月刊人事労務だより~2022年11月号~

最新・行政の動き

厚生労働省は令和5年度、時間外労働の上限規制の適用が猶予されている業種などにおける長時間労働の解消を後押しするため、働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)を新設する考えです。

適用猶予分野(建設事業、自動車運転の業務、医師、砂糖製造業〔鹿児島県・沖縄県〕)の中小企業が対象で、労働時間短縮に必要な経費の4分の3を支給します。具体的には、①就業規則の作成・変更費用、②労務管理担当者や労働者への研修費用、③専門家によるコンサルティング費用、④労務管理用機器の導入・更新費用、⑤労働能率の増進に資する設備・機器の導入・更新費用、⑥人材確保に関する費用となっています。労働能率増進設備としては、運送業における洗車機や、建設事業での土木工事積算システムなどが想定されます。

支給上限額は、分野ごとに定める成果目標の達成状況に応じて設定。自動車運転業務では、36協定見直しによる時間外労働の削減と勤務間インターバル制度導入で最大400万円を支給します。

建設事業では、協定見直しと週休2日制の導入で計350万円まで支給。休日については、4週4休から4週8休まで、休日が1日増加するごとに25万円、最大で100万円を支援する方針です。

ニュース

荷主へ周知徹底を

労働政策審議会の自動車運転者労働時間等専門委員会は、自動車運転者の改善基準告示の見直しに関する報告書を取りまとめました。

バスとタクシー・ハイヤーに関する見直し案を示した今年3月の中間報告の内容に、同委員会の作業部会が9月にまとめたトラックの見直し案を追加したもので、いずれの業態も拘束時間の削減と休息期間の拡大を図る内容となっています。全業態で継続8時間としていた休息期間を「継続11時間を基本とし、9時間を下限」に見直すとしました。拘束時間は、トラックが現行の1年3516時間から原則3300時間に短縮、バスが3380時間(年換算)から原則3300時間に短縮となります。

改正告示の履行確保を図るため、荷主や貸切バス利用者など発注者側にも周知すべきとしました。とくにトラックについては、長時間の荷待ちを発生させないよう荷主に対して労働基準監督署による「要請」を実施することが適当と指摘しています。

飲食店店長、管理監督者生を否定

飲食店の店長を務めていた労働者が残業代の不払いなどを不服として訴えた裁判で、東京地方裁判所は労働者の管理監督者性を否定し、運営会社に計980万円の支払いを命じました。

労働者は平成28年10月にレストランを運営するA社に入社しました。入社当初は調理師として働いていましたが、30年4月からは店長として店舗運営に携わるようになりました。店長としての賃金は月額30万円で、勤務は長時間かつ深夜に及ぶこともありましたが、同社は管理監督者に当たるとして、時間外・深夜の割増賃金を支払っていませんでした。

同地裁は、①経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有している、②自己の労働時間について裁量を有している、③管理監督者に相応しい賃金等の待遇を得ている――ことが必要と指摘。そのうえで、労働者は店舗の唯一の正社員であり、勤務時間は店舗の繁閑や他のアルバイトのシフト次第だったとして、労働時間に裁量があったとはいえないと評価しました。また、待遇について、賃金月額30万円は必ずしも高額ではなく「相応しい待遇を得ていたとは到底いえない」と強調。残業代に加え、付加金の請求も認めています。

デジタル払い来年4月スタート

厚生労働省は、賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払い)を可能とする労働基準法施行規則の改正省令案を明らかにしました。

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進むなか、労基則を改正し、一定の要件を満たす資金移動業者の口座への賃金支払いも行えるようにします。

改正によって賃金の支払い先として追加されるのは、資金決済法上の「第2種資金移動業」を営む移動業者のうち、厚生労働大臣の指定を受けた移動業者の口座。労働者の同意を得た場合に、本人が指定する口座へ支払うことができます。

指定要件には、口座残高上限額を100万円以下とすることや、ATMを利用して1円単位で通貨を受け取れることなどを盛り込みます。企業には、賃金支払い方法の選択肢として、銀行口座や証券総合口座への振込みなども労働者に示すよう義務付けます。公布は今年11月、施行は来年4月1日の予定となっています。

女性活躍推進への事例集

日本商工会議所と東京商工会議所は、女性活躍を推進している優良な中小企業を直接取材し、事例集を作成しました。仕事と家庭を両立しやすい職場づくりを進めている一般貨物自動車輸送業の大橋運輸(株)(愛知県瀬戸市)の事例など、6社の取組みを紹介しています。

大橋運輸の事例では、1つの業務を複数の社員が担当するマルチタスク制度を紹介。メインの担当者が休暇や離席中でも対応が可能になり、女性だけでなく男性にとっても働きやすい環境になったとしています。印刷業の佐川印刷(株)(愛媛県松山市)の事例では、育児休業から復帰する際の不安感を解消するため、育休中の社員にiPadを貸与し、社内の様子を確認できるようにしています。

事例集は、日商らのホームページ上に掲載され、会員以外の企業にも広く活用できるようになっています。

送検

36協定無効で送検

名古屋北労働基準監督署は、外国人技能実習生4人に違法な時間外労働を行わせたとして、愛知県春日井市内の製造業者と同社代表者を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで、名古屋地検に書類送検しました。同社は36協定を締結していましたが、同労基署は「手続きに不備があり無効」と判断しました。

同社は令和4年2月、有効な36協定がない状態で、最長1日6時間30分、月32時間30分の時間外労働を行わせた疑い。同労基署は同社の36協定の内容を明らかにしていません。不備としては、「代表者が民主的な方法で選出されていない」場合が多いとのこと。実習生に関する送検事例では、日本語の分からない実習生に十分理解させないまま代表者を選ぶ投票をさせていたもの(京都・舞鶴労基署、元年12月26日送検)、会社が一方的に実習生を代表者に指名していたとみられるもの(山口・岩国労基署、4年3月2日送検)などがあります。いずれも労基署は協定が無効と判断しました。

監督指導動向

設備不良で労災続く

大阪中央労働基準監督署は、建設現場で設備の不備・不良に起因する重篤災害が相次いでいることから、建設業労働災害防止協会大阪府支部大阪中央分会に設備点検の実施を緊急要請しました。

同労基署管内では、7月以降に死亡労働災害2件を含む計3件の重篤災害が発生しています。発生状況はそれぞれ、「エレベーターの揚重機が取付け部材の破損により落下し、労働者に直撃した」、「労働者が墜落制止用器具のフックを掛けていた足場の枠組みのジョイントが破断し、枠ごと落下した」、「労働者が接触した際に足場の大筋交の緊結部が外れ、手すりを乗り越えて墜落した」というもの。同労基署はいずれも設備の不備・不良が原因とみており、再発防止のため、日々の作業開始前に設備の点検を行うよう求めました。

とくに点検が必要な点として、「高所の仮設設備・重量物の設置方法」、「墜落制止用器具の取付け設備本体と支持部」、「足場の各部材の取付け状況」、「開口部の覆いの強度」などを挙げました。

被災者のうち一人は一人親方であったため、一人親方の安全衛生管理への協力も要請しました。

調査

6割超が社内の人間関係に不安

一般社団法人日本能率協会は2022年度の新入社員545人の回答を集計した「新入社員意識調査」を取りまとめました。仕事をしていくうえでの不安について尋ねると(上位3つを複数回答)、最も回答が多かったのは「上司・同僚など職場の人とうまくやっていけるか」で、64.6%でした。社内の人間関係を重視する一方で、取引先など社外との人間関係である「社外の人と人脈を築けるか」は8.1%に留まっています。

調査は今年4月に実施し、大学卒279人、高校卒139人、その他の高専卒や大学院卒など127人から回答を得ました。仕事をしていくうえでの不安として「職場の人とうまくやっていけるか」を挙げる新入社員の割合は増加傾向にあり、19年度調査では43.0%、20年度調査では59.0%、今回の調査では64.6%と推移しています。一方で、「社外の人脈を築けるか」は低下が続いており、19年度18.0%、20年度12.7%、22年度8.1%でした。

実務に役立つQ&A

通災の休業起算日は?

<Q>休業補償給付の待期期間のカウントにおいて、残業中のケガは当日を休業1日と数えないと思います。ここで疑問が生じました。残業をして帰宅途中の事故ですが、これはどのようにカウントするのでしょうか。

<A>業務上の傷病による療養のため労働することができないとき、賃金を受けない日の4日目から休業補償給付、通勤災害であれば休業給付が支給されることがあります(労災法22条の2)。

業務災害については、休業3日目までは労災保険給付がない待期期間とされ、この間は事業主が労基法の規定によって休業補償を行うことになります。通勤災害であればこの限りではありません。

所定の就業時間内に災害が発生し、所定労働時間の一部について休業の事実がある場合は、負傷当日を労働不能として取り扱い休業日数に算入する(昭27・8・8基収3208号)という扱いが示されています。所定労働時間でない残業中のケガは翌日起算となると解されています。

通勤災害ですが、所定労働時間終了後(退勤時)に発生した場合は、「その日は休業したこととはならない」(令3・9「労災保険給付事務取扱手引」)

身近な労働法の解説 -出向-

企業内の人事異動は転勤や配置転換などと呼ばれますが、他社で労務を提供する形態の人事異動として「出向」があります。今回は出向について解説します。

1.出向(在籍型出向)とは

労働者が使用者(出向元)との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供する形態です。一般的に、雇用機会の確保や人事交流、経営指導、スキルアップなどを目的として行われます。最近では、新型コロナウイルスによる経済的影響を受けて雇用維持のために行われるケースも見受けられます。

2.労働契約法14条の出向(平24・6・10基発0810第2号)

労契法14条では、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定められています。

この条文の趣旨は、「出向の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、出向は労務の提供先が変わることから労働者への影響も大きいと考えられることから、権利濫用に該当する出向命令による紛争を防止する必要がある」とし、「出向の命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情が考慮されることを規定」しています。

(1)条文中の「出向」とは

いわゆる在籍型出向をいうものであり、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいうものであること。

(2)条文中の「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは

労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断されるものであること。

 3.出向における留意事項

出向を命じる際は、次のような点に留意します。

(1)出向先において出向元とは別の時間外・休日労働(36)協定の適用を受けることとなる場合は、出向元と出向先との間において特段の取決めがない限り、出向元における時間外労働の実績にかかわらず、出向先の36協定で定める範囲内で時間外・休日労働を行わせることができます(平30・12・28基発1228第15号)。

(2)性別を理由として、配置(業務の配分および権限の付与を含む)について差別的取扱をしてはなりません(均等法6条、性差別禁止指針第2の3)。この「配置」には出向を含みます(平18・10・11雇児発1011002号、改正令2・2・10雇均発0210第2号)。

(3)配置に関し、障害者であることを理由として、その対象を障害者のみとすることや、その対象から障害者を排除すること、その条件を障害者に対してのみ不利なものとすることは、障害者であることを理由とする差別に該当します(障害者差別禁止指針第3の3)。いわゆる「出向」も配置に含まれます(平27・6・16職発0616第1号)。

今月の実務チェックポイント

社会保険の資格喪失手続きの補足

今回は、社員が退職した場合の社会保険の資格喪失手続と併せて会社が補足的に行った方がよい措置について説明します。

○社員の退職に伴う社会保険の手続き

社員が退職した場合の社会保険の手続きを「資格喪失」といい、それぞれ管轄している行政官庁に資格喪失届を提出します。具体的には退職した従業員が被保険者であった保険関係について次の届出を行うこととなります。

届出別 届出先
雇用保険被保険者資格喪失届 事業所管轄のハローワーク
健康保険被保険者資格喪失届 協会けんぽ:事業所管轄の日本年金機構事務センター

組合健保:健康保険組合

厚生年金保険被保険者資格喪失届 事業所管轄の日本年金機構事務センター

※1 退職した従業員が59歳以上の場合や従業員が離職票の発行を希望しない場合を除き、雇用保険の被保険者資格喪失届の際に「離職証明書」も提出する必要があります。

※2 全国健康保険協会加入事業所については、健康保険被保険者資格喪失届と厚生年金保険被保険者資格喪失届を一括して届出が行えます。

※3 被保険者資格喪失日は、退職の翌日となります。

○社会保険の手続きに伴って会社が行った方がよい措置

社員の退職に伴う社会保険の手続きに併せて会社が行った方がよい措置は、「資格喪失証明書」の発行です。これは、会社で独自に作成する、社員が健康保険(場合によっては厚生年金保険も含む)の被保険者資格を喪失したことを証明する書類です。

社員が退職した場合、健康保険については①退職日の翌日から20日以内に手続きを行い任意継続被保険者となるか、②住民登録地の市区町村の国民健康保険に加入するか、③親族等の被扶養者となるかのいずれかとなります。国民年金については20歳以上で配偶者の扶養に入る場合は国民年金第3号被保険者となりますが、第3号被保険者とならない場合は国民年金第1号被保険者となります。

①または②および国民年金第1号の手続きにおいては、健康保険の被保険者資格の喪失日を確認する必要がありますので、会社が発行した「資格喪失証明書」があると手続きが円滑に行え、保険証もそれだけ早く取得できることとなります。雇用保険の離職票などで代用することもできますが、離職票は最後の給与計算が完了してから発行手続きに入る会社が多く、退職日より1~2週間程度遅れて退職者のもとに届くことが多いのが一般的と思われます。保険証の発行までは、その後さらに時間がかかってしまうこととなり、場合によっては退職者の病院の受診に影響が出ることもあるかもしれません。したがって、保険証は早めに発行できるに越したことはありませんので、「資格喪失証明書」を発行することは、退職者に有利となります。

※「資格喪失証明書」の発行で留意すべきこと

会社によっては「資格喪失証明書」を早めに作成して退職者に渡す場合がありますが、会社の証明日が被保険者資格喪失日より前になっているものが散見されます。例えば、被保険者資格喪失日が11月1日で会社の証明日が10月25日となっている場合などです。10月25日の時点で未来日である11月1日のことを証明はできませんので、こういう場合は「資格喪失証明書」の証明能力が認められず、手続きに利用することができませんのでご注意ください。

助成金情報

障害者介助等助成金

雇入れまたは継続して雇用する障害者の障害特性に応じた適切な雇用管理のために必要な介助者の配置等の特別の措置を行う事業主を対象として助成するものです。

障害者の雇用の促進や雇用の継続を図ることを目的としています。

【助成金の種類】

本助成金は、障害の種類または程度に応じた助成措置により、次の4種があります。

1.職場介助者の配置または委嘱助成金

・事務的業務に従事する重度視覚障害者または重度四肢機能障害者の業務遂行のために必要な職場介助者の配置または委嘱

・事務的業務以外の業務に従事する重度視覚障害者の業務遂行のために必要な職場介助者の委嘱

〔対象障害者〕

(1)重度視覚障害者

・2級以上の視覚障害者

(2)重度四肢機能障害者

・2級以上の両上肢機能障害および2級以上の両下肢機能障害の重複者

・3級以上の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による上肢機能障害および3級以上の乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害の重複者

(3)上記(1)または(2)に該当する在宅勤務者

2.職場介助者の配置または委嘱の継続措置に係る助成金

・上記1の職場介助者の配置または委嘱助成金の支給期間が終了する事業主であって職場介助者の配置または委嘱の継続措置を実施

〔対象障害者〕

上記1の対象障害者と同じ

3.手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱助成金

・聴覚障害者の雇用管理のために必要な手話通訳・要約筆記等担当者の委嘱

〔対象障害者〕

・6級以上の聴覚障害者(在宅勤務者を含みます)

4.障害者相談窓口担当者の配置助成金

・雇用する障害者に対する合理的配慮の取組みを推進するため、従前からある相談体制に加えて、新たに障害者の雇用管理の経験を有する担当者を配置すること、外部の障害者雇用専門機関に相談業務を委託することなど

〔対象障害者〕

(1)身体障害者

(2)知的障害者

(3)精神障害者

「上記の(1)から(3)のいずれかに該当する在宅勤務者」を含みます。

【対象となる事業主】

対象となる事業主の主な要件

1.各助成金ごとに定められた「対象障害者」を雇い入れまたは継続して雇用する事業主であること

2.各助成金ごとに定められた「対象となる措置」を実施しなければ、「対象障害者」の雇入れまたは雇用の継続が困難であると認められること

【支給額】

障害者相談窓口担当者の配置助成金の一部を除き、次の算定式

支給額=支給対象費用×助成率 

【助成金支給の主な流れ】

① 認定申請

② 認定申請書の受付、点検確認、送付

③ 認定申請内容の審査、認定

④ 認定通知書の送付

⑤ 介助等の措置の実施

⑥ 費用の支払(賃金の支払、委嘱費の支払、研修費用の支払等)

⑦ 支給請求

⑧ 支給請求書の受付、点検、確認等

⑨ 支給申請内容の審査、支給決定

*制度の詳細は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のHP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

労務・経理 慣例・ 行事
●10月分の社会保険料の納付

●10月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付

●3月決算法人の法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税の中間申告・納付

●お歳暮の準備・発送

●秋の全国火災予防運動

●労働時間適正化キャンペーン

●職業能力開発促進月間

 

 

PAGE TOP