最新・行政の動き
厚生労働省は、昨年12月に成立した改正障害者雇用促進法に関連し、一定要件下での障害者雇用調整金および報奨金の減額の詳細を定める同法施行規則改正案などを明らかにしました(令和5年3月1日に一部公布)。
調整金の支給対象者数が10人(年換算で120人)を超える場合、超過人数に対しては、通常の金額よりも6000円低い1人当たり2万3000円を支給します。報奨金は、対象者が35人(同420人)を超える場合、同様に通常額より5000円少ない額を支給します。
また、調整金などの見直しとともに、障害者雇用を後押しする助成金として、①中高年齢等職場適応助成金(仮称)、②障害者雇用相談援助助成金(仮称)の2種類を新設します。
①は、加齢によって職場適応が困難になった障害者(35歳以上)の雇用継続を図るため、職務転換のための能力開発や、必要な介助者の配置・委嘱などの措置を講じた事業主に支給します。たとえば職務転換に向けて能力開発を行った場合、対象の障害者1人当たり年間20万円を限度に支給します。助成率は4分の3。中小企業や障害者を多く雇用している企業については、30万円が上限となります。
②は、障害者雇用について企業への援助を行う事業者に対し、援助費用を助成するもの。援助を受けた企業が雇入れ・雇用継続のための措置を行った場合に、原則として60万円を支給します。
調整金などの減額支給の開始と助成金の新設は来年4月を予定しています。
ニュース
両立支援助成金で介護離職防止
厚生労働省は令和5年度、両立支援等助成金を拡充します。
介護離職防止支援コースについて、従来の生産性要件を廃止して支給金額を見直すとともに、取り組みに応じた加算措置を新設します。取得時の支援では、作成した介護支援プランに基づき、労働者が5日以上の介護休業を取得した場合に30万円を支給。プランに沿って原職などに復帰させ、3カ月以上継続雇用した際にはさらに30万円を支給します。職場復帰時の助成金を受給する企業には、「業務代替支援加算」を新設。代替要員の新規雇入れに対して20万円を上乗せ支給します。また、労働者に対し仕事と両立支援に関する個別の周知と、雇用環境の整備を行った企業に対する加算措置(15万円)も新設します。
育児休業の取得を後押しする出生時両立支援コースと育児休業等支援コースには、男性の育休取得率などを公表した際の加算制度を設定します。
給料ファクタリング
最高裁は、「給料ファクタリング」と称する取引きについて、貸金業法と出資法が定める貸付けに当たるとする決定を初めて下しました。
二審までの事実認定によると、東京都内の事業者が「給料ファクタリング」と称して、顧客となる労働者から賃金債権の一部を4割引きで譲り受け、割引後の額を賃金の「前払い」のような形で交付していました。労働者が希望した場合は賃金債権を割引前の額面額で買い戻すことができ、買い戻しを希望しない場合は使用者に債権譲渡通知をしますが、すべての顧客との間で買い戻しが実施され、譲渡通知は留保されていました。
最高裁は、賃金債権については、労働者が賃金支払日前に第三者に譲渡した場合であっても、その支払いにはなお労働基準法第24条(賃金の支払)の直接払い原則が適用されると指摘。譲受人は使用者に支払いを求められないため、労働者に買い戻させることでしか資金を回収できなかったと評価しています。形式的には債権譲渡だったとしても、実質的には同社と労働者間における、返済合意のある金銭交付であったとしました。上告を棄却し、有罪とした一審判決が確定しています。
給料ファクタリング業者が賃金債権譲渡を理由に、直接企業に支払いを求めるケースもあり、弁護士法人ALG&Associatesの家永勲弁護士は「事業者に支払ってしまうと、刑事罰の対象になる可能性がある」と注意を呼び掛けています。
幅1m未満に限定
厚生労働省は、建設業における墜落・転落災害の防止に向けて、建設躯体に沿って1列のみ支柱を並べる「一側足場」について、使用できる条件を明確化します。労働安全衛生規則を改正し、幅が1m以上ある箇所で足場を使用するときには、原則として、2列に支柱を並べる「本足場」の使用を義務付けます。労働政策審議会安全衛生分科会で審議が行われ、「妥当」との答申を受けました。施行は来年4月1日。
一側足場は主に住宅工事などの狭い現場で使用されており、構造の特性上、安衛則で定める手すりの設置といった墜落防止措置が適用されないことになっています。そのため、手すりや中さんを設置していない一側足場からの墜落・転落災害が頻発。令和元~3年に発生した足場からの墜落・転落死亡災害56件のうち、一側足場で発生したものが8件に上っていました。
資料作成ツールで価格転嫁支援
埼玉県は、円滑な価格転嫁を推進するため、企業が価格交渉の根拠資料を簡単に作成できるツールの提供を開始しました。ツールは表計算ソフトを利用しており、業種と原材料名、期間を指定すると、日銀の公表データなどを基にした原材料費や人件費の推移・高騰状況がグラフで出力できます。
同県によると、価格転嫁について、経営者団体から「交渉を受ける立場からしても、根拠を示された方が応じやすい」などの意見が挙がる一方、県が受注側企業に行ったアンケート調査では、「発注者に根拠資料の提示を求められて手間がかかる」といった課題が浮彫りになっていました。
使用しているデータは日銀の「国内企業物価指数」、「輸入物価指数」、「企業向けサービス価格指数」など。人件費は厚生労働省の「毎月勤労統計調査」を基にしました。全国の数字のため、「県外企業も利用できる」(同県担当者)としています。
令和2年以降のデータを反映させており、今後は毎月中旬に更新予定です。
送検
神奈川・横浜北労働基準監督署は、36協定の届出なく違法な時間外労働を行わせたとして、私立高校の学校法人と同法人の人事労務部長を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで横浜地検に書類送検しました。教職員1人に対して行わせた10分間の時間外労働を立件対象としました。
同法人は36協定を同労基署に届け出ないまま、令和3年10月21日、教職員1人に対して、10分間の時間外労働をさせていた疑い。始業時間よりも早い朝の時間帯に、通学バスから降りてきた生徒の誘導など交通指導を行わせていました。立件対象の教職員だけでなく、他の教職員と持ち回りで行っていたといいます。
さらに、別の教職員1人に対し、令和2年1~5月の5カ月間、法定の除外事由なく賃金の一部を控除していたとして、同法第24条(賃金の支払い)違反の疑いでも送検しています。親睦会や冠婚葬祭の費用を賄う互助会費として、毎月900円を控除し、賃金を支払っていた疑いです。
監督指導動向
福井労働局と、中部運輸局福井運輸支局は連名で、福井県経営者協会などの荷主団体に対し、荷待ち時間・荷役作業の改善に向けて文書で協力を要請しました。
要請に当たり、運送会社の時間外労働に関する自主点検結果をまとめたリーフレットを作成。荷主都合による荷待ちの影響で残業時間が伸びたと回答した企業のうち、発荷主都合で1時間以上の荷待ちが発生した割合は71.1%、着荷主都合では69.3%でした。残業時間が長い運転者を積荷別でみると、反物などの繊維素材を含む「軽工業品」が16.7%でめだっています。反物は、段ボールのようにパレットに乗せてフォークリフトで積み込めず、専用のかごから手作業で荷台に運ぶため、時間が掛かるといいます。
今後、荷主が集まる説明会などでリーフレットを配布し、改善を促していきます。
調査
今年4月の適用が迫るなか、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げを「よく知っている」中小企業は半数以下――大阪労働局は、企業における働き方改革関連法の認知度に関する調査結果を公表しました。昨年11月の「過重労働解消キャンペーン」月間中に監督指導を実施した事業場を対象にヒアリング調査を行い、564事業場から有効回答を得ています。
中小企業が「よく知っている」と答えた割合は、高い順に「年次有給休暇の取得義務」が73.8%、「時間外労働の上限規制」が58.0%、「割増賃金率引上げ」が45.4%、「同一労働同一賃金」が42.4%、「勤務間インターバル制度」が27.2%となっています。同労働局はとくに割増率引上げの認知度の低さに危機感を示し、中小企業への適用に向け、「周知を徹底する」としています。
実務に役立つQ&A
<Q>4月に休職から復帰する予定の従業員がいます。復帰後1カ月は業務内容を軽減し賃金も見直します。この月は定時決定でどのように処理するのでしょうか。
<A>算定基礎届に記入する報酬は、4月、5月、6月の各月に実際に支払われた報酬です。報酬が低額となる場合の考え方は複数ありますが、要は保険者算定(昭36・1・26保発4号、保険発7号)の対象になるかどうかがポイントになり、保険者算定の対象ならその月を除外することになります。
復帰プログラムとして通常とは異なる軽微な業務への変更があり、その業務に対して就業規則によりあらかじめ定められた報酬を支給していたという前提ですが、関連する日本年金機構疑義照会があります。つまり、4月は固定的賃金の変動後の通常の報酬が支給されているため、定時決定で同月を除外する理由はないとしています。原則17日以上の出勤があれば定時決定の算定対象月に含みます。なお、4月を固定的賃金の変動月と取り扱うとしていて、7月に月変するとき算定基礎届の対象からは外れます。
身近な労働法の解説 -契約期間等-
労基法では、労働契約の最長期間を定めています。
今回は、労働契約期間の上限年数および労働契約期間に関するその他の定めを解説します。
1.契約期間等(14条)
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(一定のものについては5年)を超える期間について締結してはなりません。
5年の「一定のもの」とは、次の①②のいずれかに該当する労働契約です。
- 高度の専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る)
- 60歳以上の労働者との間に締結される労働契約
2.条文の趣旨と解説
長期労働契約による人身拘束の弊害を排除するために3年(5年)に制限をしています。期間の定めのない労働契約は、いつでも労働者側から解約することができますので、最長期間の定めはありません(高年齢者雇用安定法8条・9条・10条の2により、定年を設ける場合は60歳以上とする必要があり、また、65歳までの雇用確保措置、70歳まで就業機会確保措置があります)。
なお、1年を超える労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除く)を締結した労働者(上記①②の労働者を除く)は、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます。
「一定の事業の完了に必要な期間を定める」労働契約とは、その事業が有期事業であることが客観的に明らかで、その事業の終期までの期間を定める契約のことで、例えば、4年間で完了する土木工事において4年間という契約が可能です。
①の高度の専門的知識等とは、博士の学位を有する者、公認会計士・医師など12の資格を有する者、情報処理に関する試験合格者、特許発明者、一定の資格・経験のある者で年間見込賃金額が1,075万円以上であることが確実な者など、厚生労働大臣が定める基準に該当するものをいいます。契約期間の上限を5年とする労働契約を締結できるのは、これら高度の専門的知識を必要とする業務に就く場合に限りますので、その業務に就いていない場合の契約期間の上限は3年です。
3.その他契約期間に関する定め
・求人の際には「契約期間」を書面等により明示しなければなりません(職安法5条の3)。
・「労働契約の期間」は、書面等による交付で明示する必要があります(労基法15条)。
・やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間において労働者を解雇することができません(労契法17条1項)。
・有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮しなければなりません(労契法17条2項)。
・有期労働契約が更新され、通算5年を超えると無期転換権が発生します(労契法18条)。
助成金情報
キャリアアップ助成金(賞与・退職金制度導入コース)
就業規則または労働協約の定めるところにより、有期雇用労働者等に関して、賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に助成するものです。
【対象となる労働者】
- 賞与もしくは退職金制度またはその両方を新たに設けた日(以下「新設日」という)の前日から起算して3カ月以上前の日から新設日以降6カ月以上の期間(新設日以降について勤務をした日数が11日未満の月は除く)継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等
- 賞与もしくは退職金制度またはその両方を新たに設け、初回の賞与支給または退職金の積立てをした日以降の6カ月間、当該対象適用事業所において、雇用保険被保険者であること
- 賞与もしくは退職金制度またはその両方を新たに設け適用した事業所の事業主または取締役の3親等内の親族以外の者
- 支給申請日において離職していない者
【事業主の要件】
次の①から⑦までのすべてに該当すること
① 就業規則または労働協約の定めるところにより、その雇用する全ての有期雇用労働者等に関して、賞与もしくは退職金制度またはその両方を新たに設けた事業主であること
② ①の制度に基づき、対象労働者1人当たり次の(ア)もしくは(イ)またはその両方に該当する事業主
(ア)賞与については、6カ月分相当として50,000円以上支給した事業主
(イ)退職金については、1カ月相当分として3,000円以上を6カ月分または6カ月分相当として18,000円以上積立てした事業主であること
③ ①の制度をすべての有期雇用労働者等に適用させた事業主であること
④ ①の制度を初回の賞与の支給または退職金の積立て後6カ月以上運用している事業主であること
⑤ ①の制度の適用を受ける全ての有期雇用労働者等について、適用前と比べて基本給および定額で支給されている諸手当を減額していない事業主であること
⑥ 支給申請日において賞与もしくは退職金制度またはその両方を継続して運用している事業主であること
⑦ ②(イ)の適用を受ける場合にあっては、支給決定後に積立金等が確認できる書類を提出することに同意している事業主であること
【支給額】
生産性要件の廃止に合わせて助成額を見直す予定となっております。
【申請の流れ】
キャリアアップ計画の作成・提出(賞与・退職金制度新設日(就業規則に規定した日)の前日まで)
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賞与・退職金制度の導入
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初回の賞与の支給または退職金の積立て後6カ月分の賃金を支給・支給申請
(対象労働者に、初回の賞与の支給または退職金の積立て後6カ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2カ月以内に申請すること)
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審査、支給決定
*詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。
今月の実務チェックポイント
休業手当について
今回は、新型コロナウイルス感染症の影響により支払いの必要性が注目され、実務的にも重要な「休業手当」について説明します。
○「休業手当」とは
労働基準法26条により、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中の労働者に対して、平均賃金の100分の60以上の「休業手当」を支払わなければならないと定められています。したがって、「使用者の責に帰すべき事由」に該当しているか否かが問題となり、これによって休業手当の支払いの有無が左右されるということになります。「使用者の責に帰すべき事由」による休業とは具体的に次のような休業となります。
・経営難による休業
・原材料不足や生産調整による休業
・機械の故障または店舗の改装等による休業
・採用内定者を自宅待機させる場合 など
すなわち、「使用者の責に帰すべき事由」による休業とは、会社側の都合による休業と言い換えることができます。天災事変などの不可抗力の場合には「使用者の責に帰すべき事由」には当たらないということになります。不可抗力による休業が認められるためには、「その原因が事業の外部より発生した事故であること」と「事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること」の2つを満たす必要があるとされています(労基法コンメンタール)。
○休業手当の計算方法
休業手当は次の計算方法により算出します。
休業手当=平均賃金×0.6以上
※平均賃金の計算(原則)
事由発生日以前3カ月間に対象労働者に支払われた賃金の総額
その期間の総日数(就労日数ではなく暦日数)
労働日数が少ない場合など原則的な計算ではない場合があり、詳しくは厚生労働省等のホームページでご確認下さい。
※「0.6以上」という表記について、労働基準法においては、平均賃金の6割までを支払うことが義務付けられていますが、労働者がより安心して休むことができるよう、就業規則等により6割を超える休業手当を定めることが望ましいとされているため、6割以上であれば会社が自由に定めることができます。
○休業手当の注意点について
- 休業手当は「休業期間」に対して支払う必要がありますが、労働協約、就業規則または労働契約により休日と定められている日については、支給する必要はありません。
- 休業手当は賃金とされるため、給与支払日に支給しなければならないなど、賃金の支払いに関する原則が適用されます。また、社会保険料や所得税などの控除も通常の賃金と同様に行います。
- 1週の中のある日の所定労働時間がたまたま短く定められていても、その日の休業手当は平均賃金の100分の60に相当する額を支払わなければなりません。
- 一部労働一部休業の場合でも、その日については平均賃金の100分の60に相当する額を支払わなければなりません。一部労働の賃金が平均賃金の100分の60に満たない場合は、その差額を支払う必要があります。
「休業手当」と似ているものに「休業補償」がありますが、「休業補償」は、労働者が業務災害による療養のために労働することができず、賃金を受け取れない場合に平均賃金の100分の60に相当する額の補償を行うものですので混同しないようにしましょう。
今月の業務スケジュール