月刊人事労務だより~2021年7月号~

目次

○ 最新・行政の動き

厚労省は、外国人留学生を対象とした「国内就職支援研修モデルカリキュラム」を作成しました。

調査結果をみると、外国人留学生の65%が日本国内での就職を希望しているのに、実際の国内就職率は37%にとどまっているのが実情です。日本の企業文化・価値観・雇用慣行などへの理解を深めることで、就職・定着を支援するのがねらいです。

カリキュラムでは、大学1~2年生を対象とする「就職活動準備コース」と、3~4年生を対象とする「就職活動・内定コース」の2コースを設定しました。

厚労省では、大学のキャリアセンター、地方公共団体に加え、民間企業の外国人留学生・内定者向け研修などでの活用を推進する方針です。

 

○ ニュース

総合職で22万円超え 令和4年大卒初任給

インターネット上の求人情報を対象として労働新聞社が実施した調査によると、令和4年3月卒業見込みの大卒初任給は、総合職の平均が初めて22万円を超えた(22万826円)ほか、他の職種も上昇傾向を示しました。

総合職(主として首都圏勤務の全国転勤型。事務・企画・営業系)の集計企業のうち、23%が水準を引き上げ、残りの77%が据置きを選択しています。

技術系は22万3281円で、特に高齢化・人材不足に直面している建設業では、全体の3割強が初任給を増額しました。

このほか、一般職(事務系)は19万1160円、営業職は23万3822円という結果でした。前年調査と比べると伸び幅はほぼ半減していますが、大卒初任給に対する経済停滞の影響は限定的となっています。

「賃金上がる」とだけ説明 改定交渉で不当労働行為

北海道労働委員会は、団体交渉で具体的な数値資料の提供を拒んだとして、タクシー会社の対応を不当労働行為と認定しました。

会社は、オール歩合給から一部固定給を含む新賃金体系への移行を計画し、労組と団体交渉を行いました。サンプルとして一部乗務員の賃金がどのように変わるかの試算表を提示しましたが、労組側が要求する賃金台帳の写しの提示は拒否しました。

労使間の同意が得られないまま、会社は労基署へ就業規則変更届を提出し、労組は新賃金体系導入後に救済を申し立てました。

同労委は、「個人情報の関係上、非組合員の資料は提出できない」という会社側主張に対し、「台帳上の氏名を消す等の処理を施した後、新旧を比較できる数値資料を作成すべきだった」という判断を示しました。

賃金改定に至るまでの会社対応は不誠実で、不当労働行為に当たると認定したうえで、「大半の従業員の賃金がよくなる」と話した根拠について改めて具体的な資料を示し、交渉を続けるように命じています。

家族のワクチン接種時もOK 積立年休の用途を拡大

家族のワクチン接種に付き添う際も、積立年休の利用を可能に――。ヤフー㈱が打ち出した新型コロナウイルス対策です。

積立年休とは、時効により権利が消滅した日数分の年休について、特別の用途に限って利用を可能とする仕組みです。同社では、配偶者、父母、子のほか、同居する祖父母、兄弟、孫等も対象としています。

なお、従業員本人(契約社員を含みます)については、就業時間内の接種を原則とし、賃金カットの対象としません。副反応により就業困難になったときは、接種1回につき1日分の特別休暇を取得できます。

国家公務員の定年65歳へ 賃金は60歳前70%に設定

通常国会で、国家公務員の定年の段階的引上げが決まりました。国家公務員法の改正案上程は前年に続き2度目です。前回は検察幹部の特例規定に対する批判により廃案となりましたが、今回は特例部分がカットされています。

令和5年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、13年度に65歳とします。現在、民間企業に対しては「希望者全員65歳まで継続雇用(60歳定年で継続雇用による場合等も可)」が義務付けられていますが、65歳定年は公務員が民間をリードする形になります。

60歳以降の賃金は当分の間、60歳以前の70%に設定、同時に管理監督職は60歳までとする役職定年制を設けます。13年度までには、給与全体を見直し、賃金カーブを緩やかにする方向で、検討を進めるとしています。

民間企業の定年引上げに関しては、賃金体系がネックとなっています。段階的引上げの間に、人事院がどのような制度設計を提示するのか注目されるところです。

なお、今国会では、改正育介法、改正健保法も成立しました。

雇保料率の引上げを 財務省審議会が意見

雇用保険料率は平成29年度以降、5年連続で1000分の9という低水準で据え置かれています。一方、新型コロナウイルスによる失業防止のため雇用調整助成金の支出が3兆円を超えるなど、財政状況がひっ迫しています。

財務省の財政制度等審議会は、この問題について「まずは保険料引上げによる対応が検討されるべき」という意見を表明しました。

現在の雇用保険料率は本則ではなく、附則により「時限的」に引き下げられています。附則の期限(令和2年度に一度延長)は令和3年度末までとなっているので、令和4年度以降の対応は、今年度末に労働政策審議会で議論する方針です。

ただし、雇用保険財政の悪化は、上記とは別に国庫負担を軽減する特例(平成19年度から実施)によるという指摘もあり、議論は曲折が予想されます。

 

○ 監督指導動向

二酸化炭素を消火剤とする不活性ガス消火設備(二酸化炭素消火設備)については、昨年12月以降、誤操作等により二酸化炭素が噴き出す事故が3件発生しています。

今年4月には、新宿のマンション地下駐車場で、死亡者4名を含む6名が被災しました。これを受け、厚労省では、災害防止対策に関する通達を発しました(令3・4・16基安労発0416第1号)。

消防関連法令に基づく措置に加え、発注者(施設管理者)、元方事業者、関係請負人が情報を共有したうえで、適切な安全管理体制の下、手順に沿った作業を実施するよう求めています。

消火装置を操作する場所と二酸化炭素容器を設置する場所が離れているケースが多いため、点検作業等を実施する際には安全な連絡方法を確立することも重要としています。

 

○ 送検

安全パトロール実施せず タンクのフタ崩落で転落死 横浜南労基署

神奈川・横浜南労基署は、土木工事現場で安全パトロールを行っていなかったとして、建設元請会社と現場代理人を横浜地検に書類送検しました。

公園造成地の地下には、旧アメリカ軍の燃料貯蔵タンクがあり、上部はフタでおおわれていました。下請会社の労働者はその上で重機を使用していましたが、フタが重量に耐えきれずに崩落したため、重機もろとも転落し、死亡しました。

元請会社(特定元方事業者)は、下請労働者も含め、混在作業場の防災措置を講じる義務を負っていますが、その一つとして「作業場所の巡視」が挙げられています(安衛法30条)。建設現場安全管理指針では「毎作業日ごと1回」の巡視を求めています。

しかし、現場代理人は作業場に常駐していたにもかかわらず、事故発生までの35日間、安全パトロールの実施を怠っていました。

 

○ 実務に役立つQ&A

老齢年金どう扱う 繰下げ中に死亡した場合


当社役員(60歳台後半)が、治療の甲斐なく、病気でお亡くなりになりました。遺族のお話では、「働いているからと老齢年金の裁定請求をせず、繰下げをしていた」ということです。老齢年金の扱いはどうなるのでしょうか。


厚年法44条の3第4項では、老齢厚生年金の支給繰下げをした際に支給額を加算するとしています。

具体的な加算額は、受給権発生時の年金額に、受給権を取得した月から繰下げ申出をした日の属する月の前月までの月数(上限60カ月、令和4年4月からは120カ月)に1000分の7を乗じて算出した増額率を乗じて計算します(令3条の5の2)。

死亡者に代わって遺族が繰下げ請求はできず、未支給請求が可能な場合は、65歳の本来請求で年金決定されたうえで未支給年金として支払われます。つまり、増額のない年金を65歳までさかのぼって計算し、受給した扱いとなります。

なお、被保険者が高収入の場合、在職老齢による調整の対象になり得る点に留意が求められます。

 

○ 調査

厚生労働省「小規模事業所毎月勤労統計調査」

景気の波に大きく翻弄されるのは、小規模・零細企業の宿命です。

厚労省が実施した「小規模事業所毎月勤労統計調査」から、その実態を垣間見ることができます。調査対象となったのは、従業員規模1~4人の小規模事業所(20000事業所)です。

令和元年10月1日から令和2年9月30日までの1年間(その後半に、新型コロナウイルス禍の洗礼を受けました)に支払われたボーナス額(特別に支払われた現金給与額)は、前年比6.7%減少しました。

なかでも、深刻な影響を受けたのが製造業で、前年に比べ、2割(19.3%)もダウンしています。

性・主な産業別過去1年間に特別に支払われた現金給与額(事業所規模1~4人)

性・主な産業別過去1年間に特別に支払われた現金給与額(事業所規模1~4人)

新型コロナウイルスというと「休業」の増加というイメージですが、令和2年9月(給与締切日がある場合には、その日を最終日とした1カ月)の出勤状況をみてみましょう。

調査産業計の出勤日数は19.3日で、前年比0.6日減という状況です。テレワーク等は出勤にカウントされるので、こちらの下げ幅はそれほど大きくありません。男性(0.7日減)より女性(0.4日減)の休業が少ないのは、テレワーク向きの職種が多いせいでしょうか。

性・主な産業、事業所規模別出勤日数及び通常日1日の実労働時間

性・主な産業、事業所規模別出勤日数及び通常日1日の実労働時間

○ 職場でありがちなトラブル事例

職務に専念せずと解雇 セクハラを上司に相談しただけ

被害者は、会計事務所に勤務していたAさんです。事務所の社長さんは、何か事あるごとにAさんにプレゼントを贈りますが、指輪やカバンなど高価な品ばかりです。お断りしても、納得してくれる相手ではありません。

そのうちに、夜間に自宅に電話をかけ、細かに行動の報告を求めるようになりました。送られてくるメールの量は業務連絡の域をはるかに超えています。

思い余ったAさんが上司である部長に相談をしたところ、社長はその内容を盗聴したうえで、部長ともども解雇を通告しました。撤回を求めて争いましたが、らちが明かないために都道府県労働局の紛争調整委員会にあっせんの申請をしました。

従業員の言い分
 社長は、こちらの気持ちをまったく考えず、好意の押し付けを繰り返しますが、これはセクハラというか、ストーカー行為です。
 今も精神と体調の不調が続いている状態です。事務所に戻るつもりはなく、謝罪文と苦痛に対する慰謝料の支払を要求します。 

事業主-困惑-イラスト

事業主の言い分
本人は話をセクハラにすり替えていますが、私が問題にするのは、その勤務態度です。就業時間中に上司と会議室で話し込み、会社の悪口を言い連ねたのですから、職務専念義務違反として処分を受けるのは当然でしょう。
私の言動に、誤解を招く点があったのは認めます。慰謝料については、給料の2~3カ月分の50万円程度が限度と考えます。 

【 あっせんの内容 】 セクハラまがいの行為があった点については、労使間で争いがなく、復職という方向で話がまとまりそうなので、慰謝料の金額について両者に歩み寄りを求めました。
復職までの期間を休職扱いとし、その間の補償分に慰謝料を上乗せし、総額で200万円を支払うということで調整を図りました。

【 結果 】 Aさんが1カ月後に復職し、事務所が200万円の慰謝料(休業補償・治療費を含む)を支払うということで、両者ともにあっせん案を受諾しました。

 

○ 身近な労働法の解説―専門業務型裁量労働制②―

前回に引き続き、労基法に定める「専門業務型裁量労働制」の対象19業務のうち、4業務について記載します(番号は前回・次回に引き続きます)。

2.専門業務型裁量労働制の対象業務(続き)

④ 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務

  • 「広告」には、商品のパッケージ、ディスプレイ等広く宣伝を目的としたものも含まれるものであること。
  • 考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の制作等の業務を行う者は含まれないものであること。

⑤ 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。⑦(次回掲載)において同じ)の分析または設計の業務

  • 「放送番組、映画等の制作」には、ビデオ、レコード、音楽テープ等の制作および演劇、コンサート、ショー等の興行等が含まれるものであること。
  • 「プロデューサーの業務」とは、制作全般について責任を持ち、企画の決定、対外折衝、スタッフの選定、予算の管理等を総括して行うことをいうものであること。
  • 「ディレクターの業務」とは、スタッフを統率し、指揮し、現場の制作作業の統括を行うことをいうものであること。

⑥ 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務

  • いわゆるコピーライターの業務をいうものであること。
  • 「広告、宣伝等」には、商品等の内容、特長等に係る文章伝達の媒体一般が含まれるものであり、また、営利目的か否かを問わず、啓蒙、啓発のための文章も含まれるものであること。
  • 「商品等」とは、単に商行為たる売買の目的物たる物品にとどまるものではなく、動産であるか不動産であるか、また、有体物であるか無体物であるかを問わないものであること。
  • 「内容、特長等」には、キャッチフレーズ(おおむね10文字前後で読み手を引きつける魅力的な言葉)、ボディコピー(より詳しい商品内容等の説明)、スローガン(企業の考え方や姿勢を分かりやすく表現したもの)等が含まれるものであること。
  • 「文章」については、その長短を問わないものであること。

⑦ 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握またはそれを活用するための方法に関する考案もしくは助言の業務

  • いわゆるシステムコンサルタントの業務をいうものであること。
  • 「情報処理システムを活用するための問題点の把握」とは、現行の情報処理システムまたは業務遂行体制についてヒアリング等を行い、新しい情報処理システムの導入または現行情報処理システムの改善に関し、情報処理システムを効率的、有効に活用するための方法について問題点の把握を行うことをいうものであること。
  • 「それを活用するための方法に関する考案もしくは助言」とは、情報処理システムの開発に必要な時間、費用等を考慮した上で、新しい情報処理システムの導入や現行の情報処理システムの改善に関しシステムを効率的、有効に活用するための方法を考案し、助言(専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務は含まない)することをいうものであること。
  • アプリケーションの設計または開発の業務、データベース設計または構築の業務は含まれないものであり、当該業務は則第24条の2の2第2号の業務に含まれるものであること。

 

○ 助成金情報

新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇制度導入助成金

 

○ 今月の実務チェックポイント

夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について

今回は、夫婦が共働きの場合の被扶養者の認定について、令和3年4月30日付けで発出された通知(保保発0430第2号・保国発0430第1号。以下、「本通知」という)により、新たに取り扱いが示されましたので、その内容を確認したいと思います。

本通知とは

年収がほぼ同じ夫婦の子について、保険者間でいずれの被扶養者とするかを調整する間、その子が無保険状態となって償還払いを強いられることのないように具体的なかつ明確な基準を定めたものであり、令和3年8月1日から適用されます。これにより、昭和60年6月13日付けで発出された「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」の通知は廃止されることになります。

本通知の内容

  1. 夫婦とも被用者保険の被保険者の場合には、以下の取扱いとなります。
    1. 被扶養者とすべき者の人数にかかわらず、被保険者の年間収入が多い方の被扶養者とされます。年間収入とは、過去の収入、現時点の収入、将来の収入等から今後1年間の収入を見込んだものとされ、以下も同じ取扱いとなります。
    2. 夫婦双方の年間収入の差額が年間収入の多い方の1割以内である場合は、届出により、主として生計を維持する者の被扶養者とされます。
    3. 夫婦の双方またはいずれか一方が共済組合の組合員であって、その者に被扶養者とすべき者に係る扶養手当またはこれに相当する手当(以下、「扶養手当等」という)の支給が認定されている場合には、その認定を受けている者の被扶養者として差し支えないことになります。扶養手当等の支給が認定されていないことのみを理由に被扶養者と認定しないことはできないとされています。
    4. 被扶養者として認定しない保険者等は、その決定に係る通知を発出します。この決定に係る通知には、認定しなかった理由、加入者の標準報酬月額、届出日及び決定日を記載することが望ましいとされています。被保険者はこの通知を届出に添えて次に届出を行う保険者等に提出することになります。
    5. D.により、他保険者等が発出した不認定に係る通知とともに届出を受けた保険者等は、その通知に基づいて届出を審査することとし、他保険者等の決定につき疑義がある場合には、届出を受理した日より5日以内(書類不備の是正を求める期間及び土日祝日を除く)に、不認定に係る通知を発出した他保険者等と、いずれの者の被扶養者とすべきか年間収入の算出根拠を明らかにした上で協議し、この協議が整わない場合には、初めに届出を受理した保険者等に届出が提出された日の属する月の標準報酬月額が高い方の被扶養者とされます。標準報酬月額が同額の場合は、被保険者の届出により、主として生計を維持する者の被扶養者とされます。
    6. 夫婦の年間収入比較に係る添付書類については、保険者判断で差し支えないとされています。したがって、求められる添付書類は、保険者により異なる可能性もありますのでご注意ください。
  2. 主として生計を維持する者が健康保険法(大正11年法律第70号)第43条の2に定める育児休業等を取得した場合、これらの休業期間中は、特例的に被扶養者を異動しないこととされます。ただし、新たに誕生した子については、改めて上記1の認定手続きを行うこととされます。
  3. 年間収入の逆転に伴い被扶養者認定を削除する場合は、年間収入が多くなった被保険者の方の保険者等が認定することを確認してから削除することとされます。

以上が主な内容になりますが、その他、夫婦の一方が国民健康保険の被保険者である場合などの取り扱いも記載されておりますので、詳細は本通知をご確認ください。

 

○ 今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 6月分の社会保険料の納付
  • 6月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 労働保険の年度更新 申告・納付(6月1日から7月12日)
  • 労働保険料(第1期分)の納付(延納申請をした場合)
  • 労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、4~6月分)
  • 社会保険の算定基礎届の提出
  • 賞与支払届の届出
  • 高年齢者雇用状況等報告書・障害者雇用状況報告書の提出

慣例・行事

  • 全国安全週間
  • お中元の準備・発送
  • 暑中見舞いの準備・発送

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