月刊人事労務だより~2021年5月号~

目次

○ 最新・行政の動き

厚労省は、令和3年度から5年間を対象とする「第11次職業能力開発基本計画」(案)を取りまとめました。

長期雇用システムの変容・非正規労働者の増加により、継続的な人材育成が困難になるおそれがあると指摘したうえで、労働環境の変化に応じた施策を論じています。

日本の人材育成については、依然として企業による計画的なOJT、Off-JTの機会確保が重要であり、人材開発支援助成金等による訓練費助成の強化が欠かせないと指摘しました。

労働者に対し、知識・能力・スキルを定期的に見直す機会を提供するため、キャリアコンサルティングの幅広い活用を促すとともに、労働市場インフラの整備に向け、職業訓練サービスの向上、日本版O-Netとジョブ・カードの利用促進等が不可欠としています。

○ ニュース

「賃上げの流れ」は維持 2021春季労使交渉

春季労使交渉の集中回答日となった3月17日、先行する大手企業では、回答を得た51組合がすべて賃金構造維持分を確保しました。

金属労協の高倉明議長は、「8年連続となった賃上げの流れを継続できた」と総括しました。中小製造業の組合が多くを占めるJAMでも、「大手追従から脱却の流れ」を評価しています。

4月5日時点で連合がまとめた集計結果(2136組合)では、平均賃金方式での定昇相当込み賃上げ額・率は5463円・1.82%(前年比298円・0.12ポイント減)という状況です。

300人未満の中小組合(1369組合)は4639円・1.84%(同169円減・0.09ポイント減)で、率では全体を上回る健闘ぶりです。

「偽装一人親方」を排除へ 労働者性あり2割

国土交通省は、一人親方問題に関する中間とりまとめ案を明らかにしました。「社会保険の加入逃れ」などの不正防止のため、下請ガイドラインを改正する方針です。

実態が雇用形態であることが明らかな技能者を一人親方として取り扱う企業は、下請け企業に選定しないなど規制を強化します。

不適正な例として、①実務経験年数が10年以上なく、建設キャリアアップシステムのレベル3相当以上の技量のない20歳台労働者、➁特定会社に専属従事し、始・終業時刻を指定され、具体的な指揮命令を受けている個人事業主等を例示しました。

防止策として、元請企業に対し、現場入場時のチェックリスト活用、ヒアリング等の実施を求めるとしています。

JILPT(労働政策研究・研修機構)は、過去に「労働者性」が問題となった事案を分析した結果、22.1%で個人事業主に該当しないという研究結果を公表しています。

組合員に役職手当不支給 不当労働行為と認定

障害者支援のNPO法人が、都労委による救済命令取消しを求めた事案で、東京地方裁判所は、手当の不支給は不当労働行為に当たると判断しました。

同法人の常勤職員Aさんは、主任手当5000円の支給を受けていましたが、その後、合同労組に加入し、職場内に分会を設ける等の活動を行っていました。

財政状況のひっ迫により、法人側から役職手当の支給停止という提案がなされた際、Aさん一人が反対を表明したことにより、主任手当の支給が停止されました(他の職員の手当はそのまま支給)。

Aさんの所属する労組が団体交渉に臨みましたが、話し合いがまとまらなかったため、都労委に救済を申し立て、手当の遡及支払命令が下されました。

東京地裁は、NPO法人の「降職による不支給に過ぎない」という主張に対し、「適法な人事権行使であっても、組合活動を嫌悪して行われた場合は、不当労働行為が成立し得る」と述べ、都労委の命令を維持しました。

キャッシュレス決済業者へ賃金振込 労基則で要件明記へ

QRコードなどを用いたキャッシュレス決済業者(資金移動業者)の利用が、急速に拡大し、業者アカウントへの賃金支払ニーズが広がっています。令和2年に閣議決定した「成長戦略フォローアップ」では、早期の制度化を求めていました。

厚労省は、昨年8月から、この問題に対する検討を進めていましたが、労基則の改正により、要件を満たす業者に限定して賃金支払いを認める方針です。

現行でも、資金決済法などに基づき、すべての業者に必要な規制がなされています。これを「1階部分」と位置づけ、さらに「2階部分」の保護策を講じます。

労基則では、「賃金の確実な支払い」を担保するため、民間保険による保証、適時の換金性確保、不正引出しの対策等の要件を明確化します。

保証機関は、業者破綻時には、労働者に一定額を早期に支払い、財務局に対し供託金の還付請求を行う流れを想定し、これにより、安全性を確保するとしています。

改正コロナ特措法を発動 東京都で飲食店に時短命令

令和3年2月3日に、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が公布され、同13日から施行されています。

対策の実効性を高めるため、都道府県知事は、緊急事態宣言のもとで施設の使用制限(時短要請など)に正当な理由なく応じない事業者に「命令」ができるようになりました。

これを受け、東京都は、3月18日に、要請に応じなかった飲食店27店舗に対し、時短営業を命じました。

対象店舗は、文書指導や事前通知等があったにもかかわらず、時短等の措置を講じていませんでした。「経営状況の悪化」は、要請を拒否する「正当な理由」とは認められません。

 

○ 監督指導動向

秋田労働局は、新型コロナ特例の雇用調整助成金を不正受給した事業主名を公表しました。

特例では、助成率や支給上限額を引き上げるほか、通常は休業を実施する前に提出する計画届を不要とするなど、事業主に対するサポートを手厚くしています。

3月31日時点で、雇調金の支給額は全国で3兆1579億円、支給決定件数307万8648件に上っています。

不正はそうした中で発覚したもので、公表対象となった宿泊業者は、実際は勤務していた労働者を休業と偽って水増し申請をしていました。受給した助成金の総額は545万円余で、一部は既に返還されているとのことです。

 

○ 送検

賃金の3%を中間搾取 紹介業者が「親睦費」徴収 佐世保労基署

長崎・佐世保労基署は、求職者の賃金から毎月3%を中間搾取していたとして、有料職業紹介事業者の取締役を長崎地検佐世保支部に書類送検しました。

同社は専門的な商品知識を使って販売や実演宣伝などを行う「マネキン」の紹介事業を行っていましたが、取締役は求職者から賃金の3%を「親睦会費」の名目で徴収していました。

ところが、実際のところ、親睦会費は慶弔費等の福祉目的で支出されるのではなく、手続き文書の切手代等の事務経費に充てられていました。

職業安定法では、職業紹介事業者に対して手数料徴収を禁じています。例外がマネキンや配膳士、調理師などを紹介する場合で、最高710円の徴収が認められています。しかし、取締役は手数料とは別に賃金の3%相当額を自動的に回収していたものです。

 

○ 実務に役立つQ&A

外国人の手続き不要か 留学生で雇用保険なし


外国人留学生の雇用を検討しています。昼間学生は雇用保険の被保険者ではないため、ハローワーク等への届出等は不要ということでしょうか。


原則として、日本国に居住し、合法的に就労する外国人は、雇用保険の被保険者となります。ただし、昼間学生の場合、被保険者とならない点は外国人であっても同様です。

しかし、新たに外国人を雇い入れた場合、労働施策総合推進法(旧雇用対策法)に基づく手続きが必要です。同法28条では、氏名や在留資格、在留期間など「外国人雇用状況」を、厚生労働大臣(ハローワーク所長に権限委任)に届け出るよう求めています。

雇用保険の被保険者であるか否かによって届出事項に違いはあるものの、届出自体は必要です(施行規則10条3項)。

届出は、新規に雇い入れた場合だけではなく、離職した場合も含まれています。被保険者ではない場合の提出期限は、雇入れまたは離職日の翌月の月末まで(労推則12条2項)です。

 

○ 調査

日本政策金融公庫「中小企業の雇用・賃金に関する調査」

調査は、日本政策金融公庫が取引先である中小企業を対象に行ったものです(有効回答数6539社)。

個々の企業が支払った「賃金総額(2020年12月現在)」をみると、「前年に比べ増加」と答えた企業は29.6%にとどまりました。前回調査比28.6ポイントの大幅減です。

前回(2019年)調査時には、51.3%の企業が「増加する」という見通しを示していました。しかし、新型コロナの影響等で、多くの企業が予測を誤った形です。

賃金総額

賃金総額

企業活動は縮小を余儀なくされましたが、人手不足はどの程度緩和されたのでしょうか。正社員が足りないと回答した企業割合は、前年比16.6ポイント減の36.6%でした。

こちらの落ち込み幅は、思ったより大きくありません。建設業、運送業では、相変わらず半数を超える企業が人手不足に頭を痛めている状況です。

正社員の過不足感

正社員の過不足感

 

○ 職場でありがちなトラブル事例

悪質な勧奨により泣く泣く退職 傷病手当金の説明も「無責任」

冠婚葬祭会社で働いていたAさんは、椎間板ヘルニアで自宅療養に入ったところ、支社長が見舞に訪れました。

Aさんは年休を消化中でしたが、支社長の強い説得を受け、最終的に退職願の提出に同意しました。その際、会社からは、「健保は任意継続被保険者となり、給付関係で不利益はない」という説明を受けました。

ところが、健保の手続きを採ろうとすると、雇用期間が1年に満たないため、退職後の傷病手当金を受給できないことが判明しました。

「虚実取り混ぜ」、退職に追い込もうとする会社の態度に対し、不信感を募らせたAさんは、紛争調整委員会へあっせんを申請しました。

従業員の言い分
病気で休む前から、支社長は私の営業成績が悪いことを理由として、執拗な嫌がらせを続けていました。退職届の提出に至るまで、支社長等から受けた言動により、口ではいい表せないほどの苦痛を味わいました。
会社のいい加減な説明により、健保の給付面で不利益を被った点も含め、金銭面で相応の補償を求めます。

事業主の言い分
Aさんは、営業成績不振でプレッシャーを感じていたことに加え、勤務に耐えられない健康状態となったことにより、自ら退職を申し出たものです。
執拗な退職勧奨等を行ったという事実はなく、会社として、金銭補償するべき理由があるとは、到底、考えられません。

【 あっせんの内容 】 退職に至った経緯(勧奨の有無)について、労使間の主張は終始、食い違いを見せ、合意点を見出せませんでした。会社に対して「健康保険に対する不正確な情報提供が、紛争の一因となった」点に注意を促すとともに、Aさんには「事実関係の究明に固執するのなら、裁判によるしかない」と説明し、金銭面での合意を促しました。

【 結果 】 会社がAさんへ10万円の和解金を支払うという内容で、労使双方による合意文書の作成が行われました。

 

○ 身近な労働法の解説―事業場外労働のみなし労働時間制―

今回は、労基法に定める「事業場外労働のみなし労働時間制」について解説します。

  1. 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)とは
  2. 対象となる業務・対象とならない業務
  3. 労働時間の算定方法

1.事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)とは

労働者が業務の全部または一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。

2.対象となる業務・対象とならない業務

事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務です。
そのため、次のように事業場外であっても使用者の指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はできません。
(1)何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
(2)無線等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
(3)事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

テレワークにおいて、次の①②をいずれも満たす場合には、制度を適用することができます。
① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
※この解釈については、以下の場合については、いずれも①を満たすと認められ、情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはありません。
・勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
・勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
・会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、または折り返しのタイミングについて労働者において判断できる場合
② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
※使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、一日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合については②を満たすと認められます。

3.労働時間の算定方法

事業場外労働のみなし労働時間制が適用される事業場外の業務に従事した場合における労働時間の算定には、次の3つの方法があります。
【1】 所定労働時間
【2】 事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間
【3】 【2】の場合であって労使で協定したときは協定で定める時間
※【2】【3】のときは、労働時間の一部について事業場外で業務に従事した日における労働時間は、別途把握した事業場内における時間とみなし労働時間制により算定される事業場外で業務に従事した時間を合計した時間です。
なお、上記合計した時間や【2】【3】の時間が法定労働時間を超える場合には、割増賃金が必要です。
また、休憩時間や休日労働・深夜業の割増賃金の規定は適用されます。

 

○ 助成金情報

人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)

 

○ 今月の実務チェックポイント

出産手当金について

今回は健康保険の被保険者が産前産後休業を取得し、労務に服さなかった期間について支給される出産手当金について説明します。

出産手当金とは

労働基準法第65条に基づき、出産の日(出産の日が出産の予定日よりも後であった場合は、出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間において休業(以下「産前産後休業」といいます)し、労務に服さなかった期間について、被保険者に出産手当金が支給されます。
労務に服さないことが条件となっており、会社に対して労働力の提供がないことが前提となっています。したがって会社は産前産後休業を取得した被保険者についてその期間の給与を支払う義務がないことになります。
しかし、そうなると被保険者の生活は苦しくなるため、被保険者の生活の安定を目的とする産前産後休業期間中の生活保障として出産手当金が位置付けられ、支給されることになりました。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。

出産手当金の支給額

出産手当金の1日当たりの支給額は次のようになります。

  1. 支給開始日以前に被保険者期間が12カ月ある場合
    支給開始日以前の継続した12カ月間の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
  2. 支給開始日以前の被保険者期間が12カ月に満たない場合
    ①または②の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3

    ※ ①、②のうちのいずれか低い方の額を算定の基礎として計算します。
    ① 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
    ② 当該被保険者の属する保険者の標準報酬月額の平均額(※協会けんぽの令和3年度は30万円)

出産手当金の支給申請

「出産手当金支給申請書」に必要事項を記載し、事業主の証明および医師または助産師の証明を受けて保険者(全国健康保険協会または健康保険組合)に提出します(押印は不要に)。

出産手当金の注意点

  1. 「出産」とは妊娠4カ月(85日)以上の分娩を指し、早産・死産(流産)・人工妊娠中絶を含みます。
  2. 出産日は産前期間に入ります。
  3. 産前分、産後分と複数回に分けて申請することが可能です。
  4. 短時間でも就労した日については、労務に服さなかった期間とはなりませんので給与の額を問わず出産手当金は支給されません。事業主から恩恵的な給与が支払われた場合で、出産手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます。

 

○ 今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 4月分の社会保険料の納付
  • 4月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 3月決算法人の法人税・消費税・地方消費税・法人事業税・法人住民税の確定申告・納付
  • 自動車税の納付

慣例・行事

  • 冷房設備の整備・点検

 

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