月刊人事労務だより~2022年1月号~

目次

◆最新・行政の動き

働き方改革関連法(改正労基法)が施行されて2年半余りが経過しましたが、厚生労働省では、猶予措置終了(令和6年3月末)後の取扱いに関する法整備を加速させています。

改正労基法では時間外上限(単月100時間未満、年720時間以内等)を定めましたが、自動車運転・医師の業務、建設の事業等については猶予措置の対象となっています。

このうち、「自動車運転の業務」に関しては、「改善基準」を改正します。労働政策審議会が示した案では、タクシーの場合で、1カ月の拘束時間を288時間、休息期間を1回11時間(週3回まで9時間)等に修正するとしています。

「医業に従事する医師」については、改正医療法により5区分に分けた規制が実施されますが、一般的な医業で年間上限を960時間等と定める省令が公布される予定です。

◆ニュース

◆監督指導動向

新型コロナウイルス感染症の減退に合わせ、政府は「新たなGoToトラベル」の始動を急いでいます。それと並行し、国土交通省は、貸切バスの安全・安心な運行に向けた安全確保対策をとりまとめました。

対策は官民が連携して取り組み、①適切な安全投資を確保するための取組、②バス事業者への安全対策徹底の指導、③輸送の安全をチェックする取組、④関係者への再徹底――の4点を盛り込んでいます。

②に関しては、全国4000社の貸切バス事業者に向けて安全統括管理者への要請を行うとともに、全国で講習会と街頭指導を実施します。

③については、バス事業者・旅行会社双方に対し、法令を遵守した旅行・運行への取組を求めた「安全運行パートナーシップ宣言」、行程検討時の留意点等を示した「貸切バス選定・利用ガイドライン」の認知・順守状況等を点検するとしています。

◆送検

複数月平均で上限規制超え 虚偽の残業時間を記載 上田労基署

長野・上田労基署は、複数月平均の時間外・休日労働数が上限を超えた等の理由で、鋼材・鉄筋加工販売業者を長野地検上田支部に書類送検しました。

働き方改革に伴う改正労基法では、時間外・休日労働の上限を1カ月100時間未満、2~6カ月平均で80時間以下等と定めています(中小は令和2年度から適用)。

しかし、同社の製造部門で働く労働者のうち8人は、半年の時間外・休日労働が毎月100時間を超え、当然のことながら2~6カ月の平均も規制の枠を超えていました。同労基署では、「平均80時間超え」違反に対する送検は、全国でも初めてとしています。

同社は臨検を受けた後、是正報告を出していましたが、二重帳簿の疑いが生じ、再度臨検を実施し、事前情報等に基づき、虚偽記載の事実が発覚しました。

◆実務に役立つQ&A

副業兼業で失業したら 本業を辞めれば給付か?


ダブルワークで一方を失業したとき、失業等給付は受給できるのでしょうか。本業を離職して被保険者資格を喪失すれば、失業という解釈になるのでしょうか。


同時に2以上の雇用関係にある労働者については、原則として生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。本業で被保険者のときに副業を離職しても、本業で引き続き勤務すれば「失業状態」でないのは明らかです。

次に、本業を離職して、副業で勤務し続けたとします。受給資格の決定の際に就職状態にある場合には、受給資格の決定を行うことはできない(雇用保険業務取扱要領)としています。

仮に、副業の週所定労働時間が20時間以上などで、新たに副業で被保険者資格を取得すれば、ここでいう就職状態です。被保険者となっている期間以外に関しても、実際に就労した日ごとの契約とみなして取り扱うなど、「就職」に該当するパターンは複数あります。

以上が原則ですが、令和4年1月から、雇用保険のマルチジョブホルダー制度がスタートしています(改正雇保法37条の5)。こちらは65歳以上の高年齢者が希望する場合を対象とし、本業・副業のいずれか離職のケースも給付の対象となります。

◆調査

厚生労働省「令和3年度・就労条件総合調査」

企業の収支計画を立てる際、従業員1人を雇用するために、どれだけの費用がかかるのか、その目安を知っておく必要があります。

就労条件総合調査では、周期的に「労働費用(現金給与額とそれ以外の労働費用の合計額)」を集計しています。

令和2年(平成31・令和元会計年度)の労働費用総額は40万8140円で、現金給与額とそれ以外の比率は82.0%対18.0%でした。前回調査(平成28年)では80.9%対19.1%だったので、企業は「それ以外」の圧縮により、労働費用総額の低減を図ったことになります。

常用労働者1人1カ月平均労働費用

常用労働者1人1カ月平均労働費用

「それ以外」の内訳をみると、法定福利費が68.6%を占め、退職給付費用(21.8%)、法定外福利費(6.7%)が続いています。 前回調査と比べると、法定福利費は59.9%から68.6%にアップしています。法定福利費(労働・社会保険料等)は、その名のとおり法定で料率が引き上げられると、企業サイドは打つ手がありません。

一方、退職給付費用は23.7%から21.8%に、法定外福利費(住居費用、医療保健の費用等)は8.2%から6.7%にそれぞれ低下しています。企業として工夫ができるのはこうした費用ですが、費用削減のため従業員に負担をしわ寄せした格好です。

常用労働者1人1カ月平均現金給与以外の労働費用

常用労働者1人1カ月平均現金給与以外の労働費用

◆職場でありがちなトラブル事例

「机を片付けろ」と無情な解雇通告 業績不振で社長が感情暴発

損害保険の代理店で働くAさんは、短気な社長の下、日々、怒鳴られながら仕事をしていましたが、顧客からのクレームもなく、まじめに勤務を続けていました。

ある日、社長から「今週いっぱいで机を整理し、来週から出社しなくてよい」などと厳しい口調で退職勧奨を受けました。しかし、「いつものこと」と思い、即答しませんでした。

しかし、退職期限とされていた「翌週」も勤務していたところ、「なぜ、ここにいる。出ていけ」と大声で一喝され、その後は出勤していません。

突然の解雇に納得がいかないAさんは、会社から誠意のある説明を受けたいと考え、都道府県労働局長の助言・指導を求めました。

従業員の言い分
一方的な解雇通告の後は、「ハローワークへの手続き」の関係で電話をしても、「二度と連絡するな」というばかりで、まともな話ができません。
このように理不尽な仕打ちをする会社に戻るつもりはないですが、「何の落ち度もない自分が、なぜ職場を追い出されなければいけないのか」という疑問に対し、筋の通った回答を示してほしいと思います。

社長の言い分
トラブルの発生当時を振り返ると、業績が著しく悪化し、会社の存亡も危ういため、正常な判断力を失っていたように思います。
そうした中で、Aさんに「自主的に退職してもらえないか」という話を持ちかけましたが、言葉遣いが穏当ではなかったかもしれません。しかし、解雇は通告していません。

【 指導・助言の内容 】
当初は、解雇通告をしたかどうかについても両者の主張が対立し、お互いに相手の対応を非難するばかりでした。
しかし、問題解決の前提として「冷静に意見を交換する」ように促した結果、社長から退職勧奨に至った経緯等について詳細な説明が得られ、それに連れ、Aさんの態度も軟化し、その後、両者は退職に関する具体的な条件に関して話し合うに至りました。

【 結果 】
会社が最終月の賃金を支払い、離職票を交付するとともに、「今後の生活保障として30万円を上乗せする」という条件で合意に達しました。

◆身近な労働法の解説―65歳までの雇用確保〜高年齢者雇用安定法(1)―

今回は、高年齢者雇用安定法における65歳までの高年齢者雇用確保措置について解説します。

1.高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法は、少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。

2.高年齢者等職業安定対策基本方針

現在の方針(令2厚労省告示350号)は、令和3年から7年までの5年間を対象期間とし、「事業主が行うべき諸条件の整備に関する指針」において、次のように掲げています。

  1. 募集・採用に係る年齢制限の禁止
  2. 職業能力の開発および向上
  3. 作業施設の改善
  4. 高年齢者の職域の拡大
  5. 年齢者の知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
  6. 勤務時間制度の弾力化
  7. 事業主の共同の取組みの推進

3.60歳未満の定年禁止 (8条)

事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければなりません。

4.65歳までの雇用確保措置 (9条)

定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。

  1. 定年の引上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

継続雇用制度の適用者は原則として「定年後も引き続き働きたいと希望する人全員」です。
「再雇用制度」とは、定年で一旦退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度です。
「勤務延長制度」とは、定年で退職とはせず、引き続き雇用する制度です。

賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合には、次の事項に留意します(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針〈平24厚労省告示560号〉の一部抜粋)。

  1. 賃金・人事処遇制度の見直しが必要な場合には、次の事項に留意します(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針〈平24厚労省告示560号〉の一部抜粋)。
  2. 継続雇用制度における継続雇用後の賃金については、継続雇用されている高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努めること。
  3. 短時間勤務制度、隔日勤務制度など、希望に応じた勤務が可能となる制度の導入に努めること。
  4. 継続雇用制度において契約期間を定めるときには、65歳までの雇用確保を義務付ける制度であることに鑑み、65歳前に契約期間が終了する契約とする場合には、65歳までは契約更新ができる旨を周知すること。また、むやみに短い契約期間とすることがないように努めること。
  5. 職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲および能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること。
  6. 勤務形態や退職時期の選択を含めた人事処遇について、個々の高年齢者の意欲および能力に応じた多様な選択が可能な制度となるよう努めること。
  7. 継続雇用制度を導入する場合において、継続雇用の希望者の割合が低い場合には、労働者のニーズや意識を分析し、制度の見直しを検討すること。

高年齢者雇用確保措置を講ずるに当たっては、高年齢者雇用アドバイザーの活用を図ると良いでしょう。

◆助成金情報

特定求職者雇用開発助成金(生活保護受給者等雇用開発コース)

◆今月の実務チェックポイント

傷病手当金の支給期間の通算について

今回は令和4年1月1日から健康保険法の改正により変更となる傷病手当金の支給期間の取扱いについて説明します。

○傷病手当金の基礎知識

傷病手当金は、業務外の事由による病気やけがの療養のため労務に服することができなくなった日から起算して4日目以降の労務に服することができない日に対して、被保険者に支給されます(会社が代理で受け取ることも可能)。ただし、「待期」という連続3日間の労務に服することができない期間を経ていることが条件とされます。したがって、連続する3日間の「待期」が完成しなければ、労務に服することができず療養のために休業していたとしても傷病手当金が支給されることはありません。

○傷病手当金の額

傷病手当金の1日当たりの額は、被保険者期間の区分により次の計算式により算出します。

1.支給開始日以前に12カ月の被保険者期間がある場合
支給開始日以前の継続した12カ月間の 各月の標準報酬月額を平均した額
2.支給開始日以前の被保険者期間が12カ月に満たない場合
※次の①、②のうちのいずれか低い方の額を算定の基礎として計算します。 ① 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額 ② 当該被保険者の属する保険者の標準報酬月額の平均額
①または②の標準報酬月額の平均額

○法改正による傷病手当金の支給期間の通算

上記で確認したように、傷病手当金が支給される条件や支給額については、今回の法改正による変更はありません。では、法改正によって具体的にどの取扱いが変わるのかというと、「傷病手当金が支給される期間について」ということになります。現行では、傷病手当金の支給期間は、傷病手当金の支給が開始した日から最長で1年6カ月とされています。これは、最長で1年6カ月分が支給されるということではなく、支給開始日から起算して暦で1年6カ月が経過した時点で終了となることを意味しています。例として、6カ月間休業の後6カ月間復職、そして再発し再度8カ月間休業の場合を考えてみます。この場合は、支給開始日から1年6カ月を経過するまでの期間でみて、その期間の中で休業は通算1年間となるため傷病手当金の支給も1年間で終了となります。支給開始日から1年6カ月経過後も休業しているのですが、その期間については支給されません。
この取扱いが令和4年1月1日から変更となり、傷病手当金の支給期間のみを通算して最長で1年6カ月間支給されることとなります。すなわち、途中に復職などの労務に服することができた不支給期間があり支給開始日から1年6カ月を経過したとしても、傷病手当金の支給期間のみを見て1年6カ月に達していなければ、療養のため休業している期間については引き続き傷病手当金が支給されることになります。上記の例でいうと、支給開始日から1年6カ月経過後の2カ月間の休業期間についても傷病手当金が支給されることとなります。
なお、この法改正前から傷病手当金を受けている場合等は、令和3年12月31日において、傷病手当金の支給開始日から起算して1年6カ月経過していなければ、法改正による支給期間の通算が適用されることとなります。

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 12月分の社会保険料の納付
  • 12月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 給与支払報告書の提出
  • 法定調書の提出
  • 源泉徴収票の交付(従業員本人に渡す)
  • 固定資産税の償却資産に関する申告
  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を従業員から回収(社内で保管)
  • 労働保険料(第3期分)の納付(延納申請をした場合)
  • 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、10~12月分)

慣例・行事

  • 初出式(新年祝賀会)
  • 年賀状の返礼
  • 年始回り
  • 新年会

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