月刊人事労務だより~2023年10月号~

最新・行政の動き

厚生労働省は、今年10月の地域別最低賃金の改定を前に、企業における賃金引上げを支援する業務改善助成金を拡充しました。業務改善助成金は、事業場内最低賃金を30円以上引き上げるとともに、生産性向上につながる設備投資を行った中小・小規模企業を対象に支給するもの。引上げ前の事業場内最低賃金の額に応じて、設備投資に要した費用の一定割合を助成します。

8月31日に講じた拡充では、①対象となる事業場の拡大、②一定規模事業場に対して賃金引上げ後の事後申請を認める、③助成率区分の金額を見直し、高助成率が適用される範囲の拡大――の3点を実施しました。

対象事業場については従来、事業場内最賃と地域別最賃の差額が30円以内の事業場に限定していましたが、拡充により、差額50円以内にまで広げました。申請に当たっては、50人未満の事業場を対象に、申請時の「賃金引上げ計画」の提出を不要としました。今年4~12月に引上げを実施した場合に限り、申請書と併せて賃上げ結果などを提出することで支援を受けられるようにしています。助成率の区分は、「事業場内最賃900円未満」で10分の9(従来は「870円未満」)、「同900円以上950円未満」で原則5分の4(従来は「870円以上920円未満」)、「同950円以上」で原則4分の3――の3区分を用意しました。

助成金の申請期限は来年1月31日。ただし、今年10月の最賃改定に対応して賃金を引き上げる場合には、改定日の前日までに引上げを完了させる必要があります。

ニュース

43円引き上げ1000円超に

厚生労働省は8月18日、全国すべての地方最低賃金審議会で令和5年度の地域別最低賃金の改定額を答申したと発表しました。47都道府県の引上げ額は39~47円で、改定後の全国加重平均額は43円(4.47%)上昇して1004円になります。上昇額は「目安」制度の創設以降で最も高く、24県で中央最低賃金審議会が示した「目安」を上回りました。

改定後の最高額は東京の1113円で、愛知、京都など5府県が新たに1000円を突破します。最低額は岩手の893円で、最高額に対する比率は80.2%。改定額は10月上~中旬に発効します。

録音禁止理由説明を

中央労働委員会第1部会は、録音禁止を団体交渉の開催条件としていた学校法人について、東京都労働委員会が録音に固執することのない団交応諾を命じた初審に続き、不当な団交拒否と認定しました。命令内容を一部変更し、録音を禁止する具体的な理由を説明し、代替案を示すなど、合意をめざして誠実に協議するよう命令しています。

同法人の教職員9人が参加する組合は、令和元年8月から3回にわたって同法人と団交を行いましたが、その内容は団交時の録音の可否に終始し、本来の目的だった春闘要求の交渉に入れませんでした。4回目の団交申入れに対して同法人は、「録音するなら、団交は中止する」と回答しました。組合は、「この回答では団交を開催できない」として、以降は開催されていません。

中労委は、同法人が録音を拒否する理由としてデータ流出の危険性など一般論を述べるのみで、組合との間で合意する努力をしていないと判断しました。一般論を超えた具体的な説明をすべきとしています。たとえば、データの流出によって想定される損害を説明したり、他の使用者や組合で録音による問題が生じた事例を挙げて説明したりすべきだったとしました。録音に代わる正確な記録方法として、労使双方で議事録をすり合わせたり、法人の秘密に言及する場面以外の録音を一部認めたりするなど、合意達成に向けた努力が可能だったとしています。

フォーマット統一へ

こども家庭庁は保育園に入所する際に地方自治体への提出が必要となる就労証明書について、国が書式を統一する内容の改正省令案を公表しました。9月中旬の施行を予定しています。

書式の統一は事業主や人事担当者の事務負担軽減が目的。現行制度では、保育園の入所を希望する保護者は、市区町村に毎年就労証明書を提出しなければなりません。一方、就労証明書は市区町村ごとに書式が異なり、事業主や人事担当者には、従業員の住む市区町村のルールに合わせた記載が求められていました。改正省令案は国が新たに書式を定め、市区町村は原則国の書式を使用するよう規定しています。

省令改正は6月に閣議決定した令和5年度の規制改革実施計画に基づくもの。同計画ではそのほかに、事業主が就労証明書を市区町村にオンラインで提出できるシステムの構築を6年度入所に間に合うよう行うとしています。さらに、事業主が使用する労務管理システムから、市区町村のシステムに直接データを提出できるよう、連携を可能とする環境整備を速やかに講じるとしました。

賃上げ事業に200万円

岩手県は、中小企業の賃上げを後押しするため、賃上げを見込む新事業に対する補助金を新設しました。新機械の導入などにより生産性向上を図り、年率平均で2%以上の給与支給総額の増加をめざす事業に対し、最大200万円を補助します。

対象となるのは、中小企業等経営強化法で規定する「経営革新計画」に基づく新事業活動。今年度に新しく計画を申請した事業のほか、昨年度までに申請済みの事業も対象となります。

たとえば製造業では、工場に新しい機械を導入したり、直営店など新たな販売方式を導入したりして、生産性向上や売上高増加を図る事業を想定しています。設備投資や人材育成に要した費用などの3分の2を補助します。

同県の担当者は、「若年層の基本給を重点的に上げるほか、特定の部署で働く従業員の賞与を増額するなど、経営状況に応じた柔軟な配分を期待している」と話しています。

補助金の交付に当たっては、パートナーシップ構築宣言の実施が必要となります。取引先との価格転嫁を促し、補助事業の影響を他の企業にも広めていく狙いです。

送検

倉庫作業員に月最大215時間の時間外労働――福岡・久留米労働基準監督署は、労働者20人を36協定の限度時間を超えて働かせたとして、鹿児島市内の運送業者と同社福岡南センターのセンター長を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで福岡地検久留米支部に書類送検しました。

同社は1年単位の変形労働時間制を採用しており、月の時間外労働の限度を42時間、特別条項適用時で60時間と定めていました。令和4年7月に、倉庫作業員20人に月68~215時間の時間外労働を行わせた疑いです。

20人中16人には月100時間以上の時間外労働が発生しており、上限規制を超えて働かせた疑いも持たれています。同労基署は同法第36条(時間外及び休日の労働)違反でも立件しています。

違反は定期監督で発覚しました。同労基署は「長時間労働は重点的に監督指導し、厳正に処分している。今後、送検事案は増える見込みだ」としました。

同社の長時間労働の背景には、慢性的な人手不足があったとみています。時間外労働の時間数に個人差が大きいのは、一人ひとりに割り振られた業務量に違いがあり、自分の仕事が終わるまで残業するのが当たり前になっていたためだということです。

監督指導動向

岡山労働局は、今年8月までにフォークリフトによる死亡労働災害が3件発生したことを受け、リーフレットを作り、安全対策の強化を呼び掛けています。

3件の死亡災害は、フォークリフトが転倒し、運転者が車体の下敷きになることで発生しました。いずれもシートベルトが未着用だったため、運転者が運転席から放り出された可能性があるといいます。同労働局の担当者は、「フォークリフト運転時のシートベルト着用に関して、法令上の規制はないが、実際に未着用の状態で重大な事故が発生している。安全のため、使用を徹底してほしい」と話しています。シートベルトが未設置の場合には後付けをするなど、確実な着用を促しています。

調査

総務省は5年ごとに就業状況を調査しており、今回は昨年10月1日現在で実施しました。

有業者は6706万人で、前回調査の2017年に比べ85万人増加しました。無業者は4313万人となり、163万人減少しました。非農林業従事者のうち、副業がある者の割合は4.8%の305万人となり、17年と比べて60万人増加しました。現在就いている仕事を続けながら、他の仕事もしたいと思っている追加就業希望者は7.8%の493万人で、17年から93万人増加しました。

追加就業希望者比率を都道府県別でみると、東京都と沖縄県が10.2%で最も高く、次いで神奈川県と京都府が8.8%で続いています。育児中の者のうち有業者の占める割合は85.2%(17年比5.9ポイント増)でした。介護中は58.0%(同2.8ポイント増)で、どちらも増加傾向にあります。

実務に役立つQ&A

<Q>当社は製造業です。学生アルバイトが従事する業務は、性別にかかわらず大きな違いはありません。ただ、危険有害業務に関して、女性の申出がある際に従事させてはならないなどの制限はあったでしょうか。

<A>均等法は、募集採用に当たって、性別を理由とする差別を禁止しています(5条)。たとえば、営業職は男性、事務職は女性に限定して募集する場合などです。一方、妊娠の有無にかかわらず女性を就かせてはならない業務があり、重量物の運搬(女性則2条1項1号)と有害物の発散する場所(同項18号)となっています(女性則3条)。この2つの業務は、本人が就労しない旨を申し出ない場合であっても、就業が禁止されます。ただし、「有害物の発散場所」すべてが就業制限の対象になるものではありません。

学生アルバイトということで、満18歳に満たない者の危険有害業務の制限にも留意が必要です(労基法62条、年少則8条)。年少則で危険有害業務の就業制限の業務の範囲が定められています。女性則よりも広い範囲で制限していますので、こちらの確認も必要です。

身近な労働法の解説

労働施策総合推進法では、一定数以上の労働者を雇用する企業において、正規雇用労働者の中途採用比率の公表を義務づけています(令和3年4月1日施行)。

1.公表の義務・目的

常時雇用する労働者が300人を超える事業主は、労働者の職業選択に資するよう、正規雇用労働者の採用数に占める中途採用者数の割合を定期的に公表しなければならない、としています(労働施策総合推進法27条の2)。

中途採用比率の公表は、労働者の主体的なキャリア形成による職業生活のさらなる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用に関する環境整備を推進することを目的としています。

このために、中途採用に関する情報の公表を事業主に求めることにより、企業が長期的な安定雇用の機会を中途採用者にも提供している状況を明らかにし、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進していきます。

2.公表の内容

求職者が容易に閲覧できるかたちで「直近の3事業年度の各年度について、採用した正規雇用労働者の中途採用比率」 を公表することが必要です。

公表は、おおむね年に1回、公表した日を明らかにして、インターネットの利用やその他の方法で行います。2度目以降は、前回の公表からおおむね1年以内に、可能な限り速やかに公表するとしています。

(1)直近3事業年度の考え方

例えば、4月1日から3月31日の事業年度の企業が、2022年度の採用活動を終了し、比率が公表できる状態となり2023年10月1日に公表を行う場合は、2022年度(4月1日〜翌年3月31日)、2021年度(同)、2020年度(同)が直近3事業年度です。

(2)正規雇用労働者の中途採用比率の計算方法(例)

正規雇用労働者

の採用数(A)

公表する中途採用比率

(B/A*100により算出した比率の

小数点以下第一位を四捨五入)

うち

中途採用者数(B)

2020年度 46人 16人 16/46*100=34.78・・・ 35%
2021年度 32人 13人 13/32*100=40.62・・・ 41%
2022年度 38人 7人 7/38*100=18.42・・・ 18%

※「正規雇用労働者」とは、パート・有期雇用労働法2条における「通常の労働者」を指します。この「通常の労働者」とは、基本的には、「いわゆる正規型の労働者」を指し、労働契約の期間の定めがないことを前提として、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等を総合的に勘案して判断するものとされています。

※「中途採用」とは「新規学卒等採用者以外」の雇入れを指します。また、雇用している非正規雇用労働者を、正規雇用労働者に転換した場合は、正規雇用労働者に転換した事業年度における中途採用として取り扱います。

その他解釈事項等は、厚生労働省HPでご確認ください。

今月の実務チェックポイント

今回は令和6年4月から労働者の募集や職業紹介事業者への求人の申込みの際に明示すべき労働条件が追加されることについて説明します。

○労働条件の明示義務

職業安定法第5条の3第2項において、「求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体または職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者または供給される労働者が従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。この明示しなければならない労働条件が令和6年4月1日より3つの事項について追加されることとなります。これは、労働基準法の改正による労働契約締結時の労働条件の明示義務と同様の改正となります。

○労働条件の明示追加3事項

求職者等に対して明示しなければならない労働条件に、新たに追加される3つの事項は次の表の通りとなります。

追加される明示事項
従事すべき業務の変更の範囲
就業場所の変更の範囲
有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

※「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換などの今後の見込みも含めた、締結する労働契約における変更の範囲のことをいいます。

○追加3事項の具体例

具体的な記載例は次の通りです。

業務内容 (雇入れ直後)法人営業

(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般

(雇入れ直後)経理

(変更の範囲)法務の業務

 

就業場所 (雇入れ直後)大阪支社

(変更の範囲)本社および全国の支社、営業所

(雇入れ直後)渋谷営業所

(変更の範囲)都内23区内の営業所

※在籍出向を命じることがある場合で、出向先での就業場所や業務が出向元の会社の変更の範囲を超えるときには、そのことを明示する必要があります。

 

契約期間 期間の定め有り(2024年4月1日~2025年3月31日)
契約の更新 有(契約期間満了時の業務量、勤務成績により判断)

通算契約期間は4年を上限とする

契約の更新 有(自動的に更新する)

契約の更新回数は3回を上限とする

※「諸般の事情を総合的に考慮したうえで判断する」というような抽象的なものではなく、「勤務成績、態度により判断する」、「会社の経営状況により判断する」など、具体的に記載することが望ましいとされています。

労働基準法の改正による労働契約締結時の労働条件の明示義務と一緒に、しっかりと把握して、令和6年4月から対応できるようこちらも準備しておきましょう。

助成金情報

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)

次の①②の場合に中小事業主に助成金を支給することで、仕事と介護の両立支援の推進を目的としています。

① 「介護支援プラン」を策定し、プランに基づき労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰の取組を行い、介護休業を取得した労働者が生じた場合

② 仕事と介護の両立に資する制度(介護両立支援制度)を利用する労働者が生じた場合

【主な要件】

1 介護休業

〇 休業取得時

・介護休業の取得、職場復帰について、プランにより支援する措置を実施する旨を、あらかじめ労働者へ周知すること。

・介護に直面した労働者との面談を実施し、面談結果を記録した上で介護の状況や今後の働き方についての希望等を確認の上、プランを作成すること。

・プランに基づき、業務の引き継ぎを実施し、対象労働者が合計5日(所定労働日)以上の介後休業を取得すること。

〇 職場復帰時

・「休業取得時」の受給対象である労働者に対し、介護休業終了後にその上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録すること。

・対象労働者を、面談結果を踏まえ原則として原職等に復帰させ、原職等復帰後も申請日までの間、雇用保険被保険者として3カ月以上継続雇用していること。

業務代替支援加算:職場復帰時への加算

介護休業取得者の代替要員の新規雇用(派遣を含む)または代替する労働者への手当支給等を行い、かつ、休業取得者を原職等に復帰させた場合

 

2 介護両立支援制度(介護のための柔軟な就労形態の制度)

・介護両立支援制度の利用について、プランにより支援する措置を実施する旨を、あらかじめ労働者へ周知すること。

・介護に直面した労働者との面談を実施し、面談結果を記録した上で介護の状況や今後の働き方についての希望等を確認のうえ、プランを作成すること。

・プランに基づき業務体制の検討を行い、以下のいずれか1つ以上の介護両立支援制度を対象労働者が合計20日以上(⑥⑧を除く)利用し、支給申請に係る期間の制度利用終了後から申請日までの間、雇用保険被保険者として継続雇用していること。

① 所定外労働の制限制度(所定労働時間を超えて労働させない制度)

② 時差出勤制度(1日の所定労働時間を変更することなく始業または終業の時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度)

③ 深夜業の制限制度

④ 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度)

⑤ 介護のための在宅勤務制度(介護のため、情報通信技術(ICT)を活用して在宅勤務を利用できる制度)

⑥ 法を上回る介護休暇制度(要介護状態にある対象家族の介護その他厚生労働省令で定める世話を行うため、有給であって時間単位で利用できる休暇制度)

⑦ 介護のためのフレックスタイム制度

⑧ 介護サービス費用補助制度(労働者が利用する介護サービスの費用の一部を事業主が補助する制度)

 

1(休業取得時)または2への加算:個別周知・環境整備加算

介護を申し出た労働者に対する個別周知および仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備を行った場合、具体的には

・受給対象労働者に対し、介護休業・両立支援制度の自社制度の説明を資料により行うこと

・受給対象労働者に対し、介護休業を取得した場合の待遇についての説明を資料により行うこと

・社内の労働者向けに、仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備の措置を2つ以上講じること

【支給額】

1 介護休業 休業取得時 30万円
職場復帰時 30万円
業務代替支援加算 新規雇用20万円、

手当支援等5万円

2 介護両立支援制度 30万円
1または2への加算 個別周知・環境整備加算 15万円

※1、2いずれも1事業主1年度5人まで支給。

詳細な要件および申請方法等は 厚生労働省HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

 

 

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