最新・行政の動き
政府は、令和8年春卒業予定の学生の就職・採用活動について、専門性が高い学生の採用選考開始日を前倒しする方針を決定しました。
現行の日程ルールでは、説明会の開催など広報活動の開始を大学3年3月1日以降、面接など採用選考活動の開始を大学4年6月1日以降、正式な内定日を同10月1日以降と定めています。
8年春卒業予定者の採用活動では、原則として現行の日程を維持しますが、要件を満たした人材に限り、3月の広報活動開始日以降、採用選考活動を行えるようにします。現行の選考開始日である6月を待たずに内々定を出すことも可能になります
日程の前倒しは、大学4年になる直前の春休みに実施する「専門活用型インターンシップ」に参加した学生を対象とします。専門活用型インターンシップとは、企業が行うキャリア支援活動の類型として昨年4月に産学協議会が定義した「タイプ3(汎用的能力・専門活用型インターンシップ)」のうち、2週間以上の日程で実施するもの。日程の半分は職場での就業体験が必要になります。
選考時期の前倒しを希望する企業は、インターンシップの実施に当たり、就業体験において学生に求める大学での学修成果水準、専門的能力と、新卒一括採用での採用予定人数――を自社ホームページなどで公表しなければなりません。そのほか、プログラムの趣旨や、実施時期・期間、場所、募集人数、選抜方法、無給・有給の別なども示す必要があります。
ニュース
シフト制で取組事例公表
厚生労働省はいわゆるシフト制の円滑な運用に向けた取組み事例を公表しました。
シフト制は、労働契約締結時点で確定的に労働日や労働時間を定めず、一定期間ごとに作成する勤務割やシフト表によって初めて具体的な労働日・時間を決定する形態。労使ともに柔軟にシフトを組めるメリットがある一方、コロナ禍において、労働時間が激減するなどのトラブルが起きていました。
今般公表した取組み事例は、シフトの決定方法、通知の仕方、急な欠員への備えの3点について、労働者の不満を踏まえた企業の対応を示しています。具体的には、シフトの自動作成アプリの導入や、各従業員の出勤できる日・できない日をあらかじめ把握しておくなどの方法を挙げました。さらに一歩進んだ取組みとして、「シフトは○日前までに決める」などのルール設定や、SNS・メールでシフトを共有する際、後から書き換えられない形式にすることなども推奨しました。
3年超での無期転換認める
KLMオランダ航空で客室乗務員として働いていた労働者29人が雇止めは違法と訴えた裁判で、東京地方裁判所は29人全員の無期転換を認める判決を下しました。
29人の労働者は平成22~23年に同社と有期労働契約を締結しました。契約期間は3年間で、1回に限り、2年間の契約更新ができるとされていました。労働者らは25年12月以降、合同労組に順次加入し、無期雇用などを求める団体交渉を重ねましたが、妥結には至りませんでした。
同労組は27年3月、東京都労働委員会にあっせんを申し立て、4回のあっせん期日を経て、労働契約法に基づく無期転換申込権の発生日前日まで、当初の契約にかかわらず、有期労働契約を延長する内容の和解合意書が作られました。同社は和解合意書に従い、30年7月以降、労働者らを雇止めとしていきました。
同地裁は判決で、労働契約の最密接関係地はオランダであり、オランダ法は強行規定で有期労働契約が3年を超えた場合の無期転換を認めていると指摘。労働者らがオランダ法の適用を求めた令和3年5月17日時点で、無期労働契約が成立しているとしました。
最密接関係地の判断に当たっては、人事管理の実態を重視。同地裁は、労働者らは日本とオランダ間を飛行する航空機内で業務に従事しており、労務提供地は複数の法域にまたがっていると強調し、特定できないとしました。そのうえで、採用計画の策定、訓練、運航計画の管理、業務指揮命令、人事評価・管理などはオランダ本社やオランダ国内の部署が行っていたとして、雇入れ地はオランダと評価しています。
搾乳室整備に補助金を交付
富山県は、女性が働きやすい職場づくりに取り組む企業を支援する補助金を拡充しました。出産後の女性従業員が利用できる搾乳室の整備など、女性特有の健康課題に対応するための設備にかかる費用について、最大50万円を補助します。
同県は昨年度から、女性に焦点を当てた働き方改革に取り組む企業に対し、「女性活躍ファーストペンギン企業パイロット事業費補助金」を設けています。補助対象は、女性従業員向けの管理職体験制度の実施にかかった経費や、月経・妊娠、産後ケアなどの健康課題解決に役立つ「フェムテック製品・サービス」の導入経費など、ソフト面の整備費用に限っていました。
今年度は県内企業からの要望を受け、ハード面の費用を対象に追加しました。搾乳室のほか、月経や妊娠中の女性に対する休養スペースの整備のため、搾乳用チェアやパーテーションなどの購入費用を補助します。
カスハラ対策で省令改正
国土交通省は、タクシーやバスなど旅客自動車運送事業者の運転者証に関する省令を改正し、乗客側から氏名や顔写真がみえない様式に変更します。一部の乗客が車内に掲示する運転者証を無断で撮影し、SNSで公開するなどのカスタマーハラスメント問題を受けてのもの。運転者のプライバシーや安全を確保して働きやすい環境を整備することで、業界全体の人材確保につなげます。施行は6月下旬を予定しています。
旅客運送事業に関する省令では、乗務員の氏名を車内に掲示するよう義務付けています。とくにタクシーについては、顔写真や運転免許証の有効期限まで記載された運転者証を、乗客のみえやすい場所に掲示しなければなりません。
改正案では、バス車内での氏名の掲示を廃止します。タクシーについては、省令で定める運転者証の様式を変更し、プライバシーに関する情報を乗客にみえる面から削除します。国交省が監査に入る際に確認する運転者証としての機能を保持するため、裏面に引き続き氏名や顔写真を記載する様式に見直します。
送検
島根・出雲労働基準監督署は、木材加工用丸のこ盤に歯の接触予防装置を設けないまま労働者に作業させたとして、製造業者と同社代表取締役を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いで松江地検出雲支部に書類送検しました。数年前から定期監督を通じて複数回法違反を是正するよう指導してきましたが、同社は歯にカバーを装着するなどの措置を一切講じなかったといいます。
昨年12月に同労基署が臨検し、丸のこ盤の歯がむき出しになった状態で複数人の労働者が作業しているところを確認。「カバーを付けると作業がしづらい」などの理由で同社が指導を無視していたとみています。同労基署は「作業中でなくても、労働者がつまずいて手を突くだけで指を切断しかねない危険な状態にあった」としました。
監督指導動向
愛知労働局は、今年度の行政運営方針を策定しました。派遣労働者と派遣先が直接雇用する従業員との間の不合理な待遇差解消に向け、製造業をはじめとした派遣先に、重点的な指導監督を実施するとしました。
令和2年4月の派遣法改正により、派遣元への待遇情報提供が派遣先に義務付けられています。同労働局の指導監督においては、「労使協定方式で派遣労働者の待遇を決定している場合は必要ないと思っていた」、「どこまで情報提供する必要があるか分からない」といった派遣先の知識不足により、情報提供を怠っているケースが散見されるといいます。重点指導により、法制度の周知と遵守徹底を図ります。
同県では他の地域に比べて製造業に派遣を行っている事業所の割合が高いため、製造現場での確認調査を効率的かつ効果的に行うとしました。法違反に対しては是正指導書を交付し、指導・勧告に従わないなど悪質な場合は派遣先の企業名公表もあり得るとしました。
労働基準監督署による定期監督でも、同一労働同一賃金に関する確認を行います。派遣労働者の待遇情報などを収集・提供することで、労働局による指導監督につなげます。
調査
厚生労働省は令和4年度の仕事と育児の両立に関する調査研究事業の報告書をまとめました。育児のための時短勤務制度を利用できる期間について、55.5%が「3歳まで(法定どおり)」としています。法定を超える、「小学校就学前まで」は21.9%、「小学校1・2・3年修了まで」は9.9%、「小学校4・5・6年修了まで」は5.9%などで、「期間に制限なし」も1.8%ありました。
利用できる育児のための短時間勤務制度の期間
時短勤務の1日の設定時間は68.0%が「6時間」と回答しました。そのほか「6時間超~7時間以内」が22.1%、「5時間超~6時間未満」が10.3%などとなっています。
実務に役立つQ&A
<Q>当社は派遣労働者を複数人使用しています。うち1人につき、このたび妊娠したという事実が判明しました。当社雇用の従業員については、妊娠した場合に、請求があれば軽易な作業への転換を認めています。派遣労働者に対しても同じ扱いが必要でしょうか。また、請求がある前に、派遣元へほかの派遣労働者と交替を求めることはどうですか。
<A>労働者派遣において、労基法上の義務は、原則、直接雇用する派遣元事業主が責任を負います。ただ、指揮命令は派遣先がするため、労基法などの義務を派遣先に課す特例が設けられ、適用するものを列挙しています(派遣法44条など)。たとえば、労基法34条の休憩の規定は、派遣先が取得させる責任を負います。
労基法65条3項は、妊婦が請求した場合、原則、軽易な作業に転換させなければならないとしています。この規定は、派遣法44条に記載がありません。特例規定がないものは派遣元が責任を負うため(派遣業務取扱要領)、対応するのは派遣元ということになります。
なお、派遣労働者が派遣契約に基づく役務を提供できるにもかかわらず、派遣先が妊娠を理由に派遣元へ交替を要求すると、派遣法47条の2により適用される均等法9条3項の不利益取扱い禁止に当たるおそれがあります。
身近な労働法の解説 -減給の制裁-
労基法では、制裁処分としての「減給」について、減給額の限度を定めています。
今回は、「減給の制裁」を解説します。
1.減給の制裁
労基法91条は、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と定めています。
2.条文の趣旨と解説
労働の結果で発生した賃金債権を減額する場合、その額が大きいと労働者の生活を脅かすことになるため、制限をかけています。
「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」とは、1回の事案に対しては、減給の総額が1日分の半額以内でなければならないことを意味します(昭23・9・20基収1789号)。1回の事案について、平均賃金の50%ずつを何日にもわたって減額することはできません。1日に2個の懲戒事由に該当する行為があれば、2個の行為について、それぞれ平均賃金の50%ずつ減額することは労基法上差し支えありません。
「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」とは、1賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の10分の1以内でなければならないという意昧です(同通達)。もし、これを超えて減給の制裁を行う必要があるときは、その部分の減額は次期の賃金支払期に延ばさなければなりません。1賃金支払期における賃金の総額とは、当該賃金支払期に対して現実に支払われる賃金の総額(欠勤控除で少額となったときはその少額となった賃金総額)で、それを基礎として10%を計算します。
3.その他
- 就業規則の懲戒処分に定める「出勤停止」の期間に対応する賃金カットは、減給の制裁とは関係ありません(昭23・7・3基収2177号)。
- 欠勤・遅刻早退等により勤務しなかった日・時間に対応する賃金カットは、ノーワーク・ノーペイの原則に基づくもので、制裁処分ではありません。遅刻早退の時間に対する賃金額を超える減給は、減給の制裁にあたります(昭63・3・14基発150号)。
- 就業規則に、懲戒処分を受けた場合は昇給させないと定める欠格条項は、減給の制裁にはあたりません(昭26・3・31基収938号)。
- 賞与についても、減給の制裁は賞与総額の10%までです。ただし、勤務評価による賞与額の決定は可能で、この場合は減給の制裁には該当しません。
助成金情報
人材開発支援助成金(事業展開等のリスキリング支援コース)
新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する労働者に対して新たな分野で必要となる知識および技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。
【訓練対象者】
申請事業主における被保険者
【対象となる訓練】
(1) OFF-JTにより実施される訓練
(2) 実施時間数が10時間以上であること
(3) 次の①または②のいずれかに当てはまる訓練であること
①事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練
②事業展開は行わないが、事業主において企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化やグリーン・カーボンニュートラル化を進める場合にこれに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練
【支給対象事業主の主な要件】
・雇用保険適用事業所の事業主であること
・労働組合等の意見を聴いて事業内職業能力開発計画およびこれに基づく職業訓練実施計画届を作成し、その計画の内容を労働者に周知していること
・職業能力開発推進者を選任していること
・職業訓練等期間中も当該労働者に対して賃金を支払っていること
・事業展開等実施計画を作成する事業主であること
【対象となる主なOFF-JT】
(1) 事業内訓練
①自社で企画・主催・運営する訓練計画により、社外より招へいする部外講師により行われる訓練等
②自社で企画・主催・運営する訓練計画により、自社従業員である部内講師により行われる訓練等
(2) 事業外訓練
・社外の教育訓練機関に受講料を支払い受講させる訓練等
【対象となる主な経費】
事業内訓練 | ・部外の講師への謝金・手当 ・部外の講師の旅費
・施設・設備の借上費 ・必要な教科書・教材の購入費 |
事業外訓練 | ・受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等 |
【助成額・助成率】
経費助成 | 賃金助成(1人1時間あたり) |
75%(中小企業以外:60%) | 960円(中小企業以外:480円) |
【支給限度額】
①経費助成限度額(1人1訓練あたり)
企業規模 | 10時間以上100時間未満 | 100時間以上200時間未満 | 200時間以上 |
中小企業 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
中小企業以外 | 20万円 | 25万円 | 30万円 |
②賃金助成限度額(1人1訓練あたり)
1,200時間、ただし、専門実践教育訓練は1,600時間
③支給に関する制限
・訓練等受講回数の制限:助成対象となる受講回数の上限は、1労働者につき1年度で3回
・1事業所の支給額の制限:1年度で1億円
*制度の詳細は厚生労働省HP等をご参照ください。
今月の実務チェックポイント
今回は労働保険(「労働保険」とは、労働者災害補償保険と雇用保険を総称した名称です)の年度更新について説明します。
○労働保険の年度更新とは
労働保険の年度更新とは、労働保険料(労災保険料と雇用保険料)の申告から納付までの一連の手続きのことをいい、これを毎年度行うことから「年度更新」と呼びます。
労働保険料の申告にかかる年度は、毎年4月1日から翌年の3月31日までの1年間のことで、この1年間を「保険年度」といいます。したがって、労働保険の年度更新は保険年度を単位として行うこととなり、具体的には次のように行います。
保険年度を単位として1年分の保険料を概算で申告し、納付します。この保険料を特に「概算保険料」といい、毎年原則として7月10日までに納付します。そして保険年度が終了したところで、従業員に支払った賃金の総額から労働保険料が確定しますので、あらためて概算保険料との差額(過不足)を精算します。
確定した労働保険料のことを「確定保険料」といいます。令和5年度の年度更新であれば、令和5年3月末日で保険年度(令和4年度)が終了し、労働者に支払われた賃金の総額が確定しますので、あらかじめ納付している令和4年度の概算保険料と令和4年度の確定保険料とで精算を行い、令和5年度(令和5年4月から令和6年3月まで)の概算保険料の申告・納付も同時に行います。
令和5年度の年度更新で行うこと |
令和4年度の確定保険料に基づき、
概算保険料との過不足の精算 |
令和5年度の概算保険料の申告・納付 |
原則として、毎年6月1日から7月10日までに行う |
※概算保険料の額が40万円(労災保険または雇用保険が一方のみ成立している事業にあっては20万円)以上の場合、3回に分けて納付することができます。
○労働保険料の計算
(1)労災保険料の計算
確定保険料の計算は、保険年度において、アルバイトやパートタイマー等を含むすべての労働者に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険率(労災保険率)を乗じて算定します。概算保険料の計算は、すべての労働者に支払われる賃金総額を予想して計算しますが、前年度に支払った賃金総額の2分の1以上、2倍以下であると見込まれる場合は、前年度の賃金総額をそのまま使用してよいことになっています。
労災保険料 = すべての労働者に支払われる賃金総額 × 労災保険率
(2)雇用保険料の計算
確定保険料の計算は、保険年度において、雇用保険の被保険者である労働者に支払われる賃金の総額にその事業ごとに定められた保険率(雇用保険料率)を乗じて算定します。概算保険料の計算は、労災保険料と同様に、前年度に支払った賃金総額の2分の1以上、2倍以下であると見込まれる場合は、前年度の賃金総額をそのまま使用してよいことになっています。
雇用保険料 = 雇用保険の被保険者に支払われる賃金総額 × 雇用保険率
※賃金総額には「賞与」も含みますので、忘れずに算入しましょう。
○申告書その他
令和4年度の確定保険料の算定方法は例年と異なります。
算定基礎賃金集計表の様式も変更されており、前期(令和4年4月1日~9月30日)と後期(令和4年10月1日~令和5年3月31日)に分けて算出します。
変更された様式(基礎賃金集計表)の下段に新たに設けられた「令和4年度確定保険料算定内訳」欄を使用します。保険料算定基礎額と保険料額を前期・後期別に算出し、申告書の「確定保険料算定内訳」欄に転記することになります。
なお、申告書の「確定保険料算定内訳」欄は、労災保険分と雇用保険分で同額である場合も、労災保険分と雇用保険分欄に必ず記入が必要です。
労働保険料の申告書については、都道府県労働局から事業主宛に送付されます。その他年度更新でご不明な点は、厚生労働省や都道府県労働局などのホームページでご確認ください。
今月の業務スケジュール