月刊人事労務だより~2023年8月号~

最新・行政の動き

政府は6月16日、政策の指針となる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定し、三位一体の労働市場改革を通じた構造的賃上げの実現と、「人への投資」の強化、分厚い中間層の形成をめざすとしました。三位一体の改革として、①リスキリングによる能力向上支援、②成長分野への労働移動の円滑化、③個々の企業の実態に応じた職務給の導入を進めます。

労働移動の円滑化に向けた施策には、退職金制度に関する労働慣行や退職所得課税の見直し、失業給付制度の見直しなどを挙げました。

民間企業の一部では、自己都合退職時の退職金の減額や、勤続年数・年齢が一定基準以下の場合に退職金を支給しないケースがあることから、厚生労働省が定めるモデル就業規則を改正します。勤続年数による制限を設けている点や、会社都合退職者と自己都合退職者とで異なる取扱いを例示している点を改めます。

退職所得課税については現在、勤続20年を境に勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額される仕組みになっています。これが積極的な離職を妨げているといった指摘もあるため、見直しを図る方向です。

また、現行の失業給付において、自己都合離職と会社都合離職とで受給までの期間に差があることから、給付申請前のリスキリング実施などを条件に、受給までの期間をそろえます。

能力向上支援では、教育訓練給付など個人に直接給付する支援策を強化。多様な働き方の推進にも注力し、選択的週休3日制の普及などに取り組むとしました。

ニュース

人材活用の指針策定 経産省

経済産業省は、中小企業・小規模事業者の人材戦略を後押しするため、「人材活用ガイドライン」を策定しました。

経営課題を解決できる人材の採用・育成に向けて、人事評価制度の策定やキャリアパスの見える化を提案しています。自ら希望するキャリアを構築できるように、本人の学びたい内容を尊重・優先して配属先・転属先を決めるなどの配慮も必要としました。

また、企業が求める人材のタイプを「中核人材」と「業務人材」の2種類に区分したうえ、それぞれのキャリアの見える化の取組みも提案しました。中核人材には、経営にかかわるポジションへの登用を挙げ、業務人材に対しては、非正規から正規雇用へ転換する仕組みを示すことなどを提案しています。

ガイドラインと同時に中小企業50社の取組みをまとめた優良事例集も公表しています。

口頭での解雇を事実認定

システム開発などを営む会社で働く労働者が解雇予告手当などを請求した裁判で、東京高等裁判所は口頭による解雇の意思表示があったとして、同社に計53万円の支払いを命じました。

労働者は令和元年9月にシステム開発などを営む都内の会社に入社。プロジェクト業務に従事しました。プロジェクトは2年2月末日をもって終了する予定で、その旨は労働者を含む従業員に伝えられていました。

同年2月20日の午前、労働者は同社の代表者のもとに行き、給与明細書と源泉徴収票を交付するよう詰め寄りました。代表者は同日の昼頃、労働者に「早く会社を辞めてください」といい、午後には情報共有で使用していた3つのグループチャットから労働者を外しました。

翌21日にはメッセージアプリから「もう君をお客様に提案しません」との文章とともに、会社役員に対する誹謗中傷などがあった場合、予告手当を支給せずただちに解雇する等記載された就業規則の画像を送信し、代表者はメッセージアプリ上で労働者をブロック。労働者は代表者の発言から、自身は解雇されたものと考え、プロジェクト終了日までは就労しましたが、同年3月1日以降は労務を提供しませんでした。

同高裁は一審に引き続き解雇はあったとして、同社の控訴を棄却しました。同社は、同年3月以降、労働者を3度懲戒処分にしており、解雇をしているのであれば処分の必要性はないと訴えましたが、同高裁は、各処分は2月分の賃金を減給する内容で、2月末日で解雇することと矛盾しないとして、主張を退けています。

女性管理職登用へ

岐阜県は、中小企業の女性管理職比率を高めるため、社会保険労務士などの専門家による訪問相談や、研修講師の派遣を行います。

同県の女性管理職比率は、直近の国勢調査で47都道府県中45位と低い状態です。県内企業に対し、女性活躍の取組みに関する調査を実施したところ、とくに中小企業で取組みが遅れていることが分かりました。まずは訪問相談で各企業の課題を分析します。

「そもそも女性が採用できていない」、「育成・研修制度が不十分」など、企業の実情に沿って、将来的な女性管理職登用に向けた経年計画の策定を支援します。計画の期間・内容は企業ごとに異なるものになります。

専門家が、研修の実施が必要と判断した場合は、企業内研修への講師派遣も行います。受講者は管理職候補となる女性や、その上司である管理職など、幅広く対応可能です。

訪問相談と講師派遣と合わせて1社最大4回まで支援します。

開店前納品を是正

日本百貨店協会は、2024年問題への対応として業界の慣行である開店前納品を是正し、納品リードタイムの緩和に向けた取組みを始めていると明らかにしました。アパレル・ファッション関連商品の納品を開店後にずらし、トラックドライバーの労働時間短縮を図ります。

百貨店業界では、各社が専門の納品代行事業者と契約を結び、数百に及ぶ取引先の商品が一括に納品される仕組みを構築しており、商品はいったん同事業者の物流センターに集められ、検品・仕分けのうえで開店前までに各店舗へ配送されます。

従来は慣例的に深夜に検品作業が行われてきましたが、納品時刻をずらすことで日中の検品を可能とし、早朝の配送業務を減らします。また複数台のトラックで納品している大型店舗において、1台で複数回配送する「ピストン運行」への移行や、納品回数を減らす「集約運行」を実現します。同協会では今後、雑貨などの商品に関しても同様の取組みを拡大したいとしています。

監督指導動向

島根・出雲労働基準監督署は、新しく従業員を雇い入れた際に必要な対応を「雇入れ時の三箇条」としてリーフレットにまとめました。「労働条件の書面通知」、「健康診断の実施」、「安全または衛生のための教育の実施」の3点を徹底するよう、管内事業場に呼び掛けています。

リーフレットでは、それぞれの項目ごとに注意すべきポイントを解説しました。たとえば労働条件の書面通知については、雇用契約期間や業務内容、労働時間、休日、賃金の計算・支払方法など、書面に記載するべき内容を挙げ、モデル様式も紹介しています。

同労基署は、「中小企業では不定期で人を雇い入れることが多いため、雇入れ時の対応をルーティン化できておらず、対応が不十分で法違反につながることが多い」と話し、「労使の信頼関係や安全の基礎を構築するためにも、最初の対応を大切にしてほしい」と促しています。

送検

福岡・大牟田労働基準監督署は、労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかったとして、労働者派遣業者と同社から派遣を受けていた製造業者および各社の代表取締役の計2社2人を労働安全衛生法第100条(報告等)違反の疑いで福岡地検久留米支部に書類送検しました。

令和2年12月、派遣先の敷地内で派遣労働者が片付け作業中に足首を捻り、右足首を外果骨折する労働災害が発生しました。派遣元は当日に同労働者から連絡を受けていましたが、報告を提出したのは約2年後でした。同労基署に対し、「派遣先から提出しないよう指示されていた」と主張しています。

派遣先も労災発生の事実を知り得ていたにもかかわらず、報告を提出しなかった疑い。同労基署によると「派遣先にも提出義務があると知らなかった」と供述し派遣元への指示に関しては否定しているということです。

同労基署は「派遣先から止められても派遣元は報告するべき」としました。

調査

経団連は会員企業に実施した「男性の家事・育児」に関するアンケート調査の結果を明らかにしました。2022年における男性の育児休業取得率は47.5%で、29.3%だった前年から大きく上昇しました。経団連は、改正育児介護休業法施行により同年4月に個別の周知・意向確認が義務化されたことや、10月の産後パパ育休の創設などが影響したとみています。

男性の育休平均取得期間は43.7日で、取得期間が1カ月以上の企業は59.9%に上りました。企業規模が大きくなるほど、1カ月以上取得している企業割合が高くなっています。たとえば300人以下では30.8%に留まるのに対し、501~1000人で52.9%、5001人以上で75.0%に達しました。

家事・育児の促進に向けて現在取り組んでいる内容をみると、正社員を対象とする短時間勤務制度の導入(88.1%)や、男性の育休取得促進に関する方針や関連制度などについての社内通知(87.4%)、テレワーク制度の導入(83.8%)がめだっています。

実務に役立つQ&A

<Q> 中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増率が引き上げられました。随時改定の契機になるはずですが、実際に5割増の賃金が支給されていなければ関係はないのでしょうか。

<A> 随時改定(健保法43条)とは、報酬月額が著しく高低した場合に、保険料や保険給付のベースとなる標準報酬月額を見直すものです。保険者が必要と認めるときに行われるものですが、通知(昭36・1・26保発4号)で2等級以上の標準報酬月額の変動があった場合などと規定しています。

事務連絡(令5・6・27)では、超過勤務手当について、支給単価(支給割合)が変更となった場合には随時改定の対象になるとしています。

随時改定を行うか否かは、変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業代含む)を確認する必要もあります。変動月ですが、昇降給等した場合に則って、5割増の割増賃金の支払いの有無にかかわらず、労基法改正による割増賃金率の適用された残業手当の支給開始月が起算月となる(日本年金機構)と解されています。ただし、実際に改定の要因となるのは、当該非固定的賃金の支給実績が生じたときです。

身近な労働法の解説

労働施策総合推進法では、募集および採用における年齢制限禁止を定めています。

1.募集・採用時の年齢制限禁止

労働施策総合推進法9条は、「事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」と定めています。

2.条文の趣旨と解説

年齢制限禁止は、個々人の能力、適性を判断して募集・採用することで、一人ひとりにより均等な働く機会が与えられるようにすることを目的としています。

労働者の募集および採用の際には、原則として年齢を不問としなければなりません。ハローワークを利用する場合をはじめ、民間の職業紹介事業者、求人広告などを通じて募集・採用する場合や、事業主が自ら募集・採用する場合(ホームページでの直接募集など)を含め、幅広く適用されます。また、パート、アルバイト、派遣など雇用の形態を問いません。

形式的に求人票を「年齢不問」とすれば良いということではありません。求人票では年齢不問としながらも、書類選考や面接で年齢を理由に応募を断ったり採否を決定したりすることは、法の規定に反します。本人の希望と関係なく、一定年齢以上はパートタイムにするなど、応募者の年齢を理由に雇用形態、職種などの求人条件の変更を行うことはできません。

募集・採用にあたっては、年齢にとらわれない、人物本位、能力本位で行います。

3.禁止される具体例

以下に示すような理由で年齢制限を設けることは、禁止されています。

① ハードな重労働で高齢者には到底無理、40歳以下で募集。

② 若者向けの洋服の販売スタッフなので30歳以下で募集。

③ 社長が40代、その他のスタッフも30代以下。中高年齢者は業務上指導しづらい。

④ PC操作や夜間業務もたくさん。スキルや体力面で、高年齢者は不安。

⑤ 幼稚園の送迎バスアシスタント。始業時間は早朝だし、子どもを相手にするので若い人で。

⑥ 一定の経験が必要な指導業務だから、50歳以上で募集。(上限ではなく下限年齢の設定)

上記募集例は、募集企業の思い込みによるものです。働きたい人自身が応募の判断ができるよう、具体的な業務内容と必要な能力、職場環境等を明示することも解決策の一つです。

4.その他

違反には罰則はありません。しかし、違反した求人は、ハローワーク・職業紹介事業者等に受理を拒否されることがあります(職安法5条の6)。

なお、年齢制限禁止には例外があります。例外については次回に掲載します。

今月の実務チェックポイント

今回は社会保険の被保険者および70歳以上被用者(以下「被保険者等」といいます)に賞与を支給したときの手続きについて説明します。

○「賞与支払届」を提出する

被保険者等に賞与を支給した場合は、賞与の支給日から5日以内に「賞与支払届」を日本年金機構に提出します。健康保険組合管掌健康保険の適用事業所は年金機構と健康保険組合の両方に提出します。健康保険組合への届出の詳細については加入の健康保険組合にご確認下さい。「賞与支払届」には被保険者等ごとの賞与額を記載します。この届出は、将来、被保険者(70歳以上被用者を除く)が受給する老齢厚生年金額等の計算の基礎となる重要なものです。

※「賞与支払届」の対象となる賞与

賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものとなります。年4回以上支給されるものについては「標準報酬月額」の対象となり、1年間に支給された合計額を12等分したものを各月の報酬月額に加算して、「被保険者報酬月額算定基礎届」や「被保険者報酬月額変更届」に記載することになります。結婚祝金や大入袋など、労働の対償とみなされないものは、ここでいう賞与からは除外して考えます。

※賞与にかかる保険料の計算について

実際の賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」といいます。保険料は、「標準賞与額」に健康保険料率・厚生年金保険料率をかけて得た額となり、これを事業主と被保険者等で折半負担します。ただし、原則として70歳以上75歳未満の被用者については、厚生年金保険料はかかりませんので、健康保険料のみ控除します。「標準賞与額」は、健康保険あるいは厚生年金保険において、それぞれ次の上限額が設定されています。健康保険と厚生年金保険で異なりますので、混同しないように注意しましょう。

対象 標準賞与額の上限額
健康保険 年度(保険者単位で毎年4月1日から翌年3月31日まで)の累計額で判断を行い573万円
厚生年金保険 1カ月あたり150万円

(※同月に2回以上支給された場合は合算した額で判断する)

○「被保険者賞与支払届」の注意点

① 日本年金機構に登録されている賞与支払予定月の前月に、「賞与支払届」が事業所へ送付されます。

② 賞与の支払予定月に賞与の支給がなかった場合は、「賞与不支給報告書」を提出します。

③ 賞与支払届に印字されている方で賞与の支払いがなかった方については、該当の欄に斜線を引いて提出します。

④ 被保険者の資格を喪失した月に支給される賞与は、原則として保険料賦課の対象とはなりません。ただし、資格取得月と同月に資格喪失があった場合、資格喪失日の前日までに支払われた場合は対象となります。

助成金情報

働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース・運送業)

時間外労働の上限規制が自動車運転の業務に適用されることが2024年4月1日に迫っています。運転業務や運行に伴う事務作業を効率化し、労働時間の削減に向けた取組み行うことで、経費助成を受けることができます。例えば、積載量の多いトレーラーやデジタル式運行記録計(デジタコ)の導入などにかかる経費の助成を受けることができます。

【対象となる事業主】

1.労働者災害補償保険の適用を受ける労働基準法第140条第1項に定める自動車運転の業務に従事する労働者を雇用する中小企業事業主(※)であること。

(※)資本金または出資額が3億円以下または常時使用する労働者が300人以下

2.年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。

3.交付申請時点で、36協定を締結していること。

4.下記「成果目標」2を選択する場合は、原則として、過去2年間において月45時間を超える時間外労働の実態があること。 

【助成対象となる取組】いずれか1つ以上を実施

1.労務管理担当者に対する研修

2.労働者に対する研修、周知・啓発

3.外部専門家によるコンサルティング

4.就業規則・労使協定等の作成・変更

5.人材確保に向けた取組(求人サイトや求人情報誌への掲載、HP作成等)

6.労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新

7.労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新(自動車リフト、洗車機等)

 【成果目標】

1.月60時間を超える36協定の時間外・休日労働を縮減させること

2.9時間以上の勤務間インターバルを導入すること(新規導入、適用範囲の拡大、時間延長)

【助成額】

以下のいずれか低い額

Ⅰ・Ⅱの上限額または対象経費の4分の3 

Ⅰ 36協定の時間数(時間外労働と休日労働の合計)の縮減

・月80時間超から月60時間以下にする⇒250万円

・月80時間超から月60時間超80時間以下にする⇒150万円

・月60時間超から月60時間以下にする⇒200万円

Ⅱ 勤務間インターバル制度を導入した場合

休息時間数 1企業当たりの上限額
9時間以上11時間未満 100万円
11時間以上 150万円

※適用範囲の拡大・時間延長の場合は上記表の半額

上記の成果目標に加えて、指定する労働者の時間当たりの賃金額を3パーセント以上引上げることを成果目標に加えると加算があります。

 * 制度の詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

 

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