月刊人事労務だより~2022年9月号~

トピックス

最新・行政の動き

厚労省は、精神障害に関する労災認定請求の大幅増加を受けて、認定基準の見直しに向けた検討を進めています。認定基準全般を検証し、より迅速・的確に心理的負荷を評価できるようにするのが狙いです。

厚労省は、見直しに向けて議論している有識者検討会に対し、業務による心理的負荷につながる具体的出来事を記載した「評価表」の見直し案(たたき台)を提示。現行の評価表において、上司とのトラブルや、同僚等からの暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせなどを具体的出来事として示している「対人関係」に関する項目として、カスタマーハラスメントを追加するとしました。

カスハラに関する具体的な項目として、「顧客や取引先、施設利用者等から(著しい)迷惑行為を受けた」を盛り込みます。迷惑行為の例には、暴行、脅迫、暴言のほか、著しく不当な要求を挙げる方針です。

また、最近の職場環境の変化を踏まえ、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務への従事」も具体的出来事に追加する考えです。

ニュース

健康経営 中小もPDCA追加に 上位500社の選出基準

経産省は、健康経営を推進している企業を認定する「健康経営優良法人認定制度」の評価要件を見直します。中小企業を対象に特に優良な上位500社を認定している「ブライト500」の選出基準について、取組みに関する発信状況などを問う現行の3項目に加え、新たに「PDCAに関する取組み状況」と「経営者・役員の関与度合い」の2項目を追加します。

「PDCA」は、健康経営に持続的に取り組み、より良い方向に進められるかを測る基準として追加しました。前年度の健康経営の実施状況や、今年度の推進方針を問います。「経営者の関与」では、経営者自らが取組みに参加しているか、方針決定の議論に参加しているかなどを問うことで、健康経営の推進を促します。

健康経営優良法人に認定された企業は専用のロゴマーク(下図)を表示できるほか、金融機関による金利引下げ、各地域の自治体の補助金、公共調達の加点などが受けられます。昨年度は、中小企業1万2255法人が認定されています。

新規採用以降は会社の「責」 賃金支払いを命じる 東京高裁

飲食店を展開する会社で働くアルバイト労働者が合意退職は無効と訴えた裁判で、東京高等裁判所は労働契約上の地位確認のみ認めた一審判決を変更し、一部期間のバックペイ支払いを命じました。

労働者は平成31年3月12日の勤務終了後、店長に「3月末か4月半ばには辞める」と告げ、以降のシフト希望を提出せず出勤もしませんでした。店長は翌3月13日には取締役に労働者の退職を報告し、採用活動の開始を決定。4月10日に店長が社会保険の喪失について確認する電話をかけると、労働者は「辞めると言っていない。今は休むが復帰するつもり」と告げましたが、復職時期は明らかにしませんでした。同月下旬、同社は社会保険と雇用保険の資格を喪失させ、退職扱いとしました。

労働者は合同労組に加入し、復職を求める要求書を出し、団体交渉を5回重ねましたが、双方の認識に齟齬があり、交渉はまとまりませんでした。

同高裁は、労働者が団交を通じて復職の意思を明確にし、同社が復職意思を認識しながら、同店舗でアルバイトを新たに雇用した令和2年3月以降は、同社の責めに帰すべき事由により就労できなかったと指摘しています。

旅先でも勤務可能に 事前申請で最長1カ月 ミクシィ

㈱ミクシィは、最長で1カ月間、帰省した実家やコワーキングスペースでの就業を可能にする「マーブルロケーション」の試験運用を開始しました。就業場所の事前申告により、旅先などでのリモートワークを認めます。12~15時をコアタイムと定めるフレックス制は、通常どおり適用します。

対象は契約社員を含む単体従業員約1200人で、10月末まで試験的に取り組みます。申請できる勤務場所はセキュリティーを確保できる個室などに限定し、カフェなどのオープンスペースの利用は認めません。実家で働くケースなど、すでに計6件の申請を受け付けました。

同社では、今春から出社と在宅勤務を併用するマーブルワークスタイルを正式に導入。業務に支障がないことを前提にフルリモートも認め、遠方への移住を可能としています。一方、新制度は自宅限定とするリモートワークのルールを緩和するもので、試験運用を通じて生産性向上などへの効果を把握し、正式な制度化を検討します。

若手管理職層を応援 女性リーダー 表彰新設で 大阪商議所

大阪商工会議所は、企業における女性の役員・管理職登用や女性リーダー同士のネットワーク構築を推進するため、「活躍する女性リーダー表彰(ブルーローズ表彰)」を新設しました。前身の大阪サクヤヒメ表彰が主に実績を評価していたのに対し、今後の社内外での活躍の可能性を評価項目に加え、若い女性の応募を促しています。

サクヤヒメ表彰は2016年度から5年間の期間限定事業で、計227人を表彰しました。表彰者は女性活躍のロールモデルとして後進育成に貢献し、自発的に研究会や大阪・関西万博に向けたイベントを開くなどの成果もあったことから、期間終了後、新表彰を創設しました。

新表彰の対象は、同商議所会員企業の女性役員や管理職など。所属する企業からの推薦応募が基本となります。同商議所は「経営トップだけでなく、管理職になりたての女性も表彰することで、自信を持ってもらいたい」としました。表彰式は来年3月8日の国際女性デーに開く予定。50人程度の表彰を見込んでいます。

送検

16歳少年に高所作業 墜落労災で 建設業者送検 豊橋労基署

愛知・豊橋労働基準監督署は、昨年11月に発生した墜落労働災害に関連し、18歳未満の年少者に5m以上の高所で作業をさせたとして、名古屋市の建設業者と同社の現場責任者を労働基準法第62条(危険有害業務の就業制限)違反の疑いで、名古屋地検豊橋支部に書類送検しました。屋根の踏み抜きによる墜落防止策も講じられていなかったとして、労働安全衛生法第21条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いでも送検しています。

労災は愛知県豊橋市の倉庫改修工事現場で発生。同社の労働者である当時16歳の少年が高さ6.3mの屋根の葺き替え作業を行っていた際に、プラスチック製の明かり取り窓を踏み抜いて墜落し、右膝蓋骨骨折による後遺障害のおそれがあるケガを負いました。

同労基署によると、同社は少年を常時雇用しており、災害発生時以外にも何度か高所作業をさせていたといいます。「建設業で年少者が働いているケースは少なくない。年少者労働基準規則の周知を徹底していく」と話しました。

監督指導動向

自動車運送業の8割超で法令違反 違法時間外労働が最多に

厚労省は、トラック、バス、タクシーなど自動車運転者を使用する事業場を対象に令和3年に行った監督指導の結果を明らかにしました。調査した3770事業場のうち、81.0%に当たる3054事業場で、違法な時間外労働など労働基準関係法令違反を確認しました。度重なる指導を受けても是正しないなど重大・悪質事案として送検したのは42件となっています。

項目ごとに違反率をみると、36協定の未締結や協定範囲を超えた時間外労働に従事させるといった「労働時間」関連が45.1%で最も高く、割増賃金の一部または全部を支払わない「割増賃金の支払い」が21.2%、客観的に労働時間を把握しない「時間把握」が7.5%と続きます。

一方、改善基準告示の違反割合は53.3%(2010事業場)。最長16時間と定めている1日当たりの拘束時間違反が39.1%とめだちます。次いで、1カ月または1週当たりの拘束時間違反が29.7%、勤務と次の勤務の間の時間を指す休息期間違反が27.5%となりました。

調査

「いじめ」相談9%増 民事上の個別労働紛争

厚労省は、令和3年度の個別労働紛争解決制度の実施状況をまとめました。民事上の個別労働紛争の相談が増加しており、相談内容は「いじめ・嫌がらせ」が10年連続でトップになっています。

法制度の問合せも含め、全国の「総合労働相談コーナー」に寄せられた労働相談は124万2579件で、前年度比3.7%減少。このうち民事上の個別労働紛争は28万4139件で、同1.9%増加しました。

都道府県労働局長が行う助言・指導の申出は同7.1%減の8484件、紛争調整委員会のあっせん委員が仲介するあっせん申請は同11.6%減の3760件でした。

民事上の個別労働紛争相談 内容別の件数

紛争内容では、民事上の紛争の相談、助言・指導申出、あっせん申請のすべてで「いじめ・嫌がらせ」が最多。いじめ・嫌がらせ関連は、相談が同8.6%増の8万6034件で、相談全体の約4分の1を占めました。助言・指導申出は7.8%減の1689件、あっせん申請は7.1%減の1172件でした。

実務に役立つQ&A

第三者行為に該当? 建設資材が原因で事故

通勤途上、工事現場の付近を自転車で通りかかったとき、散乱していた資材に引っかかって転倒、負傷しました。通勤災害になる場合で、ケガの直接の原因は「物」ですが、これも第三者行為災害でしょうか。

労災保険給付の原因となった業務上または通勤災害が第三者の加害行為等によって発生した場合を第三者行為災害と称しています(労災法12条の4)。第三者行為災害が成立するためには、①保険給付の原因となった災害が第三者の行為等によって生じたものであること、②第三者が受給権者に対し損害賠償責任を負っていることの要件をいずれも満たす必要があると解されています。

人の加害行為によって災害が発生した場合のみならず、土地の工作物等の設置または保存に瑕疵があり、民法の規定に基づきその占有者または所有者が損害賠償責任を負う場合、および動物の加害によって災害が発生した場合でその占有者等が民法の規定に基づき損害賠償責任を負う場合等も含まれます(第三者行為災害事務取扱手引)。事故の実態によることになりまして、管轄の労働基準監督署で第三者行為災害の相談をすることをおすすめします。

身近な労働法の解説 ―求人等に関する情報の的確な表示―

職業安定法が改正され、労働者の募集を行う際のルールが変わります。

令和4年10月1日施行の改正職業安定法では、求職者が安心して求職活動をできる環境の整備を目的として、求人企業に対して、「求人情報」や「自社に関する情報」の的確な表示が義務付けられます。

  • 虚偽の表示・誤解を生じさせる表示はしてはなりません。
  • 求人情報を正確・最新の内容に保つ措置を講じなければなりません。

1.対象となる情報

広告や連絡手段※を通じて提供される求人情報・求職者情報が幅広く対象となります。

※対象の広告・連絡手段・・・新聞・雑誌・その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出・頒布、書面、ファックス、 ウェブサイト、電子メール・メッセージアプリ・アプリ等、放送(テレビ・ラジオ等)、オンデマンド放送等

2.虚偽の表示の禁止

「実際に募集を行う企業と別の企業の名前で求人を掲載する」「『正社員』と謳いながら、実際には『アルバイト・パート』の求人であった」「実際の賃金よりも高額な賃金の求人を掲載する」ような場合は、虚偽の表示に該当する場合があります。

3.誤解を生じさせる表示をしないための注意点

虚偽の表示ではなくとも、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、「誤解を生じさせる表示」に該当します。例えば求人票において以下のような点に注意します。

  • 「業務内容」の職種や業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称(例:契約社員の募集を「試用期間中は契約社員」など、正社員の募集であるかのように表示する)を用いてはなりません。
  • 「賃金」について、「固定残業代の基礎となる労働時間数等を明示せず基本給に含めて表示する」「モデル収入例を必ず支払われる基本給のように表示する」などしてはなりません。

4.正確かつ最新の内容に保つ措置

以下の措置を講じるなど、求人情報を正確・最新の内容に保たなければなりません。

  • 募集を終了・内容変更したら、速やかに募集に関する情報の提供を終了・内容を変更する。(例:自社の採用ウェブサイト等を速やかに更新する)
  • 求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用している場合は、募集の終了や内容変更を反映するよう速やかに依頼する。
  • いつの時点の求人情報か明らかにする。(例:募集を開始した時点、内容を変更した時点等)
  • 求人メディア等の募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正・変更を依頼された場合には、速やかに対応する。

5.自社に関する情報

自社に関する情報についても、「上場企業でないにも関わらず、上場企業であると表示する」「実際の業種と異なる業種を記載する」ような表示をしないようにする必要があります。

今月の実務チェックポイント

令和4年10月からの育児休業期間中の社会保険料免除について

今回は令和4年10月から見直される社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の免除について説明します。令和4年10月1日以後開始する育児休業について適用されますのでご注意ください。

○育児休業期間中の社会保険料免除制度とは

育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等の期間について、被保険者から申し出があった場合に事業主が「育児休業等取得者申出書」を年金事務所等へ提出することにより、被保険者負担分および事業主負担分ともに社会保険料が免除される制度です。免除されることによる不利益はありません。

○令和4年10月からの社会保険料免除について
(1)月にかかる社会保険料の免除について

次の1.、2.のいずれかに該当する場合に、その月にかかる社会保険料が免除されることとなります。

  1. 月の末日が育児休業期間中である月
  2. 同月内に14日以上の育児休業等を取得した月

<1.の例>

8月は末日が育児休業期間中であるため、この場合は8月分の保険料が免除されます。

<2.の例>

同月内に14日以上育児休業を取得しているため、この場合は8月分の保険料が免除されます。

(2)賞与にかかる社会保険料の免除について

末日が育児休業期間中である月に支給される賞与について、育児休業等の期間が暦日で1カ月超の場合に限り、賞与にかかる社会保険料が免除されることとなります。月にかかる社会保険料の免除とは考え方が異なりますので、混同しないよう注意しましょう。

8月は末日が育児休業期間中ですが、育児休業が暦日で1カ月超でないため、この場合は8月に支給された賞与の社会保険料は免除になりません。

○その他の注意点

連続して2つ以上の育児休業等を取得している場合は、2つ以上の育児休業等を1つの育児休業とみなして社会保険料免除の制度を適用することとなりますので、この点もご注意ください。

助成金情報

今月の業務スケジュール

労務・経理 慣例・ 行事
  • 8月分の社会保険料の納付
  • 8月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 固定資産税(都市計画税)(第2期分)の納付
  • 防災訓練
  • 健康増進普及月間
  • 障害者雇用支援月間

 

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