月刊人事労務だより~2022年2月号~

目次

◆最新・行政の動き

厚労省は、改正育介法の円滑な施行に向け、Q&Aやモデル規定・書式等を公開しました。改正法は、令和4年4月から段階施行されますが、企業では、新設された意向確認義務等の実施体制整備、就業規則等の改正等が急務となっています。

4月からの「育児休業等の情報提供」については、妊娠・出産の申出時に「制度周知は不要」と意思表示した従業員に対しても、法定の措置を講じる義務は発生すると指摘(書面で対応も可)。さらに、意向確認時に「休業取得予定なし」と回答した従業員であっても、正式な申出があれば、休業付与を拒めない点などを明らかにしています。

10月からの出生時育児休業に関しては、労使協定等の所要の手続きを踏めば、休業中の一部就労(あらかじめ出社予定決定)も可能ですが、その規定・書式例等も示しました。

◆ニュース

◆監督指導動向

健保の傷病手当金について「支給期間の通算化(本ページ上欄参照)」が実施されましたが、それに伴い、同手当金と労災給付の併給調整事務に関する通知が発出されました(令3・11・30保保発1130第1号)。

傷病手当金は、同一傷病について労災保険給付等を受けることができる場合、支給されません(労災保険等優先)。令和4年1月1日以降、必要があると認めるときは、被保険者の同意がない場合であっても、労災給付の支給状況につき、労基署等に対して照会可能となりました。

併給を避けるため、「保険者が、申請者に対し、労災保険の受給状況を確認し、請求中の場合も支給決定後速やかに連絡するよう求める」等の対応を求めています。

◆送検

派遣先企業が「労災隠し」 指を挟まれ骨折 刈谷労基署

愛知・刈谷労基署は、派遣労働者の労災で死傷病報告を提出しなかったとして、金属プレス加工業者と同社取締役を名古屋地検に書類送検しました。

派遣労働者は、同社工場内で、プレス機械を用いる金属製品の曲げ作業に従事していましたが、左手親指を動力プレス機械に挟まれました。骨折により、181日の休業を余儀なくされています。

派遣労働者を雇用しているのは、派遣元の事業者です。しかし、派遣先で働いている間の事故については、派遣法の読替規定により、派遣先も事業者としての責任を負います。

死傷病報告については、派遣先が作成し、労基署に提出し、その写しを派遣元に送付する規定(派遣則42条)となっています(それに基づき派遣元も提出)。同社は、この規定を順守せず、報告の提出を怠っていたものです。

◆実務に役立つQ&A

事業主に費用徴収? 社会保険料滞納中ケガ


資金繰りの悪化から社会保険料の納付が遅れたとします。滞納中に傷病手当金の支給対象者が出たときに、費用を徴収されてしまうようなことはあるのでしょうか。労災保険にはそういった仕組みがあったと思いますが…。


健康保険や厚生年金の保険料等の納付が遅れると、延滞金が課せられることがあります(健保法181条)。

まず、保険者から、期限を指定して督促があり、指定期限までに納付できない場合、未納の保険料に本来の納付期限の翌日から3カ月については年利2.5%、その後は年利8.8%(日本年金機構※延滞金の割合は令和3年1月から12月まで)の延滞金が加算された額が徴収されます。指定期限までに納付すれば延滞金は課せられません。

労働保険(労災保険料や雇用保険料)の一般保険料の滞納期間中(督促状の指定期限後に限る)に業務災害や通勤災害が発生し、労災保険給付が行われた場合、保険給付額の40%を上限として、事業主がかかった費用を徴収されることがあります(労災法31条)。

健保の傷病手当金等には、事業主に対する費用徴収の定めはありません。

◆調査

総務省「令和2年国勢調査」

5年に一度の国勢調査(令和2年・人口等基本集計)の結果が、公表されました。2020年10月1日時点でみた日本の総人口は、1億2614万6000人で、前回(2015年)と比べ、94万9000人減少しています。

都道府県別では、8都県で人口が増加し(増加率が高い順に、東京、沖縄、神奈川、埼玉、千葉、愛知、福岡、滋賀)、それ以外の39道府県は減少しました。

人口は、労働力と消費の双方を生み出す源泉です。しかし、「増加が加速(増加幅が拡大)」が5都県なのに対し、「減少が加速」は33道府県で、地方の過疎化が進んでいます。

政府は、Uターン、Iターン、Jターンの推進に努めていますが、効果は限定的なようです。

都道府県別2010年~2015年及び2015年~2020年の人口増減の関係

都道府県別2010年~2015年及び2015年~2020年の人口増減の関係

高齢化の進行も、経済活力の低下を招くおそれがあります。65歳以上人口が全体に占める割合は、5年前の26.6%から28.6%に上昇しました。

イタリアの23.3%やドイツの21.7%よりも高く、世界で最も高い水準です。65歳以上の高齢者が就労する場を増やすため、個々の企業は、社内体制の整備に向け、さらに知恵を絞る必要があるでしょう。

年齢(3区分)別人口の割合の推移(1920年~2020年)

年齢(3区分)別人口の割合の推移(1920年~2020年)

◆職場でありがちなトラブル事例

失業給付までの「つなぎ」資金を要求 出社日目前に内定取消し

A社に勤務していたBさんは、ハローワークの紹介によりC社の採用面接を受け、内定通知書を受け取りました。

転職に備え、日数的に余裕をもってA社を退職したところ、C社の入社日1週間前に、採用取消の通知を受けました。

「行き場を失った」Bさんは、雇用保険の基本手当が出るまで3カ月分の賃金補償を求めましたが、C社は0.8カ月分を支払うと回答してきました。

金額面で両者の折り合いがつかず、Bさんは紛争調停委員会によるあっせんを申請しました。

従業員の言い分
A社の退職は「自己都合扱い」なので、ハローワークに求職に行っても、基本手当の支給は3カ月後(紛争当時の規定)になります。
まさか内定から1カ月ちょっとで取消通知を受けるとは想像もせず、再就職の予定も全く立っていません。基本手当が出るまで「つなぎ」の補償(採用内定時の提示金額の3カ月分)を要求します。

事業主の言い分
約束した賃金(採用内定時の賃金)の0.8カ月分という金額は、A社を解雇された場合の予告手当の金額をベースに算定したものです。
受入れ予定部門の突然の採算悪化により、採用を断念するほかなくなり、Bさんには大変申し訳ないですが、会社の営業状態からいって要求額を支払える状況ではありません。

【 指導・助言の内容 】
Bさんの3カ月分の支払い要求、C社の0.8カ月分という回答、ともに法的な根拠もなく、妥当な金額とも思えない点を指摘し、金額面での歩み寄りを求めました。
自社の非を認めるC社の方で、倍額(お詫び料も含め1.6カ月分)という提示がなされたので、それをベースにさらに両者の話し合いを促しました。

【 結果 】
C社がBさんに対し、「採用内定時に約束していた賃金額の2カ月分を支払う」という内容で和解が成立しました。

◆身近な労働法の解説 ―70歳までの就業機会確保〜高年齢者雇用安定法(2)―

今回は、高年齢者雇用安定法における70歳までの就業確保措置について解説します。
65歳までは「雇用」を確保する措置(義務)ですが、70歳までは「雇用または就業の機会」を確保する措置(努力義務)という点で異なっています。

1.改正高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。

2.高年齢者就業確保措置(10条の2)

定年を定めている事業主、または継続雇用制度を導入している事業主は、以下1.〜5.のいずれかの措置を講じることにより、65歳から70歳までの安定した雇用の確保措置(4.と5.は、過半数労組等の同意を得て、雇用によらない措置=創業支援等措置)を講ずるよう努めなければなりません。

  1. 定年の引上げ
  2. 65歳以上継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入
  3. 定年制の廃止
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    1. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
    2. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

3.高年齢者就業確保措置の実施及び運用に関する指針(厚労省告示 令2・10・30 351号)の一部

    1. 65歳以上継続雇用制度を導入する場合において、他の事業主により雇用を確保しようとするときは、事業主は、当該他の事業主との間で、当該雇用する高年齢者を当該他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結する必要があること。
    2. 他の事業主において継続して雇用する場合であっても、可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識・経験・能力等に応じた業務内容および労働条件とすべきことが望ましいこと。
    3. 他の事業主において、継続雇用されることとなる高年齢者の知識・経験・能力に係るニーズがあり、これらが活用される業務があるかについて十分な協議を行った上で、1.の契約を締結する必要があること。
    4. 心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができること。
    1. 前述2.5.1.に掲げる事業に係る措置を講じようとするときは、事業主は、社会貢献事業を実施する者との間で、当該者が当該措置の対象となる高年齢者に対して当該事業に従事する機会を提供することを約する契約を締結する必要があること。
    2. 過半数労組等に対して、創業支援等措置による就業は労働関係法令による労働者保護が及ばないことから、創業支援等措置の実施に関する計画(実施計画)に記載する事項について定めるものであることおよび当該措置を選択する理由を十分に説明すること(実施計画に記載する事項について留意点あり)。
    3. 創業支援等措置により導入した制度に基づいて個々の高年齢者と契約を締結する際には、書面により契約を締結すること(就業条件を記載すること)。この際、実施計画を記載した書面を交付すること。契約を継続しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられること。契約を継続しない場合は、事前に適切な予告を行うことが望ましいこと。

◆助成金情報

高年齢労働者処遇改善促進助成金

◆今月の実務チェックポイント

随時改定について

今回は昇給などで固定的な賃金に変動があった場合の社会保険の手続きについて説明します。

○「被保険者標準報酬月額変更届」とは

支給額や支給率が決まっている賃金を固定的賃金といい、基本給、役職手当、家族手当、住宅手当などがこれにあたります。昇給や降給、賃金体系の変更によって固定的賃金に大幅な変動があった場合は、実際に受ける報酬と標準報酬月額に大きな差が生じることとなります。したがって、実際の報酬にあった標準報酬月額に変更する必要があり、これを「随時改定」といいます。「被保険者標準報酬月額変更届」という書類で手続きを行うことから、実務上は「月変(げっぺん)」と呼ばれています。

○随時改定を行う条件

随時改定を行うには、次の3つの条件をすべて満たさなければなりません。

  1. 昇給や降給あるいは賃金体系の変更により固定的賃金に変動があった
  2. 変動月以後継続する3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上ある
  3. 変動月以後3カ月間の報酬(時間外勤務手当等の非固定的賃金を含む)の平均額が該当する標準報酬月額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差がある

1.~3.のうちのひとつでも満たさなければ、随時改定を行う必要はありません。
※支払基礎日数とは、賃金の支払いの基礎となった日数です。

○提出先

提出先は健康保険の保険者によって次のいずれかとなります。

健康保険の保険者 提出先
全国健康保険協会 (協会けんぽ) 日本年金機構の事務センター
健康保険組合 日本年金機構の事務センターおよび健康保険組合

※厚生年金基金に加入している事業所は、厚生年金基金にも提出します。

○1等級差でも随時改定を行う場合

標準報酬月額には上限と下限があるため、大幅に報酬が変動しても2等級差が出ないことがあります。次のような場合は1等級の差でも随時改定が行われることとなりますのでご注意ください。

区分 変動 現在の
標準報酬月額
報酬の
3カ月平均額
改定後の
標準報酬月額
厚生年金保険 昇給 31等級
620千円
665千円以上 32等級
650千円
1等級
88千円
報酬月額83千円未満
93千円以上 2等級
98千円
降給 32等級
650千円
報酬月額665千円以上
635千円未満 31等級
620千円
2等級
98千円
83千円未満 1等級
88千円
健康保険 昇給 49等級
1,330千円
1,415千円以上 50等級
1,390千円
1等級
58千円
報酬月額53千円未満
63千円以上 2等級 68千円
降給 50等級
1,390千円
報酬月額1,415千円以上
1,355千円未満 49等級
1,330千円
2等級
68千円
53千円 1等級
58千円

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 1月分の社会保険料の納付
  • 1月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 前年分所得税の確定申告(2月16日から3月15日まで)
  • 固定資産税(都市計画税)(第4期分)の納付
  • 贈与税の申告・納付(2月1日から3月15日まで)

慣例・行事

  • 社内規定の見直し
  • 新年度の経費削減策の検討
  • 新入社員受入計画作成・入社前研修

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