月刊人事労務だより~2021年12月号~

目次

 

◆最新・行政の動き

令和4年1月からは、高年齢者を対象として「雇用保険マルチジョブホルダー制度」がスタートします。厚労省は、同制度の円滑な施行に向け、Q&A等を整備し、事業主・高年齢者への周知を図っています。

副業・兼業の促進は政府の政策課題の一つですが、今回施行の新制度は、継続雇用期間等を終了した後の65歳以上高齢者を対象に「試行的」に導入するものです。

通常の雇用保険被保険者と異なり、同制度は加入要件(2事業所合計の週所定労働時間20時間以上など)を満たす高齢者の申出(選択)を前提とします。

手続きの主体は高齢者本人ですが、本業・副業それぞれの事業所は、資格取得等の手続きの際、証明する義務を負い、賃金支払い額に応じた保険料を負担する必要があります。

◆ニュース

◆監督指導動向

陸上貨物運送事業で死傷災害が増加していることを受け、厚生労働省は、業界団体に対し、災害防止対策の強化を緊急要請しました。

同事業は、第13次労働災害防止計画(平30~令4年度)の重点業種ですが、昨年1年間の死傷災害(休業4日以上)は、平成29年に比べ7.5%増加しています。

災害の7割が荷役作業時に集中し、ロールボックスパレット(カゴ車)使用中の災害も年間約1000件に上っています。

このため、陸災防や全日本トラック協会等の業界団体に対し、カゴ車(特にテールゲートリフターを用いる場合)の安全な取扱い、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」に基づく墜落・転落災害防止等を要請したものです。

◆送検

作業内容変更時の安全教育怠る 技能実習生が死亡 小諸労基署

長野・小諸労基署は、技能実習生に必要な安全教育を行わなかったとして、農業を営む個人事業主を長野地検佐久支部に書類送検しました。

安全衛生教育の実施を定める安衛法59条(および安衛則35条)は、雇入れ時のほか、作業内容を変更したときにも適用があります。本事件は、「変更時」の義務違反を問題としたものです。

技能実習生は運転免許を保持していて、他の実習生の送り迎えのため、新たに「自動車の運転」業務も担当することになりました。

しかし、事業主は、「外国人労働者の雇用管理指針」等に従わず、母国語や視聴覚教材を用いるなどして十分な安全教育を実施していなかったことが、死亡事故につながりました。

◆実務に役立つQ&A

賃金合算どうなる 病気で副業先を退職


副業・兼業する場合の労災補償では、病気で一方の会社をすでに退職している場合、複数事業場の賃金を合算するというメリットは受けられないのでしょうか。


労災法8条3項では、①複数事業労働者の業務上の事由、②複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由または③通勤による負傷等における保険給付の給付基礎日額は、事業ごとに合算とあります。

複数事業労働者とは、事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(法1条)ですが、保険給付の対象には、複数事業労働者に「類する者」(法7条1項2号)も含みます。

これは負傷等の原因または要因となる事由が生じた時点で2以上の事業に同時に使用されていた労働者(労災則5条)をいい、算定事由発生日に2以上の事業に使用されていない者(令2・8・21基発0821第2号)が該当します。

厚労省のパンフでは、傷病等の原因または要因となる事由が生じた時期に複数就業していれば、既にいずれかの事業を退職していても、賃金合算の対象になるとしています。

◆調査

人事院「令和2年度・民間企業の勤務条件制度調査」

高年齢者の雇用確保は、蓄積された豊富な経験・知識を活用するという意味で、企業にとってもメリットが小さくありません。

自社でのフルタイム・再雇用が主体ですが、できれば企業・高齢者本人にとっての選択肢を広げたいところです。

子会社等(特殊関係事業主)での継続雇用は、グループ企業等を有する企業でないと活用できない仕組みですが、調査結果をみると、特殊関係事業主での継続雇用がある企業は、継続雇用制度がある企業(4万2394社、推計)のうち1.2%(488社、同)に過ぎません。

継続雇用制度の有無別、制度の内容の普及別企業数割合(母集団 :定年制がある企業)(推計値)

継続雇用制度の有無別、制度の内容の普及別企業数割合(母集団 :定年制がある企業)(推計値)

高年法に基づく指針では、「短時間勤務制度、隔日勤務制度など、高年齢者の希望に応じた勤務が可能となる制度の導入に努める」よう求めています。

しかし、再雇用者の勤務形態をみると、短時間再雇用者の割合は8.2%にとどまっています。こちらは、中小・零細企業であっても、工夫の余地が大いにあるのではないでしょうか。

再雇用者の勤務形態別人数および人数割合(母集団:再雇用制度がある企業の再雇用者の人数)(推計値)

再雇用者の勤務形態別人数および人数割合(母集団:再雇用制度がある企業の再雇用者の人数)(推計値)

◆職場でありがちなトラブル事例

賞与の支払いを惜しむ!?  身に覚えない理由で解雇

病院の受付業務を担当していたAさんは、院長より、突然、解雇を申し渡されました。理由は、「遅刻が多い」「患者への誠意がない」「協調性がない」「職場異動を拒否した」の4点ですが、いずれも身に覚えのないことです。

解雇の申し渡しが10月20日、解雇日が1カ月後の11月20日で、賞与支給日の直前です。明らかに「賞与を支払いたくない」ので、人員調整をしたとしか思えません。

院長に対して「賞与はどうなるんですか」と尋ねましたが、「考えてみる」と言を濁すだけで、結局、支払われないまま解雇となりました。あまりに身勝手な対応に腹を立てたAさんは、和解金40万円(賞与2カ月分)の支払いを求め、あっせんの申請をしました。

従業員の言い分
    解雇予告を受けるまでの2年間、院長からは一度も注意を受けたことがありません。今年7月には普通に賞与が支払われていたのに、突然、勤務評定が下がるのは、あまりに不自然です。
    今さら復職を争う気持ちはないですが、賞与の支払いを惜しみ、事実無根の解雇理由をでっち上げた病院側の行為を許す気持ちになれません。

事業主の言い分
    個々の職員の勤務評定は、院長である自分が行っていますが、明確な指標等は設けていません。しかし、Aさんの勤務態度は、本来なら懲戒解雇に値するほどのものです。
    仮に病院側に賞与の支払義務があるとしても、評価は最低ランクで支払うべき金額そのものがゼロというべきです。賞与分の和解金支払いという要求はとてものめません。

【 指導・助言の内容 】
病院側に対し、「本件は懲戒解雇でなく、貴社の規定によれば賞与債権は発生している」「勤務評定ゼロはあり得ない」等の点を指摘し、再考を促しました。
その後、あっせん委員から労使双方に対し、和解金に関する譲歩を促したところ、双方ともに歩み寄りの姿勢を示しました。

【 結果 】
「病院がAさんに対し所定期日までに15万円を支払う」という内容で、合意文書が作成されました。

◆身近な労働法の解説―障害者雇用―

毎年12月3日から9日までの一週間は「障害者週間」です(障害者基本法9条)。今回は、障害者雇用について解説します。

1.障害者雇用促進法

(1)雇用義務制度

事業主に対し、下表の障害者雇用率(法定雇用率)に相当する人数以上の身体障害者・知的障害者・精神障害者の雇用を義務づけています。

区分 雇用率   (障害者を1人以上雇用しなければならない事業主の範囲)
民間企業 2.3%以上 (常用雇用労働者数43.5人以上)
官公庁・特殊法人 2.6%以上 (    同   38.5人以上)
一部の教育委員会 2.5%以上 (    同   40.0人以上)

上記( )内の事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません。

(2)障害者雇用調整金・障害者雇用納付金制度

障害者を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会連帯責任の理念に立ち、事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図る等のために設けられた制度です。
障害者雇用調整金の支給は、法定雇用率を達成している事業主に調整金が支給されます。
障害者雇用納付金の徴収は、法定雇用率未達成の事業主から不足する障害者数に応じて1人につき月額5万円を納付させるものです。
調整金・支給金の対象事業主は、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主です。

(3)差別の禁止・合理的配慮等

同法では、雇用の分野で障害者に対する差別の禁止、合理的配慮の提供義務、相談体制の整備・苦情処理・紛争解決援助等が定められています。
差別の禁止に関する指針では、募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練などの各項目において、障害者であることを理由に排除することや障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが差別に当たるとされています。
合理的配慮に関する指針では、募集・採用時に、視覚障害者に募集内容を音声等で提供したり、聴覚障害者に面接を筆談等で行ったりするほか、採用後は、肢体不自由者に机の高さを調節して作業を可能にする工夫を行う等の配慮が示されています。

2.その他障害者に関する主な法律

障害者に関して、次のような法律が制定されています。

  • 障害者総合支援法・・・・障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付)、就労支援に関する事業(就労移行支援・就労継続支援・就労定着支援)など
  • 障害者虐待防止法・・・・使用者による障害者虐待(身体的・性的・心理的・経済的等)の防止
  • 障害者優先調達推進法・・国等の公機関が物品やサービスを調達する際、障害者就労施設等から優先的・積極的に購入することを推進する

日本経済の再生に向けた“働き方改革”においては、労働参加率の向上を掲げ、「多様な人材の活躍促進」として女性・若者・高齢者・障害者・外国人等を挙げています。人口減少社会においては、多様な人材が持つ能力・特性を活かして、多様な人々に向けた商品・サービス開発などの新たな価値創造につなげる、ダイバーシティ経営が求められています。障害者雇用に関しては、まずはハローワークにご相談ください。

◆助成金情報

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◆今月の実務チェックポイント

従業員に賞与を支給したとき

今回は従業員である社会保険の被保険者あるいは70歳以上被用者(以下「被保険者等」といいます)に賞与を支給したときの手続きについて説明します。

○「賞与支払届」を提出する

被保険者等に賞与を支給した場合は、賞与の支給日から5日以内に「賞与支払届」を日本年金機構(組合管掌健康保険に加入している事業所は日本年金機構、健康保険組合の両方)に提出します。「賞与支払届」には、個別の被保険者等ごとの賞与額を記載します。賞与額から1,000円未満を切り捨てた額が「標準賞与額」となり、その標準賞与額に保険料率を乗じて算出した保険料を事業主と被保険者等で折半して負担することになります(ただし、70歳以上の方については、原則、厚生年金保険の被保険者とはなりませんので、75歳までは健康保険料のみ負担することとなります)。標準賞与額は、将来、被保険者が受給する厚生年金額の基礎となりますので、忘れずに届出を行いましょう。

① 標準賞与額の上限額

「標準賞与額」には上限額が定められており、健康保険あるいは厚生年金保険において、それぞれ次のとおり設定されています。

制度 標準賞与額の上限額
健康保険 年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)の累計額573万円(※1)
厚生年金保険 1カ月あたり150万円 (※同月に2回以上支給された場合は合算した額(※2))

※1 同一年度内で転職等により、被保険者資格の取得・喪失があった場合については、協会けんぽ管掌の健康保険または各健康保険組合等の保険者単位で累計額を算出します。
※2 同一月内に2回以上賞与を支払った場合は、その月の最後に支払った日を賞与支払年月日として届出を行います。

② 賞与支払届の対象となる賞与

賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対象として受けるもののうち、年3回以下の支給のものが対象となります。年4回以上支給されるものについては「標準報酬月額」の対象となり、1年間に支給された賞与の合算額を12等分したものを各月の報酬月額に加算して標準報酬月額を考えることになります。したがってこの場合は、「被保険者報酬月額算定基礎届」や「被保険者報酬月額変更届」の作成の際に洩れないよう注意が必要となります。また、結婚祝金や大入袋など、労働の対象とならないものは、ここでいう賞与にあたらず、除外してよいことになります。

○「賞与支払届」の注意点

  1. 資格喪失月(退職日の翌日が含まれる月)に支払われた賞与は保険料賦課の対象とはなりません。したがって、資格喪失月の前月までに支給された賞与が保険料賦課の対象となります。ただし、同月内に資格取得と資格喪失があった場合は、資格取得日から資格喪失日の前日までに支給された賞与については、保険料賦課の対象となります。
  2. 健康保険では、資格喪失月の支給であって保険料賦課の対象とならない場合であっても、資格喪失日の前日までに支払われた賞与については、標準賞与額の累計額(573万円)に含めることになりますのでご注意ください。同様に、育児休業等による保険料免除期間に支払われた賞与についても保険料賦課の対象とはなりませんが、標準賞与額の累計額に含めることになります。
  3. 賞与の支給がなかった場合は、「賞与不支給報告書」を届け出ます。

 

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 11月分の社会保険料の納付
  • 11月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 固定資産税(都市計画税)(第3期分)の納付
  • 年末調整

慣例・行事

  • 年賀状の準備・発送
  • 年末年始の社内体制確立・対外広報
  • 大掃除

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