回以上の支給がある場合は、前1年間に支給した全賞与の合算額を「12」で除して得た額を、各月の報酬に算入します。

今月の業務スケジュール

 

 

PAGE TOP