月刊人事労務だより~2023年7月号~

最新・行政の動き

厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」は、育児介護休業法で規定する両立支援策の見直しの方向性に関する報告書をまとめました。

報告書では、3歳までの子を育てる労働者がテレワークで働けるようにする仕組みの導入を企業の努力義務に加えるよう提案しました。保育サービスの利用によって就業に集中できる環境が整っている場合、テレワークを活用することでフルタイム勤務と育児の両立を図りやすくなるとみています。短時間勤務が困難な場合の代替措置のメニューにも追加します。

3歳以降小学校就学前までの子を育てる労働者の両立支援としては、労働者のニーズに応じた柔軟な働き方の実現に向け、短時間勤務や、テレワーク、出社・退社時間の調整、フレックスタイム制などから各職場の事情に応じて事業主が選択して措置を講じる義務を設ける方向。事業主が用意した制度の中から、労働者が1つを選ぶ仕組みを想定しています。育児との両立やキャリア形成への希望を踏まえ、短時間勤務だけでなくフルタイムで働ける制度を選べるようにするのが狙いです。

就学前の子を持つ労働者を対象としている子の看護休暇については、小学校3年生修了までへの引上げと、取得目的の拡大を図ります。たとえば、入園式や卒園式といった行事への参加や、感染症に伴う学級閉鎖にも活用できるようにします。

ニュース

評価項目にカスハラ追加へ

厚生労働省は、精神障害の労災認定基準の見直しに向けた専門検討会の報告書案を明らかにしました。

請求件数が大幅に増加するなか、審査を迅速・適切に行えるようにするため、業務上の心理的負荷に関する評価項目を追加・整理した新たな評価表を盛り込んでいます。

評価項目の1つに、「対人関係」に関する具体的出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)を追加しました。

また、具体的出来事の1つであるパワハラに関しては新たに、性的指向・性自認に関する精神的攻撃を含むことを明記しました。

「仕事の質・量」に関する具体的出来事には、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務への従事」を加えています。

育休復帰後部下0人は不利益取扱い

アメリカン・エキスプレスで部長職として働く女性労働者が、育児休業復帰後に部下を0人にされたことなどを不服とした裁判で、東京高等裁判所は同社に慰謝料など220万円の支払いを命じました。

労働者は平成20年8月に同社に契約社員として入社し、営業部門に配属。22年1月に正社員となり、26年1月にはチームリーダーに昇格し、37人の部下を抱えていました。

26年12月に妊娠し、27年7月からは産前・産後休業と育児休業をそれぞれ取得し、28年8月に復職しました。同社は同年1月に組織再編を図り、労働者の率いるチームは消滅しました。

復職に当たり、同社は新設の「アカウントマネージャー」というポジションを労働者に割り当てました。職務等級は復職前と同一でしたが、部下は1人もいませんでした。業務内容は、復職直後は新規販路の開拓業務で、同年10月には電話営業が中心になりました。同社は29年1月にさらなる組織再編を図りましたが、労働者を引き続き部下を持たないアカウントマネージャーのポジションに据え置きました。

一審の東京地方裁判所は、男女雇用機会均等法と育児介護休業法が禁止する不利益取扱いはないと判断しましたが、二審の同高裁は一転して、アカウントマネージャーとして復職させた同社の対応は不利益取扱いに加え、公序良俗違反(民法第90条)、人事権濫用に当たると評価しました。業務内容の質が著しく下がり、賃金についても業績連動部分が大きく減少する不利益があったと指摘。「何よりも妊娠前まで実績を積み重ねてきた労働者のキャリア形成に配慮せず、これを損なうものであったといわざるを得ない」と強調しました。

集配運転者も対象に

厚生労働省は、来年4月に適用される労働時間等改善基準告示に関するQ&Aを公表しました。運転開始後4時間以内に合計30分以上中断し、原則休憩を与えることとするトラック運転者の連続運転規制について、断続的に運転を中断し、荷積み・荷卸しを繰り返す小口集配業務従事者にも適用されるとしています。

Q&Aでは、新告示が中断時に「原則として休憩」を与えるよう定めた背景として、とくに近・中距離の自動車運転者の運転中断時に休憩が確保されていなかった点を挙げました。そのうえで、告示上も特定の自動車運転者を適用除外とする規定は設けられていないとしました。

中断時の休憩を労働基準法第34条の休憩に含めて与えるかどうかについては、各事業場で定めるべき事項であるとして、労使で話し合ったうえで、就業規則で定めるよう促しています。

企業に専門家派遣 福島県

福島県は今年度から、高卒の若手社員の早期離職防止に向けた取組みを強化します。

福島県内の新規高卒就職者における卒業後3年以内の離職率(平成31年3月卒)は33.6%で、全体の3割以上が早期離職している状況にあります。

同県はこれまで行ってきた人事担当者向けのセミナーなどの取組みに加え、離職率の高さが課題の企業に対し、新たに専門家派遣による助言や解決策の提案を行います。

助言に当たっては、従業員にアンケートや面談を実施し、企業が抱える課題を抽出。特定の部署で離職率が高い場合、アンケートに職務内容の項目を追加するなど、状況に応じて設問を作り替えます。

アンケートや面談の結果を踏まえ、課題解決策を提案し、実施までフォローします。たとえば、「成長の機会やフィードバックが得られていない」と感じている従業員が多かった場合は、キャリアパスの作成や、教育・研修制度の体系図作成を支援します。効果的な取組みは、好事例としてセミナーなどで展開していきます。

送検

愛媛・八幡浜労働基準監督署は、外国人技能実習生10人に違法な時間外・休日労働を行わせたとして、縫製業者と同社取締役を、労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで松山地検に書類送検しました。同社が届け出ていた36協定は、締結当事者となる労働者の過半数代表者の選出が適法でなく、無効でした。

同労基署によると、労働者の過半数代表者は選挙などの方法で選出されたものではなく、「使用者の意向に沿う形で選出されていた」といいます。

同社は有効な36協定がない状態で、令和4年1月1日~6月30日の期間に、週40時間を超えて1週当たり最大36時間、1カ月で最大156時間50分の時間外労働を行わせた疑い。1日8時間を超えて1日当たり最大4時間40分の時間外労働も行わせていたとみられます。

同法第35条では毎週少なくとも1日の休日を与えることを定めていますが、同社は1人につき最大10週間にわたり休日を与えなかった疑いも持たれています。時間外・休日労働に対し、法定の割増率以上の割増賃金も支払わなかったとして、同法第37条(割増賃金)違反でも立件しました。

監督指導動向

福井労働基準監督署は、来年度から建設業に時間外労働の上限規制が適用されることを受け、福井県建設業協会に、長時間労働削減の協力を要請しました。

背景には、同県内建設業の9.3%の事業場で月80時間超の時間外・休日労働がみられるなど、上限規制適用へ準備が不十分な事業者が散見される状況があります。法令遵守について、一層の周知・啓発を求めました。

要請では、令和3年4月から義務化した「溶接ヒューム」による健康障害防止措置も求めました。とくに昨年3月まで経過措置が与えられていた特定化学物質作業主任者の選任義務を怠っている事業者がみられるため、周知を促しています。

調査

厚生労働省がまとめた令和3年労働基準監督年報で、定期監督を受けた事業場のうち、年5日の年次有給休暇の時季指定義務などを定める労働基準法第39条(年次有給休暇)に違反した事業場数が前年の3倍近くに増加したことが判明しました。

労働基準法の違反状況

令和元年 令和2年 令和3年
労働条件の明示 14,261 10,817 10,025
労働時間 30,285 19,493 18,007
割増賃金 23,238 16,701 16,521
就業規則 12,038 9,088 9,148
年次有給休暇 246 3,486 9,783
年次有給休暇管理 1,774 5,443 7,370

平成31年4月の改正労働基準法施行により、全企業において、年10日以上の年休が付与される労働者に対し、年5日について時季を指定して取得させることが義務付けられました。

同年報によると、法改正から3年目に当たる令和3年の定期監督総数は12万2054事業場。このうち「年次有給休暇」の違反がみつかったのは9783事業場で、3486事業場だった前年の2.8倍に上りました。

年休付与の「基準日」などを記録した書類の作成・保存を定めた労基則第24条の7(年次有給休暇管理簿)違反も増加。令和3年は7370事業場で、前年(5443事業場)の1.4倍に増えました。

実務に役立つQ&A

<Q> 従業員から、転職が決定したということで、退職の申出がありました。引継ぎの都合もあるので、退職日を7月末にしようと話を進めています。社会保険の定時決定の時期が近付いていますが、7月に退職となって改定後の標準報酬月額を適用しない場合においても、手続きは必要になるのでしょうか。

<A> 定時決定は、4~6月の報酬の月平均で標準報酬月額を見直すものです(健保法41条)。見直し後の標準報酬月額は、随時改定などがなければ9月~翌年8月まで適用されます。

対象者は、原則、7月1日に適用事業所において使用されているすべての被保険者です。対象外となるのは、6月1日~7月1日に被保険者資格を取得した者と、7~9月に随時改定や育児休業等終了時改定、産前産後休業終了時改定が予定される者です(同条3項)。後者については、7~9月に随時改定などがあると、改定後の標準報酬月額を翌年8月まで適用するため、定時決定との競合を避け、その年の定時決定をなかったものとする扱いとしたとしています(健康保険法の解釈と運用)。

ご質問の場合は、この対象外の事由に含まれないことから、定時決定を行うことになります。

身近な労働法の解説

労契法では、労働契約の成立と5つの原則を定めています。

1.労働契約の成立

労契法6条は、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と定めています。

2.条文の趣旨と解説

当事者の合意により契約が成立することは、契約の一般原則であり、労働契約についても当てはまります。6条は、この労働契約の成立についての基本原則である「合意の原則」を確認したものです。

合意の要素は、「労働者が使用者に使用されて労働」することおよび「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことです。

労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立します。したがって、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものです(平24・8・10基発0810第2号、労働契約の締結に際し、労働条件の書面明示が必要です(労基法15条))。

また、6条の労働契約の成立の要件としては、労働条件を詳細に定めていなかった場合であっても、労働契約そのものは成立し得ます。判例(最二小判昭54・7・20)では、採用内定により労働契約が成立していると解されたものがあります(始期付解約権留保付労働契約)。

3.労働契約の5原則(3条)

労契法3条は、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則を明らかにしています。

労使対等の原則 「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」(1項)

労働条件の決定について労働者と使用者が対等の立場に立つべきことを規定した労基法2条1項と同様の趣旨です。

均衡考慮の原則 「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」(2項)

均衡を考慮した労働契約の締結・変更を求めています。

仕事と生活の調和ヘの配慮の原則 「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」(3項)

ワークライフバランスに配慮した労働契約の締結・変更を求めています。

信義誠実の原則 「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」(4項)

民法1条2項の信義則は、労働契約にも適用されます。

権利濫用の禁止の原則 「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」(5項)

民法1条3項の権利濫用の禁止は、労働契約にも適用されます。

今月の実務チェックポイント

今回は、健康保険の被保険者または被扶養者が出産した場合に、出産費用の補填として支給される一時金について説明します。被保険者が出産した場合に支給される一時金を「出産育児一時金」、被扶養者が出産した場合に支給される一時金を「家族出産育児一時金」といいます。

○出産育児一時金・家族出産育児一時金の対象となる出産

出産育児一時金・家族出産育児一時金ともに、妊娠4カ月(85日)以上の出産が対象となり、早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的な理由によるものも含む)でも支給されます。

○出産育児一時金の額

支給額は、出産育児一時金・家族出産育児一金とも1児につき50万円です(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は48.8万円となります)。出産育児一時金または家族出産育児一時金とも多胎児を出産した場合は、胎児数分支給されることになります(50万円×出生児数)。一時金の金額は、令和5年4月1日以降の出産にかかるものから従前と比べ8万円増額されました。

○産科医療補償制度とは

病院、診療所や助産所といった分娩を取り扱う機関が加入する制度です。一定条件を満たした分娩について、その分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を補償する制度です。

○直接支払制度と受取代理制度

出産費用を支払うことによる被保険者等の経済的な負担を軽減するために、出産育児一時金または家族出産育児一時金を、全国健康保険協会または健康保険組合から医療機関に直接支払う仕組みがあり、これを直接支払制度といいます。出産費用が一時金の額を超えたときは、一時金との差額を医療機関等へ支払い、出産費用が一時金の額を下回ったときは、全国健康保険協会または健康保険組合に申請することにより、被保険者に差額が支給されることになります。医療機関等から直接支払制度利用の意思確認がありますので、使用する意思がある場合は一時金の申請・受取に係る合意文書を医療機関等と取り交わすことになります。

直接支払制度は医療機関等に事務的な負担等がかかるため、その負担等により影響が大きいと考えられる施設(年間の分娩件数が100件以下または収入に占める正常分娩にかかる収入の割合が50%以上で、厚生労働省へ届け出た診療所・助産所)については、被保険者に代わって医療機関等が一時金を受け取る「受取代理制度」を利用することができます。受取代理制度は、直接支払制度に対応していない比較的小規模な医療機関等が利用している場合が多いといえます。

被保険者等の意思で直接支払制度や受取代理制度を利用しないことも可能です。この場合は、後日「健康保険被保険者(または家族)出産育児一時金支給申請書」(全国健康保険協会の場合。健康保険組合の場合は書類名が異なることがあります。)を、事業主を経由して全国健康保険協会または健康保険組合に提出して支給を受けることが可能です。直接支払制度または受取代理制度いずれも適用していない医療機関であれば仕方がありませんが、高額な出産費用を一時的に立て替えて支払うことは経済的な負担が大きいため、現実的には直接支払制度または受取代理制度を利用するのがよいといえます。

助成金情報

65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)

生涯現役社会の実現に向けて、65歳以上への定年の引上げや継続雇用制度などにより、65歳以降も継続雇用する措置を新たに導入した事業主に支給される助成金です。

【対象となる措置と支給額】

 次のA~Dのいずれかを就業規則または労働協約に規定し、実施した場合に受給することができます。

A:65歳以上への定年引上げ

B:定年の定めの廃止

C:希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入

D:他社による継続雇用制度の導入

『A:65歳以上への定年の引上げ』、『B:定年の定めの廃止』

60歳以上 65歳 66歳~69歳 70歳以上 定年の定めの廃止
(5歳未満の引上げ) (5歳以上の引上げ)
1~3人 15万円 20万円 30万円 30万円 40万円
4~6人 20万円 25万円 50万円 50万円 80万円
7~9人 25万円 30万円 85万円 85万円 120万円
10人以上 30万円 35万円 105万円 105万円 160万円

 

『C:希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入』

60歳以上 66~69歳 70歳以上
1~3人 15万円 30万円
4~6人 25万円 50万円
7~9人 40万円 80万円
10人以上 60万円 100万円

 

『D:他社による継続雇用制度の導入』

措置内容 66歳~69歳 70歳以上
支給上限額 10万円 15万円

 【対象となる事業主の要件】

1.支給申請日の前日において、当該事業主に1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること

2.定年引上げ等の措置の実施に要した経費(就業規則の作成等のために要した専門家等への委託費等)を支払っていること

3.高年齢者雇用等推進者の選任に加え、次の(1)~(7)の高年齢者雇用管理に関する措置を1つ以上実施していること

(1) 職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等

(2) 作業施設・方法の改善

(3) 健康管理、安全衛生の配慮

(4) 職域の拡大

(5) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進

(6) 賃金体系の見直し

(7) 勤務時間制度の弾力化

【受給手続】

所定の期限内に「65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)支給申請書」に必要な書類を添えて、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の窓口に申請します。

各月ごとの予算上限額もしくは四半期ごとの予算上限額の超過が予見される場合、または、各月の申請受付件数の動向から、各月の予算上限額を超える恐れが高いと認める場合、支給申請の受付を停止する場合があります。

* 制度の詳細は厚生労働省HP・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

 

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