月間人事労務だより~2022年10月号~

最新・行政の動き

厚労省は令和5年度、産業雇用安定助成金に新コースとして「スキルアップ支援コース」(仮称)を追加する方針です。

新コースでは、新型コロナウイルスの影響による事業活動の縮小がなくても、労働者の能力向上を図る目的で在籍型出向を行う場合に、出向元事業主に対して助成金を支給します。

在籍型出向は、自社にはない実践の場での経験から新たなスキルを習得することが期待できるため、賃金の一部を助成することで在籍型出向を推進し、企業活動の活性化を促すのが狙いです。助成金の活用場面として、DXをめざす企業がIT企業への出向を通じて従業員にデジタル技術を習得させるケースのほか、自動車関連工場への出向により、モノづくりにおける品質管理と工程管理に関する手法・考え方を習得させるケースなどが想定されます。

助成対象は、出向元事業主が負担した出向労働者の賃金で、助成率は中小企業が3分の2、大企業が2分の1。最長1年間にわたり、最大5人分まで支給します。1人1日当たり8355円を上限とする考えです。

ニュース

22道県で目安上回る

すべての地方最低賃金審議会で令和4年度地域別最低賃金改定額の答申が出揃い、改定額の全国加重平均額は、前年度から31円引き上げて961円に達しました。

引上げ額は前年度の28円を上回り、「目安」制度の創設以降で最高となっています。中央最低賃金審議会が示した目安を上回ったのは22道県に上り、昨年度の7県から大幅に増加しました。

新たな最賃額は、都道府県労働局による改正手続きを経て、10月1日から順次発効します。

無断で動画公開、断行拒否理由にならず

東京都労働委員会は、労働組合が団体交渉の様子を撮影し、動画サイト上で公開したことを理由として以降の団交申入れに応じなかった警備会社について、不当労働行為と認定しました。

組合は平成31年4月8日、同社の同意を得ずに団体交渉の様子を動画撮影し、同月11日、動画サイト上に映像を公開しました。翌令和2年になって組合は3度にわたり団交を申し入れましたが、同社は動画の公開を理由として応じませんでした。組合は、正当な理由なく団交を拒否されたとして、都労委に救済を申し立てました。

同社はこれに対し、動画の公開が会社側出席者の肖像権・プライバシー権を侵害し、業務を妨害するものであったと主張しました。再三にわたって動画の削除と公開停止、謝罪、二度と行わないとする誓約を求めましたが、組合からの回答はなく、信頼関係の構築が困難であったとしています。

都労委は、同社の団交拒否を不当労働行為と判断しました。開催条件に固執することなく、誠実に応じるよう命令しています。動画は公開に際して一部モザイク処理され、一定のプライバシー保護が図られていることから、会社側の担当者が特定できるものとまでは評価できないとしました。

出生時育休、管理監督者も就業可能

厚労省は、今年4月から順次施行している改正育児介護休業法のQ&A集を改定し、出生時育休期間中の就業に関する留意点を拡充しました。

労働基準法上の管理監督者に対しても、出生時育休中に部分就業を行わせることができるとしています。所定労働時間の合計の半分までとされている就業可能時間数の上限は、就業規則などで定めた所定労働時間から算出します。合意した時間数よりも働いた時間が少なかったことを理由に賃金減額を行うと、管理監督者性を否定する要素になるとして注意を促しています。

フレックスタイム制で働く労働者についても、労使協定で対象外とされていなければ部分就業を行わせることができるとしました。フレックスタイム制の対象としたまま部分就業を行わせる場合、労働者の申出を受けて事業者が特定する日時の範囲内で、始終業時刻の決定を労働者に委ねる必要があります。実際に労働した時間は、その就業日が属する清算期間における労働時間に算入します。

学生に関し対策強化要請

京都労働局、京都府、京都市で構成する京都ブラックバイト対策協議会は、京都経営者協会に、学生アルバイトへのハラスメント対策強化を要請しました。

要請は同協会のほか、学生バイトの多い飲食業などの業界団体や、コンビニエンスストアの本社など計17団体に毎年行っているもの。今年は府の相談窓口でハラスメント関連の相談が増えていることなどを受けて、対策の強化を求めました。インターンシップや就活中の学生も対象としています。

厚労省がシフト制労働者の雇用管理について留意事項を公表したことも踏まえ、シフトを強要せず、学生に意見聴取することなども求めました。

同労働局によると、同府は人口に占める学生の割合が7.1%と全国で最も高く、学生バイトは第3次産業の担い手となっています。「学業との両立を一番に配慮してもらいたい」としました。

同協議会は今年度、大学などでのワークルール教育を強化します。同労働局の出前講座の受入れ校数は府内の約1割にとどまっており、未実施校には個別訪問で受入れを依頼していく方針です。

送検

過労運転で事業停止

九州運輸局は、国土交通省が告示する拘束時間の上限を超えていたとして、運送会社の佐賀営業所を30日間の事業停止処分にしました。昨年10月、同社のトラック運転者が起こした死亡事故をきっかけに監査に入り、違反が発覚しています。同営業所に所属する運転者の大半が過労運転をしており、拘束時間は最長の者で月320時間を超えていました。30日間の事業停止に加え、20日間のトラック使用停止も命じています。

同社のトラック運転者は昨年10月、熊本県内のコンビニエンスストアの駐車場で、通行人を轢く死亡事故を起こしました。同運輸局は事故を受け、同年11月25日と今年2月10日、同営業所に監査を行いました。多くの運転者の勤務時間および乗務時間が、国交省の告示する基準を超えていたことが発覚しています。告示では、運転者の拘束時間を月320時間以内、1運行につき144時間以内、連続運行時間を4時間以内に収めるよう定めています。

同運輸局は、処分と併せて輸送の安全確保を命令し、勤務時間などの改善を求めました。改善がみられなかった場合は、事業許可を取り消す可能性があるとしています。

監督指導動向

エレベーターの安全対策を要請

東京労働局は、労働者がエレベーターの組立て・解体作業中に死亡する労働災害が相次いだことから、大手建設業23社と建設業団体に安全対策の徹底を緊急要請しました。チェックリスト付きのリーフレットを作成し、併せて配布しています。今後は都内の労働基準監督署全18署が講習会などで周知します。

同労働局は労災が発生する原因として、「適切な手順で作業ができていないケースが多いのではないか」と話しています。チェックリストには、作業前の手順確認や、リスクアセスメントの実施などの項目を盛り込みました。エレベーターの安全対策に関する知識が十分にないまま作業しているケースもあるとして、メーカーなどの専門業者に指示を仰ぐよう勧めています。

調査

離職率は低下続き14.3%

介護労働安定センターは、令和3年度介護労働実態調査をまとめました。訪問介護員と介護職員の2職種における離職率は前年比0.6ポイント減の14.3%でした。21.6%に達していた平成19年をピークに低下傾向にあり、同年の約3分の2まで低下しています。 早期離職防止や定着促進に最も効果のあった方策は「本人の希望に応じた勤務体制にする等の労働条件の改善に取り組んでいる」で、22.9%でした。次いで多かったのは「残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等の労働条件の改善に取り組んでいる」で18.1%となっています。

実務に役立つQ&A

被保険者となることができない者が、健保法3条等に列挙されています。同条9号ハに報酬に関する要件があります。すなわち、厚生労働省令で定めるところにより、法42条1項の規定の例により算定した額が、8.8万円未満としています。ここでいう報酬から、最低賃金法(略)4条3項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除きます。省令は健保則23条の4を指し、ここに「所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金」があります。

一方で、適用除外に該当せず被保険者資格を取得するときについてですが、「適用拡大の実施に伴い、新たに被保険者資格を取得する短時間労働者の(略)報酬月額の算出方法は、従来からの被保険者資格取得時の報酬月額の算出方法と同一」(令4・3・18事務連絡)としています。資格取得時の標準報酬月額を決定する際においては、当初見込まれる残業代を記載することになると解されています。

身近な労働法の解説

企業の重要な人事施策の一つに、人事異動があります。人事異動には採用・退職、配転、出向・転籍等があり、それぞれ業務上の必要性や目的を持って実施されます。人材育成や組織の活性化を目的としたり、本人の希望部署への配転でモチベーションアップを図ることもあります。

今回は配転について解説します。

1.配転とは

一般に、「同一使用者の下での職務内容や勤務場所の変更(短期間の出張や応援を除く)のこと」をいい、「このうち、転居を伴うものは転勤、同一事業所内での部署の変更は配置転換と呼ばれること」があります(水町勇一郎『詳解労働法』より)。

労働契約の締結に際しては「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」は書面での明示が必要(労基法15条、労基則5条)で、配転は、就業規則の「会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。」等の規定に基づき行われます(就業規則の周知等、有効であることが前提です(労契法7条))。

2.配転における留意事項

配転を検討する際は、次のような点に留意します。

(1)仕事と生活の調和にも配慮しつつ変更します(労契法3条3項)。

(2)企業には労働契約上の人事権がありますが、「労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」とされています(労契法3条5項)。

例えば、転居を伴う転勤で「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」がある場合は、権利濫用と判断されることがあります。

(3)配転に伴う賃金減額は、労働者の合意が必要です(労契法8条)。

労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにしなければなりません(労契法4条)。

(4)不当な目的を持った配転は、パワハラ指針に掲げる類型(人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求)に当たる可能性があります(労推法30条の2、令2・1・15厚労省告示第5号)。

(5)性別を理由として、配置(業務の配分および権限の付与を含む)について差別的取扱をしてはなりません(均等法6条)。

ポジティブアクション(女性が相当程度少ない職務に新たに配置する場合に女性を優先すること)は認められます(均等法8条)。

昇進または職種の変更の際に、転居を伴う配転に応じることができることを要件としたり、昇進にあたって、転勤経験があることを要件とするものは、合理的な理由がない場合は認められません(均等法7条、均等則2条)。

(6)就業場所の変更により、子の養育または家族の介護を行うことが困難となることとなるときは、育児・介護の状況に配慮しなければなりません(育介法26条)。

今月の実務チェックポイント

休業(補償)給付について

今回は、労働者が業務または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のために労働することができず、そのため賃金の支払いが受けられないときに頼れる労災保険の給付について説明します。

○休業(補償)給付とは

休業(補償)給付とは、次の3つの要件を満たした場合に労災保険から給付される生活保障です。

① 労働者が業務上または通勤による負傷や疾病が原因で療養が必要であること

② 労働できないこと

③ 賃金を受け取れないこと

休業の4日目から支給され、業務上の災害が原因である場合を休業補償給付、通勤が原因である場合を休業給付といいます。すなわち、業務災害の場合は、「休業補償給付」のように間に「補償」の文字が入り、通勤災害の場合は「補償」の文字をとって呼びます(この呼び方のルールは、労災保険給付の共通するルールです)。休業3日目までを待期期間といい、業務災害の場合のみ事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%以上)を行う必要があります。また、休業補償給付・休業給付ともに、これらに併せて休業特別支給金が支給されます。

○支給される額について

支給額は次のとおりです。

休業(補償)給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数

休業特別支給金 =(給付基礎日額の20%)×休業日数

「給付基礎日額」とは、給付額の算定の基礎となるもので、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額のことをいいます。

複数事業労働者(事業主が同一でない複数の事業場に同時に使用されている労働者)の場合は、

休業(補償)等給付=(複数就業先に係る給付基礎日額に相当する額を合算した額の60%)×休業日数

休業特別支給金=(複数就業先に係る給付基礎日額に相当する額を合算した額の20%)×休業日数

○平均賃金とは

原則として、業務上または通勤による負傷などの原因となった事故が発生した日あるいは医師の診断によって疾病の発生が確定した日の直前の3カ月間に、その被災労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で除して得た1日当たりの賃金額です。ただし、賃金締切日が定められているときは、傷病が発生した日前の直前の賃金締切日からさかのぼる3カ月間で見ます(実務的にはこちらの計算方法をとることとなります)。また、臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)、3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)などは計算の際の賃金総額から除外することとなっています。

○休業(補償)給付その他知識の発展

① 通勤災害により療養給付を受ける労働者が休業給付を受ける場合は、原則として初回の休業給付から一部負担金として200円が控除されることとなります。

② 休業が長期にわたる場合は、1カ月ごとの請求が一般的です。

③ 休業(補償)給付は、療養のため労働することができず、賃金を受けられない日ごとに、その翌日から2年を経過すると時効により請求できなくなりますのでご注意ください。

今月の業務スケジュール

 

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