月刊人事労務だより~2022年8月号~

トピックス

最新・行政の動き

厚労省は、DXの加速化など経済・社会環境が大きく変化するなか、社会人の自律的な学び・学び直しの促進に向けて、労使の取り組むべき事項を示した「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定しました。

取組み事項として、能力・スキルの明確化や学びの方向性・目標の擦り合わせと共有、学ぶ機会の確保などを挙げました。

能力習得に対する労働者の意欲向上を図るため、節目ごとにキャリアの棚卸しを行う必要があるとしています。学びの方向性・目標については、労働者と管理職など現場リーダーが話し合い、学ぶ分野やレベルを擦り合わせたうえで設定することを推奨。その際、現場リーダーは、労働者が学びたいと思っている内容が、企業の人材戦略の方向性に合致しているかを確認します。

Off-JTの費用については全額企業負担を基本とする一方、労働者が自ら選択して「自己啓発」として受講したケースであっても、仕事や業務に役立つ場合は経済的支援を行うのが望ましいとしました。

ニュース

裁量制の見直し議論加速 規制改革計画を決定 政府

裁量労働制見直しへ議論加速――政府は規制改革実施計画を閣議決定し、柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直しを改革メニューに盛り込みました。労働時間制度の見直しのほか、テレワークや副業・兼業、選択的週休3日制などの活用に向けた施策を検討するとしました。

働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境を整備するため、厚生労働省に設置した労働時間制度に関する有識者検討会での議論を加速し、裁量労働制などの見直しについて今年度中に結論を得る方向です。健康・福祉確保措置のあり方も併せて検討します。

企業で導入が進んできているテレワークや副業・兼業、教育訓練休暇、選択的週休3日制の活用をさらに促進するため、厚労省において好事例の周知に努めます。各制度を活用している企業が、求職者に認識される方策も検討していくとしました。

休業手当支払いを命じる コロナで所定労働減 東京高裁

東京都内に複数店舗展開するホテル業者で働いていた労働者が、新型コロナウイルスの感染拡大により同意なく所定労働時間を減らされたと訴えた裁判で、東京高等裁判所は減少した時間分の休業手当支払いなどを命じた一審を維持しました。

労働者は令和2年3~7月にかけ、1日の所定労働時間を2時間~3時間15分減らされました。勤務時間の変更について、従業員との間の個別合意や就業規則の変更はありませんでした。

同ホテル業者は二審で、銀行からの借入や不動産の売却など、懸命な経営努力をし、赤字経営を続けたと主張。所定労働時間の変更は自社の体力と従業員の生活への影響に配慮した結果と強調し、さらに、新型コロナの感染拡大は外部に発生した事故で、「使用者の責に帰すべき事由」による休業とはいえないと訴えました。

同高裁は経営努力があったとしても所定労働時間を一方的に変更できる法律上の根拠にならないとしました。新型コロナについても、影響は事業によってさまざまで、一律に休業しなければならない状況ではなかったと指摘。同ホテル業者は自身の裁量判断で事業を継続しつつ、従業員の勤務時間を減らす選択をしており、「使用者の責に帰すべき事由」に当たるとして、訴えを退けています。

自転車通勤推進優良企業 4社を表彰 国交省

国土交通省は、コカ・コーラボトラーズジャパン(株)、(株)シマノ、ブリヂストンサイクル(株)、石鹸製造業を営む(株)マスターの計4社を今年度の自転車通勤推進優良企業と認定し、表彰しました。

優良企業の表彰は、労働者の健康増進を目的とする「『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクト」の一環。駐輪場の確保などの要件を満たす企業を「宣言企業」として認定し、なかでもとくに積極的な取組みを行う企業を年1回、「優良企業」に選出しています。

(株)マスターは、健康経営の観点から社員に自転車による通勤を推奨しており、自転車通勤者は全体の6~7割を占めます。安全対策にも積極的で、通勤経路上の危険箇所を収集してヒヤリハットマップを作成し、社内に貼り出しました。飲食店の新設を受けて車の出入りが激しくなった駐車場など、社員から通勤中に気になった箇所を報告してもらうことで、情報を随時更新しています。

制度導入企業をPR 奨学金返還支援の拡大へ 長野県

長野県は来年4月から、奨学金支援制度を設ける中小企業に対し、負担額の半分を補助する事業を開始します。事業開始に先立ち、参加予定企業を県の運営する就活サイトでPRしていく予定です。

奨学金返還支援制度は、奨学金の貸与を受けていた従業員に対し、企業が奨学金の一部または全部の返還を支援するもの。昨年4月から、企業が日本学生支援機構に直接送金することも可能となっており、「支援を受けた額の所得税が非課税となる」、「学資に充てる費用として損金算入ができ、法人税の減額が見込める」など、労使双方にメリットがあります。同事業では、本人に支援金を支給する場合も、機構に直接送金する場合も、補助の対象とします。上限は1人当たり年額10万円。

同県によると、奨学金の返還支援は全国の自治体が行っていますが、企業の返還支援を補助する制度はまだ少なく、5件程度だといいます。「近年は福利厚生としても注目を浴びているため、制度を導入し、県内企業の魅力としてほしい」と話しました。

今年8月頃に同サイト上で特集を組み、参加予定企業の魅力を求職者に向けて発信します。参加予定企業の数を参考に、来年度開始する補助事業の予算額を検討していくとしました。

送検

実習生 時給500円で働かせる 口裏合わせ隠蔽画策 岐阜労基署

岐阜労基署は、中国人技能実習生13人の基本給を月額9万円(時給約500円)とし、最低賃金を上回る額を支払わなかったとして、縫製業2社と両社の代表取締役である夫婦の計2法人2人を最低賃金法第4条(最低賃金の効力)違反の疑いで岐阜地検に書類送検しました。

同労基署が令和元年に臨検した際には、被疑者らは賃金台帳を改ざんし、隠蔽を図りました。さらに、実習生への事情聴取に当たり、女性の実習生の胸部にボイスレコーダーを仕込んだうえで、「録音しているから本当のことを言うな」と指示していたことが、後の調査で判明しています。

2年2月、同労基署は複数人から証拠の提供を受けて再度両社を臨検し、是正勧告を出しました。被疑者らは最賃法違反などを事実と認めたものの、改善しなかったため、送検に踏み切りました。

同労基署によると、「同県の縫製業では同様の違反が頻発しているが、証拠隠滅が横行し、摘発が難航している。強制捜査や逮捕も辞さず、厳正に処罰していく」としました。

監督指導動向

安全管理自主点検 米菓工場7割に不備 新潟労働局

新潟労働局が、県内の米菓製造工場の火災を受けて新潟県米菓工業協同組合に加盟する14企業34工場に要請した緊急自主点検で、67.6%に当たる23工場に安全管理の不備を認めました。

不備の内容として、法令に定めがない避難訓練の実施について、「実施していない」は32.4%、「深夜業務従事者が参加していない」が30.8%でした。避難計画は、「防火シャッターを想定していない」が34.4%、「すべての労働者を対象としていない」が29.4%となっています。また、火災防止の項目も不備が多く、乾燥設備作業主任者未選任は41.7%、リスクアセスメント未実施は23.5%でした。

同労働局によると、夜勤のある工場では、避難訓練に全員が参加できていない傾向があるとのことです。点検を行った全34工場には所轄の労働基準監督署が立入り調査を行い、他業種での対策は今後検討していくとしました。

調査

半数が正社員増やしたい意向 財務省・特別調査

財務省は地域企業の従業員確保の動向に関する特別調査結果をまとめました。48.3%の企業が今後正社員を増やそうとしていると回答しています。減らす意向の企業は5.5%に留まりました。

調査は各財務局が3~4月中旬にかけ、1214社にヒアリングを実施しました。コロナ前と比べた従業員の過不足感については58%が「変化なし」と回答。「人手不足感が強まった」は31%、「弱まった」は11%となっています。強まったと回答した割合は、自動車や飲食・宿泊業などの業種で高くなりました。

従業員の過不足感

企業の取組み事例もまとめました。建設業の(株)小田島組(岩手県北上市、184人)では「スコップとパソコンを使える社員育成」を合言葉に首都圏に負けない働き方の実現を進めた結果、女性従業員の割合は34.8%に高まり、業界平均の約2倍を達成しています。

実務に役立つQ&A

休業手当が必要に? 機械故障で午後から休み

先日、午前中に店舗の機械が故障したため、午後は店を閉めて、パート従業員を帰らせたり休ませたりすることになった日がありました。休業手当の支払いが必要になるとは思いますが、始業が午前で所定労働時間の途中から休業となった人についても支払いは必要なのでしょうか。

休業が使用者の責めに帰すべき事由による場合、使用者は平均賃金の60%以上を休業手当として支払わなければなりません(労基法26条)。使用者の責めに帰すべき事由は、故意、過失または信義則上これと同視すべき事由よりも広く該当し、民法上は使用者の帰責事由とならない経営上の障害も含まれると解するのが妥当とされています(菅野和夫「労働法」)。たとえば、機械の検査、原料の不足、流通機構の不円滑による資材入手難などです。

休業は、丸1日だけでなく、所定労働時間の一部のみのケースも含みます。一部休業でも平均賃金の60%の休業手当が必要で、この額へ現実に就労した時間分の賃金が満たないときは、差額を支払う必要があります(昭27・8・7基収3445号)。ご質問の場合は、この差額の支払いが最低限必要といえます。なお、たまたまその日の所定労働時間が短かったとしても、平均賃金の60%以上の支払いが必要になる点には注意が必要です。

身近な労働法の解説 ―募集・採用―

企業には「採用の自由」がありますが、労働者を募集・採用する際には、事業者等に一定の制限を課しています。求める人材の確保には、企業コンプライアンスや公正な採用選考が欠かせません。

1.募集にあたって

  1. 労働者の募集を行う者(求人者)は、労働者になろうとする者(求職者)に対し、従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない、としています。ハローワークや職業紹介事業者、募集委託者等に求人をする際にも、明示が必要です(職安法5条の3)。当初明示した労働条件を変更する場合は、変更内容を適切に理解できるような方法で明示しなければなりません(平11・11・17労告141号、令和4・3・31厚労告第143号『指針』第3の3)。
  2. ハローワークや職業紹介事業者は、以下のような求人者からの求人の申込みを受理しないことができる(職安法5条の5)とされていますので、求人者として留意が必要です。・その内容が法令に違反する求人の申込み・その内容である賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当であると認められる求人の申込み・労基法・最賃法・職安法・均等法・育介法・労推法の違反に関し、法律に基づく処分、公表その他の措置が講じられた者(厚生労働省令で定める場合に限る)からの求人の申込みなど。

2.募集及び採用について

  1. 募集及び採用について、その性別・その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(均等法5条・労推法9条)。「ポジティブアクション」として女性を有利に取り扱うことは、認められる場合があります。
  2. 募集及び採用をする場合において、やむを得ない理由により65歳以下の一定の年齢を下回ることを条件とするときは、求職者に対し、当該理由を示さなければなりません(高年齢者雇用安定法20条)。
  3. 募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければなりません(障害者雇用促進法34条)。積極的な差別是正措置として障害者を有利に取り扱うことは、差別に該当しません。
  4. 学校卒業見込者の募集・求人申込みを行う事業主は、「青少年雇用情報」を提供するように努めなければなりません。学校卒業見込者やハローワーク・職業紹介事業者等から求めがあった場合は、「青少年雇用情報」を提供しなければなりません(義務)。(若者雇用促進法13条・14条)

3.その他

上記法令の具体的な措置や基本的人権を尊重する採用選考を進めるためには、厚労省冊子や特設サイト「公正な採用選考をめざして」が参考になります。

今月の実務チェックポイント

同月得喪の場合の社会保険料について

今回は同月得喪の場合の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)について説明します。健康保険料と厚生年金保険料とで取扱いが異なることがありますので注意しましょう。

○同月得喪とは

社会保険の資格を取得した月にその資格を喪失した場合を同月得喪といいます。すなわち、入社と退職(末日退職を除く)が同月内に行われた場合をいいます。資格喪失日は、退職日の翌日となることから、末日退職の場合は同月得喪には該当しませんのでご注意ください。

○同月得喪の場合の厚生年金保険料について

原則として、同月得喪の場合もその月分の厚生年金保険料の納付が必要となります。ただし、厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失し、さらにその月に再度厚生年金保険の資格を取得したり、国民年金(第2号被保険者を除く)の資格を取得した場合は、先に喪失した厚生年金保険料の納付は不要となります。国民年金の第2号被保険者とは、民間の会社に勤めている方や公務員などの厚生年金保険の被保険者や共済の加入者のことを指します。

同月得喪に該当する場合、先に喪失した厚生年金保険料の納付が不要か否かの判断は日本年金機構が行うため、実務上は、たとえ還付されることが分かっていたとしても厚生年金保険料を給与計算の際に控除して一度納付することとなります。その後、管轄の年金事務所から対象の会社あてに厚生年金保険料の還付についてのお知らせが送付され、厚生年金保険料が還付されます。

還付後、被保険者負担分は会社から被保険者であった方へ還付することになりますので、実務上はかなり手間や労力がかかることとなります。

○同月得喪の場合の健康保険料について

健康保険料については、同月得喪の場合もその月分の保険料の納付が必要となります。厚生年金保険料と違い例外がありません。同月得喪の場合でも必ず保険料の支払いが必要となりますのでご注意ください。

○注意点

同月得喪の場合の厚生年金保険料の納付を要しない場合についてしっかりと把握しておき、厚生年金保険料が還付される場合には、被保険者負担分を必ず退職した元従業員に返還してください。返還しないと、労働基準法の全額払いの原則に違反する可能性がございますのでご注意ください。

助成金情報

今月の業務スケジュール

労務・経理 慣例・行事
  • 7月分の社会保険料の納付
  • 7月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 食品衛生月間
  • 夏季休暇中の社内体制確立・対外広報
  • お中元のお礼状発送

 

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