最新・行政の動き
厚生労働省は、短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せずに働けるようにするための「支援強化パッケージ」を発表しました。
社会保険に関する「年収の壁」には、従業員100人超企業で週20時間以上勤務した場合に厚生年金・健康保険に加入して保険料負担が生じる「106万円の壁」と、配偶者の被扶養者から外れる「130万円の壁」の2種類があります。
「106万円の壁」対策として、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を設置します。賃上げや、労働者負担分の保険料に相当する手当支給などを行う企業に対して、労働者1人当たり最大50万円を助成します。令和7年度までの時限措置で、1事業所当たりの申請人数に上限は設けません。企業が手当により肩代わりした本人負担分の保険料相当額については、保険料算定の基礎に含めません。
「130万円の壁」対策では、一時的な増収によって130万円を超える際、事業主の証明を添付することで、連続2年まで被扶養者に留まれるようにします。
10月中に改正雇用保険法施行規則を公布し、同月1日に遡って適用する方針です。
ニュース
中高年者のスキル活用へ
産業雇用安定センターは副業・兼業を希望する在職中の中高年齢者と、副業による労働者の受入れをめざす企業の情報を蓄積し、中高年齢者に対して企業情報を提供する「副業・兼業に関する情報提供モデル事業」を開始しました。厚生労働省の補助事業として、東京・大阪・愛知の3地域で情報の蓄積・提供を実施していきます。
対象となるのは、他の企業での副業を通じて、自身の技術・知識・経験の活用や、キャリアアップを希望する45歳以上の労働者。
同センターは、他の企業に属する労働者を副業によって雇用し、そのスキルを自社の新分野展開や事業発展に活用したいと考えている企業を開拓し、求人情報を蓄積します。同センターのホームページを通じて登録した副業希望者に対し、求人情報を提供したうえで、希望に応じて企業との面談の場を設定していきます。
同センターの調査(1054社回答)によると、社外からの「副業・兼業」人材を受け入れている企業(受け入れる予定を含む)は25.7%。受け入れている、または今後受け入れたい職種では、IT(DX)が71社で最も多く、技術指導56社、システム開発48社などと続きます。
最低賃金 伸び率1位受け支援開始
佐賀県は、今年10月の最低賃金改定における引上げ率が全国で最も大きい5.51%に達したことを受け、中小企業の賃金アップに向けた事業に乗り出しました。事業場内最賃を3%以上引き上げた事業者を支援する補助金を新設し、設備投資などに要した経費の3分の2を補助します。労働者1人でも賃上げを実施した場合、最大120万円を交付します。中小企業からの相談を受けるため、県内の中小企業診断協会や社会保険労務士会のほか、労働局などで構成した支援チームも設置します。補助金の申請サポートや、専門家派遣による支援を予定しています。
今年10月から適用された同県の最賃は47円アップの900円で、引上げ額と伸び率(5.51%)が全国で最大となりました。九州では隣接する福岡県(最賃941円)に次いで2位の額となりますが、佐賀県の山口祥義知事は記者会見で、差額の大きさを指摘。「人が流動化する中で、41円も違っているというのは非常に大きな課題」とし、中小企業による積極的な賃上げを促すため、事業開始に至りました。
介護事業所の管理者 テレワーク可能に
厚生労働省は介護事業所などで常駐が求められてきた管理者について、管理上支障が生じない範囲内でテレワークを可能とする事務連絡を発出しました(令5・9・5事務連絡)。テレワークを実施するに当たっては、サービスごとの運営基準上定められた管理者の責務を果たせるような体制整備が必要としています。
具体的には、利用者と職員、管理者間で適切に連絡が取れる状態にしておかなければならないとしました。テレワークで業務を円滑に進められるよう、管理者には日頃から利用者、職員などとの関係を築いておくことが求められます。さらに、事故発生や利用者の状態急変に備え、あらかじめ緊急時の対応を定め、必要に応じて管理者が速やかに出勤できる体制を整備しておくことが重要としました。
テレワークが可能な日数・時間数については、サービスの種類や事業所の実態に応じて、各事業者が個別に判断して良いとしました。複数の事業所の管理者の兼務については、それぞれの管理に支障が生じない範囲内でテレワークが認められるとしています。
省データ分析体験を
北海道の産学官計27団体で組織する「北海道デジタル人材育成推進協議会」は、情報電子工学などを専攻する学生の道内企業への就職促進、育成カリキュラムの強化を図るため、今後進めていく施策を取りまとめました。データ分析による課題解決を大学生に体験してもらう「実践的インターンシップ」などを展開していくとしています。実際の働き方をイメージできるように、受入れ先として道内で新たにインターンシップの実施を希望する企業を募ります。
産業界では、実践的インターンシップのほか、IT企業の従業員が大学に赴き、デジタルを活用して企業の課題を解決した事例について講義する取組みを進めます。行政としては、北海道経済産業局が道内の情報系学生の就職先を調査し、動向を分析します。
同協議会は、経済産業省や文部科学省による「デジタル人材育成推進協議会」の唯一の地域支部。北海道経済連合会など経営者団体5団体がメンバーとなっています。情報電子工学系の学科を持つ道内の大学・高等専門学校17校や、北海道や札幌市、北海道経産局など5団体も参加しています。
送検
長野・上田労働基準監督署は、労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかったとして、信州うえだ農業協同組合(長野県上田市)と同組合の本所課長を労働安全衛生法第100条(報告等)違反の疑いで長野地検上田支部に書類送検しました。業務の打合せ中にもみ合いになり、労働者が負傷する災害が発生していました。
同法では事業者に対し、労働者が4日以上休業した場合、遅滞なく報告書を提出しなければならないとしています。負傷が労働災害か否かにかかわらず、就業中または事業場内、もしくはその付属建設物内での負傷のときは提出の必要があります。
災害は同組合の店舗内で発生しました。労働者2人が業務に関する打合せをしていたところ、言い争いになりました。言い争いが過熱してもみ合いになった結果、労働者1人が肋骨を骨折し、休業約3週間を要しました。同労基署は業務上の災害であったかは明らかにしていません。
同労基署は違反の理由について、同組合の知識不足を挙げています。「同組合は、言い争いがきっかけのケガは報告しなくて良いと思っていた」とみています。
報告書は監督指導後に提出されましたが、遅滞が発生していたため、送検に至っています。
監督指導動向
滋賀・彦根労働基準監督署は、管内で転倒災害が増加傾向にあることを受け、事例集を作成して対策を呼び掛けています。転倒災害の主な要因である「滑り」、「つまずき」、「踏み外し」、「人や物への接触」の4つの視点から、管内事業場での実際の好事例をまとめています。
滑りとつまずきを同時に防ぐ方法として、小さな段差にマットを設置する取組みを紹介しました。段差の解消だけでなく、台車の車輪や靴裏の水分を吸収することができ、床が水で滑りやすくなる状況を防ぐ効果があるとしました。
衝突対策では、死角になる場所へミラーを設けることを勧めています。通路の曲がり角に大きめの円柱形エアクッションを設置することも有効だとしました。労働者がエアクッションを避けて歩くようになるため、労働者同士の出会い頭の衝突防止に効果的だといいます。
調査
厚労省は令和4年「労働争議統計調査」の結果を公表しました。令和4年における総争議は270件(前年比27件減)で、元年に次いで2番目に低く、減少傾向にあります。このうち、ストライキなどの争議行為を伴う争議は65件(同10件増)で、伴わない争議は205件(37件減)でした。
争議の主な要求事項は、「賃金」に関するものが139件で、総争議件数の51.5%と最も多く、次いで「組合保障及び労働協約」が103件、「経営・雇用・人事」が98件となっています。
4年中に解決した労働争議は206件で、総争議件数の76.3%を占めています。解決方法は、「第三者関与による解決」が68件に上り、「労使直接交渉による解決」が54件でした。
争議行為を伴う争議を産業別にみると、件数は「医療、福祉」が22件で最も多く、「情報通信業」が13件、「製造業」が11件で続きます。
実務に役立つQ&A
<Q>安全管理者を選任したいのですが、資格要件をみると大学などの「理科系統の出身者」でないとダメなようです。法定の研修を受講させても、文系出身者は安全管理者として選任できないのでしょうか。
<A>安全管理者になることができる資格は、安衛則5条で示されています。大学や高校等の理科系統を卒業した者で、かつ一定の実務経験が必要等としています(1号イおよびロ)。さらに、法定の研修の受講も必要です。産業安全の実務に従事した経験が求められるところ、必ずしも安全関係専門の業務に限定する趣旨ではなく、生産ラインにおける管理業務を含めて差し支えない(昭47・9・18基発601号の1)という解釈が示されています。
安全管理者になれるのは上記に限りません。労働安全コンサルタント(2号)、そして厚生労働大臣が定める者(3号)も資格を有します。厚生労働大臣が定める者は、告示(昭47・10・2労働省告示138号)で示されています。大学の理科系「以外」であれば、実務経験が4年以上必要となっています。理科系を卒業した場合と比較して2年長めに設定されています。その他、7年以上産業安全の実務に従事した経験を有する者も対象に含まれています。
身近な労働法の解説
若者雇用促進法では、新卒者等であることを条件とした募集・求人申込みを行う場合に、職場情報の提供が必要としています。
1.概要
新規学校卒業段階でのミスマッチによる早期離職を解消し、若者が充実した職業人生を歩んでいくため、労働条件を的確に伝えることに加えて、若者雇用促進法において、平均勤続年数や研修の有無および内容といった就労実態等の職場情報も併せて提供することとなっています。
企業にとっても、採用・広報活動を通じて詳しい情報を提供することによって、求める人材の円滑な採用が期待できます。
2.青少年雇用情報の提供(若者雇用促進法14条)
(1)幅広い職場情報の提供(努力義務)
学校卒業見込者等求人の申込みに当たり、その申込みに係る公共職業安定所、特定地方公共団体または職業紹介事業者に対し、青少年雇用情報を提供するように努めなければなりません。
(2)応募者等・ハローワーク・職業紹介事業者等・求人の紹介を受けた者等から求めがあった場合は、情報提供項目(下表)の(ア)~(ウ)の3類型それぞれについて1つ以上の情報を提供(義務)。
(ア)募集・採用に関する状況 | 過去3年間の新卒採用者数・離職者数 |
過去3年間の新卒採用者数の男女別人数 | |
平均勤続年数 | |
(ア)の参考値として、可能であれば平均年齢についても情報提供してください。 | |
(イ)職業能力の開発・向上に関する状況 | 研修の有無および内容 |
自己啓発支援の有無および内容 | |
メンター制度の有無 | |
キャリアコンサルティング制度の有無および内容 | |
社内検定等の制度の有無および内容 | |
(ウ)企業における雇用管理に関する状況 | 前年度の月平均所定外労働時間の実績 |
前年度の有給休暇の平均取得日数 | |
前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別) | |
役員に占める女性の割合および管理的地位にある者に占める女性の割合 |
3.公表の方法
(1)ホームページでの公表、会社説明会での提供、求人票への記載などによる、自主的・積極的な情報提供
(2)応募者等から個別の求めがあった場合は、メールまたは書面による情報提供
その他詳細は、厚生労働省HPでご確認ください。
今月の実務チェックポイント
今回は令和6年10月から予定されている短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大について説明します。
○現行の適用基準(令和4年10月~)
正社員のほか、短時間労働者(アルバイトやパートタイマー等)であっても、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等に勤務している場合は、一定の要件を満たすと社会保険の被保険者となります。一定の要件とは次のとおりです。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
③ 賃金の月額が88,000円以上であること
④ 学生でないこと
「厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等」とは、法人事業所の場合は同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所(厚生年金保険が適用されている事業所)の厚生年金保険の被保険者の総数が101人以上であること、個人事業所の場合は適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険者数の総数が常時100人を超える事業所であることを満たしている場合に該当することとなります。
○令和6年10月以降の適用基準
現行の短時間労働者に対する社会保険の適用基準が、法改正に伴い令和6年10月からさらに拡大されることとなります。具体的には、現行では「厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等」となっていますが、この基準が令和6年10月から「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等」と変更されます。すなわち、令和6年10月からは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で勤務している短時間労働者であって、次の要件を満たした場合に社会保険の被保険者となります。
① 週の所定労働時間が20時間以上であること
② 雇用期間が2カ月を超えて見込まれること
③ 賃金の月額が88,000円以上であること
④ 学生でないこと
「厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等」とは、1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等のことを指します。
したがいまして、令和6年10月以降、社会保険の適用拡大により被保険者となる方を把握し、個人面談などで社会保険の加入メリットや希望によって労働時間を増やすなど働き方の見直しを検討する旨を早めに説明することが重要です。
助成金情報
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高年齢者、障害者、母子家庭の母その他就職が特に困難な者の雇用機会の増大を図るため、これらの者をハローワークや民間の職業紹介事業者などの職業紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成金を支給するものです。
【雇入れの条件】
対象労働者を次の1および2の条件によって雇い入れること
1.ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れること
2.雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが雇い入れ時点で確実であると認められること
【助成額】
採用する労働者 | 合計助成額 | 支払い方法 |
①母子家庭の母等
高年齢者(60歳以上) ウクライナ避難民 など |
60万円(50万円) | 30万円(25万円)×2期 |
短時間:40万円(30万円) | 短時間:20万円(15万円)×2期 | |
②身体・知的障害者 | 120万円(50万円) | 30万円×4期(25万円×2期) |
短時間:80万円(30万円) | 短時間:20万円×4期
(15万円×2期) |
|
③重度障害者、45歳以上の障害者、精神障害者 | 240万円(100万円) | 40万円×6期(33万円※×3期)
※第3期は34万円 |
短時間:80万円(30万円) | 短時間:20万円×4期
(15万円×2期) |
( )内は大企業に対する支給額
・半年を1期として助成金を支給します。
・短時間労働者は、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者のことをいいます。
【支給申請の流れ】
1.ハローワーク等からの紹介
↓
2.対象者の雇入れ
↓
3.助成金の第1期支給申請:支給対象期ごとに、労働局またはハローワークに申請を行います。
支給申請期間は、各支給対象期の末日の翌日から2カ月以内です。
↓
4.支給申請書の内容の調査・確認
↓
5.支給・不支給決定:提出した支給申請書を支給要件に照らして審査します。
↓
6.助成金の支給:金融機関口座への振込
【受給手続】
支給対象期ごとに、それぞれの支給対象期の末日の翌日から起算して2カ月以内に、支給申請書に必要な書類を添えて、事業所の所在地を管轄する労働局またはハローワークへ支給申請します。
詳細な要件および申請方法等は 厚生労働省HP等をご参照ください。
今月の業務スケジュール