月刊人事労務だより~2022年7月号~

目次

◆最新・行政の動き

厚労省は、求人メディア(募集情報等提供事業者)や職業紹介事業者などに情報の正確性・最新性を保つための措置を義務付ける改正職業安定法が今年10月に施行されるのを踏まえ、関係政省令と指針を改正します。

省令では、正確性・最新性の確保措置として、情報が正確でないことなどを自ら確認した場合は、速やかに募集企業への訂正依頼または掲載中止を行うこととします。求人メディアについてはさらに、求人充足時や内容変更時に速やかに通知するよう募集企業に依頼するか、掲載する募集情報の時点の明示のどちらかを講じます。

募集企業に対しては、指針において、募集の変更・終了時には速やかな掲載内容変更・終了を求めます。さらに、掲載媒体である求人メディアに対する掲載内容変更または終了を依頼するよう定めます。一方、求人メディアから不適正な募集情報の訂正を依頼された場合には速やかに対応することとしました。

施行は同法と同じ今年10月1日です。

◆ニュース

◆監督指導動向

大阪労働局は、今年度の行政運営における目標を設定しました。働き方改革の定着・雇用機会の確保・労働環境の整備について独自の数値目標を設けています。一定規模以上の事業者に提出が義務付けられている、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画や、ストレスチェック実施結果報告書の提出率が90~100%となるよう文書督促などを行っていくとしました。

同労働局によると、一般事業主行動計画の昨年度分提出率は、常時雇用する労働者数301人以上の企業が約9割で、今年度から提出が義務化された101人以上300人以下の企業では6割に留まっています。100%を目標とし、未提出企業には文書督促を行います。

50人以上の事業場に提出義務があるストレスチェック実施結果報告書の今年の提出率は、5月9日時点で約6割。今年度中に90%以上とすることを目標にしています。チェック結果に基づく集団分析の実施割合は、85%以上を目標としました。関係団体に周知啓発を要請するほか、個別企業への督促も行います。

◆送検

異常を放置し送検 フォーク作業で死亡労災 水戸労基署

茨城・水戸労基署は、フォークリフトの定期自主検査で異常が認められていたにもかかわらず、ただちに補修しなかったとして、養鶏・鶏肉の加工販売業者と同社農場管理部顧問を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いで水戸地検に書類送検しました。

同労基署によると、令和2年6月、同社農場付近の町道で、走行中のフォークが道路脇の斜面に乗り上げて横転し、運転していた同社労働者がフォークの下敷きとなって死亡する労働災害が発生しました。

同法ではフォークを使用する事業者に年次と月次の定期自主検査を義務付けていますが、同社が最後に実施したのは災害発生の5カ月前の同年1月でした。検査を委託した業者から、「ブレーキに異常がみられる」といった内容の検査結果を受け取っていながら、ただちに補修を行わず放置した疑いが持たれています。

同労基署は、「異常が労働災害の直接的原因とは断定できないが、放置するのは悪質で看過できない」としています。

◆実務に役立つQ&A

割増賃金が必要か 時間外に定期健診なら


定期健康診断については、4~6月中に労働者が希望日を申し出て受けることとしており、所定労働時間中の受診を認め、賃金は控除していません。午前に受診し午後は通常勤務したものの、所定終業時刻を過ぎ残業が発生した労働者がいますが、割増賃金の支払いは必要ですか。


健康診断は、大きく一般健康診断と特殊健康診断に分かれます(安衛法66条)。有害業務従事者に行う特殊健診は、所定労働時間中の実施が原則で、その時間は労働時間と解されます(昭47・9・18基発602号)。時間外労働に該当する際は、割増賃金の支払いも必要です。

一方、定期健診を含む一般健診は、業務遂行と関連して行うものではないため、受診時間の賃金は、当然には事業者の負担すべきものではなく労使で協議し定めるべきとしています。ただし、受診時間の賃金は事業者が支払うことが望ましいとするほか(前掲解釈例規)、できるだけ便宜を図り、所定時間内に行う方が望ましいとの考えを示しています(東京労働局)。

定期健診は、特殊健診と違い労働時間とならないため、定期健診後の実労働時間が法定労働時間を超えない限り、割賃の支払いまでは求められていないといえます。労使協議としているので、支払い方を再確認するとよりベターでしょう。

◆調査

週休2日制の導入率2割強 建設業調査

建設産業専門団体連合会が専門工事業者とその下請約900社に実施した調査によると、休日設定を「4週6休程度」とする企業が36.8%で最も多く、「4週8休以上」とする企業は22.5%でした。

就業規則等による休日設定

就業規則等による休日設定

模に比例して休日が増す傾向にあり、「4週8休以上」の割合は100~299人で56.8%、300人以上では75.0%となっています。

前年度の年間休日数については、約半数が100日未満と答え、平均98.9日でした。全産業平均の110.5日(令和3年就労条件総合調査)を約12日下回っています。

4週8休未満とした企業に対し、週休2日制が導入できない理由を尋ねると(複数回答)、最も多かったのは「適切な工期が確保できない」65.7%でした。30%台で続く「人手不足」「元請が休ませてくれない」とは大きな差が付いています。

週休2日制の不導入理由

週休2日制の不導入理由

◆身近な労働法の解説 ―使用者―

労働法や社会保険の分野では、「事業主」「使用者」「事業者」などの区別があり、法律等によりそれぞれ定義が異なります。使用者には安全配慮義務があることは前号で触れたところですが(労働契約法5条)、あらためて、「使用者」について解説します。

1.労働基準法の定め

労基法10条では、「この法律で使用者とは、

  1. 事業主
  2. 事業の経営担当者
  3. の事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者

をいう」と定めています。労基法の使用者とは、事業主以外の者も含まれるということです。

労基法10条の「使用者」について、通達では、「本法各条の義務についての履行の責任者をいい、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与えられている」者とし、「かかる権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とはみなされない」(昭22・9・13発基17号)とされています。

また別の通達(昭63・3・14基発150号)では、出向の場合の使用者について、次のようにされています。

【在籍型出向の場合】

出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係がある。

出向元、出向先及び出向労働者三者間の取り決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法における使用者としての責任を負う。

【移籍型出向の場合】

出向労働者については、出向先との間にのみ労働契約関係がある。

出向先についてのみ労働基準法等の適用がある。

2.労働契約法の定め

最賃法2条では、「労基法10条に規定する使用者をいう」としています。

民法715条(使用者等の責任)では、「ある事業のために他人を使用する者」としています。

労組法7条(不当労働行為)の使用者について、判例(最三小判平7・2・28)においては、「一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいう」としつつ、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合」は、その限りにおいて、使用者に当たると解されています。

◆助成金情報

事業場における労働者の健康保持増進計画助成金

◆今月の実務チェックポイント

労働保険の年度更新

今回は労働保険(労働者災害補償保険と雇用保険を総称して「労働保険」と呼びます)の年度更新について説明します。

〇労働保険の年度更新とは

労災保険料と雇用保険料からなる労働保険料は、毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間(この1年間を「保険年度」といいます)を単位として申告・納付を行います。

保険年度を単位として本年4月から翌年3月までの1年分の保険料を概算(「概算保険料」といいます)で申告・納付(毎年原則として7月10日まで)し、保険年度が終了したところで保険料を確定(「確定保険料」といいます)させ、概算で納めた保険料との過不足を精算することになります。令和4年度で説明すると、令和4年4月から令和5年3月までの1年間(保険年度)を単位とし、原則として令和4年の7月11日までに「概算保険料」の申告・納付を行います。

さらに、令和4年3月までで前(保険)年度が終了しましたので、令和3年度に従業員に支払った賃金の総額から令和3年度分の「確定保険料」を計算し、あらかじめ納付してある概算保険料との過不足を精算することになります。確定保険料に基づく精算も原則として令和4年の7月11日までに申告・納付を行います。

したがって、新たな保険年度について概算保険料の申告・納付と前(保険)年度にかかる確定保険料の申告・納付をあわせて7月11日までに行うことになります。この一連の労働保険料の申告・納付の手続きは毎年繰り返すことから、「労働保険の年度更新」といいます。

※年度更新の期限は原則として毎年6月1日から40日以内(6月1日~7月10日)と定められていますが、令和4年については、7月10日が日曜日であることから、7月11日までとされています。

令和4年度の年度更新
令和3年度(令和3年4月~令和4年3月)の確定保険料に基づく過不足の精算 令和4年度(令和4年4月~令和5年3月)の概算保険料の申告・納付
原則として、毎年6月1日から40日以内(7月10日)までに行う。ただし、令和4年度については7月11日まで。

※概算保険料の額が40万円(労災保険または雇用保険が一方のみ成立している事業にあっては20万円)以上の場合、3回に分けて納付することができます。

〇労働保険料の計算
(1)労災保険料の計算

アルバイトやパートタイマー等を含むすべての労働者に支払われる賃金の総額に、その事業の種類ごとに定められた保険率(労災保険率)を乗じて算出します。概算保険料については、すべての労働者に支払われる賃金総額を予測して計算しますが、前年度に支払った賃金総額の2分の1以上、2倍以下であると見込まれる場合は、前年度の賃金総額をそのまま計算に用いてよいことになっています。

労働保険料 = すべての労働者に支払われる賃金総額 × 労働保険率

(2)雇用保険料の計算

雇用保険の被保険者である労働者に支払われる賃金の総額にその事業の種類ごとに定められた保険率(雇用保険料率)を乗じて算定します。概算保険料については、労災保険料と同様に、前年度に支払った賃金総額の2分の1以上、2倍以下であると見込まれる場合は、前年度の賃金総額をそのまま使用してよいことになっています。

雇用保険料 = 雇用保険の被保険者に支払われる賃金総額 × 雇用保険料率

※したがって、一保険年度に支払われる賃金総額が確定しないと正確な保険料の算定ができないため、保険年度終了時に保険料を確定させて精算(申告・納付)を行います。

※令和4年度の留意事項
令和4年度においては、年度途中で雇用保険率が変更される予定です。そのため、雇用保険率の適用期間ごとに集計する必要があります。計算方法は上記の計算方法と同様です。
前年度の賃金総額と比較して2分の1以上、2倍以下であると見込まれる場合は、前年度の賃金総額の2分の1の額をそれぞれの期間に応じた雇用保険率で計算します。

〇申告書その他

労働保険料の申告書については、都道府県労働局から事業主宛に送付されます。その他年度更新でご不明な点は、厚生労働省や都道府県労働局のホームページなどでご確認ください。

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 6月分の社会保険料の納付
  • 6月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 労働保険の年度更新 申告・納付(6月1日から7月11日)労働保険料(第1期分)の納付(延納申請をした場合)
  • 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、4~6月分)
  • 社会保険の算定基礎届の提出
  • 賞与支払届の届出
  • 高齢者雇用状況報告書・障害者雇用状況報告書の提出

慣例・行事

  • 全国安全週間
  • お中元の準備・発送
  • 暑中見舞いの準備・発送

 

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