目次
- 最新・行政の動き
- ニュース
- 監督指導動向
- 送検
- 実務に役立つQ&A
- 調査
- 職場でありがちなトラブル事例
- 身近な労働法の解説―衛生委員会―
- 助成金情報
- 今月の実務チェックポイント
- 今月の業務スケジュール
○ 最新・行政の動き
新型コロナウイルス感染の慢性化を受け、新卒採用の抑制傾向が強まっています。第1の就職氷河期世代(バブル経済崩壊後)に対し、厚労省は活躍支援プランを講じ、正社員化の促進等を図っていますが、「第2の就職氷河期」到来の危険が現実化しています。
来春に卒業する大学生の就職内定率(10月末現在)は69.8%で、前年同期比で7.0ポイント減と厳しい状況となっています。
このため、厚労省と文部科学省、経済産業省などが一体となって、新卒者の就職支援策の強化を図ります。各地域の経済産業局でも、中小企業と多様人材の合同マッチング機会を設ける方針です。
経団連、日商をはじめとする経済団体に対して要請文を交付し、各団体の会長等も新卒者の採用維持・促進に向けた協力の意向を表明しています。
○ ニュース
リスク管理でプログラム 管理者の能力向上を援助
厚生労働省は、管理者向けの「職場リスクマネジメント力向上プログラム」を公開しました。
セクハラ・パワハラ・情報漏えいなど企業ガバナンスの在り方を問われる不祥事が多発する中、企業サイドでは「職場リスクのみえる化」「管理職の危機管理能力向上」等を目指す取組が進められていますが、そうした企業ニーズに応えるのが目的です。
リスクマネジメントの具体的手順としては、まず基本方針を作成した後、社内の業務ごとにリスクを洗い出します。次に、「発生可能性」「影響度」「管理の脆弱性」の3項目により評価し、取組の優先順位を定めます。
それに基づき、実施計画を作成するとともに、定期的に成果目標の達成度合いを管理し、さらなる対策向上に努めます。
詳細については、厚労省のHPから、セミナー動画や関連資料を無料でダウンロードし、利用できます。
試用期間延長が原因 看護師自殺で遺族勝訴
入職して間もなくの看護師(34歳)の自殺で労災認定を求めた裁判で、札幌地方裁判所は、業務起因性を認める判決を下しました。
病院側は、能力不足を理由に試用期間を1カ月延長しましたが、看護師はその前後に適応障害・うつ病を発症し、試用期間終了直前に自殺していました。
遺族は労災請求をしましたが、労基署は不支給と決定、労災保険審査官・労働保険審査会でも判断が覆らなかったため、遺族が裁判を提起したものです。
看護師には「吃音(きつおん)」障害があり、患者からクレームが寄せられることもありました。「報連相」も苦手で、他の新人より指導を受ける回数が多く、緊張のため採血・注射がうまくできないこともあったということです。
裁判所は試用期間の延長について、労災認定基準に定める「達成困難なノルマが課された」「非正規社員である自分の契約満了が迫った」に該当すると評価しました。
そのうえで、看護師は延長後に解雇される可能性を意識し、大きな不安を抱いていたと指摘し、業務内容は精神障害を発症させる強度だったと判示しています。
2%の「底上げ」目標を維持 連合が賃上げ要求方針
令和3年春季の賃上げ交渉は、感染症対策と経済の自立的成長の両立という困難な課題達成に向け、労使が知恵を出し合い、妥結点を見出す必要があります。
連合は、来春の交渉でも「底上げ」「格差是正」「底支え」を基本的な考え方とします。底上げに関しては、「賃金カーブの維持相当分=2%の確保を前提とし、そのうえで2%程度の賃上げ」(6年連続の要求)を求める方針です。
企業間格差の是正に向けた目標としては、35歳(勤続17年相当)28.7万円、最低到達水準25.8万円等の数字を示しました(前年要求水準を維持)。「底支え」では、企業内最低賃金1100円以上の協定締結を目指します。
神津里季生会長は、会見で「雇用と賃上げは二者択一でないということを、社会全体がしっかりと認識していく必要がある」と強調しました。
令和3年度から10%超へ 健康保険組合の財政悪化
政府の規制改革実施計画(令和2年7月閣議決定)で行政手続きに関する押印見直しが明記されたこと等を受け、厚労省は、労基法関連の省令様式から、押印欄を削除します。
対象となるのは労基則、年少則、最賃則、事業附属寄宿舎規程などで、省令改正により、使用者・労働者双方の押印・署名を求めない規定に改めます。これを受け、電子申請時の電子署名の添付も不要となります(令和3年4月1日施行予定)。
協定の当事者である過半数労組(ないときは過半数代表)の適格性については、新たにチェックボックスを設けて確認します。
このほか、労働委員会規則に基づく不当労働行為審査の申立て、あっせん・調停申請などの手続きに関しても、押印不要とする方針です(令和3年12月施行予定)。
雇用調整助成金の特例再延長へ 経済団体等の要請受け
雇用調整助成金の特例措置は令和2年12月31日が期限ですが、政府は年明け以降の2月末まで継続する方針です。
現在、新型コロナ特例により、助成率の拡充や上限引上げ等の緊急措置が講じられています。中小企業で、解雇等を行わず雇用を維持した場合、日額1万5000円を上限に全額助成が行われています。
令和3年1月から段階的に縮小する方針でしたが、11月に入って感染者数が過去最多を更新するなか、現行水準の助成措置を維持すべきとしています。
経団連も、経済の先行き不透明で雇用情勢も予断を許さないため、特例延長を要請していました。雇調金の支給実績は10月末時点で2兆円を超えています。
○ 監督指導動向
“ながら運転”の禁止徹底 デリバリーサービス 厚生労働省
厚生労働省は、デリバリーサービスをめぐる交通トラブルの防止に向けた通達(令2・10・26基安安発1026第2号)を発出しました。日本フードサービス協会等に対し、傘下会員への周知等を要請します。
新型コロナウイルス予防のための外出自粛等により、自転車・電動自転車等によるデリバリーサービスが急拡大していますが、配達中の交通事故も社会問題化しています。
対策としては、初めて仕事に就く配達員を主として、交通ルール・走行前点検等の教育を徹底させるよう求めました。交通ルールに関しては、スマホをみながらの運転禁止、2段階右折、対向車線の右折車への注意等が重要と指摘しています。
具体的には、朝礼時や集合研修時に、災害事例や交通事故情報を紹介し、理解度の確認テスト等を実施するのが適切としました。対人・対物障害に対しては労災保険の適用がないため、損害賠償責任保険への加入も推奨しています。
○ 送検
休日を1カ月付与せず 年末年始の繁忙理由に 茨木労働基準監督署
大阪・茨木労働基準監督署は、違法な時間外・休日労働を行わせたとして、運送会社と同社代表取締役・物流センター所長を大阪地検に書類送検しました。
同社・物流センターでは、年末年始(12月から翌年1月にかけて)の繁忙期に、荷役作業に従事していた正社員5人が違法な長時間労働に従事させられました。
時間外労働は最長で148時間にのぼり、1カ月にわたり1日も休日を取得できなかった従業員もいました。時間外・休日労働(36)協定では、月45時間、4週で2日の休日労働等を上限として定めていました。
同労基署は、「時間外・休日労働の割増賃金は全額支払われていたが、忙しさを理由に協定順守を徹底していなかったようだ」と話しています。
○ 実務に役立つQ&A
80時間以上カウント? 失業給付に12カ月必要だが
雇用保険の失業給付を受給するために必要な被保険者期間を計算するうえで、仕組みが変わったといいます。賃金支払基礎時間80時間以上の月を、離職日からさかのぼる形でカウントしていけば良いのでしょうか。
失業給付の受給には、原則として、離職の日以前2年間に被保険者期間が12カ月以上必要です(雇保法13条1項)。
離職の日からさかのぼった各月をみて、賃金支払基礎日数が11日以上あるものを1カ月と計算するルールでしたが、離職日が令和2年8月1日以降のときには、賃金支払基礎時間数が80時間以上を1カ月として計算する仕組みが設けられました。
時間数をカウントするのは、被保険者期間が原則の12カ月に満たないなど、基本手当の受給資格を満たさない場合です。
離職証明書の具体的な書き方ですが、賃金支払基礎日数11日以上の完全月が12カ月(高年齢被保険者等は6カ月)以上ないとき等は、基礎日数が10日以下の期間について、当該期間における賃金支払いの基礎となった時間数を記入します。
○ 調査
厚生労働省「令和2年・就労条件総合調査」
働き方改革関連法により、平成31・令和元年度から、「年5日の年休の確実な取得(使用者による時季指定)」が義務付けられました。
事前のPR活動等も功を奏し、平成31・令和元年(または平成30会計年度)1年間の年休取得率は56.3%で、前年比3.9ポイント増加しました。
取得率(消化率)は、1年の取得日数(10.1日)を付与日数(18.0日。繰越し分は除きます)で除して算出します。
取得促進の有力策の一つとして、計画的付与制度の整備・拡充が挙げられます。計画的付与を実施すれば、その日数が「5日」から差し引かれ、使用者の時季指定負担が軽減されるからです。
年休の計画的付与制度がある企業割合は43.2%で、前年(平成30年)の22.2%から倍増しています。
○ 職場でありがちなトラブル事例
ミス常習犯を契約社員に 正社員から降格
金融会社で正社員として働くAさんは、仕事熱心ではあるものの、うっかりミスの常習犯。入社して3年がたっても、顧客からのクレームが頻発していました。
やる気が空回りし、疲労の蓄積から、欠勤する日も増えていました。会社としては、業務量が減少していることもあり、本人に対し、退職を勧告しました。
しかし、合意を得られないため、会社は契約社員への降格を通告しました。当然、賃金も減少します。
Aさんは、一方的な降格は納得できないとして、あっせんの申請を行いました。
従業員の言い分 仕事面での能力不足は自分でも痛感しているところですが、自活のために、労働条件の引下げを受入れるのは難しいのが実情です。 できれば正社員への復職を望みますが、雇用の確保が約束されるのであれば、補償金の額については、それほど多くは望みません。
事業主の言い分 就業規則には「勤務成績に応じて降格もあり得る」旨規定していますが、本人の体力的な問題も考慮し、「労働時間も減り、ムリなく働ける契約社員への変更」を決定したものです。 正社員にこだわるのであれば、退職という方向で考えるほかありません。しかし、勤務態度は評価しているので、補償金の要求には応じてもよいと考えています。
【 あっせんの内容 】 正社員復職については、合意の見込みがないため、雇用の継続という線で、落としどころを探りました。Aさんの側から「15万円程度の補償金であれば」という妥協案が示されたので、会社側の意向を確認し、和解手続きを進めました。
【 結果 】 Aさんの「契約社員」としての地位を確認し、解決金として会社側が15万円を支払うという合意文書が交わされました。
○ 身近な労働法の解説―衛生委員会―
一定規模以上の事業場では、労働安全衛生法(以下「安衛法」)に基づく衛生委員会を設置しなければなりません。今回は、衛生委員会について解説します。
- 衛生委員会を設置する事業場(安衛法18条1項)
- 衛生委員会のメンバー(安衛法18条2項)
- 衛生委員会の会議(安衛則23条)
- その他
1.衛生委員会を設置する事業場(安衛法18条1項)
衛生委員会は、全業種について、当該事業場において日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数が50人以上の場合に設置する義務があります。
衛生委員会では、労働者についてのI.〜IV.を調査審議させます。
- 健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること
- 健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること
- 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること
- 前1.〜4.に掲げるもののほか、健康障害の防止及び健康の保持増進に関する※重要事項
※重要事項の例(詳細は安衛則22条(衛生委員会の付議事項)参照)
- 衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること
- 定期健康診断等の結果に対する対策の樹立に関すること
- 長時間にわたる労働による健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
- 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
2.衛生委員会のメンバー(安衛法18条2項)
① | 総括安全衛生管理者、または当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者、もしくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者1名(議長) |
② | 衛生管理者のうちから事業者が指名した者 |
③ | 産業医のうちから事業者が指名した者 |
④ | 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者 |
議長以外の委員の半数については、過半数労組(過半数労組がない場合は労働者過半数代表者)の推薦に基づき指名しなければならないとされています。
つまり、議長以外の委員の半数は労働者代表の推薦に基づき指名しますので、使用者側2名(②③)、労働者側2名(④)に議長(①)を加えた5名体制が衛生委員会の最少メンバーとなります。
3.衛生委員会の会議(安衛則23条)
- 毎月1回以上開催しなければなりません。
- 委員会の運営について必要な事項は、委員会が定めます。
- 委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を、常時各作業場の見やすい場所に掲示・備え付ける、書面を労働者に交付するなどして労働者に周知させなければなりません。
- 委員会における議事で重要なものに係る記録を作成して、3年間保存しなければなりません。
4.その他
安全委員会および衛生委員会を設置する業種・規模の場合、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができます(安衛法19条)。
労働者数が50人未満の事業場など、安全委員会・衛生委員会を設けるべき事業者以外の事業者は、安全または衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければなりません(安衛則23条の2 ) 。
○ 助成金情報
副業・兼業労働者の健康診断助成金
○ 今月の実務チェックポイント
遺族(補償)年金について
今回は、業務災害または通勤が原因となって労働者が亡くなった場合に、その遺族に対して支給される年金について説明します。
遺族(補償)給付とは
業務上の災害または通勤が原因で亡くなった労働者の遺族に対して、遺族(補償)給付が支給されます。業務上の災害が原因である場合を遺族補償給付、通勤が原因である場合を遺族給付といいます。遺族(補償)給付には、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金がありますが、今回は遺族(補償)年金について説明します。
遺族(補償)給付とは
遺族(補償)年金は、労働者の死亡の当時その者の収入によって生計を維持していた次の遺族がいる場合に、その遺族に対して、次の順位によって支給されます。
順位 | 受給権者 | 必要条件 |
---|---|---|
1位 | 妻 | 特になし |
1位 | 夫 | 60歳以上か一定の障害を有すること |
2位 | 子 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害を有すること |
3位 | 父母 | 60歳以上か一定の障害を有すること |
4位 | 孫 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害を有すること |
5位 | 祖父母 | 60歳以上か一定の障害を有すること |
6位 | 兄弟姉妹 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定の障害を有すること |
7位 | 夫 | 55歳以上60歳未満であること |
8位 | 父母 | 55歳以上60歳未満であること |
9位 | 祖父母 | 55歳以上60歳未満であること |
10位 | 兄弟姉妹 | 55歳以上60歳未満であること |
※1 年金を受給することができる遺族を受給権者といいます。
※2 一定の障害とは、障害等級第5級以上の身体障害をいいます。
※3 先順位者が死亡や婚姻などによって受給権を失うと、次の順位の者が受給権者となります。
※4 55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹は、受給権者になっても、60歳に達するまでは年金の支給が停止されます。
給付の内容について
遺族(補償)年金については、遺族の数等に応じて、遺族(補償)年金にあわせて遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。支給額については、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署などのホームページ等でご確認ください。なお、受給権者が2人以上あるときは、その額を等分した額がそれぞれの受給権者に支給されます。
遺族(補償)年金その他の注意点
- 遺族(補償)年金の請求手続については、業務災害の場合は「遺族補償年金支給請求書」(様式第12号)、通勤災害の場合は「遺族年金支給請求書」(様式第16号の8)に死亡診断書等を添付して所轄の労働基準監督署に提出します。添付書類の詳細については、所轄の労働基準監督署にご相談ください。
- 遺族(補償)年金は、支給要件に該当することとなった月の翌月から支給され、偶数の月に、その前の2カ月分が支払われることになります。
- 同一の支給事由により遺族基礎年金あるいは遺族厚生年金またはその両方を受けることができる場合は、政令で定める調整率を用いて遺族(補償)年金が減額されます。
○ 今月の業務スケジュール
労務・経理
- 12月分の社会保険料の納付
- 12月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
- 給与支払報告書の提出
- 法定調書の提出
- 源泉徴収票の交付(従業員本人に渡す)
- 固定資産税の償却資産に関する申告
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を従業員から回収(社内で保管)
- 労働保険料(第3期分)の納付(延納申請をした場合)
- 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、10~12月分)
慣例・行事
- 初出式(新年祝賀会)
- 年賀状の返礼
- 年始回り
- 新年会