月刊人事労務だより~2021年4月号~

目次

 

○ 最新・行政の動き

今通常国会に、健保法の改正案、育介法の改正案が上程されました。人事労務関連では、この2つが令和3年度改正の目玉となります。

健保法については、改正の目的として「全世代の安心のための給付と負担の見直し」「子ども・子育て支援の拡充」等が挙げられています。育児休業中の保険料免除要件の見直し(男性の短期取得を想定した改正)、傷病手当金の支給要件期間の改正(休業期間の計算を「通算ルール」に変更)、任意継続被保険者の「任意脱退制」の導入等が柱です。

育介法の改正は、男性の育児休業取得促進を目指すものです。男性をターゲットとした「出生時育児休業(出生後8週以内に4週付与)」の創設、通常の育児休業(男女共通)の分割可能化、育児休業取得意向の個別確認の義務化等を内容とします。

○ ニュース

「カスハラ」でマニュアル作成へ 省庁連携し対応策示す

厚労省は、「顧客からの著しい迷惑行為」に関する防止対策の推進に向け、関係省庁横断的な連携会議をスタートさせました。

対象となるのは、カスタマーハラスメントやクレイマーハラスメント(顧客・消費者・取引先からの悪質なクレームや不当な要求)です。

連携会議には、厚労省のほか、経済産業省、国土交通省、農林水産省に加え、オブザーバーとして法務省、警察庁も参加します。

仕事上で接する顧客等には、会社の就業規則の適用がないため、効果的な対策を取るのは困難です。一方で、企業は労働契約締結に伴い、安全配慮義務が生じ、外部からの迷惑行為についても、労働者の心身の健康確保が求められます。

会議では、職場のパワーハラスメントとの相違点を踏まえた実態調査を踏まえ、令和3年度中にマニュアルをまとめる方針です。

部下の過労死で重過失 取締役に賠償命令

従業員の遺族が脳出血による死亡は長時間労働が原因と訴えた事案で、東京高等裁判所は会社と取締役に2355万円の賠償金支払いを命じました。

営業技術係長だった従業員は、自宅トイレ内で倒れ、搬送先の病院で死亡しました。発症1カ月前の時間外労働は85時間、2カ月前は月111時間など、残業が続く中での脳疾患死です。

争点は、会社の安全配慮義務違反のほか、取締役の賠償責任です。会社法429条1項では、「役員は、重過失によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

判決によると、「直属の取締役は、過労死の危険性を容易に認識できたにもかかわらず、『他の従業員に代わってもらうよう声がけする』等のほか、業務量を減らす実効性ある措置を講じていなかった」と述べ、重過失があったと認定しました。

一方、本社常駐の社長・会長については、遠隔地にある支社の増員検討等には一定の時間が必要であったとし、賠償責任を否定しました。

全国どこでも「居住地不問」 テレワーク化で可能に

転職サービス業のパーソルキャリア㈱は、令和3年4月から、居住地を問わない「フルリモートワーク制度」を順次導入します。

所属長への申請・許可を得て、「原則出社なし」の働き方に移行しますが、その後は住む場所を問いません。

介護のため帰郷したり、配偶者の転勤で引っ越したりしても、当初の所属・業務に変わりありません。ただし、全国に30ある拠点のいずれかに片道2時間程度で出社できることが条件となります。

従来は東京勤務が前提だったエンジニアなどの職種に、転居せずに挑戦することもできます。全社員5500人のうち、職業紹介に従事しない2000人を対象とします。

9割が「労使協定」を選択 派遣の待遇決定方式

令和2年4月施行の改正派遣法では、派遣元は、「同一労働同一賃金」の確保に向け、「派遣先均等・均衡方式(派遣先の正社員に合わせる)」または「労使協定方式(協定により局長通達で定める待遇を確保)」のいずれかを選択しなければならないとしています。

法律上は「均等・均衡方式」が原則で、「協定方式」は特例という位置づけです。しかし、厚労省の調査によると、協定方式の選択が87.8%と圧倒的に多く、均等・均衡方式は8.2%にとどまっています。両方式併用は4.0%でした。

協定方式は、派遣先の賃金水準と関係なく、派遣労働者代表との協議で賃金水準を決定できるため、導入しやすいといわれていました。同方式の場合、派遣先が変わっても、求める能力レベルが同じなら、待遇を変更する必要がありません。

退職金に関しては、「毎月の賃金で前払い」が52.3%でもっとも多く、「退職金制度の適用」36.4%、「中退共への加入」6.3%という状況となっています。

都道府県格差1.18%に 協会けんぽの保険料率

協会けんぽの新年度(令和3年度)・都道府県別保険料率が公表されました。全国平均は10%を維持しましたが、料率がもっとも高い佐賀ともっとも低い新潟の差は1.18%(令和2年度は1.15%)でした。

地域格差の拡大は、政府の方針に基づくものです。3年度は、「インセンティブ(報奨金)」制度の適用2年目に当たります。同制度は、医療費削減に向けた取組み実績が上位の都道府県に報奨金を支給し、保険料率を下げる仕組みです。

政府は健保財政の改善に向け、インセンティブ制を強める方針を掲げています。成長戦略フォローアップ(令和2年7月閣議決定)では、成果指標拡大や配分基準のメリハリ強化などを検討し、3年度中に一定の結論を得るとしています。

○ 監督指導動向

令和3年4月から、中小企業を対象として「同一労働同一賃金(改正パート・有期雇用労働法)」の適用が開始されます。適用猶予の期限が迫るなか、愛知労働局は、管内中小企業の自主点検結果をまとめました。

集計の対象となったのは、昨年10月末、パート・有期雇用労働者の多い製造業、医療・福祉業、通信業の518社です。

不合理な待遇差の有無について「対応済み」または「期限までに対応予定」と回答した企業は96%に達しました。一方、待遇の相違理由ついて「説明準備ができている」とした企業は7割程度にとどまっています。

同労働局は、年度末までに計6回のウェブセミナーを実施するほか、業種ごとに数社を集めての説明会も開く方針です。

 

○ 送検

「替え玉」で検査受ける 放射線の被ばく測定で 富岡労基署

福島・富岡労基署は、電離則に基づく線量測定を怠ったとして、建設業者と同社工事部長を福島地検いわき支部に書類送検しました。

事件が起きたのは、原子力発電所内の解体作業現場です。元請会社の工事部長は、自らタンクの解体作業に従事しましたが、他の従業員に線量測定を受けさせていました。いわゆる「替え玉」行為です。

構内には内部被ばく線量を測定する機器「ホールボディカウンター」が設置されていましたが、事件発覚の3年度ほど前から、24時間無人測定運用をしていました。事後調査の結果、上記のほか、8人が替え玉として検査を受けていたことが判明しました。

同労基署は、「測定実施の権限を与えられている管理者自身が、自らの測定を怠るのは、安全衛生対策の根幹を揺るがす悪質なケース」とコメントしています。

 

○ 実務に役立つQ&A

60歳から夫に転給? 遺族年金の停止解除


女性従業員が、通勤中の交通事故で亡くなりました。遺族は夫と女性の父親ですが、夫は60歳未満のため、労災保険の遺族年金は支給停止の状態です。60歳に達すれば転給されるのでしょうか。


遺族年金の受給資格者となるのは、被災労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。給付の受給権があるのは、このうち最先順位者です(労災保険法16条の2第1項)。

受給順位は、本来、夫の方が亡くなった女性の父よりも上位ですが、妻の死亡当時、夫が55歳以上60歳未満のときは、支給停止の状態となり、受給順位も父の方が上になります(法附則43条3項)。

父の遺族年金の受給権は、死亡など法16条の4で定める事項によって消滅します。夫が60歳に到達したからといって、父の受給権が消滅するわけではありません。

なお、遺族年金は遺族の数によって額が異なっています。夫の支給停止が解除されれば、年金は給付基礎日額153日分から201日分にアップします。

 

○ 調査

厚労省「令和2年上半期・雇用動向調査」

新型コロナの蔓延により、「人手不足」で四苦八苦していた企業も、一転して、労働力の需給調整を検討するようになりました。

厚労省の調査は、その「潮目」となった令和2年上半期の状況を示すものです。

求人数の落込みを反映し、入職率(常用労働者に対する入職者の割合)は前年同期比で1.2ポイント低下しました。その一方、離職率は前年比0.6ポイントのマイナスで、この時点では、まだ離職者数が増加するという状況には至っていません。

令和2年上半期の常用労働者の動き

令和2年上半期の常用労働者の動き

入職超過率(入職率から離職率を差し引いた数値)の推移をみると、平成26年の2.0ポイントがピークで、それ以降、労働力需給は徐々に緩和に向かっていました。

今回のコロナ騒動により、令和2年上半期の段階では、入職率と離職率が拮抗する(入職超過率=0.0ポイント)状況となっています。

下半期の結果が公表される頃には、新型コロナも「過去の記憶」となっていることを祈るばかりです。

入職超過率の推移(各年上半期)

入職超過率の推移(各年上半期)

 

○ 職場でありがちなトラブル事例

これ以上の退職金上乗せムリ リストラ対象者を説得できず

あっせんというと従業員側が申請するイメージですが、本件は、会社側が紛争調整委員会による解決を求めたケースです。

不動産業を営むA社では、経営合理化のため、一部職種の外部委託化を決め、それに伴い、約100人の従業員が職を失うことになりました。

Bさんに対しては、当初、他部署への異動を提示しましたが、拒否されたため、5カ月分の退職金上乗せという条件で、退職を勧奨しました。

しかし、交渉は暗礁に乗り上げ、いたずらに4カ月が経過しました。このため、労使間での解決はムリと判断したA社が、あっせん手続きを選択したものです。

従業員の言い分
会社は赤字が続くから人減らしするしかないといいますが、希望退職も募集せず、新人採用を続けている状態です。私が異動に応じなかったのは、賃金減額が条件になっているからです。
退職勧奨を拒んだら、嫌がらせのように深夜に及ぶ残業を命じられました。勧奨でなく、実質的に解雇と同じ扱いなので、退職金の増額請求(12カ月分)は当然の権利です。

事業主の言い分
退職金の5カ月分上乗せは破格の条件ですが、Aさんは、会社の説明にいっさい耳を貸さずに、「他の者を退職させるべき」と頑なな態度を取り続けています。
最後の1カ月は、業務指示は出さずに、100%の休業補償を行っている状況で、会社として、取れる手段は尽くしたと思います。

【 あっせんの内容 】 会社側には、「業務削減のため人員合理化が必要といいながら、退職に誘導するために、あえて業務多忙に追い込んだというのが事実であれば、誠意を欠く」と指摘しました。
従業員に対しては、「紛争調整委員会の場では、整理解雇の要件を満たすか否かの判断はしない。仮に訴訟で主張が通っても、会社側の支払い能力にも限界がある」と歩み寄りを促しました。

【 結果 】 「上乗せは6カ月とするが、退職日を3カ月延ばし、その間は休業補償をする」という条件で、合意が成立しました。

 

○ 身近な労働法の解説―雇入れ時安全衛生教育―

4月は新入社員を迎え入れ、人事異動も多い時期です。今回は、雇入れ時に事業者が行う安全衛生教育について解説します。

  1. 雇入れ時の教育
  2. 教育の内容
  3. 留意事項

1.雇入れ時の教育

「事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。」とされています(安衛法59条1項)。
雇入れ時のほか、労働者の作業内容を変更したときは、作業内容変更時教育として雇入れ時と同内容の安全衛生教育を実施します(同条2項)。
その他、危険または有害な業務等一定の業務に労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全または衛生のための特別の教育(特別教育)を行わなければならないとされています(同条3項)。
新入社員研修や配属時研修に含めて実施すると良いでしょう。

2.教育の内容

労働者を雇い入れたときは、遅滞なく、次の事項について、教育を行わなければならないことになっています(安衛則35条1項)。
(1)機械等、原材料等の危険性または有害性およびこれらの取扱い方法に関すること。
(2)安全装置、有害物抑制装置または保護具の性能およびこれらの取扱い方法に関すること。
(3)作業手順に関すること。
(4)作業開始時の点検に関すること。
(5)当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防に関すること。
(6)整理、整頓(とん)および清潔の保持に関すること。
(7)事故時等における応急措置および退避に関すること。
(8)前(1)から(7)に掲げるもののほか、当該業務に関する安全または衛生のために必要な事項
特定の機械や有害物質などの取扱いがないサービス業、社会福祉施設、飲食店や、オフィスワークが中心の業種などについては、(1)から(4)は省略可能です。
上記に掲げる事項の全部または一部に関し十分な知識および技能を有していると認められる労働者については、当該事項についての教育を省略することができます(同条2項)。

3.留意事項

・パートタイマーおよびアルバイトなど、短時間労働者に対しても教育の実施が必要です。
・雇入れ時の教育時間について法令上の規定はありませんが、事業者は労働者が従事する業務を考慮して十分な安全衛生教育を行うことが必要です。
・事業者の責任において実施されなければならないものですので、安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とされています。また、安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間と解されますので、当該教育が法定時間外に行なわれた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないとされています(昭47・9・18基発602号)。
・特別教育を行ったときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを3年間保存しておかなければならないとされています(安衛則38条)。
・派遣労働者については、雇入れ時・作業内容変更時(派遣時)の安全衛生教育は派遣元に、危険有害業務に従事しうるものに対する特別教育は派遣先に実施義務があります。

 

○ 助成金情報

中途採用等支援助成金(UIJターンコース)

○ 今月の実務チェックポイント

出産育児一時金について

今回は、健康保険の被保険者または被扶養者が出産した場合に支給される一時金について説明します。被保険者が出産した場合に支給される一時金を「出産育児一時金」、被扶養者が出産した場合に支給される一時金を「家族出産育児一時金」といいます。

出産育児一時金・家族出産育児一時金の対象となる出産

出産育児一時金・家族出産育児一時金ともに、妊娠4カ月(85日)以上の出産が対象となり、早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的な理由によるものも含む)でも支給されます。また、退職などにより被保険者の資格を失った場合でも、退職日等までに被保険者期間が継続して1年以上あり、資格喪失日から6カ月以内に出産したときは、退職等の前に加入していた健康保険から出産育児一時金を受けることができます。
ただし、資格喪失後に出産育児一時金を受けられるのは被保険者のみで、被扶養者であった者が被保険者の資格喪失日から6カ月以内に出産しても、家族出産育児一時金を受けることはできませんのでご注意ください。
なお、被保険者資格喪失後に被扶養者となった場合には、資格喪失後の出産育児一時金と家族出産育児一時金のどちらかを選択して受給することになり、両方受けることはできません。

出産育児一時金の額

支給額は、出産育児一時金・家族出産育児一時金とも1児につき42万円です(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は40.4万円となります)。多胎児を出産した場合は、出産育児一時金または家族出産育児一時金とも胎児数分支給されることになります。

産科医療補償制度とは

病院、診療所や助産所といった分娩を取り扱う機関が加入する制度であり、加入医療機関等で制度の対象となる一定条件を満たした分娩について、その分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を補償する制度です。

直接支払制度と受取代理制度

出産費用を支払うことによる経済的な負担を軽減するために、全国健康保険協会または健康保険組合から医療機関に出産育児一時金または家族出産育児一時金を直接支払う仕組みがあり、これを直接支払制度といいます。出産費用が一時金の額を超えたときは、医療機関等に一時金との差額を支払い、出産費用が一時金の額を下回ったときは、全国健康保険協会または健康保険組合に申請することにより、被保険者に差額が支給されることになります。

直接支払制度については、医療機関等から直接支払制度利用の意思確認がありますので、直接支払制度を使用する意思がある場合は一時金の申請・受取に係る合意文書を医療機関等と取り交わすことになります。また、直接支払制度は医療機関等に事務的な負担等がかかるため、その負担等により影響が大きいと考えられる施設(年間の分娩件数が100件以下または収入に占める正常分娩にかかる収入の割合が50%以上で、厚生労働省へ届け出た診療所・助産所)については、被保険者に代わって医療機関等が一時金を受け取る「受取代理制度」を利用することができます。したがって、受取代理制度は、直接支払制度に対応していない比較的小規模な医療機関等が利用している場合が多いといえます。

なお、直接支払制度や受取代理制度を被保険者等の意思で利用しない場合、または医療機関等でこれらの制度の導入がない場合は、退院時に出産費用の全額を医療機関等に支払い、後日「健康保険被保険者(または家族)出産育児一時金支給申請書」(全国健康保険協会の場合。健康保険組合の場合は書類名が異なることがあります。)を、事業主を経由して全国健康保険協会または健康保険組合に提出して支給を受けることができます。
直接支払制度または受取代理制度いずれも適用していない医療機関であれば仕方がありませんが、高額な出産費用を一時的に立て替えて支払うことは経済的な負担が大きいため、現実的には直接支払制度または受取代理制度を利用するのがよいでしょう。

 

○ 今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 3月分の社会保険料の納付
  • 3月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、1~3月分)
  • 給与支払報告に係る給与所得者異動届出書の提出

慣例・行事

  • 新入社員入社式、入社手続き、歓迎会
  • 新入社員の社内研修および配属の実施
  • ゴールデンウイーク休暇中の社内体制確立・対外広報

 

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