月間人事労務だより~2024年11月号~

最新行政の動き

ストレスチェック 「50人未満」にも実施義務 報告までは求めず 厚労省検討案

ストレスチェック制度は、労働者の心理的な負担の程度を把握するために医師などが実施する「ストレスチェック」と、その結果の「集団分析」、分析に基づく「職場環境改善」で構成するものです。ストレスチェックは50人以上の事業場に実施義務があり、50人未満事業場については、労働者のプライバシーの保護が難しいことから努力義務となっています。集団分析と職場環境改善は、企業規模にかかわらず努力義務が課されています。

法改正後から5年以上が経過していることから、厚生労働省は今年3月に有識者検討会を設置し、見直しに向けた議論を重ねてきました。9月30日の第6回会合では厚労省が中間取りまとめの骨子案を提示。規模の小さい企業でも健診機関やEAP事業者など外部機関を活用することでプライバシーの保護が図れるなど、ストレスチェックに対応できる環境がある程度整ったとみて、実施義務の対象を50人未満に広げるのが適当としました。他方、負担軽減の観点から、労基署への報告義務を課さない方向です。

50人未満事業場については、原則としてストレスチェック実施を外部委託することが推奨されるとしました。ただし、事業者として実施方針の表明や実施計画の策定などに主体的に取り組む必要があるため、厚労省において実施体制・方法に関するマニュアルを作成し、周知徹底を図るとしています。骨子案ではさらに、企業が実施体制を整えられるよう、義務化までに十分な準備期間を設定するのが適当としました。「少なくとも数年間は必要」(厚労省労働衛生課)といいます。

 

ニュース

お祝い金禁止徹底へ

来年1月から許可条件に 職業紹介

厚生労働省は、有料職業紹介事業など労働力需給調整機能の強化策の一環として、来年1月1日から、指針で規定されている「就職お祝い金」などの金銭等提供禁止および就職後2年間の転職勧奨禁止を職業紹介事業の許可条件に追加する方針です。違反行為が継続・反復した事業者は許可取消しの対象になります。

来年1月以降の新規許可・有効期間の更新から順次、新たな許可条件を付していきます。

具体的には、個々の事業者に交付する許可条件通知書において、「その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る)に対し、就職した日から2年間、退職の勧奨を行ってはならないこと」、「求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと」を記載します。

更新月の到来前にこれらの禁止事項に違反した場合は、指導を行うとともに許可条件を付けます。

キャリアアップ助成金 社保適用コースの周知強化 都道府県労働局

今年10月から短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が拡大したのに伴い、都道府県労働局がキャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」の周知を強めています。

秋田労働局は、基本的な知識に関する質問が多いことから、9月には助成金の説明会をオンラインで開催しました。「地域別最低賃金の大幅引上げも影響し、9月頃から助成金に関する申請や問合せが急増している」(同労働局職業安定部)とし、年度内に再び実施する予定です。

愛媛労働局が作成した動画では、同助成金コースの2つのメニューごとに県内の事例を取り上げています。労働時間延長メニューでは、介護施設の取組みを取材し、パートタイム労働者へ行った説明や面談の内容を紹介しました。同施設では、社会保険制度の概要説明のほか、将来的な働き方の希望をヒアリングしたうえで、勤務時間の延長に応じてもらったとしています。

昨年10月に新設された同コースは、労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、収入増加の取組みを行った事業主に対し、労働者1人につき最大50万円を助成します。手当の支給で収入を増加させた場合に対象となる①手当等支給メニュー、所定労働時間の延長と賃金増額を組み合わせた②労働時間延長メニューの2つが設けられています。受給に当たっては、措置の内容などを記載したキャリアアップ計画書を都道府県労働局へ提出する必要があります。申請受付が始まった昨年10月から今年7月末時点までの計画届受理件数(速報値)は、全国で1万3061件となっています。

内定辞退者3年以内なら即採用 イオンリテール

イオンリテール㈱は、退職者の再雇用制度を大幅に拡充しました。従来は結婚・出産・育児・介護などのやむを得ない事情で退職した者に対象を限定していましたが、新たに転職者や内定辞退者を対象に含めます。資格等級は退職時以上とすることを基本とし、3年以内の内定辞退者から希望があった場合は、選考を経ずに採用とします。

退職者の場合は、退職前の在職期間が1年以上の正社員およびアルバイトを除くパートタイム従業員が対象。制度利用の申込みは専用ホームページで受け付けており、退職時の事前エントリーは必要としません。

再雇用時の処遇に関しては、著しくスキルが落ちているなどの例外を除き、基本給の多くを占める職能給部分を保障します。職能給は職能資格ごとにシングルレートで設定しています。

応募増へ“推奨単語”

リーフで31項目を紹介 恵那職安

岐阜・ハローワーク恵那は、求人票に盛り込むと応募数増加が期待できる「おすすめキーワード」をまとめたリーフレットを作成しました。「見学可」、「在宅勤務可」、「副業・兼業可」など31項目を示しています。育児中の求職者向けに「子の学校行事や病気のための休みは応相談」などの文言を追加した場合には、同ハローワークで作成し、求職者に配布している情報誌の特集で紹介します。

リーフレットは、来所した求職者へ行ったヒアリングを基に作成したもの。求人票の「仕事内容」または「求人に関する特記事項」に自社に合致しているキーワードを記載することで、求人票が求人情報検索のフリーワード検索結果に表示されます。

同ハローワークの管内は、段ボールなどの板紙製造をはじめとした製造業が盛んな地域。製造業では、「座り仕事」や「重量物の有無や重さ」といった文言も応募数増加に有効だとしています。

送検

指切断の災害 報告せず送検

足立労基署

東京・足立労働基準監督署は、労働者が食肉加工機械で指を切断した労働災害に関連して、食肉加工や卸売を営む業者と同社代表取締役を労働安全衛生法第100条(報告等)違反の疑いで東京地検に書類送検しました。労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかった疑いです。

労災は令和4年12月に、同社の食肉加工場で発生しました。労働者が大きな肉の塊を自動スライサーにかける業務に従事していたところ、

左手の親指を切断する休業約4カ月のケガを負いました。労働者は事故発生当時、入職してから1年未満でした。

同労基署は違反発覚の端緒について、被災した労働者からの情報提供としています。事故があったスライサーの安全対策に不備はなく、雇入れ時に安全教育を行っていないなどの違反も確認していません。

監督指導動向

5割で違法残業発覚 接客娯楽業の長時間顕著 和歌山労働局

和歌山労働局は、令和5年度に長時間労働が疑われる事業場に対して実施した監督指導結果を公表した。対象となった225事業場のうち、120事業場で違法な時間外労働を確認しました。違反率は53%に上っています。同労働局監督課は、「コロナ禍で縮小していた観光需要が回復した結果、旅館業や飲食業などの接客娯楽業で、150時間超の時間外労働を行わせていた事業場がめだった」と話しています。

時間外労働の違反があった120事業場のうち、1カ月当たり80時間を超える時間外・休日労働が認められた事業場は、64事業場に上りました。100時間超は39事業場、150時間超は12事業場で確認しました。

労働時間以外の違反では、健康障害防止措置違反を72事業場(全体の32%)に指導しました。健康診断の未実施などが多かったとしています。賃金不払残業の違反は10事業場(4%)と、他の違反に比べると多くありません。

和歌山県の調査によると、昨年の観光客数は前年比1割増の約3194万人でした。世界遺産の高野山を中心に外国人観光客が増えています。

調査

正社員の不足感6割に 人手不足とその対応に係る調査

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)は、小売・サービス分野を対象に事業所における従業員の過不足状況を調査しました。正社員では、「不足している」または「やや不足している」と回答した割合の合計は57.7%でした。パート・アルバイトでは56.3%となり、いずれも6割弱となっています。

事業所における従業員の過不足状況

事業所における従業員の過不足状況

不足と回答した事業所に対して、不足状況の見通しを尋ねています。正社員では、「構造的不足(当面解消しない不足)である」、または「どちらかといえば構造的」と回答した割合の合計は69.3%に上りました。パート・アルバイトでは30.6%でした。とくに正社員について、多数の事業所が深刻な人手不足状況にあることがうかがえます。

不足事業所における不足状況の見通し

実務に役立つQ&A

運動会で使えるか 子の看護休暇が拡充

法改正により、子の看護休暇の対象年齢や取得可能な事由の範囲も広がると聞きました。これまであまり使い勝手が良くなかった気がしますが、法改正後は運動会や参観日にも使うことができるようになるのでしょうか。

子の看護休暇を取得できる対象年齢は、現在、子が小学校就学前までとなっています(育介法16条の2)。令和7年4月からは、小学校3年修了前までに延長されます。取得日数は、現行の年5日(子が2人以上の場合は10日)のままで変更はありません。原則として、暦日のほかに、時間単位の取得も可能です。

現在認められている取得事由は、傷病にかかったための世話(病院への付添い等を含む)のほか、予防接種や健康診断が含まれています(育介則32条)。令和7年4月からは感染症に伴う学級閉鎖等にも取得できるようになるほか(改正則33条)、入園、卒園または入学の式典のほか「その他これに準ずる式典」も、子の看護休暇の対象となります(改正則33条の2)。これに準ずる式典は、入園式等と同性質の式典を想定していて、運動会等は含まれないとしています(厚生労働省「省令案に関する意見募集の結果」)。

身近な労働法の解説 ―婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等①―

男女雇用機会均等法9条では、女性労働者の結婚・妊娠・出産退職制、女性労働者の結婚を理由とする解雇を禁止しています。

1.婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(9条)

1項では、「事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない」と定めています。

2項では、「事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない」と定めています。

3項では、女性労働者の妊娠・出産等厚生労働省令で定める事由を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。

また、4項では、女性労働者を妊娠中または産後1年以内に解雇することは、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効としています。

 

2.解説

9条は、女性労働者に対する不利益取扱いを禁止しています。

1項の「予定する定め」とは女性労働者が婚姻、妊娠または出産した場合には退職する旨をあらかじめ労働協約、就業規則または労働契約に定めることをいうほか、労働契約の締結に際し労働者がいわゆる念書を提出する場合や、婚姻、妊娠または出産した場合の退職慣行について、事業主が事実上退職制度として運用しているような実態がある場合も含まれます。

なお、女性が結婚退職する場合に退職金を上積みするいわゆる結婚退職上積制度は、あらかじめ支給要件が明確にされていれば賃金に当たり、男女同一賃金の原則を定める労基法4条に違反することになります。

均等法違反の要件となっている「理由として」とは、妊娠・出産等の事由と不利益取扱いとの間に「因果関係」があることを指します。

妊娠・出産等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いる(事由と不利益取扱いとの間に因果関係がある)と解され、法違反となります。

※原則として、妊娠・出産等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、または、ある程度定期的になされる措置(人事異動、人事考課、雇止めなど)については、事由の終了後の最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断します。

「男女雇用機会均等法のあらまし」(厚労省)のQ&Aでは、有期契約労働者が産前産後休業を取得することにより、次の契約期間の全てについて全く役務の提供ができない場合に契約を更新しないことについて、妊娠等していなければ契約更新されていたと考えられる場合は、この雇止めは妊娠などを理由とする不利益な取扱いに該当するとしています。

3項の不利益取扱については、次回解説します。

助成金情報

両立支援等助成金 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境整備や業務体制整備を行った上で、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する育児休業を取得した場合、男性の育児休業取得率が上昇した場合に助成するものです。支給対象となるのは中小企業のみです。

【第1種】

男性労働者が育児休業を取得しやすい雇用環境の整備措置を複数実施するとともに、取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに取り組む旨を定めた規定等を策定して、その規定に基づく業務体制の整備を行い、さらに産後8週間以内に開始する連続5日以上の育児休業を取得させた中小企業事業主に支給するものです。

【第2種】

第1種助成金を受給した事業主において、育児休業を取得した男性労働者が第1種申請に係る者以外に2名以上存在し、かつ3事業年度以内に育児休業取得率の数値(%)が30ポイント以上上昇(※)した(または、一定の場合に2年連続70%以上となった)場合

(※)30ポイント以上上昇:もともと40%であれば、70%以上に上昇した場合

【支給額】

支給額
第1種(男性の育児休業取得) 1人目:20万円
2人目・3人目:10万円
育児休業等に関する情報公表加算:2万円

※第1種(1~3人目のいずれか)に1回限り加算して支給

第2種

(男性の育児休業取得率の上昇等)

第1種の受給後

・1事業年度以内に30ポイント以上上昇:60万円

・2事業年度以内に30ポイント以上上昇等:40万円

・3事業年度以内に30ポイント以上上昇等:20万円

※プラチナくるみん認定事業主は15万円加算

【支給要件】

(第1種)男性労働者の育児休業取得

  • 育児・介護休業法等に定める雇用環境整備の措置について、必要な数の措置を実施していること
  • 育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る規定等を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしていること
  • 男性労働者が、子の出生後8週間以内に開始する育児休業を取得すること
  • 育児休業制度などを労働協約または就業規則に定めていること
  • 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、労働局へ届け出ていること
  • 対象の男性労働者を育児休業の開始日から支給申請日までの間、雇用保険被保険者として継続して雇用していること

【情報公表加算】

第1種(1人目~3人目のいずれか)を申請する事業主が、自社の育児休業等の利用状況に関する情報を指定のサイト上で公表した場合に、育児休業等に関する情報公表加算を支給します。

制度の詳細は厚生労働省HP「仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主のみなさまへ」をご参照ください。

今月の実務チェックポイント

2025年4月1日施行 育児・介護休業法改正

〇所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大

〇育児のためのテレワーク導入が努力義務化

3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。

〇子の看護休暇の見直し

改正前 改正後
名称 子の看護休暇  

 

子の看護等休暇
対象となる子の範囲 小学校就学の始期に達するまで 小学校3年生修了までに延長
取得事由 病気・けが、予防接種・健康診断 感染症に伴う学級閉鎖等

入園・入学式、卒園式を追加

労使協定の締結により除外できる労働者 (1)引き続き雇用された期間が6カ月未満

(2)週の所定労働日数が2日以下

週の所定労働日数が2日以下のみ

〇育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大

現行、従業員数1,000人超の企業に公表が義務付けられていましたが、2025年4月から、従業員数300人超の企業に公表が義務付けられます。

公表内容…公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)における次の①または②のいずれかの割合

①育児休業等の取得割合

育児休業等をした男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数

②育児休業等と育児目的休暇の取得割合

育児休業等をした男性労働者の数+小学校就学前の子の育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数÷配偶者が出産した男性労働者の数

 

〇介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備等の措置が事業主の義務に

・介護に直面した旨の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置

(面談・書面交付等による)

・介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供

・仕事と介護の両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備

(研修、相談窓口設置等のいずれかを選択して措置)

・要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるよう事業主に努力義務

・介護休暇について、引き続き雇用された期間が6カ月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止

 

就業規則・育児介護休業規程等の整備が必要になります。

〇育児休業取得等に関する状況把握・数値目標設定が義務付け

従業員数100人超の企業は、一般事業主行動計画策定時に義務付け

・計画策定時の育児休業取得状況(※1)や労働時間の状況(※2)把握等

・育児休業取得状況(※1)や労働時間の状況(※2)に関する数値目標の設定

(※1)省令により、男性の育児休業等取得率とする予定です。

(※2)省令により、フルタイム労働者1人当たりの各月ごとの時間外労働および休日労働の合計時間数等とする予定です。

 

一般事業主行動計画の内容変更も同様に状況把握、数値目標の設定を行う必要があります。施行日以降に開始または内容変更する行動計画から義務の対象となります。

今月の業務スケジュール

労務・経理 慣例・ 行事
●10月分の社会保険料の納付

●10月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付

●3月決算法人の法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税の中間申告・納付)

●お歳暮の準備・発送

●秋の全国火災予防運動

●労働時間適正化キャンペーン

●職業能力開発促進月間

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