月間人事労務だより~2024年10月号~

最新・行政の動き

令和7年度 賃上げ支援へ助成金拡充 実績に応じ加算措置 厚労省

厚生労働省は令和7年度、生産性向上や正規・非正規の格差是正など賃上げ支援に関する助成金を拡充する方針です。

設備投資や人への投資などによる生産性向上への支援関係では、人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)や働き方改革推進支援助成金などを拡充します。

このうち前者は、賃金規程・諸手当などの制度や人事評価制度、職場活性化制度といった雇用管理改善につながる制度を導入し、離職率を低下させた事業主に支給するもの。現在は支給を休止していますが、来年度から受付けを再開します。その際、既存の人事評価改善等助成コース(7ページ参照)を統合します。助成額は、賃金規程・諸手当や人事評価制度の導入で各40万円、それ以外の制度の導入は20万円で、上限は計80万円とします。ただし、賃上げ5%の要件を満たした場合には、各支給額の25%を上乗せ支給します。

働き方改革推進支援助成金は、労働時間削減などに向けた環境整備のために、外部専門家のコンサルティング、労働能率の増進に資する設備・機器の導入を実施し、成果を挙げた中小企業が対象。現行制度では、賃金を3%以上引き上げた場合に、その労働者数に応じた加算措置を設けており、5%以上の引上げには原則として最大240万円を加算しています。来年度はさらに「賃上げ7%以上」の区分を設け、最大360万円を加算します。

非正規労働者の処遇改善を後押しするキャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースでは、賃上げ6%以上を実施した際の支給額を引き上げるほか、昇給制度を新たに設けた企業に対し、1事業所当たり20万円(大企業15万円)の加算措置を設けます。

 

ニュース

最賃平均1055円 27県が引上げ目安上回る 答申結果

厚生労働省は、全国すべての地方最低賃金審議会で令和6年度の地域別最低賃金の改定額を答申したと発表しました。47都道府県の引上げ額は50~84円で、全国加重平均額は前年度から51円上昇して1055円になります。上昇額は、「目安」創設以降で最も高く、27県で中央最低賃金審議会が示した目安額の50円を上回りました。

各地の答申結果によると、最賃水準の低い地域を中心に、目安を上回るケースがめだちました。最も引上げ額が高いのは徳島の84円。以下、岩手と愛媛が59円、島根58円、鳥取57円などと続きます。

引上げ後の最賃最高額は東京の1163円で、次いで神奈川が1162円。以下、大阪1114円、埼玉1078円、愛知1077円と続き、合わせて16都道府県で1000円を超えました。一方、最低額は秋田の951円となり、すべての地域で950円に到達。最高額に対する最低額の比率は前年度の80.2%を上回る81.8%で、10年連続で改善しました。改定後の最賃は10月1日から順次発効します。

動画で価格交渉指南

賃上げ原資確保を促す 福岡県

福岡県は、適切な価格転嫁を通じて賃金引上げをめざす中小企業を支援するため、「価格交渉のスキルアップ」をテーマにセミナー動画を作成しました。福岡県中小企業振興センターのホームページで、無料で視聴できます。必要なデータの収集方法を教える準備編から、競合他社と差別化を図り、より満足のいく価格転嫁を実現するための手法まで紹介しています。

動画は、基礎知識を学べる「準備編」、原価計算の方法に関する「実践編」、付加的な利益向上を目的とした「応用編」で構成します。利益向上の手法として、製品の品質向上、新機能追加などを挙げています。

講師は中小企業診断士が務めています。動画は全部で約65分。項目別に約10分間の動画6本に分割しています。学びたい項目のみ、見直しやすくする狙いです。

第1号はPayPay

デジタル払いの指定業者 厚労省

厚生労働省は、賃金のデジタル払いに関与できる資金移動業者として、PayPay㈱を指定しました。

賃金のデジタル払いは、各事業場で労使協定を締結し、本人の同意を得たうえで、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動によって賃金を支払うもの。昨年4月の改正労規則施行によって導入されました。厚労大臣が指定したのは同社が初めて。

デジタル払いが行える口座名は、「PayPayマネーアカウント(給与受取)」で、口座残高の受入れ上限額は20万円。上限額を超えた場合には、超過金額を、労働者が指定した銀行口座などに自動で送金します。

同社破綻時においては、保証機関である三井住友海上火災保険㈱が口座残高の全額を保証します。破綻時から6営業日以内に、労働者が指定する銀行口座などに保証額を振り込みます。

同社のデジタル払いサービスは、ソフトバンクグループ各社の従業員を対象に先行して開始します。そのほかの企業の労働者については、年内開始を見込みます。申込みは各労働者がPayPayアプリ内から行います。

配偶者転勤で休職可 最大3年認め退職防ぐ 積水化学

積水化学工業㈱は、仕事と家庭の両立支援策として、配偶者の転勤に帯同する場合に3年、不妊治療のため一定期間業務から離れる必要がある場合に1年の休職を認める制度を新設しました。復職に当たっては、休業開始前の等級と賃金を保障します。制度を利用できるのは入社3年を経過した雇用期間の定めのない社員で、管理職も含まれます。

同社では、共働き世帯が増加するなか、配偶者の転勤によって一時的な離職を余儀なくされるケースが生じていました。休職制度は、「当社でのキャリアを継続してもらう手段として用意した」としています(同社広報担当)。

不妊治療には積立て有給休暇の利用も認めており、以前から短期的な治療には対応していました。休職制度によって長期的な治療にも対応していきます。不妊治療経験者のうち16%(女性に限ると23%)が仕事と両立できずに離職しているとのデータがあったことから、対応の必要性を感じたといいます。

 

送検

組立中の足場で墜落防止講じず

宮古労基署・送検

沖縄・宮古労働基準監督署は、今年2月に下請の労働者が組立て中の足場から墜落死した労働災害に関連して、元請の建設業者と同社の代表取締役を労働安全衛生法第31条(注文者の講ずべき措置)違反の疑いで書類送検しました。足場における高さ2メートル以上の作業場所を使用させるに当たり、作業床設置などの墜落防止措置を行っていなかった疑いです。

災害は、同市内のホテル新築工事現場で発生しました。足場の組立て工事を施工する下請の10代の労働者が、足場7段目で幅木を取り付ける作業を行っていたところ、高さ約13メートルから墜落して死亡しています。

下請の建設業者と同社職長についても、同法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反で送検しました。要求性能墜落制止用器具(フルハーネス型安全帯)を使用させていなかった疑いです。

監督指導動向

均等・均衡待遇  慶弔休暇の違反めだつ 

是正指導は176件に 大阪労働局

大阪労働局は、同一労働同一賃金の遵守徹底に向けて、是正指導を強化しています。このほどまとめた令和5年度のパートタイム・有期雇用労働法に基づく是正指導件数は、1143件に上りました。4年度の501件から倍増し、なかでも均等・均衡待遇に関する指導は、約18倍となる176件実施しています。違反の多くは、慶弔休暇などの福利厚生や手当における不合理な待遇差でした。

たとえば慶弔休暇では、正社員には付与しているが、短時間・有期雇用労働者には付与していなかったり、日数を減らしていたりする会社が多くみられました。待遇差を設ける場合であっても、1週間に3日のみ勤務する短時間労働者については、まずは勤務日の振替で対応できないか検討するよう指導したケースがあるとしました。

給与面では、通勤手当などの各種手当の支給基準に不合理な待遇差を設けている企業を多数確認しました。待遇に差を付ける場合は、所定労働日数に応じて日額交通費を支給するなどの指導を行っています。

同労働局では、昨年度以上に報告徴収を積極化しています。「労基署の監督時には、必ず同一労働同一賃金の状況を確認している。法遵守の徹底に向け、丁寧に指導を行っていく」としています。

調査

男性3割が半年超希望 若年層における育児休業等取得に対する意識調査

厚生労働省は、今年6月に18~25歳の若年層を対象に調査を行い、速報値を公表しています。

育児休業を取得したいと回答した男性の割合は84.3%でした。育休取得の希望期間については、半年以上を希望した割合が29.2%と、約3割に上っています。3~6カ月未満は14.4%、1~3カ月未満は25.3%となっています。

育休をどの程度取得したいと思うか(男性)

男性の育休取得希望期間

 

 

 

 

 

 

男性の育休取得実績がない企業に「就職したくない」または「どちらかというと就職したくない」と回答した割合の合計は、61.0%に上りました。男性は57.3%、女性は65.1%となりました。就職活動において、男性の育休取得実績を重視している状況がうかがえます。

育休取得率が高い企業に対して抱くイメージは、「安定している」と回答した割合が41.5%で最も高く、「社員想い」が39.3%、「休日・休暇が多い」が28.4%で続いています。

 

実務に役立つQ&A

請負募集にルール? 職安法の留意点教えて

当社でフリーランスの請負契約で働いてくれる人を募集したいと考えています。労働者の募集手続き等に関しては職業安定法に規定がありますが、フリーランスの募集にも何らかのルールがあるのでしょうか。留意点があれば教えてください。

労働者の募集を行う者や募集情報等提供事業者に対しては、求人等に関する情報の的確な表示が求められています(職安法5条の4第1項)。個別の労働条件(従事すべき業務の内容等)の明示(法5条の3第1項)に至る前の広告等の的確表示を定めるものという位置付けです。

募集・求人業務取扱要領では、広告等で求人情報を提供する際は、いわゆる労働条件等の明示事項(職安則4条の2第3項各号のほか指針記載の事項)を可能な限り含めることが望ましいとしています。

雇用契約を前提とした労働者の募集と、フリーランス等の請負契約の受注者の募集が混同されることのないよう表示する必要があります(法5条の4第1項、指針〈令5・3・31厚労省告示165号〉)。令和6年11月施行のフリーランス法や指針にも、同様の規定が設けられています。

身近な労働法の解説 ―ポジティブ・アクション―

男女雇用機会均等法8条では、性差別の禁止に関して、女性労働者に係る措置に関する特例を定めています。

1.女性労働者に係る措置に関する特例(8条)

雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置−これまでの女性労働者に対する取扱いなどが原因で職場に事実上生じている男女間格差を解消する目的で女性のみを対象としたり女性を有利に取り扱う以下の措置−は、5条および6条の規定(性別を理由とする差別の禁止)には違反しません。

なお、男性労働者については、一般にこのような状況にはないことから、男性労働者についての特例は設けられていません。

(1)募集および採用

女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分における募集または採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。

(2)配置、(3)昇進、(4)教育訓練、(5)職種の変更、(6)雇用形態の変更、について、一つの雇用管理区分における女性労働者が同じ雇用管理区分の男性労働者と比較して相当程度少ない場合に、対象を女性労働者のみとすること、女性労働者を優先すること、有利な条件を付すこと、その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること。

※「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。「雇用管理区分」についての詳細は、厚労省HPを参照ください。

2.ポジティブ・アクションとは(厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」より)

固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、「営業職に女性はほとんどいない」「課長以上の管理職は男性が大半を占めている」等の差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組みをいいます。

ポジティブ・アクションの具体的な取組みには、次の2つがあります。

①女性のみを対象とする、または女性を有利に取り扱う取組み例

応募の対象を女性のみとする、女性を優先して採用の対象とする、昇進・昇格の試験の対象を女性のみとする

②男女両方を対象とする取組み例

女性を受け入れた経験が少ない管理職に対する研修を行う、人事考課基準、昇進・昇格基準などを明確に定める、出産や育児による休業がハンディとならないよう制度を見直す

内閣府男女共同参画局は、男女共同参画社会の実現に向け、女性の参画を拡大する最も効果的な施策の一つであるポジティブ・アクションを推進し、関係機関への情報提供・働きかけ・連携を行っています。

今月の実務チェックポイント

いよいよ始まるマイナ保険証

既に全国健康保険協会または健康保険組合からご案内されている通り、令和6年12月2日より、現行の健康保険証の発行が終了し、マイナンバーカードでの保険証(マイナ保険証)を利用して医療機関等を受診する仕組みに移行されます。

【現在交付されている健康保険証について】

・令和6年12月2日時点において有効な健康保険証は、最大1年間(令和7年12月1日まで)有効

・ただし、転職・転居などで保険者の異動が生じた場合は失効

・マイナンバーカードを保険証として利用できるようにする事前登録は、マイナポータル、セブン銀行のATMで可能

・顔認証付きカードリーダーがある医療機関等での登録も可能

・現行の健康保険証と同様に、医療機関を受診する際にマイナ保険証の提示は必要

・何らかの事情によりマイナ保険証を有しない人には「資格確認書」を無償で交付

 

全国健康保険協会に加入の事業所については、「資格情報のお知らせ及び加入者情報(マイナンバーの下4桁)」が送付されます。

個人ごとに窓付きの封筒になっていますので、開封せずに被保険者の方へ配布します。送付時期は令和6年9月と令和7年1月です。

受け取った被保険者の方は、「資格情報のお知らせ」を点線で切り取って保管します。

【マイナ保険証の利用方法】

マイナ保険証を利用できるのは、オンライン資格確認等システムを導入している医療機関等になります。

オンライン資格確認等システムを導入していない医療機関の場合、以下の方法で受診することになるため「資格情報のお知らせ」はマイナンバーカードと併せて保管しておきましょう。

1.マイナ保険証+スマートフォンのマイナポータルの資格情報画面

2.マイナ保険証+配布される資格情報のお知らせ

 

【マイナ保険証のメリット】

・初めて受診する医療機関等でもデータに基づき、より適切な診断を受けられる

・過去に処方された薬や重複する投薬を避けられる

・旅行先や災害時で薬の情報等を医師等に連携できる

・手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される(窓口で限度額情報の表示に同意が必要)

・窓口負担額が現行の健康保険証より少し安くなる

・マイナポータルで確定申告する際に医療費控除が簡単になる

詳しくは画像をクリック↓↓

助成金情報

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)

 

「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」は、生産性向上のための人事評価制度と賃金制度を通じて、生産性の向上、賃金アップおよび離職率の低下を図る事業主に対して助成するもので、人材不足の解消を目的としています。

 

助成金の概要

 支給額:80万円 

事業主が、生産性向上のための人事評価制度と労働者の賃金アップを含む賃金制度を整備し、実施することを通じて、生産性向上を図り、労働者の賃金の3%以上のアップ、離職率の低下に関する目標を達成した場合に支給します。

 

助成金支給までの流れ

1.人事評価制度等整備計画の作成・提出(計画の認定申請)

2.認定を受けた1の整備計画に基づく人事評価制度等の整備

3.人事評価制度等の実施

人事評価制度等の適切な運用を経て、「労働者の賃金の3%以上のアップ」「離職率の低下に関する目標」のすべてを達成

4.支給申請(提出期間)

人事評価制度等の実施日または評価時離職率算定期間の末日のいずれか遅い日の翌日から起算して2カ月以内

5.助成金の支給 80万円

 

助成の対象となる人事評価等

・対象労働者

1.(a) 期間の定めなく雇用されている者

(b) 一定の期間を定め雇用され、その雇用期間が反復継続され、事実上期間の定めなく雇用されている場合と同等と見なせる者

2.事業主に直接雇用される者であること

3.雇用保険の被保険者であること。

 ・以下の1~10の全てを満たす人事評価制度であること

1.労働者の生産性の向上に資する人事評価制度および賃金制度として、労働組合または労働者の過半数を代表する者と合意している。

2.人事評価の対象と基準・方法が明確であり(※)、労働者に開示している。

※能力・技術・資格、行動・コンピテンシー・努力・姿勢・情意、成果・業績など、労働者個人の意思によって向上させることが可能な項目を対象とするものであり、年齢または勤続年数のみで評価が一義的に決定されるものでないことが必要

3.評価が年1回以上行われるもの。

4.人事評価制度に基づく評定と、賃金の額またはその変動の幅・割合との関係が明確である。

5.賃金表を定めている。

6.上記4および5を労働者に開示している。

7.新制度等における人事評価の適用を受けた人事評価制度等対象労働者が、新制度において平均的な評定を受けた場合の賃金額について、新制度適用前と比べて3%以上増加する見込みである。また、全ての人事評価制度等対象労働者の総額も3%以上増加する見込みであること。

8.上記7について、労働組合または労働者の過半数を代表する者と合意している。

9.新しく整備した人事評価制度等により対象となる労働者を実際に評価した日から人事評価制度等の実施日が2カ月以内である。

10.賃金額の引下げを行う等、助成金の主旨・目的に反する人事評価制度等でない。

 

※ 制度の詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。

今月の業務スケジュール

労務・経理 慣例・ 行事
  • 9月分の社会保険料の納付
  • 9月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 労働保険料(第2期分)の納付(延納申請をした場合)

●労働者死傷病報告の提出(休業4日未満の労働災害等、7~9月分)

  • 全国労働衛生週間
  • 健康強調月間
  • 高年齢者雇用支援月間

●中小企業退職金共済制度加入促進強化月間

 

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