月刊人事労務だより~2022年5月号~

目次

 

◆最新・行政の動き

厚労省は、「自動車運転者の労働時間等の改善基準の在り方について」(中間とりまとめ)を公表しました。労働政策審議会のバスおよびハイヤー・タクシー作業部会の報告を踏まえてまとめたもので、改善基準告示の見直しの方向性を明らかにしています。

バス運転者とタクシー運転者(日勤)ともに、現行基準では継続8時間以上と定めている1日の休息時間について、9時間を下限に設定するとともに、11時間以上を努力義務とするのが適当としています。

また、原則13時間以内・最大16時間としていた1日の拘束時間は、原則13時間以内・最大15時間に見直し、1日14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努めることとしています。

具体的な回数は、通達で「週に3回以内」と明示する方針で、改正改善基準告示の施行は令和6年4月1日を予定しています。

 

◆ニュース

◆監督指導動向

滋賀・彦根労基署が管内の社会福祉施設全387事業場に求めた自主点検の結果によると、休憩時間を確保していない事業場が約2割に上ることが判明しました。

理由として「施設利用者の状況に左右されるため」と答えた事業場が約8割を占め、災害につながりそうな事例を集めて未然に防ぐヒヤリハット活動については、「利用者に係る活動のみを実施」と回答した事業場が全体の3割を占めました。

同労基署では、労災増加の原因として、利用者サービスの対策にのみ重点が置かれている傾向を危惧し、労働者に関するヒヤリハット事例を収集する強化期間を設けるなど、対策を進めるよう呼び掛けています。

 

◆送検

無効な36協定で違法残業 実習生を代表に指名 岩国労基署

山口・岩国労基署は、ベトナム人技能実習生2人に違法な時間外・休日労働を行わせたとして、縫製業者と同社の労務管理責任者を、労働基準法第32条(労働時間)と第35条(休日)違反の疑いで山口地検岩国支部に書類送検しました。

時間外・休日労働は最長の実習生で月135時間に上り、そのうち15時間は2日間の休日労働によるものでした。

同社が届け出ていた36協定について、労働者の過半数代表者とされていた実習生が内容を全く理解しておらず、一方的に指名して締結させたとみられるため、無効と判断しました。

同労基署は、「実習生を代表にするのは問題ないが、民主的な方法で選出する必要がある」との見解を示し、「仮に協定が有効だったとしても、時間外労働の上限規制を超えて働かせているため違法である」としました。

 

◆実務に役立つQ&A

2人同時に受給? 同じ家族へ介護休業で


ある従業員から、「配偶者の母が要介護状態になり現在は配偶者が介護しているが、2人で協力して進めたいことがあるため、介護休業を取得したい」という相談がありました。配偶者は介護休業給付を受給予定で、本人も取得を考えているようでしたが、同時に複数人が受給できるものなのでしょうか。


介護休業給付は、要介護状態にある対象家族を介護するために休業した日について支給されます。対象家族に含まれるのは、被保険者の配偶者および父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫のほか、配偶者の父母も該当します(雇保法61条の4、雇保則101条の17)。

同じ対象家族につき3回まで分割して取得可能で、上限は合計93日です。支給額は、休業開始時賃金日額の67%で、分割取得した場合は、休業開始時賃金日額が休業ごとに計算し直されます(雇用保険業務取扱要領)。

ある対象家族について複数の被保険者が同時に介護休業を取得したとしても、各々が支給要件を満たせば、給付の受給が可能とされています(厚労省Q&A)。ご質問のように期間が被る場合のほか、たとえば本人が上限に達した後に配偶者が休業を開始するなど、被らない取り方も可能です。

 

◆調査

中小企業のがん対策調査 検診実施率は経営者の関心に比例

厚労省の委託事業である「がん対策推進企業アクション」は、7946社の経営者から対面やオンライン形式で回答を聞き取り、中小企業におけるがん対策の調査報告をまとめました。

がん検診の受診結果に関する対応を尋ねたところ、「従業員から報告を受け、『要精密検査』や『要再検査』の場合、受診勧奨をしている」との回答割合は57%に留まっています。

このほか、「報告を受けているが、『要精密検査』や『要再検査』の場合、受診は本人任せ」は23%、「受診結果の管理や二次検診の受診は本人任せ」は20%でした。

従業員のがん検診実施状況

従業員のがん検診実施状況

直近2年間で従業員に対してがん検診を実施していた企業は全体の40%でした。がん対策への関心について経営者が「大いに関心がある」「関心がある」と答えた企業ほど、従業員の検診状況はそれぞれ52%、44%と高く、調査報告では「中小企業のがん対策強化は、経営者への啓発こそ重要かつ優先度が高い」と結論付けています。

経営者の「がん対策へ関心」と、検診の実施状況との関係

経営者の「がん対策へ関心」と、検診の実施状況との関係

◆身近な労働法の解説 ―健康情報取扱規程の策定―

労働安全衛生法104条3項に基づき、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために、事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための必要な指針(平30・9・7公示1号、令4・3・31公示2号)が公表されています。今回は、健康情報取扱規程の策定について解説します。

1.労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針

事業場において、労働者が雇用管理において自身にとって不利益な取扱いを受けるという不安を抱くことなく、安心して産業医等による健康相談等を受けられるようにするとともに、事業者が必要な心身の状態の情報を収集して、労働者の健康確保措置を十全に行えるようにするためには、関係法令に則った上で、心身の状態の情報が適切に取り扱われることが必要です。
そのためには、事業場における心身の状態の情報の適正な取扱いの明確化が必要です。指針では、心身の状態の情報の取扱いに関する原則を明らかにしつつ、事業者が策定すべき取扱規程の内容、策定の方法、運用等について定めています。
また、指針で示す原則を踏まえて、事業場ごとに衛生委員会または安全衛生委員会を活用して労使関与の下で、その内容を検討して定め、その運用を図る必要があります。

2.心身の状態の情報の取扱いに関する原則(要旨)

  1. 心身の状態の情報を取り扱う目的労働者の健康確保措置の実施や事業者が負う民事上の安全配慮義務の履行が目的であり、そのために必要な心身の状態の情報を適正に収集し、活用する必要がある。
  2. 取扱規程を定める目的心身の状態の情報が、1.の目的の範囲内で適正に使用され、事業者による労働者の健康確保措置が十全に行われるよう、事業者は、当該事業場における規程を定め、労使で共有することが必要である。
  3. 取扱規程に定めるべき事項衛生委員会等を活用して労使関与の下で検討し、策定したものを労働者と共有することが必要である。衛生委員会等の設置義務がない事業場(小規模事業場)は、必要に応じて安衛則23条の2で定める関係労働者の意見を聴く機会を活用する等により、労働者の意見を聴いた上で策定し共有することが必要。
  4. 健康診断の結果の労働者への通知健康診断結果は、労働者に遅滞なく通知しなければなりません(安衛法66条の6、安衛則51条の4)。
    規程を検討または策定する単位については、企業・事業場の実情を踏まえ、事業場単位ではなく、企業単位とすることも考えられる。
  5. 心身の状態の情報の適正な取扱いのための体制の整備心身の状態の情報の取扱いに当たっては、情報を適切に管理するための組織面、技術面等での措置を講じることが必要である。
  6. 心身の状態の情報の収集に際しての本人同意の取得取り扱う目的および取扱方法等について、労働者に周知した上で収集することが必要である。
  7. 取扱規程の運用
  8. 労働者に対する不利益な取扱いの防止労働者の健康確保措置および民事上の安全配慮義務の履行に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。
  9. 心身の状態の情報の取扱いの原則(情報の性質による分類)
  10. 小規模事業場における取扱い衛生推進者に取り扱わせる方法や、 規程に基づき適切に取り扱うことを条件に、取り扱う心身の状態の情報を制限せずに事業者自らが直接取り扱う方法等が考えられる。

 

◆助成金情報

企業在籍型職場適応援助者助成金

 

◆今月の実務チェックポイント

新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金

今回は新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金について説明します。

○新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の対象者

  1. 新型コロナウイルス「陽性」の方
  2. 新型コロナウイルス「陰性」で発熱等の症状のある方「陰性」で症状のない方は対象になりません。

1.または2.に該当する方で、傷病手当金の支給要件を満たしている方

被保険者には自覚症状はないものの、検査の結果、「新型コロナウイルス陽性」と判定され、療養のため労務に服することができない場合、傷病手当金は支給されます。一方、自覚症状がないものの、家族が感染し濃厚接触者になった等の事由において、本人が休暇を取得した場合には傷病手当金は支給されません。

※傷病手当金は、本人が「業務外の理由による傷病等の療養のため、労務に服することができないとき」に給付されるため支給されません。

○傷病手当金支給申請書の4ページ目(療養担当者記入用)に担当医師から証明が受けられない場合

PCR検査により陽性と判明したものの、自宅または指定されたホテル等の療養施設で待機を命じられ、実際に医療機関を受診した日と休み始めた日が異なるときや、医師が労務不能と認めた日の終了日以降、まだ体調がすぐれず自宅で療養したとき、退院後の自宅療養期間があるときなどは、「療養状況申立書」(傷病手当金用)を添付します。

※療養状況申立書(傷病手当金用)については、全国健康保険協会の各都道府県支部のホームページからダウンロードまたは郵送で取り寄せることができます。
※健康保険組合等に加入の場合は、各健康保険組合により書式が異なりますので、加入している健康保険組合等にご確認をお願いします。
※保健所から新型コロナウイルス陽性に関する証明書や療養に関する指示書の交付を受けている場合は、その証明書・指示書についても添付します。

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 4月分の社会保険料の納付
  • 4月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 3月決算法人の法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税の確定申告・納付
  • 自動車税の納付

慣例・行事

  • 冷房設備の整備・点検

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