月刊人事労務だより~2022年3月号~

目次

 

◆最新・行政の動き

雇用保険法・徴収法・職業安定法等の改正案が通常国会に提出されました。注目されるのは、雇用保険率の引上げです。

雇用保険率は、現在、時限措置により1000分の9(一般の業種)に引き下げられていますが、新型コロナ対応の支出のため、積立金等の財源が枯渇状態に陥っています。

1000分の9の内訳は、失業給付関連1000分の2、育休給付関連1000分の4、雇用保険2事業(雇調金等)関連1000分の3となっています。

このうち、失業給付関連について、令和4年4月から9月までは1000分の2、同10月から翌年3月までを1000分の6とする(育休給付は1000分の4のまま)とともに、雇用保険2事業分を1000分の3.5に引き上げるとしています。

◆ニュース

◆監督指導動向

山形労働局は、「ガス溶接技能講習の時間が法定数に満たなかった」として、登録講習機関に対し6カ月の業務停止処分を科しました。

時間不足は労働局への匿名の情報提供がキッカケで発覚したものです。講習機関が行った講習40回のうち、15回について、法定の時間数(学科8時間+実技5時間)に満たなかったことが判明しています。

講師への事情聴取によると、「午後の授業内容を午前に繰り上げて、早めに終了させる」等の行為があったということで、人数が少ない回ほど不足時間が長い傾向がみられました。

時間不足の講習を受けた617人は修了証が無効となり、不足分を補填するまで関連業務に従事できない状況に陥っています。講習機関では、労働局の指導を受け、「処分明け後に補習を行う」方向で手配を進めています。

◆労災認定状況

労災不支給を取り消す 過労死新基準が影響 柏労基署

千葉・柏労基署は、脳内出血を理由とする労災認定の不支給処分を取り消しました。労災の請求をしたのは居酒屋で働いていた調理師で、労基署の決定を不服として裁判で争っていました。

発症前2~6カ月間の時間外労働はいわゆる過労死ライン(平均80時間以上)に達していませんでしたが、「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」が常態化していました。

労災の過労死認定基準は、令和3年9月に改正・適用されています(令3・9・14基発0914第1号)。新基準では、過労死ラインは従来数値を維持しつつ、「勤務時間の不規則性」など「その他の負荷要因」について、より詳細な考え方を示しました。

同労基署では、これを踏まえ、裁判結審前に自己の判断で不支給処分を撤回したもので、新基準の影響で不支給処分が取り消されたのは、全国初の事案です。

◆実務に役立つQ&A

在職老齢いつ見直しに? 減額の対象者減ると聞く

 


私はまもなく63歳になり、60歳台前半の老齢厚生年金の受給権を得ます。最近、在職老齢年金の仕組みが変わり、減額の対象にならない範囲が広がったと聞きます。改正はいつからで、私は新制度の恩恵を受けることができるのでしょうか。


年金制度改正法は、令和2年6月5日に公布されました。「60歳代前半の老齢厚生年金」を対象とする在職老齢年金制度も改正され、令和4年4月1日から施行されます。

施行日以後に年金の受給権を得た人に限らず、それ以前から年金を受け取っている人も対象になります。

年金減額の対象になるのは、「被保険者等である日が属する月に、総報酬月額相当額と基本月額の合計額が支給停止調整額(47万円)を超える」人です(厚年法附則11条)。

新しい支給停止額の計算式は、次の算式1種類のみです。
支給停止額(月額)=(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)×0.5
この計算式は、基本的に「65歳からの厚生年金」の在職老齢年金と同じです。

総報酬月額相当額(賞与も含めた月収)と年金の基本月額が支給停止調整額を下回れば、働いていても、減額なしで年金を受け取れるようになります。今回の改正により、年金カットがなくなる(満額受給となる)再雇用者は少なくないはずです。

◆調査

日本生産性本部「第10回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査」

日本生産性本部の調査によると、2021年に「心の病」が増えたという企業は22.9%、「横ばい」59.7%、「減少」11.1%という状況です。「心の病」が最も多い年齢層は、30代で前年の33.3%から39.9%に大幅増加しました。

30代はもともと心理的負担の多い年齢階層で、2006年~2010年は6割近い数値で推移していました。近年は低下傾向を示していましたが、2021年は、急角度で反転した形です。

最近2年間は、新型コロナウイルスの影響で、働く環境が激変しました。メンタルヘルスが悪くなったという企業を対象として、変化を起こした要因を尋ねたところ、「コミュニケーションの変化」が第一位でした(悪くなった86.2%に対しよくなった47.1%)。

心の病の最も多い年齢層

心の病の最も多い年齢層

「在宅勤務の増加」「職場の対人関係の変化」については、「よくなった」という回答が「悪くなった」を、若干上回っています。

上司が身近にいるかいないかは、職務の内容・責任の程度に応じて、プレッシャーの増加・減少のいずれにも作用するということでしょう。個々の従業員の就労環境を踏まえ、適切なメンタルヘルス対策を検討する必要があります。

従業員のメンタルヘルスへの影響の要因(MA)

従業員のメンタルヘルスへの影響の要因(MA)

◆職場でありがちなトラブル事例

失業給付までの「つなぎ」資金を要求 出社日目前に内定取消し

Aさんは、5年前にタクシー会社B社に入社し、乗務員として働いていました。しかし、営業成績が上がらず、部長から「挨拶がなってない。売上げをもっと上げろ」などと、厳しい叱責を受ける日々が続いていました。

体調を崩し、会社を休みがちになったため、いったんは解雇通告を受けましたが、その後の話し合いで、休職して療養に専念することになりました。

しかし、休職中に連絡があり、約1カ月後に雇用契約を終了するので、退職願の提出と健保被保険者証の返納をするよう求められました。

話の急展開に納得できず、Aさんは紛争調整委員会にあっせん申請することにしました。

従業員の言い分
欠勤が増えたのは、部長から執拗なパワーハラスメントを受けたからです。主治医からは休業を命じられ、傷病手当金を受けながら生活しているのが現状です。
実質的な解雇なので、解雇予告手当30万円、年休残日数15日の買取分20万円、およびパワハラの慰謝料50万円の計100万円の支払いを求めます。さらに退職理由は、会社都合に改めるのが当然と考えます。

社長の言い分
就業規則では、「休職期間は3カ月を限度とし、回復しない場合には自主退職とする」と定めてあり、それに沿った措置を採ったまでです。
解雇通告ではなく、本人から連絡がない状態が続いていたので、会社として確認を求めたものです。部長のパワハラについては、社内調査でも事実を確認できませんでした。金銭解決には応じてもよいですが、本人都合の退職を撤回するつもりはありません。

【 指導・助言の内容 】
労働契約を終了させる点については、労使間で争いがなかったので、解決金の額と退職理由に関して意見調整を図りました。
パワハラの事実については事実証明ができないため、それ以外の点で譲歩できる部分がないか、両者に再考を促し、粘り強く合意点を探す努力を継続しました。

【 結果 】
Aさんが自主退職として退職願を提出し、会社が45万円を支払うことで合意が成立しました。

◆身近な労働法の解説 ―雇入時の健康診断―

労働安全衛生法において、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行うよう義務づけています。
今回は、労働者を雇い入れた際の健康診断について解説します。

1.雇入時の健康診断

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、下表11項目について医師による健康診断を行わなければなりません(安衛則43条)。
雇入時の健康診断は、常時使用する労働者を雇入れた際における適正配置、入職後の健康管理に資するための健康診断です(平5・4・26事務連絡)。

安衛則43条に定める11項目
① 既往歴および業務歴の調査

② 自覚症状および他覚症状の有無の検査

③ 身長、体重、腹囲、視力および聴力検査

④ 胸部エックス線検査

⑤ 血圧の測定

⑥ 貧血検査(血色素量及び赤血球数)

⑦ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)

⑧ 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)

⑨ 血糖検査

⑩ 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無)

⑪ 心電図検査

2.受診対象者

常時使用する労働者です。
なお、パート・アルバイトについても、次の1.と2.のいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。 なお、4分の3未満であっても、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の概ね2分の1以上であるときは、健康診断を実施することが望ましいとされています(平31・1・30基発0130第1号)。

  1. 雇用期間の定めのない者
  2. 雇用期間の定めはあるが、契約期間が1年以上※である者および契約の更新により1年以上※使用される予定の者

※特定業務従事者(深夜業等)は6カ月以上

3.実務上のポイント

  1. 「雇入れの際」とは、雇入れの直前または直後をいいます(昭23・1・16基発83号)。
  2. 健診から3月を経過しない者がその健診の結果を証明する書面を提出した場合、当該項目については省略可能です(安衛則43条)。
  3. 定期健診においては医師の判断で検査項目を省略できますが、雇入時検診では検査項目の省略は認められません(年齢にかかわらず、安衛則43条の11項目全てについて行います)。
  4. 費用の負担については、法で事業者に健診実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきとしています(昭47・9・18基発602号)。
  5. 採用選考時の健診について規定したものではなく(平5・4・26事務連絡)、また、採否を決定するために実施するものでもありません。
  6. 定期健康診断と同様、個人票の作成と5年間の保存義務があります。
  7. 所轄労働基準監督署長への報告は必要ありません。
  8. 給食従業員については、雇入れ等の際に検便による健康診断を行う必要があります。

◆助成金情報

特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)

◆今月の実務チェックポイント

社会保険の適用拡大について

今回は令和4年10月から予定されている短時間労働者(アルバイトやパートタイマー等)に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大について説明します。

○現行の適用基準(平成28年10月~)

正社員のほか、短時間労働者であっても、「特定適用事業所」に勤務している場合は、一定の要件を満たすと社会保険の被保険者となります。一定の要件とは次のとおりです。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 雇用期間が1年以上見込まれること
  3. 賃金の月額が88,000円以上であること
  4. 学生でないこと

したがって、特定適用事業所で働いている短時間労働者が上記①~④の要件をすべて満たした場合は、本人の意思に関係なく社会保険の被保険者となります。ここで重要なのが「特定適用事業所」の定義です。現行では、「特定適用事業所」とは、同一の事業主である一または二以上の適用事業所(社会保険が適用されている事業所)で、社会保険の被保険者の総数が常時500人を超える事業所のことを指しています。すなわち、上記の基準によって自社の短時間労働者が社会保険の被保険者となるかは、前提として自社が「特定適用事業所」に該当するか否かが重要であり、これによって社会保険の被保険者となるか否かの結果も異なるということになります。

○令和4年10月以降の適用基準

現行の短時間労働者に対する社会保険の適用基準が、法改正に伴い令和4年10月から一部変更されることになっています。短時間労働者への社会保険の適用が拡大されるということです。具体的には、令和4年10月からは、「特定適用事業所」に勤務する短時間労働者が次の要件を満たした場合に社会保険の被保険者となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 賃金の月額が88,000円以上であること
  3. 学生でないこと

現行の適用基準と見比べると、「雇用期間が1年以上見込まること」という条件が削除されています。雇用期間に関しては、令和4年10月以降、一般の被保険者と同じ「雇用期間が2カ月を超えて見込まれること」という基準が適用されます。また、特定適用事業所の定義についても、現行「社会保険の被保険者の総数が常時500人を超える事業所」とされていますが、これが令和4年10月以降は「社会保険の被保険者の総数が常時100人を超える事業所」とされますのでご注意ください。さらに、令和6年10月からは、「社会保険の被保険者の総数が常時50人を超える事業所」となることが決定しています。
したがいまして、令和4年10月以降、自社が「特定適用事業所」に当たるという会社は注意しましょう。社会保険の適用拡大により被保険者となる方を把握し、早めに対象者に説明を行うことが重要です。

◆今月の業務スケジュール

労務・経理

  • 2月分の社会保険料の納付
  • 2月分の源泉徴収所得税額・特別徴収住民税額の納付
  • 前年分所得税の確定申告(2月16日から3月15日まで)
  • 贈与税の申告・納付(2月1日から3月15日まで)
  • 36協定の更新・届出

慣例・行事

  • 春の全国火災予防運動
  • 入社式の準備

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